知財関連 重要判決集(1)
インクタンク・リサイクル事件最判
使い捨てカメラ事件
ヤクルト事件(立体商標)
コカコーラ事件(立体商標)
マグライト事件(立体商標)
「一太郎」特許権侵害差止請求事件
偏光フィルムの製造法事件(パラメータ特許)
商標の拒絶審決に対する訴えの係属中にされた分割出願の効果最判
居酒屋の商標事件
商標権の共有者の1人が単独で提起した無効審決に対する取消訴訟最判
フレッドペリー事件(真正商品の並行輸入の要件)最判
「BODYGLOVE」商標 輸入差止請求権不存在確認事件
パーカー事件
黄桃の育種増殖法事件(発明の反復可能性)最判
医薬特許権の効力(誘導体の塩)
競走馬のパブリシティー権(ギャロップレーサー事件)最判
中古ゲームソフト事件最判
キルビー特許事件最判
薬事法に基づく製造承認申請のための試験最判
測定方法に係る特許権の効力(生理活性物質測定法)最判
ボールスプライン軸受事件(均等論)最判
小僧寿し事件最判
BBS事件(特許製品の並行輸入)最判
レールデュタン事件最判
「ヌーブラ」不正競争行為差止等請求事件
審決取消訴訟における使用証明書の提出最判
「東京メトロ」商標不使用取消請求事件
木質合成粉及びその製造方法事件
ポパイ事件最判
ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件最判
FM信号復調装置事件(準拠法)最判
データ伝送方式事件
外国の特許を受ける権利(職務発明)最判
スナックシャネル事件最判
プリーツプリーズ事件
「国際自由学園」商標事件最判
パチスロ機(リノ)商標権侵害事件最判
「NF膜」特許無効事件
「自然石ブロック」特許権侵害差止等請求事件
レンジフードフィルタ事件(顧客に対する警告の違法性)
著作権侵害差止等請求事件(写真の著作権)
「ラブベリー」商標権侵害差止等請求事件
質権設定−損害賠償請求事件最判
審決取消請求(鍵材)事件
「紙葉類識別装置」拒絶審決取消事件
審決取消請求事件(一事不再理)最判
冒認特許権移転登録請求事件
ビジネス関連発明の主な判決事例集 (特許庁ホームページ)
生物関連発明の主な判決事例集 (特許庁ホームページ)




 
インクタンク・リサイクル事件

<特許権の侵害を認定。上告人製品については、加工前の被上告人製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認めるのが相当であり、特許権者等が我が国において譲渡し、又は我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品である被上告人製品の使用済みインクタンク本体を利用して製品化された上告人製品については、本件特許権の行使が制限される対象となるものではない。

事件番号:   平成18年(受)第826号
事件名:    特許権侵害差止請求事件
裁判年月日: 平成19年11月08日
法廷名:    最高裁判所第一小法廷
判決データ:  PAT-H18-Ju-826.pdf

 特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては、当該特許製品の属性、特許発明の内容、加工及び部材の交換の態様のほか、取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当であり、当該特許製品の属性としては、製品の機能、構造及び材質、用途、耐用期間、使用態様が、加工及び部材の交換の態様としては、加工等がされた際の当該特許製品の状態、加工の内容及び程度、交換された部材の耐用期間、当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきである。
(中略)
 インクタンクの取引の実情など前記事実関係等に現れた事情を総合的に考慮すると、上告人製品については、加工前の被上告人製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認めるのが相当である。したがって、特許権者等が我が国において譲渡し、又は我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品である被上告人製品の使用済みインクタンク本体を利用して製品化された上告人製品については、本件特許権の行使が制限される対象となるものではないから、本件特許権の特許権者である被上告人は、本件特許権に基づいてその輸入、販売等の差止め及び廃棄を求めることができるというべきである。
 

控訴審(知的財産高等裁判所特別部)判決データ: 平成17年(ネ)第10021号   別紙

原審(東京地方裁判所)判決データ: 平成16年(ワ)第8557号





使い捨てカメラ事件

<特許権の侵害を認定。社会通念上効用を終えたにもかかわらず物理的には使用が可能な特許製品については、その再使用や再譲渡に対して、特許権者からの権利行使が許される。

事件番号:   平成8年(ワ)第16782号
事件名:     特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日:  平成12年08月31日
裁判所名:   東京地方裁判所
判決データ:  PAT-H08-wa-16782.pdf 

第二 事案の概要
 被告らは、原告がその有する特許権、実用新案権及び意匠権の実施品として日本国内及び大韓民国(以下「韓国」という。)で販売したレンズ付きフィルムユニット(いわゆる「使い捨てカメラ」)につき、これを購入した一般消費者が使用後に現像所に持ち込んだものをフィルムを詰め替えるなどして再度使用ができるようにした製品を輸入、製造又は販売している。本件は、原告が、被告らによる右製品の輸入、製造及び販売は原告の有する特許権、実用新案権及び意匠権を侵害するものであると主張して、輸入、製造及び販売等の差止め及び損害賠償(平成九年五月三〇日付け訴え変更の申立書の送達の日の翌日以降の遅延損害金を含む。)を求めているのに対して、被告らが、特許権等の消尽などを主張して、これを争っている事案である。

(判旨)
 二 争点2(国内消尽及び国際消尽の成否)について
 1 国内消尽について
 (1) 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである(最高裁平成七年(オ)第一九八八号同九年七月一日第三小法廷判決・民集第五一巻六号二二九九頁参照)。
 (2) しかしながら、特許製品がその効用を終えた後においては、特許権者は、当該特許製品について特許権を行使することが許されるものと解するのが相当である。けだし、@ 一般の取引行為におけるのと同様、特許製品についても、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、市場における取引行為が行われるものであるが、右にいう使用ないし再譲渡等は、特許製品がその効用を果たしていることを前提とするものであり、年月の経過に伴う部材の摩耗や成分の劣化等によりその効用を果たせなくなった場合にまで譲受人が当該製品を使用ないし再譲渡することを想定しているものではないから、その効用を終えた後の特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても、市場における商品の自由な流通を阻害することにはならず、A 特許権者は、特許製品の譲渡に当たって、当該製品が効用を終えるまでの間の使用ないし再譲渡等に対応する限度で特許発明の公開の対価を取得しているものであるから、効用を終えた後の特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても、特許権者が二重に利得を得ることにはならず、他方、効用を終えた特許製品に加工等を施したものが使用ないし再譲渡されるときには、特許製品の新たな需要の機会を奪い、特許権者を害することとなるからである。
 右にいう特許製品がその効用を終えた場合とは、年月の経過により特許製品の部材が物理的に摩耗し、あるいはその成分が化学的に変化したなどの理由により当該製品の使用が実際に不可能となった場合がその典型であるが、物理的には複数回の使用が可能であるにもかかわらず保健衛生上の観点から再度の使用が禁じられているもの
(例えば、使い捨て注射器や使い捨てコンタクトレンズ等)など、物理的にはなお使用が可能であっても一定回数の使用により社会通念上効用を終えたものと評価される場合をも含むものと解される(物理的な摩耗や成分変化等により使用が不可能となった特許製品は、通常、廃棄されるので、特許法上の問題を生ずることはほとんど想定できないが、社会通念上効用を終えたにもかかわらず物理的には使用が可能な製品については、その再使用や再譲渡に対して、特許権者からの権利行使が許されるかどうかが問題となり得る。)。このような場合において、特許製品が効用を終えるべき時期は、特許権者ないし特許製品の製造者・販売者の意思により決せられるものではなく、当該製品の機能、構造、材質や、用途、使用形態、取引の実情等の事情を総合考慮して判断されるべきものである。
 (3) また、当該特許製品において特許発明の本質的部分を構成する主要な部材を取り除き、これを新たな部材に交換した場合にも、特許権者は、当該製品について特許権を行使することが許されるものと解するのが相当である。けだし、このような場合には、当該製品は、もはや特許権者が譲渡した特許製品と同一の製品ということができないからである。もっとも、特許発明を構成する部材であっても消耗品
(例えば、電気機器における電池やフィルターなど)や製品全体と比べて耐用期間の短い一部の部材(例えば、電気機器における電球や水中用機器における防水用パッキングなど)を交換すること、又は損傷を受けた一部の部材を交換することにより製品の修理を行うことによっては、いまだ当初の製品との同一性は失われないものと解すべきである。
 (4) 主張立証責任に関しては、特許権者による権利行使に対して、相手方は、抗弁事実として、その対象となっている製品が特許権者等により譲渡された特許製品に由来することを主張立証すれば、消尽を理由として特許権者の権利行使を免れることができ、これに対して、特許権者は、再抗弁事実として、当該対象製品が、特許製品として既に効用を終えたものであること又は特許製品における特許発明の本質的部分を構成する主要な部材を交換したものであることを主張立証することにより、消尽の成立を否定することができるものと解するのが相当である。
(4) そして、右の(1)ないし(3)に述べたところは、特許権のみならず、実用新案権及び意匠権についても同様に当てはまるものである。
 2 国際消尽について
 我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合においては、特許権者は、譲受人に対しては、当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で右の旨を合意した上特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である(前掲最高裁第三小法廷平成九年七月一日判決)。しかしながら、右のような場面においても、当該特許製品がその効用を終え、あるいは特許製品において特許発明の本質的部分を構成する主要な部材が交換されたときには、特許権者による権利行使は許されると解するのが相当である。けだし、@ 国外での経済取引においても、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得することを前提として取引行為が行われるものであり、その点は特許製品についても同様であるが、それは、特許製品がその効用を果たしていることを前提とするものであるから、その効用を終えた後の特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても、国際取引における商品の自由な流通を阻害することにはならず、A 譲受人又は譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、その効用を終えた後の特許製品を我が国に輸入し、あるいは我が国において使用ないし譲渡することは、特許権者において当然に予想されるところではないというべきであり、また、B 特許発明の本質的部分を構成する主要な部材を交換した製品は、もはや特許権者が譲渡した特許製品と同一の製品ということができないからである。
 したがって、特許権者は、特許製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意したことや右の旨を特許製品に明示したことに代えて、差止め等を求める対象製品が、特許製品として既に効用を終えたものであること又は特許製品における特許発明の本質的部分を構成する主要な部材を交換したものであることを主張立証することにより、当該対象製品について特許権を行使することができる。そして、右の点は、特許権のみならず、実用新案権及び意匠権についても同様に当てはまるものである。

(中略)

 (3) 原告製品は、昭和六二年の発売当初から、いわゆる「使い捨てカメラ」として販売されている。原告製品を購入した消費者は、内蔵されたフィルムの撮影を終えた後は、これをフィルムユニット本体ごと現像取次店に持ち込み、現像を経て完成された写真とネガフィルムを受領するものであって、フィルムユニット本体は返還されない。このように、撮影後、フィルムユニット本体が消費者の手元に残らないことは、原告製品が市場において広く受け入れられ、大量の製品が販売されるのに伴って(ちなみに、平成九年においては五〇〇〇万個を超える売り上げを記録している。)、一般消費者の間で広く認識されるに至り、被告らが被告製品の販売を始めた平成六年の時点においては既に社会一般における共通認識となっていた。
 (四) 右認定事実によれば、原告製品は、これを購入した消費者が内蔵されたフィルムの撮影を終えて、現像取次店を経由して現像所に送り、現像所において撮影済みのフィルムが取り出された時点で、社会通念上、その効用を終えたものというべきである。したがって、本件においては、原告製品に実施されている特許権@、実用新案権AないしC及び意匠権DないしFについて、国内消尽及び国際消尽の成立を妨げる事情が存在するというべきであるから、原告が被告製品についてこれらの権利を行使することは許されるものである。
 (五) また、本件諸権利のうち意匠権DないしFに関しては、前記の争いのない事実によれば、フィルム詰替え作業において、原告製品において右各意匠権の意匠を構成する主要な部分である紙カバーを外した上、自ら準備した紙カバー14を取り付けたというのであるから、被告製品は、意匠の本質的部分を構成する主要な部材を交換したもので、原告製品と同一の製品と評価することはできず、この点からも、国内消尽及び国際消尽の成立は否定される。
 (六) 被告らは、原告製品は現像所において撮影済みフィルムが抜き取られた後も商品としての寿命が尽きるものではなく、被告らが原告製品の紙カバーを外して、自ら準備した紙カバー14をかぶせる行為も原告の実施したデザインの修理であると主張するが、原告製品は、現像所において撮影済みフィルムが抜き取られた時点において、社会通念上その効用を終えたものであり、意匠権DないしFに関しては、被告らが原告製品の紙カバーを外して自ら準備した紙カバー14をかぶせる行為により被告製品は原告製品と同一性を失っていることは、前に説示したとおりである。被告らの主張は、採用できない。





ヤクルト事件(立体商標)

<特許庁による拒絶審決を取消。本願商標については、自他商品識別機能を獲得しており、商標法第3条第2項を適用すべきものである。>

事件番号:   平成22年(行ケ)第10169号
事件名:     審決取消請求事件
裁判年月日: 平成22年11月16日
裁判所名:   知的財産高等裁判所
判決データ:  TM-H22-Gke-10169.pdf

・・・前記認定のとおり、インターネット上の記事から認められる重要な事実は、被告が主張するような「乳酸菌飲料の容器は原告商品も含めどれも皆似たようなものだ」という漠然としたものではなく、むしろ乳酸菌飲料の容器には本件容器と酷似した模倣品が数多く存在するとの需要者の認識であって、この事実は、被告の主張とは逆に、類似の形状の容器を使用する数多くの他社商品が存在するにもかかわらず、需要者はそれら容器の立体的形状は本件容器の模倣品であると認識しているということを示していると認められるのであって、それは、本件容器の立体的形状に自他商品識別力があることを強く推認させるというべきである。

      

      商願2008−72349号





コカコーラ事件(立体商標)

<特許庁による拒絶審決を取消。本願商標については、リターナブル瓶の使用による自他商品識別機能を獲得しており、商標法第3条第2項を適用すべきものである。>

事件番号:   平成19年(行ケ)第10215号
事件名:     審決取消請求事件
裁判年月日: 平成20年05月29日
裁判所名:   知的財産高等裁判所
判決データ:  TM-H19-Gke-10215.pdf

 リターナブル瓶入りの原告商品の形状をみると、前記(2)アで認定したとおり、当該形状の長年にわたる一貫した使用の事実(ア(イ))、大量の販売実績(ア(ウ))、多大の宣伝広告等の態様及び事実(ア(エ))、当該商品の形状が原告の出所を識別する機能を有しているとの調査結果(ア(オ))等によれば、リターナブル瓶の立体的形状について蓄積された自他商品の識別力は、極めて強いというべきである。そうすると、本件において、リターナブル瓶入りの原告商品に「Coca−Cola」などの表示が付されている点が、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上で障害になるというべきではない(なお、本願商標に係る形状が、商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標といえないことはいうまでもない。)。

(中略)

エ小括
 以上のとおり、本願商標については、原告商品におけるリターナブル瓶の使用によって、自他商品識別機能を獲得したものというべきであるから、商標法3条2項により商標登録を受けることができるものと解すべきである。これに反する被告の主張は、いずれも採用の限りでない。

          

       商願2003−55134号





マグライト事件(立体商標)          


<特許庁による拒絶審決を取消。本件商品については、大規模な広告宣伝を行い、多数の商品が販売された結果、需要者において商品の形状を他社製品と区別する指標として認識するに至っているものと認められ、本願商標は、商標法第3条第2項により商標登録を受けることができるものである。>

事件番号:   平成18年(行ケ)第10555号
事件名:     審決取消請求事件
裁判年月日: 平成19年06月27日
裁判所名:   知的財産高等裁判所
判決データ:  TM-H18-Gke-10555.pdf  TM-H18-Gke-10555-1.pdf

 商品等の立体形状よりなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標ないし商品の形状、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、当該形状に類似した他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
 そして、使用に係る商標ないし商品等の形状は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品であることを要する。もっとも、商品等は、その販売等に当たって、その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であることに照らせば、使用に係る立体形状に、これらが付されていたという事情のみによって直ちに使用による識別力の獲得を否定することは適切ではなく、使用に係る商標ないし商品等の形状に付されていた名称・標章について、その外観、大きさ、付されていた位置、周知・著名性の程度等の点を考慮し、当該名称・標章が付されていたとしてもなお、立体形状が需要者の目につき易く、強い印象を与えるものであったか等を勘案した上で、立体形状が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

(中略) 

 本件商品については、昭和59年(国内では昭和61年)に発売が開始されて以来、一貫して同一の形状を維持しており、長期間にわたって、そのデザインの優秀性を強調する大規模な広告宣伝を行い、多数の商品が販売された結果、需要者において商品の形状を他社製品と区別する指標として認識するに至っているものと認めるのが相当である。本件商品に「MINI MAGLITE」及び「MAG INSTRUMENT」の英文字が付されていることは、本件商品に当該英文字の付されている前記認定の態様に照らせば、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上での妨げとなるものとはいえない(なお、本願商標に係る形状が、商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標といえないことはいうまでもない。)。


       

         商願2001−3358号





「一太郎」特許権侵害差止請求事件

<非侵害。本件発明に係る本件特許(第2803236号)は、特許法29条2項に違反してされたものであり、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるというべきであり、特許権者である被控訴人は、同法第104条の3第1項に従い、控訴人に対し、本件特許権を行使することができない。

事件番号:   平成17年(ネ)第10040号
事件名:     特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日: 平成17年09月30日
裁判所名:   知的財産高等裁判所 
判決データ:  PAT-H17-ne-10040.pdf

第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本件は、控訴人が別紙イ号物件目録及びロ号物件目録(原判決別紙目録と同じ。)記載の各製品(商品名「一太郎」及び「花子」。以下、これらを併せて「控訴人製品」と総称する。)の製造、譲渡等又は譲渡等の申出をしているところ、被控訴人が、控訴人の前記行為が特許法101条2号、4号に該当し、被控訴人の有する特許権を侵害すると主張して、控訴人に対し、特許法100条に基づき、控訴人の前記行為の差止め及び控訴人製品の廃棄を求めた事案である。

(判旨)
 本件特許出願当時、所定の情報処理機能を実行するための手段として「アイコン」は周知の技術事項であり、また、証拠(乙13文献、乙18文献)によれば、同様の手段として「メニューアイテム」も周知の技術事項であったことが認められる。そうであれば、所定の情報処理機能を実行するための手段として、「アイコン」又は「メニューアイテム」のいずれを採用するかは、必要により当業者が適宜選択することのできる技術的な設計事項であるというべきである。
 現に、アイコンの機能説明を表示させる機能を実行するための手段についてみても、本件特許出願前の1988年(昭和63年)7月に頒布された乙12文献(「ハイパープログラマーのためのハイパーツール」)には、「ハイパーツールは、あなたが異なるツールに関する情報を素早く得ることを可能とする、組み込みヘルプ機能を含みます。このスクリーン上のツールについてヘルプを得るには、ヘルプ・アイコンをクリックします。そして示されたツールのアイコンのうちいずれかをクリックします。」(訳文〔甲19〕14頁下から7行目ないし下から4行目)と記載されているから、本件特許出願当時、ヘルプを得るためのアイコン、すなわち、機能説明を表示させる機能を実行させるアイコンも、既に公知の手段であったことが認められる。
 そうであれば、乙18発明において、アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる「機能説明表示手段」として、「スクリーン/メニュー・ヘルプ」アイテムに代えて「アイコン」を採用することは、当業者が容易に想到し得ることというべきである。
 そして、本件発明の構成によってもたらされる作用効果は、アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる「機能説明表示手段」として周知の「アイコン」を採用することにより当然予測される程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(中略)

 以上によれば、本件発明、すなわち、本件第1発明ないし本件第3発明は、乙18発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る本件特許は、特許法29条2項に違反してされたものであり、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるというべきである。したがって、特許権者である被控訴人は、同法104条の3第1項に従い、控訴人に対し、本件特許権を行使することができないといわなければならない。 





偏光フィルムの製造法事件(パラメータ特許)

<特許異議申立による本件特許(第3327423号)の取消決定の判断に誤りはない。記載不備。特許法旧第36条第5項第1号に違反>

事件番号:   平成17年(行ケ)第10042号
事件名:     特許取消決定取消請求事件
裁判年月日: 平成17年11月11日
裁判所名:   知的財産高等裁判所
判決データ: PAT-H17-Gke-10042.pdf    PAT-H17-Gke-10042-1.pdf

 ・・・基準式を表す上記斜めの実線以外にも、他の数式による直線又は曲線を描くことが可能であることは自明であるし、そもそも、同XY平面上、何らかの直線又は曲線を境界線として、所望の効果(性能)が得られるか否かが区別され得ること自体が立証できていないことも明らかであるから、上記四つの具体例のみをもって、上記斜めの実線が、所望の効果(性能)が得られる範囲を画する境界線であることを的確に裏付けているとは到底いうことができない。
(中略)
 ・・・上記(4)アのとおり、特性値を表す二つの技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を構成要件とする、本件発明のようないわゆるパラメータ発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するために、発明の詳細な説明に、特許出願時の技術常識を参酌してみて、パラメータ(技術的な変数)を用いた一定の数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要すると解するのは、特許を受けようとする発明の技術的内容を一般に開示するとともに、特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという明細書の本来の役割に基づくものであり、それは、当然のことながら、その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく、実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。そうであれば、発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示せず、本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。

(中略)

 以上の次第で、本件明細書の特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合しておらず、特許法旧36条5項1号に違反するとした決定の判断の誤り(取消事由1)をいう原告の主張は、理由がないから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が同条4項に違反するとした決定の判断に誤りがあるか否かについて判断するまでもなく、原告主張の取消事由は理由がなく、他に決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない 





商標の拒絶審決に対する訴えの係属中にされた分割出願の効果

<高等裁判所による拒絶審決取消判決を破棄=拒絶審決適法>

事件番号:   平成16年(行ヒ)第4号
事件名:     審決取消請求事件
裁判年月日: 平成17年07月14日
法廷名:     最高裁判所第一小法廷
判決データ: TM-H16-Ghi-4.pdf
 
 拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に、商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ、もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには、その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく、審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならないものというべきである。





居酒屋の商標事件

<特許庁による拒絶審決を維持。本願商標は、いわばキャッチフレーズとしてのみ機能するといわざるを得ず、商標法第3条第1項第6号に該当する。>

事件番号  平成19年(行ケ)第10127号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成19年11月22日
裁判所名  知的財産高等裁判所

          

                 本願商標
判決データ: TM-H19-Gke-10127.pdf

 本願商標は、原告が営業する全国各地における多数の「白木屋」、「笑笑」の各店舗の看板に表示して使用されており、そのため、本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との表示は、同店舗のある地域を往来する人や同店舗の利用者にとって目立つものということができる。しかし、本願商標の内容は、赤地に白抜きの文字で「新しいタイプの居酒屋」と記載してなるものであり、それ自体からは、当該商標が付された飲食店である居酒屋が既存の居酒屋とは異なる新手のものであることを需要者に説明ないしアピールするという観念を想起するにとどまり、これが直ちに特定の出所を表示したものとは通常観念され難いものといわざるを得ない。のみならず、上記看板における本願商標の使用態様は、いずれも「白木屋」、「笑笑」の店舗名に併記されたものであり、それ自体が店舗名から切り離された単独のものとして使用された例は見当たらない(上記2(2)エ)のであって、本願商標の指定役務である飲食物の提供を行う店舗等において、他店と差別化するため、「新しいタイプの○○」という文句が宣伝等に用いられることは多く見られるところであること(上記2(2)ク)をも併せ考慮すると、本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との語は、一般に居酒屋である「白木屋」や「笑笑」が、メニューやサービスの内容、店舗の内装等において、既存の居酒屋と異なる新しいタイプを採用しているという役務の特徴を表した宣伝文句と理解され、本願商標はいわばキャッチフレーズとしてのみ機能するといわざるを得ないのであるから、それ自体に独立して自他識別力があるということはできない。
 したがって、本願商標は法3条1項6号に該当し、商標登録を受けることができないというべきである。





商標権の共有者の1人が単独で提起した無効審決に対する取消訴訟

<高等裁判所による訴えの却下判決を破棄し、原審に差し戻した。商標権の共有者の1人は、共有に係る商標登録の無効審決がされたときは、単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当である。

事件番号:   平成13年(行ヒ)第142号
事件名:    審決取消請求事件
裁判年月日: 平成14年02月22日
法廷名:    最高裁判所第二小法廷
判決データ: TM-H13-Ghi-142.pdf

 無効審判は、商標権の消滅後においても請求することができるとされており(商標法46条2項)、商標権の設定登録から長期間経過した後に他の共有者が所在不明等の事態に陥る場合や、また、共有に係る商標権に対する共有者それぞれの利益や関心の状況が異なることからすれば、訴訟提起について他の共有者の協力が得られない場合なども考えられるところ、このような場合に、共有に係る商標登録の無効審決に対する取消訴訟が固有必要的共同訴訟であると解して、共有者の1人が単独で提起した訴えは不適法であるとすると、出訴期間の満了と同時に無効審決が確定し、商標権が初めから存在しなかったこととなり、不当な結果となり兼ねない。
 商標権の共有者の1人が単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解しても、その訴訟で請求認容の判決が確定した場合には、その取消しの効力は他の共有者にも及び(行政事件訴訟法32条1項)、再度、特許庁で共有者全員との関係で審判手続が行われることになる(商標法63条2項の準用する特許法181条2項)。他方、その訴訟で請求棄却の判決が確定した場合には、他の共有者の出訴期間の満了により、無効審決が確定し、権利は初めから存在しなかったものとみなされることになる(商標法46条の2)。いずれの場合にも、合一確定の要請に反する事態は生じない。さらに、各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には、これらの訴訟は、類似必要的共同訴訟に当たると解すべきであるから、併合の上審理判断されることになり、合一確定の要請は充たされる。
 以上説示したところによれば、商標権の共有者の1人は、共有に係る商標登録の無効審決がされたときは、単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当である。

参考判決
<特許権の共有者の一人がした特許取消決定に対する審決取消訴訟の提起が適法とされた事例。高等裁判所による訴えの却下判決を破棄し、原審に差し戻した。>
事件番号:    平成13年(行ヒ)第154号
事件名:     特許取消決定取消請求事件
裁判年月日:  平成14年03月25日
法廷名:     最高裁判所第二小法廷
判決データ:  PAT-H13-Ghi-154.pdf

 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができず(特許法38条)、共有に係る特許を受ける権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同してしなければならないとされているが(同法132条3項)、これは、共有者の有する1個の権利について特許を受けようとするには共有者全員の意思の合致を要求したものにほかならない。これに対し、いったん特許権の設定登録がされた後は、特許権の共有者は、持分の譲渡や専用実施権の設定等の処分については他の共有者の同意を必要とするものの、他の共有者の同意を得ないで特許発明の実施をすることができる(同法73条)。
 ところで、いったん登録された特許権について特許の取消決定がされた場合に、これに対する取消訴訟を提起することなく出訴期間を経過したときは、特許権が初めから存在しなかったこととなり、特許発明の実施をする権利が遡及的に消滅するものとされている(同法114条3項)。したがって、特許権の共有者の1人は、共有に係る特許の取消決定がされたときは、特許権の消滅を防ぐ保存行為として、単独で取消決定の取消訴訟を提起することができると解するのが相当である(最高裁平成13年(行ヒ)第142号同14年2月22日第二小法廷判決・裁判所時報1310号5頁〔編注:民集56巻2号348頁〕参照)。なお、特許法132条3項の「特許権の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するとき」とは、特許権の存続期間の延長登録の拒絶査定に対する不服の審判(同法67条の3第1項、121条)や訂正の審判(同法126条)等の場合を想定しているのであって、一般的に、特許権の共有の場合に常に共有者の全員が共同して行動しなければならないことまで予定しているものとは解されない。
 特許権の共有者の1人が単独で取消決定の取消訴訟を提起することができると解しても、合一確定の要請に反するものとはいえない。また、各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には、これらの訴訟は類似必要的共同訴訟に当たるから、併合して審理判断されることになり、合一確定の要請は充たされる。
 4 そうすると、本件訴えを不適法とした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。なお、最高裁昭和35年(オ)第684号同36年8月31日第一小法廷判決・民集15巻7号2040頁、最高裁昭和52年(行ツ)第28号同55年1月18日第二小法廷判決・裁判集民事129号43頁及び最高裁平成6年(行ツ)第83号同7年3月7日第三小法廷判決・民集49巻3号944頁は、本件と事案を異にし適切でない。したがって、原判決を破棄し、本案について審理させるため、本件を原審に差し戻すこととする。





フレッドペリー事件(真正商品の並行輸入の要件)

<商標権の侵害を認定。製造国の制限及び下請の制限に違反して製造され本件標章が付された本件商品は、商標権者による品質管理が及ばず、いわゆる真正商品の並行輸入と認められない。>

事件番号:   平成14年(受)第1100号
事件名:    損害賠償、商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日: 平成15年02月27日
法廷名:    最高裁判所第一小法廷
判決データ: TM-H14-Ju-1100.pdf

 商標権者以外の者が、我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき、その登録商標と同一の商標を付したものを輸入する行為は、許諾を受けない限り、商標権を侵害する(商標法2条3項、25条)。しかし、そのような商品の輸入であっても、(1)当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、(2)当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、(3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である。けだし、商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法1条)、上記各要件を満たすいわゆる真正商品の並行輸入は、商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく、商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なわず、実質的に違法性がないということができるからである。
 4 これを本件について見るに、前記事実によれば、
本件商品は、シンガポール共和国外3か国において本件登録商標と同一の商標の使用許諾を受けたオシア社が、商標権者の同意なく、契約地域外である中華人民共和国にある工場に下請製造させたものであり、本件契約の本件許諾条項に定められた許諾の範囲を逸脱して製造され本件標章が付されたものであって、商標の出所表示機能を害するものである。
 また、
本件許諾条項中の製造国の制限及び下請の制限は、商標権者が商品に対する品質を管理して品質保証機能を十全ならしめる上で極めて重要である。これらの制限に違反して製造され本件標章が付された本件商品は、商標権者による品質管理が及ばず、本件商品と被上告人ヒットユニオンが本件登録商標を付して流通に置いた商品とが、本件登録商標が保証する品質において実質的に差異を生ずる可能性があり、商標の品質保証機能が害されるおそれがある。
 したがって、このような商品の輸入を認めると、本件登録商標を使用するFPS社及び被上告人ヒットユニオンが築き上げた、「フレッドペリー」のブランドに対する業務上の信用が損なわれかねない。また、需要者は、いわゆる並行輸入品に対し、商標権者が登録商標を付して流通に置いた商品と出所及び品質において同一の商品を購入することができる旨信頼しているところ、上記各制限に違反した本件商品の輸入を認めると、需要者の信頼に反する結果となるおそれがある。
 以上によれば、本件商品の輸入は、いわゆる真正商品の並行輸入と認められないから、実質的違法性を欠くということはできない。
 また
、輸入業者は、輸入申告の際に輸入商品の製造地を明らかにする必要があるから(関税法67条、関税法施行令59条1項2号)、外国における商標権者自身ではなく、同人から使用許諾を受けた者が我が国における登録商標と同一の商標を付した商品を輸入する場合においては、少なくとも、使用許諾契約上、被許諾者が製造国において当該商品を製造し当該商標を付することができる権原を有することを確認した上で当該商品を輸入すべきである。上記義務を尽くした上で本件商品を輸入したことの立証のない上告人につき、過失の推定(商標法39条において準用する特許法103条)を覆すことはできない。
 5 以上によれば、上告人の本件商品の輸入販売行為が本件商標権を侵害するとして、上告人の請求を棄却し、被上告人ヒットユニオンの請求を一部認容すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる





「BODYGLOVE」商標 輸入差止請求権不存在確認事件

<商標権の専用使用権に基づく差止請求権を有しないことを確認。販売地域制限条項に違反。>

事件番号:   平成15年(ワ)第3396号
事件名:    輸入差止請求権不存在確認請求事件
裁判年月日: 平成15年06月30日
裁判所名:   東京地方裁判所
判決データ: TM-H15-wa-3396.pdf   TM-H15-wa-3396-1.pdf

第2 事案の概要
   本件は、別紙商標目録1記載の各商標(以下「マレーシア商標」と総称する。)の付されたティーシャツ及びポロシャツを輸入した原告が、マレーシア商標と同一又は類似の商標についての商標権の専用使用権者である被告に対して、上記商品の輸入は真正商品の並行輸入であるから違法性が阻却されるとして、同商品の輸入及び販売を差し止める権利を有しないことの確認を求めた事案である。

(判旨)
 被告は、@BGIとBGMとの間のライセンス契約においては販売地域の取決めがあること、A本件商品は、原告の発注に基づき、原告が日本で販売するために製造されたものであり、原告は本件商品をBGMから直接購入したことを前提として、上記の販売地域制限条項に違反するから、本件商品を輸入する原告の行為は、実質的な違法性を欠くとはいえない旨主張する。しかし、被告の主張は、以下の理由により失当である。
 まず、本件全証拠によるも、@BGMとBGIとの前記ライセンス契約において、BGMの商品の販売地域がマレーシアに制限されていたと認めることはできないのみならず、また、A前記のとおり、原告は、本件商品をマレーシアの法人であるチーフリソースイズ社から購入したのであり、BGMから直接購入したのではないのであるから、原告の主張はその前提をいずれも欠く。
 そして、仮に、BGMとBGIとの前記ライセンス契約において、BGMの商品の販売地域がマレーシアに制限される旨の合意があったとしてみても、ライセンス契約における販売地域の制限に係る取決めは、通常、商標権者の販売政策上の理由でされたにすぎず、商品に対する品質を管理して品質を保持する目的と何らかの関係があるとは解されない。上記取決めに違反して商品が販売されたとしても、市場に拡布された商品の品質に何らかの差異が生じることはないから、本件商品の輸入によって、BGIの出所に係る商品の品質ないし信用の維持を害する結果が生じたということはできない。
 いずれの理由によっても、原告が本件商品を輸入することが実質的に違法であるとはいえない。
 なお、被告は、原告はBGMにBGIとのライセンス契約における販売地域条項に違反する行為をさせ、正当に認められている総代理店システムを害しているから、本件商品の輸入の違法性が阻却されることはないとも主張する。しかし、そもそも総代理店システムを採用することにより、商標権者が国際的な価格政策を維持できる利益は、商標法上保護に値する利益であると解することはできない。この点の被告の主張は失当である。





パーカー事件

<商標権の専用使用権に基づく差止請求権を有しないことを確認。>

事件番号:    昭和43年(ワ)第7003号
裁判年月日:  昭和45年02月27日
裁判所名:    大阪地方裁判所
判決データ:  TM-S43-wa-7003.pdf

 同一人が同一商標につき内国及び外国において登録を得ている場合に、外国において権利者により正当になされた商品の拡布による外国商標権の消耗は内国商標権についても同時に消耗の効果をもたらすと解し、これはパリ条約にいう商標権独立の原則とは関係がないとの見解に立つた裁判例がヨーロツパには相当数存し、原告は右理論を援用し、本件パーカー商品は、パーカー社が米国において、「PARKER」の商標を附して製造し、これを香港に輸出し、香港の取扱業者から同地のリリアンス・カンパニーに売り渡されたものであるから、右商品については、これに附された商標についての権利は、米国より香港に対する輸出の際に、又は少なくとも香港における取扱の際に消尽されたと主張するけれども、右の理論にはたやすく賛同することができない。
 しかし、権利者が商標権侵害を理由に第三者の行為を差止めるには、その行為が形式的に無権利者の行為であることのほか、実質的にも違法な行為であることが必要であると解すべきである。同一人が世界的に著名な商標につき、外国及び内国に登録を得ている場合に、第三者がその登録商標を附した商品を輸入する行為が実質的にも違法な行為であるかどうかを判断するに当って、その商標が世界的に著名な商標であること、右商品が外国において権利者により製造され正当に商標が附されて譲渡されたものであるかなど、外国における事実ないし行為をしんしやくすることは、なんら商標権独立の原則にもとるものではないと解せられる。
(三) そこで、原告による真正パーカー商品の輸入販売行為が本件登録商標の機能及び関係諸利益にいかなる影響を及ぼすものであるかを次に検討する。
 現行商標法は商標権と営業とを不可分のものとせず、商標権につき専用使用権あるいは通常使用権の設定を認めているが、同一商標につき同一人が内国及び外国において商標権を有し、殊にその商標が本件「PARKER」商標のように世界的に著名な商標である場合には、商標権者が内国商標権につき専用使用権を設定するのは、殆んどの場合専用使用権者に対し外国において製造した商品の内国における一手販売権を与えるためのみの目的で行なわれるものであり、本件においてもその例外をなすものではないが、そのような場合には、当該著名商標によつて識別される商品の出所は、特別の事情のない限り右商品の生産源であつて、内国の販売源ではないと考えられる。
 既に明らかにしたとおり、被告は米国から商標権者たるパーカー社において「PARKER」なる商標を附した製品を輸入し、これを国内で販売しているだけであり、日本において「PARKER」の商標を附した指定商品を製造しているものではないし、わが国においては相当以前から「PARKER」の商標を附した万年筆といえば、右商標は専らパーカー社の製造販売にかかる舶来品の標識として需要者に認識されていたことは公知の事実であり、証人【B】の証言によると、被告は昭和三九年頃から大々的にパーカー万年筆、パーカーインク等のパーカー社製品の輸入を開始し、現在年間七〜八〇〇〇万円の費用を投じて同社製品の広告宣伝を行なっていることが認められるけれども、右の事実のみによっては、「PARKER」商標が日本における特定の輸入販売業者から出た商品の標識であることが国内の需要者の意識に浸透しているものとは未だ認めるに足りない。
 そうだとすれば、前述のように原告の輸入販売しようとするパーカー社の製品と被告の輸入販売するパーカー社の製品とは全く同一であって、その間に品質上些かの差異もない以上、「PARKER」の商標の附された指定商品が原告によって輸入販売されても、需要者に商品の出所品質について誤認混同を生ぜしめる危険は全く生じないのであつて、右商標の果す機能は少しも害されることがないというべきである。このように、右商標を附した商品に対する需要者の信頼が裏切られるおそれがないとすれば、少なくとも需要者の保護に欠けるところはないのみならず、商標権者たるパーカー社の業務上の信用その他営業上の利益も損なわれないことは自明であろう。また本件商標の如く世界的に著名な商標については、各国の需要者はその商標が内国の登録商標であるか外国のそれであるかを問題とせず、商標が製造元を表示する点を重視して当該商標の附された商品を購入するのが通常であり、被告が内国商標の専用使用権者として有する業務上の信用は、パーカー社が右商標の使用によつて築き上げたパーカー製品の世界市場における名声と表裏一体、不可分の関係にあって、これとは別個の独立した存在であるとは解せられず、前顕検甲第一、二号証の各一ないし三、証人【B】の証言によつて窺われるつぎの事実、すなわち、パーカー社が、被告に対し商標専用使用権を設定した後においても、被告の日本においてなすパーカー製品の宣伝広告費用の六〇%を負担し、日本におけるパーカー製品の名声の保持に努め、且つ、米国及び香港において配布されている宣伝パンフレツトと言語、文字が異なるだけで文章の意味内容を同じくし、掲載写真、レイアウトその他の体裁はそっくりそのままの日本向け宣伝パンフレツトを米国において印刷したうえ、これを日本に送付して被告の手により配布させている事実は、被告の有する業務上の信用とパーカー社の有する業務上の信用とが一体不可分の関係にあることを裏付ける資料たるを失なわないのである。したがって、原告のなす真正パーカー商品の輸入販売によって、被告は内国市場の独占的支配を脅かされることはあっても、パーカー社の業務上の信用が損なわれることがない以上、被告の業務上の信用もまた損なわれないものというべく、むしろ、第三者による真正商品の輸入を認めるときは、国内における価格及びサービス等に関する公正な自由競争が生じ、需要者に利益がもたらせられることが考えられるほか、国際貿易が促進され、産業の発達が刺激されるという積極的利点があり、却って商標法の目的にも適合する結果を生ずるのである。





黄桃の育種増殖法事件(発明の反復可能性)

<特許無効審判の請求不成立審決を維持する高裁判決を是認=特許無効理由無し>

事件番号:   平成10年(行ツ)第19号
事件名:    審決取消請求事件
裁判年月日: 平成12年02月29日
法廷名:    最高裁判所第三小法廷
判決データ: PAT-H10-Gtsu-19.pdf

 発明は、自然法則の利用に基礎付けられた一定の技術に関する創作的な思想であるが、その創作された技術内容は、その技術分野における通常の知識経験を持つ者であれば何人でもこれを反復実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体化され、客観化されたものでなければならないから、その技術内容がこの程度に構成されていないものは、発明としては未完成のものであって、特許法二条一項にいう「発明」とはいえない(最高裁昭和三九年(行ツ)第九二号同四四年一月二八日第三小法廷判決・民集二三巻一号五四頁参照)。したがって、同条にいう「自然法則を利用した」発明であるためには、当業者がそれを反復実施することにより同一結果を得られること、すなわち、反復可能性のあることが必要である。そして、この反復可能性は、「植物の新品種を育種し増殖する方法」に係る発明の育種過程に関しては、その特性にかんがみ、科学的にその植物を再現することが当業者において可能であれば足り、その確率が高いことを要しないものと解するのが相当である。けだし、右発明においては、新品種が育種されれば、その後は従来用いられている増殖方法により再生産することができるのであって、確率が低くても新品種の育種が可能であれば、当該発明の目的とする技術効果を挙げることができるからである。
 四 これを本件についてみると、前記のとおり、本件発明の育種過程は、これを反復実施して科学的に本件黄桃と同じ形質を有する桃を再現することが可能であるから、たといその確率が高いものとはいえないとしても、本件発明には反復可能性があるというべきである。なお、発明の反復可能性は、特許出願当時にあれば足りるから、その後親品種である晩黄桃が所在不明になったことは、右判断を左右するものではない。 





医薬特許権の効力(誘導体の塩)                                       

<特許権の侵害を認定。>

事件番号:   平成8年(ネ)第2394号
事件名:    特許権侵害差止請求事件
裁判年月日: 平成9年01月30日
裁判所名:   東京高等裁判所 
判決データ: PAT-H08-ne-2394.pdf  PAT-H08-ne-2394-1.pdf

 控訴人は、「ロキソプロフェンナトリウム無水物」は「ロキソプロフェンナトリウム二水和物」と物性が違い、薬剤としての製造、使用を考慮すると、両者は実質的に同一とはいえない旨主張する。
 原本の存在及び成立に争いのない甲第二一号証及び成立に争いのない乙第一号証、乙第二号証によれば、ロキソプロフェンナトリウム二水和物を有効成分として含有する被控訴人の製剤(ロキソニン)は、人体内においては、ロキソプロフェンとなって消化管から吸収され、その後活性代謝物〔trans―OH体(SRS配位)〕に変化して、抗炎症、鎮痛及び解熱作用を示すものであり、本件特許発明の対象物質の医薬としての有用性はすべて具備しており、そのカタログ及び医薬品インタビューフォームにおいては、医薬品としての用量を、無水物としての質量に換算して表示していることが認められる。
 右事実によれば、ロキソプロフェンナトリウムが無水物であるか二水和物であるかは、抗炎症、鎮痛及び解熱作用という医薬としての効能には影響しないものと認められ、医薬としての観点からみるとき、「ロキソプロフェンナトリウム無水物」と「ロキソプロフェンナトリウム二水和物」を、異なる化学物質として取り扱う理由はないというべきである。
 もとより「ロキソプロフェンナトリウム二水和物」と「ロキソプロフェンナトリウム無水物」とは異なる物質であるから、前記のような抗炎症、鎮痛及び解熱作用という薬効それ自体に影響を及ぼさない物性に差があることは当然予測されるところであり、そのような相違に由来して、製剤化の容易性等について両物質に差異があるものと考えられるが、そのようなことは、右両者が本件特許発明の対象物質であるロキソプロフェンナトリウム塩に該当するか否かを考える場合に問題とならない事項であることは明らかである。
 


   

   イ号物件: ロキソプロフェンナトリウム二水和物





競走馬のパブリシティー権(ギャロップレーサー事件)

競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否について違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、競走馬の名称等の使用につき差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。>

事件番号:   平成13年(受)第866号
事件名:    製作販売差止等請求事件
裁判年月日: 平成16年02月13日
法廷名:    最高裁判所第二小法廷
判決データ: CP-H13-Ju-866.pdf

 1審原告らは、本件各競走馬を所有し、又は所有していた者であるが、競走馬等の物の所有権は、その物の有体物としての面に対する排他的支配権能であるにとどまり、その物の名称等の無体物としての面を直接排他的に支配する権能に及ぶものではないから、第三者が、競走馬の有体物としての面に対する所有者の排他的支配権能を侵すことなく、競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても、その利用行為は、競走馬の所有権を侵害するものではないと解すべきである(最高裁昭和58年(オ)第171号同59年1月20日第二小法廷判決・民集38巻1号1頁参照)。本件においては、前記事実関係によれば、1審被告は、本件各ゲームソフトを製作、販売したにとどまり、本件各競走馬の有体物としての面に対する1審原告らの所有権に基づく排他的支配権能を侵したものではないことは明らかであるから、1審被告の上記製作、販売行為は、1審原告らの本件各競走馬に対する所有権を侵害するものではないというべきである。
 (2) 現行法上、物の名称の使用など、物の無体物としての面の利用に関しては、商標法、著作権法、不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に排他的な使用権を付与し、その権利の保護を図っているが、その反面として、その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、各法律は、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている。
 上記各法律の趣旨、目的にかんがみると、競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできないものというべきである。
したがって、本件において、差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。 





中古ゲームソフト事件

<非侵害。映画の著作物に該当。しかし、頒布権のうち譲渡する権利はその目的を達成したものとして消尽し、もはや著作権の効力は、ゲームソフトの中古品を公衆に再譲渡する行為には及ばない。

事件番号:   平成13年(受)第952号
事件名:    著作権侵害行為差止請求事件
裁判年月日: 平成14年04月25日
法廷名:    最高裁判所第一小法廷
判決データ: CP-H13-Ju-952.pdf

 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特許に係る製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を再譲渡する行為等には及ばないことは、当審の判例とするところであり(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁)、この理は、著作物又はその複製物を譲渡する場合にも、原則として妥当するというべきである。けだし、(ア) 著作権法による著作権者の権利の保護は、社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないところ、(イ) 一般に、商品を譲渡する場合には、譲渡人は目的物について有する権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していた権利を取得するものであり、著作物又はその複製物が譲渡の目的物として市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が当該目的物につき自由に再譲渡をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、著作物又はその複製物について譲渡を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて、かえって著作権者自身の利益を害することになるおそれがあり、ひいては「著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」(著作権法1条)という著作権法の目的にも反することになり、(ウ) 他方、著作権者は、著作物又はその複製物を自ら譲渡するに当たって譲渡代金を取得し、又はその利用を許諾するに当たって使用料を取得することができるのであるから、その代償を確保する機会は保障されているものということができ、著作権者又は許諾を受けた者から譲渡された著作物又はその複製物について、著作権者等が二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。
 ところで、映画の著作物の頒布権に関する著作権法26条1項の規定は、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(1948年6月26日にブラッセルで改正された規定)が映画の著作物について頒布権を設けていたことから、現行の著作権法制定時に、条約上の義務の履行として規定されたものである。映画の著作物にのみ頒布権が認められたのは、映画製作には多額の資本が投下されており、流通をコントロールして効率的に資本を回収する必要があったこと、著作権法制定当時、劇場用映画の取引については、前記のとおり専ら複製品の数次にわたる貸与を前提とするいわゆる配給制度の慣行が存在していたこと、著作権者の意図しない上映行為を規制することが困難であるため、その前段階である複製物の譲渡と貸与を含む頒布行為を規制する必要があったこと等の理由によるものである。このような事情から、同法26条の規定の解釈として、上記配給制度という取引実態のある映画の著作物又はその複製物については、これらの著作物等を公衆に提示することを目的として譲渡し、又は貸与する権利(同法26条、2条1項19号後段)が消尽しないと解されていたが、同法26条は、映画の著作物についての頒布権が消尽するか否かについて、何らの定めもしていない以上、消尽の有無は、専ら解釈にゆだねられていると解される。
 そして、本件のように公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については、市場における商品の円滑な流通を確保するなど、上記(ア)、(イ)及び(ウ)の観点から、当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成したものとして消尽し、もはや著作権の効力は、当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである。
 なお、平成11年法律第77号による改正後の著作権法26条の2第1項により、映画の著作物を除く著作物につき譲渡権が認められ、同条2項により、いったん適法に譲渡された場合における譲渡権の消尽が規定されたが、映画の著作物についての頒布権には譲渡する権利が含まれることから、譲渡権を規定する同条1項は映画の著作物に適用されないこととされ、同条2項において、上記のような消尽の原則を確認的に規定したものであって、同条1、2項の反対解釈に立って本件各ゲームソフトのような映画の著作物の複製物について譲渡する権利の消尽が否定されると解するのは相当でない。
 そうすると、本件各ゲームソフトが、上告人らを発売元として適法に販売され、小売店を介して需要者に購入されたことにより、当該ゲームソフトについては、頒布権のうち譲渡する権利はその目的を達成したものとして消尽し、もはや著作権の効力は、被上告人らにおいて当該ゲームソフトの中古品を公衆に再譲渡する行為には及ばない。





キルビー特許事件

無効理由が存在することが明らかな特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、権利の濫用に当たり許されない。この判決を条文化した特許法改正が行われ、第104条の3が規定された。>

事件番号:   平成10年(オ)第364号
事件名:    債務不存在確認請求事件
裁判年月日: 平成12年04月11日
法廷名:    最高裁判所第三小法廷
判決データ: PAT-H10-o-364.pdf

 特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。このように解しても、特許制度の趣旨に反するものとはいえない。


特許法 第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)
1 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。





薬事法に基づく製造承認申請のための試験

<非侵害。試験又は研究のためにする特許発明の実施に該当。

事件番号:   平成10年(受)第153号
事件名:    医薬品販売差止請求事件
裁判年月日: 平成11年04月16日
裁判所名:   最高裁判所第二小法廷 
判決データ: PAT-H10-Ju-153.pdf

 ある者が化学物質又はそれを有効成分とする医薬品についての特許権を有する場合において、第三者が、特許権の存続期間終了後に特許発明に係る医薬品と有効成分等を同じくする医薬品(以下「後発医薬品」という。)を製造して販売することを目的として、その製造につき薬事法一四条所定の承認申請をするため、特許権の存続期間中に、特許発明の技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を生産し、これを使用して右申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは、特許法六九条一項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり、特許権の侵害とはならないものと解するのが相当である。
その理由は次のとおりである。
1 特許制度は、発明を公開した者に対し、一定の期間その利用についての独占的な権利を付与することによって発明を奨励するとともに、第三者に対しても、この公開された発明を利用する機会を与え、もって産業の発達に寄与しようとするものである。このことからすれば、特許権の存続期間が終了した後は、何人でも自由にその発明を利用することができ、それによって社会一般が広く益されるようにすることが、特許制度の根幹の一つであるということができる。
2 薬事法は、医薬品の製造について、その安全性等を確保するため、あらかじめ厚生大臣の承認を得るべきものとしているが、その承認を申請するには、各種の試験を行った上、試験成績に関する資料等を申請書に添付しなければならないとされている。後発医薬品についても、その製造の承認を申請するためには、あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要する点では同様であって、その試験のためには、特許権者の特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品を生産し、使用する必要がある。もし特許法上、右試験が特許法六九条一項にいう「試験」に当たらないと解し、特許権存続期間中は右生産等を行えないものとすると、特許権の存続期間が終了した後も、なお相当の期間、第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果となる。この結果は、前示特許制度の根幹に反するものというべきである。
3 他方、第三者が、特許権存続期間中に、薬事法に基づく製造承認申請のための試験に必要な範囲を超えて、同期間終了後に譲渡する後発医薬品を生産し、又はその成分とするため特許発明に係る化学物質を生産・使用することは、特許権を侵害するものとして許されないと解すべきである。そして、そう解する限り、特許権者にとっては、特許権存続期間中の特許発明の独占的実施による利益は確保されるのであって、もしこれを、同期間中は後発医薬品の製造承認申請に必要な試験のための右生産等をも排除し得るものと解すると、特許権の存続期間を相当期間延長するのと同様の結果となるが、これは特許権者に付与すべき利益として特許法が想定するところを超えるものといわなければならない。





測定方法に係る特許権の効力(生理活性物質測定法)

<非侵害。医薬品の品質確認に使用している測定方法の特許権の効力は、医薬品の製造及びその後の販売行為に及ばない。

事件番号:   平成10年(オ)第604号
事件名:    特許権侵害予防請求事件
裁判年月日: 平成11年07月16日
法廷名:    最高裁判所第二小法廷
判決データ: PAT-H10-o-604.pdf

 本件方法は本件発明(カリクレイン生成阻害能測定法)の技術的範囲に属するのであるから、上告人が上告人医薬品の製造工程において本件方法を使用することは、本件特許権を侵害する行為に当たる。したがって、被上告人は、上告人に対し、特許法一〇〇条一項により、本件方法の使用の差止めを請求することができる。しかし、本件発明は物を生産する方法の発明ではないから、上告人が、上告人医薬品の製造工程において、本件方法を使用して品質規格の検定のための確認試験をしているとしても、その製造及びその後の販売を、本件特許権を侵害する行為に当たるということはできない。





ボールスプライン軸受事件(均等論)

<原審の判断には、法令の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法があり、原判決は破棄を免れない。>

事件番号:   平成6年(オ)第1083号
事件名:    特許権侵害差止等
裁判年月日: 平成10年02月24日
裁判所名:   最高裁判所第三小法廷
判決データ: PAT-H06-o-1083.pdf

 特許権侵害訴訟において、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を確定しなければならず(特許法七〇条一項参照)、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合には、右対象製品等は、特許発明の技術的範囲に属するということはできない。しかし、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、
 (1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、
 (2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
 (3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
 (4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
 (5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。けだし、(一)特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となるのであって、(二)このような点を考慮すると、特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当であり、(三)他方、特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから右出願時に容易に推考することができた技術については、そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから(特許法二九条参照)、特許発明の技術的範囲に属するものということができず、(四)また、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されないからである。
 2 これを本件についてみると、原審は、本件明細書の特許請求の範囲の記載のうち構成要件A及びBにおいて上告人製品と一致しない部分があるとしながら、構成要件Bの保持器の構成について本件発明と上告人製品との間に置換可能性及び置換容易性が認められるなどの理由により、上告人製品は本件発明の技術的範囲に属すると判断した。
(中略) 
 そうすると、無負荷ボールの円周方向循環及び複列タイプのアンギュラコンタクト構造を備えたボールスプライン軸受の技術が本件発明の特許出願前に公知であったとすれば、原審の認定では保持器の構成はボールの接触構造によって根本的に異なるものではないというのであるから、上告人製品は、公知の無負荷ボールの円周方向循環及び複列タイプのアンギュラコンタクト構造を備えたボールスプライン軸受に公知の分割構造の保持器を組み合わせたものにすぎないということになる。そして、この組合せに想到することが本件発明の開示を待たずに当業者において容易にできたものであれば、上告人製品は、本件発明の特許出願前における公知技術から右出願時に容易に推考できたということになるから、本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成と均等ということはできず、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえないことになる。
 本件では、前記のとおり、本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に上告人製品と異なる部分が存するところ、原審は、専ら右部分と上告人製品の構成との間に置換可能性及び置換容易性が認められるかどうかという点について検討するのみであって、上告人製品と本件発明の特許出願時における公知技術との間の関係について何ら検討することなく、直ちに上告人製品が本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成と均等であり、本件発明の技術的範囲に属すると判断したものである。原審の右判断は、置換可能性、置換容易性等の均等のその余の要件についての判断の当否を検討するまでもなく、特許法の解釈適用を誤ったものというほかはない。 


参考事件判決

<特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるとして均等を否定した事例。>

事件番号  平成18年(ワ)第11429号
事件名  特許権侵害差止等
裁判年月日  平成21年04月07日
裁判所名  大阪地方裁判所 
判決データ:  PAT-H18-wa-11429.pdf

3 争点2(GR−b等は本件各特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)
 前記1 のように、GR−b等は構成要件Bを文言上充足しないので、原告の予備的主張としての均等侵害の成否について検討する。
(1) 最高裁判所平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決民集52巻1号113頁参照)は、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合に、なお均等なものとして特許発明の技術的範囲に属すると認められるための要件の1つとして、「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことを掲げており、この要件が必要な理由として、「特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されないからである」と判示している。
 そうすると、特許権者において特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したといった主観的な意図が認定されなくても、第三者から見て、外形的に特許請求の範囲から除外されたと解されるような行動をとった場合には、第三者の予測可能性を保護する観点から、上記特段の事情があるものと解するのが相当である。そこで、かかる解釈を前提に、本件において上記特段の事情が認められるかどうかについて検討する。
(2) 本件における出願経過については、前記1 において認定したとおりであり、本件補正をするに当たっての原告の主観的意図はともかく、少なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば、カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解される。したがって、原告は、熱伝導性無機フィラーの体積分率が「40vol%〜80vol%」の範囲内にあるもの以外の構成を外形的に特許請求の範囲から除外したと解されるような行動をとったものであり、上記特段の事情に当たるというべきである。なお、本件拒絶理由通知は、単に組成物に係る発明だからという理由で、その組成比の記載がない本件出願は、特許法36条6項2号に規定する要件を充足しないと判断しているところ、この判断の妥当性には疑問の余地がないではない。しかし、第三者に拒絶理由の妥当性についての判断のリスクを負わせることは相当でなく、原告としても、単に熱伝導性無機フィラーの総量を定める意図だったというのであれば、その意図が明確になるような補正をすることはできたはずであり、それにもかかわらず、自らの意図とは異なる解釈をされ得るような(むしろそのように解する方が自然な)特許請求の範囲に補正したのであるから、これによる不利益は原告において負担すべきである。
(3) 以上により、GR−b等について、「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことという要件を充たさないから、これらを本件各特許発明と均等なものとして、その技術的範囲に属すると認めることはできない。





小僧寿し事件

損害の発生していないことが明らかな場合、損害賠償請求は認められない。>

事件番号:   平成6年(オ)第1102号
事件名:    商標権侵害禁止等
裁判年月日: 平成9年03月11日
法廷名:    最高裁判所第三小法廷
判決データ: TM-H06-o-1102.pdf  TM-H06-o-1102-1.pdf  TM-H06-o-1102-2.pdf

 商標法三八条二項は、商標権者は、故意又は過失により自己の商標権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる旨を規定する。右規定によれば、商標権者は、損害の発生について主張立証する必要はなく、権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りるものであるが、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができるものと解するのが相当である。けだし、商標法三八条二項は、同条一項とともに、不法行為に基づく損害賠償請求において損害に関する被害者の主張立証責任を軽減する趣旨の規定であって、損害の発生していないことが明らかな場合にまで侵害者に損害賠償義務があるとすることは、不法行為法の基本的枠組みを超えるものというほかなく、同条二項の解釈として採り得ないからである。
 商標権は、商標の出所識別機能を通じて商標権者の業務上の信用を保護するとともに、商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることにその本質があり、特許権や実用新案権等のようにそれ自体が財産的価値を有するものではない。したがって、登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきである。





BBS事件(特許製品の並行輸入)

当該製品について我が国において特許権を行使することは許されない。>

事件番号:   平成7年(オ)第1988号
事件名:    特許権侵害差止等
裁判年月日: 平成9年07月01日
裁判所名:   最高裁判所第三小法廷 
判決データ: PAT-H07-o-1988.pdf

 属地主義の原則とは、特許権についていえば、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものである。
 我が国の特許権に関して特許権者が我が国の国内で権利を行使する場合において、権利行使の対象とされている製品が当該特許権者等により国外において譲渡されたという事情を、特許権者による特許権の行使の可否の判断に当たってどのように考慮するかは、専ら我が国の特許法の解釈の問題というべきである。右の問題は、パリ条約や属地主義の原則とは無関係であって、この点についてどのような解釈を採ったとしても、パリ条約四条の二及び属地主義の原則に反するものではないことは、右に説示したところから明らかである。
 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するものとされているところ(特許法六八条参照)、物の発明についていえば、特許発明に係る物を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等は、特許発明の実施に該当するものとされている(同法二条三項一号参照)。そうすると、特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者から当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)の譲渡を受けた者が、業として、自らこれを使用し、又はこれを第三者に再議渡する行為や、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業として、これを使用し、又は更に他者に譲渡し若しくは貸し渡す行為等も、形式的にいえば、特許発明の実施に該当し、特許権を侵害するようにみえる。しかし、特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。けだし、(1)特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、(2)一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、特許製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、特許製品の円滑な流通が妨げられて、かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」(特許法一条参照)という特許法の目的にも反することになり、(3)他方、特許権者は、特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し、特許発明の実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから、特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ、特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について、特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。
 しかしながら、我が国の特許権者が国外において特許製品を譲渡した場合には、直ちに右と同列に論ずることはできない。すなわち、特許権者は、特許製品を譲渡した地の所在する国において、必ずしも我が国において有する特許権と同一の発明についての特許権(以下「対応特許権」という。)を有するとは限らないし、対応特許権を有する場合であっても、我が国において有する特許権と譲渡地の所在する国において有する対応特許権とは別個の権利であることに照らせば、特許権者が対応特許権に係る製品につき我が国において特許権に基づく権利を行使したとしても、これをもって直ちに二重の利得を得たものということはできないからである。
 そこで、国際取引における商品の流通と特許権者の権利との調整について考慮するに、現代社会において国際経済取引が極めて広範囲、かつ、高度に進展しつつある状況に照らせば、我が国の取引者が、国外で販売された製品を我が国に輸入して市場における流通に置く場合においても、輪入を含めた商品の流通の自由は最大限尊重することが要請されているものというべきである。そして、国外での経済取引においても、一般に、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものということができるところ、前記のような現代社会における国際取引の状況に照らせば、特許権者が国外において特許製品を譲渡した場合においても、譲受人又は譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業としてこれを我が国に輸入し、我が国において、業として、これを使用し、又はこれを更に他者に譲渡することは、当然に予想されるところである。 右のような点を勘案すると、我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合においては、特許権者は、譲受人に対しては、当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で右の旨を合意した上特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である。すなわち、(1)さきに説示したとおり、特許製品を国外において譲渡した場合に、その後に当該製品が我が国に輸入されることが当然に予想されることに照らせば、特許権者が留保を付さないまま特許製品を国外において譲渡した場合には、譲受人及びその後の転得者に対して、我が国において譲渡人の有する特許権の制限を受けないで当該製品を支配する権利を黙示的に授与したものと解すべきである。(2)他方、特許権者の権利に目を向けるときは、特許権者が国外での特許製品の譲渡に当たって我が国における特許権行使の権利を留保することは許されるというべきであり、特許権者が、右譲渡の際に、譲受人との間で特許製品の販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を合意し、製品にこれを明確に表示した場合には、転得者もまた、製品の流通過程において他人が介在しているとしても、当該製品につきその旨の制限が付されていることを認識し得るものであって、右制限の存在を前提として当該製品を購入するかどうかを自由な意思により決定することができる。そして、(3)子会社又は関連会社等で特許権者と同視し得る者により国外において特許製品が譲渡された場合も、特許権者自身が特許製品を譲渡した場合と同様に解すべきであり、また、(4)特許製品の譲受人の自由な流通への信頼を保護すべきことは、特許製品が最初に譲渡された地において特許権者が対応特許権を有するかどうかにより異なるものではない。





レールデュタン事件

<商標登録無効審判の請求不成立審決を維持する高裁判決を破棄=商標法第4条第1項第15号の無効理由あり。>

事件番号:   平成10年(行ヒ)第85号
事件名:    審決取消請求事件
裁判年月日: 平成12年07月11日
法廷名:    最高裁判所第三小法廷
判決データ: TM-H10-Ghi-85.pdf

 1 商標法四条一項一五号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。けだし、同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、その趣旨からすれば、企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。
 そして、「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。
 2 本件登録商標は、本件各使用商標のうち「レール・デュ・タン」の商標とは少なくとも称呼において同一であって、外観においても類似しており、しかも、引用商標の表記自体及びその指定商品からみて、引用商標からフランス語読みにより「レールデュタン」の称呼が生ずるものといえるから、本件登録商標は、引用商標とも称呼において同一である。また、本件各使用商標及び引用商標は、香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、上告人の香水の一つを表示するものとして著名であり、かつ、独創的な商標である。さらに、本件登録商標の指定商品のうち無効審判請求に係る「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」と香水とは、主として女性の装飾という用途において極めて密接な関連性を有しており、両商品の需要者の相当部分が共通する。以上の事情に照らせば、本件登録商標を「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」に使用するときは、その取引者及び需要者において、右商品が上告人と前記のような緊密な関係にある営業主の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがあるということができる。なお、本件各使用商標及び引用商標がいわゆるペットマークとして使用されていることは、本件各使用商標等の著名性及び本件各使用商標等と本件登録商標に係る各商品間の密接な関連性に照らせば、前記判断を左右するに足りない。





「ヌーブラ」不正競争行為差止等請求事件

<被告によるイ号物件の販売行為は、不正競争防止法第2条第1項第3号所定の不正競争行為を構成する。
 原告商品の商品形態は、原告の出所を表示する著名ないし周知の商品形態であるとは認められず、原告の不正競争防止法第2条第1項第2号ないし第1号に基づく請求は、理由がない>

事件番号:   平成16年(ワ)第1671号
事件名:    不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日: 平成18年03月30日
裁判所名:   大阪地方裁判所 
判決データ: UF-H16-wa-1671.pdf   UF-H16-wa-1671-1.pdf

第2 事案の概要
 本件は、原告が、ブラジャーを輸入、販売している被告に対し、(1)原告が輸入、販売しているブラジャーの形態は新規のものであり、かつ、被告が輸入、販売しているブラジャーの形態は、原告が輸入、販売しているブラジャーの形態を模倣したものであるから、被告による当該ブラジャーの輸入、販売は、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為であり、また、(2)原告が輸入、販売しているブラジャーの形態は、原告の商品表示として著名ないし周知であり、かつ、被告が輸入、販売しているブラジャーの形態は、原告が輸入、販売しているブラジャーの形態と類似し、これと混同させるおそれがあるから、被告による当該ブラジャーの輸入、販売は、同法2条1項2号又は1号の不正競争行為であると主張して、@同法2条1項2号又は1号及び同法3条に基づいて、被告による当該ブラジャーの輸入、販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、A主位的に同法2条1項3号、予備的に同法2条1項2号又は1号及び同法4条に基づいて、損害賠償を請求した事案である。

(判旨)
 イ号物件の形態は、原告商品の形態と、カップの表面の色及び透明性において相違するが、それ以外は同一といえるほどに酷似していることに照らせば、イ号物件の形態は、原告商品の形態に依拠して作られたものと推認することができる。
(中略)
 開発者が開発に係る商品を市場展開する形態は、自己の手において販売を行うものに限られず、様々な形態があり得るのであって、その中には、一定地域について、当該商品の独占的販売契約を締結し、同時に、開発者自身は当該地域において当該開発商品の取引活動を行わないという義務を負うことにする場合がある。このような場合、独占的販売権を認められた者は、結果として、当該地域における当該開発商品の市場利益を独占できる地位を得ることになるが、独占的販売権者が有するこのような独占的地位ないし利益は、後行者が模倣行為を行うことによってその円満な享受を妨げられる性質を有するものである。そして、この独占的地位ないし利益は、上記のような同号が保護しようとした開発者の独占的地位に基礎を有し、いわばその一部が分与されたものということができるから、第三者との関係でも法的に保護されるべきものというべきである。
 また、独占的販売権者は、独占権を得るために、開発者に対し、当該開発商品を流通段階で取り扱う単なる販売者には課されない相応の負担(最低購入量の定めなど)を負っているのが通常であり、開発者は商品化のための資金、労力及びリスクを、商品の独占の対価の形で回収し、独占的販売権者はそれらの一部を肩代わりしていることになるから、独占的販売権者を保護の主体として、これに独占を維持させることは、商品化するための資金、労力を投下した成果を保護するという点でも、同号の立法趣旨に適合するものである。
 さらに、法文を見ても、不正競争防止法は、その2条1項において「不正競争」を定義し、同項3号では、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争とし、差止請求の主体について、3条1項において、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」としており、損害賠償請求の主体については、4条において、不正競争により「営業上の利益を侵害」された者を損害賠償請求の主体として予定しているものと解され、例えば特許法100条1項が差止請求の主体を「特許権者又は専用実施権者」としているのとは異なった規定の仕方をしている。したがって、独占的販売権者も、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者に該当すると解したとしても、法文の文言上の妨げはないというべきである。
 以上の点を考慮すると、独占的販売権者の有する独占的地位ないし利益は、同号によって保護されるべき利益であると解するのが相当であり、独占的販売権者も同号により保護される主体たり得るものと解するのが相当である。
(中略)
 以上によれば、本件における被告によるイ号物件の販売行為は、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為を構成するというべきである。そして、前記(1)ないし(3)認定の事実からすれば、被告には上記不正競争について過失があり、原告は、この不正競争行為によって生じた損害について、被告に対し、損害賠償請求権を有するというべきである。
(中略)
 先に認定した雑誌の記事の中には、平成15年10月ころの時点で、原告商品は、低価格の類似品が出回る中でもそれを寄せ付けないだけの高機能が支持されてヒットを続けているとの記載があるが(前記ア(ア)k)、類似品の形態が原告商品の形態とよく似ている以上、このような消費者からの支持の差は、商品性能の差に基づくものであると考えられる。したがって、その識別は、商品形態ではなく、商品名によって行われているものと考えるのが相当である。
 したがって、原告商品の商品形態が、原告の出所を表示する周知な商品表示であるとは認められない。
(2) 上記(1)で述べたところからすると、原告商品の商品形態が、原告の出所を表示する著名な商品表示であると認めることもできない。
(3) 以上のとおり、原告商品の商品形態は、原告の出所を表示する著名ないし周知の商品形態であるとは認められないから、原告の不正競争防止法2条1項2号ないし1号に基づく請求は、理由がない。





審決取消訴訟における使用証明書の提出

<上告棄却。高裁による審決取消を是認。>

事件番号:   昭和63年(行ツ)第37号
事件名:     不使用取消審決の取消
裁判年月日: 平成3年04月23日
法廷名:     最高裁判所第三小法廷
判決データ: TM-S63-Gtsu-37.pdf

 商標登録の不便用取消審判で審理の対象となるのは、その審判請求の登録前三年以内における登録商標の使用の事実の存否であるが、その審決取消訴訟においては、右事実の立証は事実審の口頭弁論終結時に至るまで許されるものと解するのが相当である

(中略)

 裁判官坂上義夫の反対意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見が、商標登録の不使用取消審判請求についてした審決の取消訴訟においては、登録商標の使用の事実の立証は、事実審の口頭弁論終結に至るまで許されるものと解するのが相当である、として本件審決を取り消した原判決を支持すべきものとされることに賛同することができない。
 多数意見は、商標法五〇条二項本文について、「これは、登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件とし、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、もって右審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたものであり、商標権者が審決時において右使用の事実を証明したことをもって、右取消しを免れるための要件としたものではないと解される」という。登録商標を使用しない者に商標権という排他独占的な権利を与えておく必要はないという点からすれば、「登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件」とするものであると解するというのは理解できることではあるが、そのことの故に、何らの制限もなしに登録商標の使用の事実の立証は事実審の口頭弁論終結に至るまで許される、とすることには疑問を呈せざるを得ない。商標法五〇条二項本文が「前項の審判の請求があった場合においては、……登録商標……の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品に係る商標登録の取消しを免れない。」と、わが国の法体系上も例の少ない要件を定めたのは、商標権の保護と活用、特に長期の不使用による休眠商標権の排除に資するためであり、多数意見のいうところの「登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件とし、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、もって右審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたものである」のは、商標行政(審判)の円滑な施行のため、同項の被請求人に自己の権利を守るための誠実な対応を求めるものに外ならない。商標権者は、商標法二五条に基づき登録商標の使用を専有するという特典を与えられ、かたわらその使用の事実を最もよく知り又は知り得る立場にあって、容易に使用事実の証明をすることのできる者であるから、商標法五〇条一項に基づく不便用取消審判の請求があった場合には、被請求人(商標権者)は、自らの権利を守り商標登録の取消しを免れるためには、取消しの処分をなすべきか否かを決める審判において、前記要件にかかる登録商標使用の事実について証明することを要するとしたのが、商標法五〇条二項本文の法意であると思われ、かりにも、被請求人が審判において立証はおろか、応答すらしないというような場合にも、取消訴訟の事実審の口頭弁論終結まで新たな立証が許されるというような解釈は採るべきではない。
 ところが、本件では、被上告人が有する本件商標登録について、上告人が商標法五〇条一項に基づく不使用取消審判を請求したのに対し、被請求人である被上告人が、審判において商標法五〇条二項の要件につき何ら主張、立証しなかったことから、請求どおり本件商標登録を取り消す旨の審決があったというのである。正に、法が商標登録の取消しを免れようとする被請求人に求めた対応を全く欠いたものである。かかる被請求人(被上告人)の権利を擁護する必要はないと思われ、処分の取消しを求める訴訟における一般原則に従って、原審において立証を許すべき事案であるとは考えられない。しかるに、原審は、新たに本件登録商標の使用の事実についての立証を許し、登録商標の使用の事実が証明されたとして、本件審決を取り消したもので、原判決には、法令の解釈適用を誤り判決に影響を及ぼすことの明らかな違法があるといわねばならない。論旨は、理由があり、原判決は破棄を免れず、本訴請求は棄却されるべきものである。





「東京メトロ」商標不使用取消請求事件

<特許庁による商標登録取消審決を取消。指定商品についての登録商標の使用に該当。>

事件番号:    平成19年(行ケ)第10008号
事件名:     審決取消請求事件
裁判年月日:  平成19年9月27日
法廷名:     知的財産高等裁判所
判決データ:   TM-H19-Gke-10008.pdf

 本件新聞のような無料紙であっても、商取引の対象である商品であって、出所表示機能を保護する必要のあるものということができるから、商標法上の「商品」に該当するということができる。したがって、記事とともに広告を掲載した無料紙に商標を付し、広告料収入によって経費を賄い、読者には無料で配布する行為は、「新聞」という指定商品についての商標の使用であるということができる。本件商標については、前記1のとおり、使用事実1が認められるから、本件予告登録前3年以内に日本国内において、指定商品につき本件商標を使用したことが認められ、商標法50条1項の要件は満たされていない。





木質合成粉及びその製造方法事件

<特許庁による拒絶審決を取消。>

事件番号:   平成17年(行ケ)第10395号
事件名:    審決取消請求事件
裁判年月日: 平成18年12月20日
裁判所名:   知的財産高等裁判所 
判決データ: PAT-H17-Gke-10395.pdf

 審決は、相違点c について、上記周知慣用技術を適用して本願発明の構成とすることの容易想到性を肯定する判断をしたものであるが、拒絶理由通知においては、上記周知慣用技術の内容自体はおろか、その根拠となる特許公報にも、言及すらしていないのであるから、特許法159条2項で準用する同法50条に違背する違法があり、かつ、その違法は明らかに結論に影響がある場合に当たるものというべきである。したがって、その余の取消事由について判断するまでもなく、審決判断1は取消しを免れない。





ポパイ事件

<連載漫画の著作権。二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じる。>

事件番号:   平成4年(オ)第1443号
事件名:     著作権侵害差止等
裁判年月日: 平成9年07月17日
法廷名:     最高裁判所第一小法廷
判決データ: CP-H04-o-1443.pdf   CP-H04-o-1443-1.pdf

 著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法二条一項一号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない

(中略)

 連載漫画においては、後続の漫画は、先行する漫画と基本的な発想、設定のほか、主人公を始めとする主要な登場人物の容貌、性格等の特徴を同じくし、これに新たな筋書を付するとともに、新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって、このような場合には、後続の漫画は、先行する漫画を翻案したものということができるから、先行する漫画を原著作物とする二次的著作物と解される。そして、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である。

(中略)

 著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうところ(最高裁昭和五〇年(オ)第三二四号同五三年九月七日第一小法廷判決・民集三二巻六号一一四五頁参照)、複製というためには、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りるというべきである。

(中略)

 前記の原審認定事実によれば、本件図柄一は、第一回作品において表現されているポパイの絵の特徴をすべて具備するというに尽き、それ以外の創作的表現を何ら有しないものであって、仮に後続作品のうちいまだ著作権の保護期間の満了していないものがあるとしても、後続作品の著作権を侵害するものとはいえないから、被上告人キング・フィーチャーズは、もはや上告人の本件図柄一の使用を差し止めることは許されないというべきである。





ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件

<高裁判決是認。著作権非侵害>

事件番号  昭和50年(オ)第324号
事件名  著作権不存在等確認及び著作権損害賠償
裁判年月日  昭和53年09月07日
法廷名  最高裁判所第一小法廷
判決データ:  CP-S50-o-324.pdf

 旧著作権法(明治三二年法律第三九号)の定めるところによれば、著作者は、その著作物を複製する権利を専有し、第三者が著作権者に無断でその著作物を複製するときは、偽作者として著作権侵害の責に任じなければならないとされているが、ここにいう著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はないところ、既存の著作物に接する機会がなく、従って、その存在、内容を知らなかった者は、これを知らなかったことにつき過失があると否とにかかわらず、既存の著作物に依拠した作品を再製するに由ないものであるから、既存の著作物と同一性のある作品を作成しても、これにより著作権侵害の責に任じなければならないものではない。





FM信号復調装置事件(準拠法)

                          ***参考文献 : 発明 Vol.100 2003-6 木棚 照一 教授 判例評釈*** 
事件番号:   平成12年(受)第580号
事件名:    損害賠償等請求事件
裁判年月日: 平成14年09月26日
法廷名:    最高裁判所第一小法廷
判決データ: PAT-H12-Ju-580.pdf

 (1) 本件損害賠償請求は、本件両当事者が住所又は本店所在地を我が国とする日本人及び日本法人であり、我が国における行為に関する請求ではあるが、被侵害利益が米国特許権であるという点において、渉外的要素を含む法律関係である。本件損害賠償請求は、私人の有する財産権の侵害を理由とするもので、私人間において損害賠償請求権の存否が問題となるものであって、準拠法を決定する必要がある。
 そして、特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、特許権特有の問題ではなく、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから、法律関係の性質は不法行為であり、その準拠法については、法例11条1項によるべきである。原審の上記1(1)の判断は、正当である。
 (2) 本件損害賠償請求について、法例11条1項にいう「原因タル事実ノ発生シタル地」は、本件米国特許権の直接侵害行為が行われ、権利侵害という結果が生じたアメリカ合衆国と解すべきであり、同国の法律を準拠法とすべきである。けだし、(ア) 我が国における被上告人の行為が、アメリカ合衆国での本件米国特許権侵害を積極的に誘導する行為であった場合には、権利侵害という結果は同国において発生したものということができ、(イ) 準拠法についてアメリカ合衆国の法律によると解しても、被上告人が、米国子会社によるアメリカ合衆国における輸入及び販売を予定している限り、被上告人の予測可能性を害することにもならないからである。その準拠法が我が国の法律であるとした原審の上記1(2)の判断は、相当でない。
 (3) 米国特許法284条は、特許権侵害に対する民事上の救済として損害賠償請求を認める規定である。
 本件米国特許権をアメリカ合衆国で侵害する行為を我が国において積極的に誘導した者は、米国特許法271条(b)項、284条により、損害賠償責任が肯定される余地がある。
 しかしながら、その場合には、法例11条2項により、我が国の法律が累積的に適用される。本件においては、我が国の特許法及び民法に照らし、特許権侵害を登録された国の領域外において積極的に誘導する行為が、不法行為の成立要件を具備するか否かを検討すべきこととなる。
 属地主義の原則を採り、米国特許法271条(b)項のように特許権の効力を自国の領域外における積極的誘導行為に及ぼすことを可能とする規定を持たない我が国の法律の下においては、これを認める立法又は条約のない限り、特許権の効力が及ばない、登録国の領域外において特許権侵害を積極的に誘導する行為について、違法ということはできず、不法行為の成立要件を具備するものと解することはできない。
 したがって、本件米国特許権の侵害という事実は、法例11条2項にいう「外国ニ於テ発生シタル事実カ日本ノ法律ニ依レハ不法ナラサルトキ」に当たるから、被上告人の行為につき米国特許法の上記各規定を適用することはできない。

(中略)

判示第3、2についての裁判官井嶋一友の補足意見は、次のとおりである。
 本件米国特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、アメリカ合衆国の法律を準拠法とすべきであるが、その場合は、法例11条2項により、我が国の法律が累積的に適用されることになるから、その点について補足的に私の意見を述べることとする。
 1 法例11条2項にいう「外国ニ於テ発生シタル事実カ日本ノ法律ニ依レハ不法ナラサルトキ」とは、不法行為の成立要件の全てについて、両国法(不法行為一般法のみならず、実質法たる特許法も含む。)の成立要件をともに具備しなければ、不法行為は成立しないとの意味に解すべきである。この点については、多数意見の判示するとおりである。
 2 特許権についての属地主義の原則によれば、我が国の領域外において我が国の特許権の侵害に当たる行為(例えば侵害品を製造したり、販売したりする行為など)をしても、そのこと自体は我が国の特許権を侵害することにはならないが、同じく我が国の領域外で我が国の特許権の侵害に当たる行為をしても、その侵害の結果が我が国の国内に及び、それが国内の直接侵害を積極的に誘導する行為に当たる場合、国外における上記の行為について、我が国の民法上の教唆又は幇助に当たるとして、共同不法行為責任を認めるか否かは簡単なことではない。
 属地主義を原則とする各国特許法によって規律されている現在の特許権に関する国際秩序の下では、特許権者は、特許権が登録された甲国の特許法によって甲国内における直接侵害について保護を求める一方、乙国において、同様の保護を求めるのであれば、乙国において同一の発明について特許権を設定して乙国における侵害について保護を求めることとしている。ところで、米国特許法271条(b)項は、上記のように、特許権侵害を積極的に誘導する者は侵害者として責任を負う旨規定し、直接侵害行為がアメリカ合衆国の領域内で行われる限りその領域外で積極的誘導が行われる場合をも含むものと解され、同国の領域外の行為を原因事実として損害賠償責任を肯定しているが、これは、上記の国際秩序の下で他国とは異なる立場を採用しているものと言わざるを得ず、このような規定を持たない我が国の特許法は、我が国の領域外における積極的誘導行為に我が国の特許権の効力を及ぼすことを肯定しない立場を採っているものと解するほかはない。とすれば、我が国の民法の解釈論によって、共同不法行為者とみなして、国外において積極的誘導行為をした者の損害賠償責任を肯定し、また、教唆、幇助行為の犯罪地に関する刑事判例を引用して、国外において行われた積極的誘導行為を国内における直接侵害と一体のものと解して、損害賠償責任を肯定する藤井裁判官の反対意見には同調することはできない。もちろん、例えば、所有権のように万国共通の私権として認められる権利の侵害を、我が国の領域外で教唆、幇助する行為について、我が国の民法の共同不法行為の理論により、我が国の国内の直接侵害者とともに損害賠償責任を肯定することには異論のないところであるが、特許権は、各国の産業政策に従って、各国別に設定登録され、その効力は当該国の領域内にとどまることを原則とする権利であるから、所有権のような普遍的な権利の侵害の場面と同一に論ずることはできないものというべきである。
 このように、我が国の特許法は、特許権を侵害する行為を登録された国の領域外で積極的に誘導する行為について不法行為責任を肯定する立場を採っていないと解する以上、他にこの点に関する立法や条約、協定等の定めがない現在の国際秩序の下では、我が国の法廷において、米国特許法を適用して、アメリカ合衆国内の直接侵害者について損害賠償責任を肯定することはともかく、本件のように、我が国の領域内において行われた製造、輸出等の行為者について、米国特許法の規定する積極的誘導行為に当たる者として不法行為責任を肯定することはできないものというべきである。

(中略)

 判示第3、2についての裁判官藤井正雄の反対意見は、次のとおりである。
 私は、本件特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、多数意見の結論に賛成することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 本件損害賠償請求の法律関係の性質は不法行為であり、その準拠法は法例11条1項によるべきであること、同項にいう「原因タル事実ノ発生シタル地」は、本件米国特許権の直接侵害行為が行われ、特許権侵害という結果が生じたアメリカ合衆国と解すべきであり、同国の法律が準拠法となることについては、多数意見と見解を同じくする。そして、米国特許法271条(b)項及び284条によれば、米国特許権を同国内で侵害する行為を国外において積極的に誘導した者は、損害賠償責任を負うとされている。
 2 不法行為については、法例11条2項により、法廷地である我が国の法律が累積的に適用される。本件において、同項にいう「外国ニ於テ発生シタル事実」に当たるのは、本件米国特許権の侵害を我が国の領域内において積極的に誘導してアメリカ合衆国において侵害の結果を発生させたという事実であり、この事実が原因事実発生地法と我が国の法律の不法行為の成立要件をともに満たして初めて不法行為が成立することになるのである。そして、この場合において、我が国の法律を適用するに当たり、被侵害利益である米国特許権の存在は先決問題であり、その権利がそれ自体の準拠法によって成立したものである限り、これを所与の前提として、その種の権利の侵害が我が国の法律上不法行為と認められるかどうかを判断すべきである(米国特許権が我が国においては効力を有しないことの故に、それが権利として存在しないものとみなして判断すべきではない。)。
 我が国の民法709条、719条2項によれば、特許権の侵害を積極的に誘導する行為は、特許権侵害の教唆又は幇助に当たるというべきであり、その行為を行った者は、共同行為者とみなされ、直接侵害者と連帯して損害賠償責任を負うことは明らかである。したがって、我が国の法律によっても不法行為が成立する場合に当たる。このように解しても、特許登録国の国外における行為自体に直接に米国特許権の効力を及ぼすものではなく、特許登録国において生じた直接侵害に基づく損害の賠償について直接侵害者との連帯責任を負わせるものにすぎないから、属地主義の原則に反するとはいえない。





データ伝送方式事件

事件番号  平成16年(ワ)第10667号
事件名  損害賠償等請求事件
裁判年月日  平成19年11月28日
裁判所名  東京地方裁判所
判決データ:  PAT-H16-wa-10667.pdf

第2 事案の概要
 本件は、データ伝送方式に関する発明についての特許権の共有持分を有している原告が、別紙被告物件目録記載のADSLモデム用のチップセット(以下「被告製品」という。)の製造、販売をしている(この製造、販売が日本で行われていると評価できるかについては争いがある。)、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)法人である被告センティリアム・コミュニケーションズ・インコーポレイテッド(以下、「被告CCI」という。)及びその日本における子会社である被告センティリアム・ジャパン株式会社(以下、「被告CJ」という。)に対し、被告製品を内蔵したモデムによるADSL通信は、本件発明の技術的範囲に属するから、被告製品の生産、譲渡、輸入、譲渡の申出の各行為は、平成15年1月1日以後同年8月30日までの行為に対しては、平成18年法律第55号による改正前の特許法101条3号(以下「特許法101条3号」という。)及び同条4号(以下「特許法101条4号」という。)により、平成14年12月31日以前の行為に対しては、平成14年法律第24号による改正前の特許法101条2号(以下「平成14年改正前特許法101条2号」という。)により、いずれも、本件特許権の間接侵害行為に当たるところ、@住友電機工業株式会社(以下「住友電工」という。)及び日本電気株式会社(以下「NEC」という。)は、被告製品又はこれを内蔵したADSLモデムを輸入し、被告製品を内蔵したADSLモデムを東日本電信電話株式会社(以下「NTT東日本」という。)及び西日本電信電話株式会社(以下「NTT西日本」といい、NTT東日本とNTT西日本を併せて「NTT」又は「NTT東西地域会社」という。)へ譲渡しており、住友電工及びNECは、上記各行為について、本件特許権の間接侵害による不法行為責任を負うが、被告らには、上記各行為について、上記各社と共同不法行為(民法719条1項又は2項)が成立すること(主位的主張)、A被告らによる、被告製品又はこれを内蔵したADSLモデムの譲渡行為は、日本国内で行われていると評価できること(予備的主張1)、B被告らは、日本国内において、被告製品又はこれを内蔵したADSLモデムの譲渡の申出をしていること(予備的主張2)、C被告らは、被告製品の心臓部であるウエハを、三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)に日本国内で製造させているが、三菱電機の日本国内での上記行為は、被告らによるものと評価できること(予備的主張3)を主張して、特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求、並びに被告CCIについては、訴状送達の日の翌日である平成16年9月1日から、被告CJについては、訴状送達の日の翌日である同年8月3日から民法所定年5分の割合による遅延損害金の請求をしている事案である。

(判旨)
(2) 検討
 以上の事実を前提に、被告CCIに対する訴えについて、我が国の裁判所に国際裁判管轄が認められるか否かを検討する。
ア国際裁判管轄の判断基準
 我が国の裁判所に提起された訴訟の被告が、外国に本店を有する外国法人である場合には、当該法人が進んで服する場合のほか日本の裁判権が及ばないのが原則であるが、例外として、被告が我が国と何らかの法的関連を有する事件について我が国の国際裁判管轄を肯定すべき場合のあることは、否定し得ないところである。ただし、どのような場合に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかについては、国際的に承認された一般的な準則が存在せず、国際的慣習法の成熟も十分でないため、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である。そして、我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときには、原則として、我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき、被告を我が国の裁判籍に服させるのが相当であるが(最高裁昭和55年(オ)第130号同56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁)、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁平成5年(オ)第1660号同9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁)。
 そこで、本件において、被告CCIに対する訴えについて、民訴法の規定する裁判籍が認められるかを、以下検討する。
イ民訴法4条1項、5項について
 上記(1)のとおり、被告CCI1 は、米国に本店を有する米国法人であり、日本国内には、支店も営業所も有していないのであるから、民訴法4条1項、5項による裁判籍は我が国内に認められず、したがって、被告CCIに対する訴えについて、我が国の裁判所に国際裁判管轄を認めることはできない。

(中略)

ウ民訴法7条について
 民訴法7条ただし書、38条前段により、訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴えられることができるが、このようにして裁判籍が認められるにすぎない場合に、直ちに国際裁判管轄を認めると、被告自身に対する請求とは何ら関連性を有しない国での応訴を強いられることになり、民訴法上の他の規定により裁判籍が認められることにより国際裁判管轄を肯定する場合に比べて、被告の受ける不利益が大きく、当事者の公平や裁判の適正・迅速の理念に基づく条理にそぐわないこととなる。もっとも、相被告に対する請求と当該被告に対する請求との間に、固有必要的共同訴訟の関係ないしそれに類似する程度の強固な関連性があることが認められる場合など、特に我が国の裁判所に国際裁判管轄を認めることが当事者間の公平、裁判所の適正・迅速を期するという理念に合致する特段の事情が存する場合には、我が国の裁判管轄を認めることが条理に適うと解される。そこで、民訴法7条ただし書、38条前段の規定に依拠した国際裁判管轄は、原則として認められず、上記のような強固な関連性が認められる場合にのみ認められると解するのが相当である。

(中略)

 以上のことを考慮すると、被告CCIに対する請求と被告CJに対する請求との間に、強い関連性があるとして、被告CCIに対する訴えについて、民訴法7条に依拠した国際裁判管轄を認めることはできない。
 したがって、民訴法7条の規定に依拠して、被告CCIに対する訴えについて、我が国の裁判所に国際裁判管轄を認めることはできない。
エ民訴法5条9号について
 民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して我が国の国際裁判管轄を肯定するためには、原則として、@原告主張に係る不法行為の客観的事実の存在及びAそのうちの実行行為地又は損害の発生地が日本国内であることが証明されれば足り、違法性や故意過失については立証する必要はないと解するのが相当である(最高裁平成12年(オ)第929号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁)。そして、共同不法行為においては、上記@の国際裁判管轄を肯定するために立証すべき客観的事実は、当該不法行為の実行行為、客観的関連共同性を基礎付ける事実又は幇助若しくは教唆行為についての客観的事実、損害の発生及び事実的因果関係であると解するのが相当である。
(ア) 主位的主張に係る訴えについての国際裁判管轄の有無
a 原告は、主位的に、住友電工及びNECが被告製品を輸入したこと、及び同社が被告製品を内蔵したモデムをNTTへ譲渡したことについて、被告らには、住友電工及びNECと、民法719条1項の共同不法行為(主位的主張1) 又は同条2項の共同不法行為(主位的主張2)が成立する旨主張する。
b そこで、検討するに、本件においては、上記(1)で判示したように、住友電工及びNECは、被告製品又は被告製品を組み込んだADSLモデムを輸入し、同ADSLモデムをNTTに販売しているのであるから、仮に、本件特許が無効とならず、被告製品の輸入、販売等が本件特許権の侵害行為に該当するのであれば、住友電工及びNECの上記行為は、本件特許権を侵害する不法行為を構成し、また、本件特許権を有している原告に、我が国において、損害は発生しているものと認められる。
 次に、客観的関連共同性の存否又は幇助・教唆行為の客観的事実の存否については、上記(1)で判示したとおり、住友電工及びNECによる「輸入」及び「譲渡」の目的となっている被告製品は、被告CCIが製造したものであるところ、上記(1)のとおり、被告CCIは、住友電工との間で、xDSL技術に用いられ、かつ、ADSL用の信号処理のためのインターフェースデバイスの開発を協力して行うことを内容とする契約を締結し、同契約に基づく開発により、被告製品のうちの少なくとも1つのシリーズの製造がされていること、NECとの間で、G.Lite及びJDSLの開発を協力して行う旨の契約を締結し、同契約に基づく開発により、被告製品のうちの少なくとも1つのシリーズの製造がされていること、三菱商事がNTTとの間で、NTTに対して、ISDNの環境内においてxDSL技術の理論的互換性についてのコンサルティングをする旨の契約( NTT・M C契約)を締結したことを前提として、三菱商事との間で、同社に対して、上記のNTT・MC契約に基づき同社がNTTに対して提供する技術情報を提供する旨のコンサルタント契約を締結していること、並びに被告CCIは、住友電工自身、又はNECの関連会社であるNECアメリカに対して、被告製品を販売していることからすると、同被告は、自社が住友電工及びNECアメリカに対して販売した被告製品が、そのままで又はADSLモデムに組み込まれて、住友電工及びNECによって輸入され、さらに、ADSLモデムに組み込まれた形でNTTに譲渡されることを認識しており、そのような認識の下に、住友電工及びNECに対して、積極的に被告製品の販売のための活動を行ったものと推測されるから、被告CCIには、住友電工及びNECの上記不法行為について、少なくとも客観的関連共同性が認められ、また、被告CCIの住友電工及びNECに対する被告製品の販売行為及びその前提としての営業行為は、住友電工及びNECの上記不法行為の幇助ないし教唆行為と評価できるというべきである。
 したがって、原告の主位的主張に係る訴えについては、我が国の裁判所に管轄を肯定するに足る上記の客観的事実及び日本国内での損害の発生を認めることができる。
c そして、上記bで判示した事実関係からすると、被告CCIとしては、自己の製造、販売した被告製品が日本国内に流通し、日本の特許権を侵害する可能性があることを十分予測し得たものと認められる。また、上記( )のとおり1 、被告CCIの全売上高に占める住友電工及びNECに対する売上高の割合が、平成13年ないし平成15年の間は80パーセント以上と、非常に高いものであったことから、被告CCIの主要の市場は日本であったということができる。
 以上の事情からすれば、原告の主位的主張に係る訴えについて、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する結果になるとはいえず、我が国における管轄を否定すべき特段の事情があるとは認められない。
d したがって、原告の被告CCIに対する主位的主張に係る訴えについて、我が国の裁判所に国際裁判管轄が認められる。

(中略)

3小括
 上記2のとおり、被告方法は、本件発明の本件発明の技術的範囲に属するものではないから、原告の被告CCIに対する各請求及び被告CJに対する各請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。





外国の特許を受ける権利(職務発明)

<外国の特許を受ける権利の譲渡についても、相当の対価の支払を請求することができる。>

事件番号:   平成16年(受)第781号
事件名:     補償金請求事件
裁判年月日:  平成18年10月17日
法廷名:     最高裁判所第三小法廷
判決データ:  PAT-H16-Ju-781.pdf

 従業者等が特許法35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用されると解するのが相当である。

(中略)

 したがって,上記各外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用され,被上告人は,上告人に対し,上記各外国の特許を受ける権利の譲渡についても,同条3項に基づく同条4項所定の基準に従って定められる相当の対価の支払を請求することができるというべきである。





スナックシャネル事件

<不正競争防止法第2条第1項第1号の「混同を生じさせる行為」に該当。>

事件番号:   平成7年(オ)第637号
事件名:    使用差止請求事件
裁判年月日: 平成10年09月10日
裁判所名:   最高裁判所第一小法廷 
判決データ: UF-H07-o-637.pdf

 被上告人の営業の内容は、その種類、規模等において現にシャネル・グループの営む営業とは異なるものの、「シャネル」の表示の周知性が極めて高いこと、シャネル・グループの属するファッション関連業界の企業においてもその経営が多角化する傾向にあること等、本件事実関係の下においては、被上告営業表示の使用により、一般の消費者が、被上告人とシャネル・グループの企業との間に緊密な営業上の関係又は同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信するおそれがあるものということができる。したがって、被上告人が上告人の営業表示である「シャネル」と類似する被上告人営業表示を使用する行為は、新法二条一項一号に規定する「混同を生じさせる行為」に当たり、上告人の営業上の利益を侵害するものというべきである。





プリーツプリーズ事件

<不正競争防止法第2条第1項第1号、第4条、第5条第1項に基づく損害賠償請求を認める。
 信用回復措置としての謝罪広告を求める原告の請求は、理由がない。>

事件番号:   平成7年(ワ)第13557号
事件名:    プリーツ・プリーズ事件
裁判年月日: 平成11年06月29日
裁判所名:   東京地方裁判所
判決データ: UF-H07-wa-13557.pdf

3 原告商品の形態の周知商品表示性について
 商品の形態は、本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等のために選択されるものであり、商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、右商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品表示としての形態が需用者の間で周知になることがあり得るというべきである。そして、このような場合には、右商品形態が、当該商品の技術的機能に由来する必然的、不可避的なものでない限り、不正競争防止法二条一項一号に規定する「他人の商品等表示として需用者の間に広く認識されているもの」に該当するものといえる。

(中略)

 原告商品は、訴外【A】のこれらプリーツ作品を基に原告において企画・考案し、平成四年一一月に開催された業者向けの買付用展示会で初めて発表された後、平成五年二月から、訴外会社によって、東京都内の同社の直営店など数店の服飾専門店で販売されるようになった。
 その後、原告商品は、伊勢丹、三越、大丸といった主要百貨店でも販売されるようになり、販売地域も首都圏から近畿地方へと拡大し、平成六年二月には、訴外会社の直営店三店、百貨店一一店のほか多数のファッション専門店において販売されようになった。また、同年三月二日からは、名古屋市内の三越名古屋店においても、原告商品の販売が開始された。そして、右のような販売の拡大によって、訴外会社による原告商品の売上額は、小売店への卸売総額として、平成五年夏ころには月平均四〇〇〇万円ないし五〇〇〇万円であったものが、同六年五月には月約一億五〇〇〇万円に達するものとなった。
 さらに、原告商品は、平成五年一〇月にパリで、同年一一月に東京で開催された「イッセイミヤケ一九九四年春夏コレクション」において、訴外【A】の作品として発表され、好評を博した。
 原告商品の雑誌・新聞への掲載
 原告商品は、平成五年二月の発売当初から同六年四月ころまでの間、服飾ブランド「イッセイ・ミヤケ」に属する商品シリーズとして、業界新聞のほか、全国的に広く発行されている婦人向けファッション雑誌や一般新聞において、紹介記事や広告が頻繁に掲載されてきた。そして、これらの多くにおいては、原告商品を平置きにした状態あるいはモデルに着用させた状態の写真が掲載されている。
 また、右記事の中には、例えば以下のとおり、原告商品を注目商品あるいはヒット商品として紹介するものが数多く含まれている。
@ 雑誌「ELLE JAPON」平成五年四月五日号では、原告商品がイッセイ・ミヤケの新ブランドとして紹介され、「この春、注目のブランド」とされている(甲第六号証)。
A 平成五年九月三日付け毎日新聞では、第一一回毎日ファッション大賞を受賞した訴外【A】に関する記事が掲載され、その中で、訴外【A】が開発したプリーツがいまや爆発的な人気であることが紹介されている(甲第三三号証)

(中略)

 原告商品の形態は、「滑らかなポリエステルの生地からなる婦人用衣服において、縦方向の細かい直線状のランダムプリーツが、肩線、袖口、裾などの縫い目部分も含めて全体に一様に施されており、その結果、衣服全体に厚みがなく一枚の布のような平面的な意匠を構成している」という点に、特に看者の注意をひく独自の特徴があり、かかる特徴的形態が同種商品と識別される周知な商品表示となったものと認められるところ、被告商品1ないし5(検甲第六号証ないし第一〇号証)を原告商品におけるこれらに対応したアイテムである原告商品1ないし5(検甲第一号証ないし第五号証)とそれぞれ対比しつつ観察すれば、被告商品1ないし5が、いずれも右と共通する形態の特徴を有することは明らかというべきである。他方、原告商品1ないし5と被告商品1ないし5との間に、被告らが主張するような相違点(「請求原因に対する認否及び被告らの主張」2(三)(3)のあることが認められるが、いずれも個別のアイテムにおける細部の相違にすぎず、これらをすべて考慮しても、前記のような共通した特徴的形態からもたらされる看者の印象の共通性が否定されるものではない。
 したがって、被告商品1ないし5の形態は、原告の周知な商品表示となった原告商品の形態に類似するものと認められる。
 右のとおり被告商品1ないし5の形態が原告商品の形態と類似することからすれば、被告商品1ないし5は、取引者ないし需要者において原告商品との混同を生じるおそれがあるものと認められる。
 なお、本件においては、これに加えて、(1)被告商品と原告商品の販売・陳列方法が、@いずれも百貨店における専用の売場での販売が行われている点、A右売場において、原告商品の場合には「PLEATS PLEASE」なる大文字のアルファベットのロゴが掲示されているところ、被告商品においても、「THE PLEATS」なる大文字のアルファベットのロゴが掲示されている点、Bいずれも商品の一部を筒状に巻いて陳列するという方法を採用している点(右@ないしBの事実は当事者間に争いがない。)において類似していること、(2)販売価格についても、被告商品1ないし5が八〇〇〇円から一万五〇〇〇円であるところ(検甲第六号証ないし第一〇号証)、これに対応する原告商品1ないし5は一万二〇〇〇円から二万円であり(検甲第一号証ないし第五号証)、両者の価格帯がほぼ共通することなど、需要者たる一般消費者の混同を助長する事情の存在することが認められるのであって、これらの事情に照らしても、被告商品1ないし5につき需要者において原告商品との混同を生じるおそれがあることは明らかというべきである。





「国際自由学園」商標事件

<商標登録が商標法第4条第1項第8号の規定に違反するものであるかどうかにつき更に審理を尽くさせるため、本件を知的財産高等裁判所に差し戻す。>

事件番号:   平成16年(行ヒ)第343号
事件名:    審決取消請求事件
裁判年月日: 平成17年07月22日
裁判所名:   最高裁判所第二小法廷
判決データ: TM-H16-Ghi-343.pdf

 本件商標「国際自由学園」が上告人略称「自由学園」を含む商標であること、上告人が被上告人に承諾を与えていないことは明らかであるから、上告人略称が上告人の名称の「著名な略称」といえるならば、本件商標は、8号所定の商標に当たるものとして、商標登録を受けることができないこととなる。
 商標法4条1項は、商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが、需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号、15号等の規定とは別に、8号の規定が定められていることからみると、8号が、他人の肖像又は他人の氏名、名称、著名な略称等を含む商標は、その他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないと規定した趣旨は、人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても、一般に氏名、名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には、本人の氏名、名称と同様に保護に値すると考えられる。
 そうすると、人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても、常に、問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる。
 本件においては、前記事実関係によれば、上告人は、上告人略称を教育及びこれに関連する役務に長期間にわたり使用し続け、その間、書籍、新聞等で度々取り上げられており、上告人略称は、教育関係者を始めとする知識人の間で、よく知られているというのである。これによれば、上告人略称は、上告人を指し示すものとして一般に受け入れられていたと解する余地もあるということができる。そうであるとすれば、上告人略称が本件商標の指定役務の需要者である学生等の間で広く認識されていないことを主たる理由として本件商標登録が8号の規定に違反するものではないとした原審の判断には、8号の規定の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。





パチスロ機(リノ)商標権侵害事件

<商標法第78条の商標権侵害の罪が成立するとした原判決の判断は、正当。>

事件番号:   平成8年(あ)第342号
事件名:    商標法違反事件
裁判年月日: 平成12年02月24日
法廷名:    最高裁判所第一小法廷
判決データ: TM-H08-a-342.pdf

 主基板は、リノの本体とは別にパチンコ店に備え置く補修用部品としても販売され、リノの主基板が故障した場合にこれと交換されることもあった。主基板に装着された本件CPU及びそれに付された本件商標は、リノの外観上は視認することができないが、右のようなリノの流通過程において、中間の販売業者やパチンコ店関係者に視認される可能性があった。
 以上の事実関係の下では、本件商標は、本件CPUが主基板に装着され、その主基板がリノに取り付けられた後であっても、なお本件CPUについての商品識別機能を保持していたものと認められるから、前記起訴に係る被告人らの各行為について、商標法(前記改正前のもの)七八条の商標権侵害の罪が成立するとした原判決の判断は、正当である。





「NF膜」特許無効事件

<特許無効審判の請求不成立審決を取消=特許無効理由あり。>

事件番号:   平成18年(行ケ)第10368号
事件名:    審決取消請求事件
裁判年月日: 平成19年08月28日
裁判所名:   知的財産高等裁判所 
判決データ: PAT-H18-Gke-10368.pdf

  前項に認定したところによれば、本件特許出願前の膜分離技術の一般的状況については、従来のRO膜やUF膜では分離することができない分子量100から数100程度の物質を分離することができる膜が求められていたところ、この要求を満たすものとしてNF膜が開発され、メーカー各社から20種類を超える製品が販売されている状況にあり、甲7によると、テトラアルキルアンモニウムイオンに属するテトラメチルアンモニウムイオンの分子量は約91であることが認められるのであるから、テトラアルキルアンモニウムイオンを分離するために、従来の分離膜に代えてNF膜を採用してみようとする程度のことは、当業者にとって極めて普通の着想であるといわなければならない。特にこの点は、NF膜を格別限定することなくNF膜一般を構成要件とする本件発明1においては、要するに、NF膜を分離膜として採用したというに止まるのであるからなおさらである。もっとも、NF膜の特徴の1つとして電荷を有する点が指摘されており、この電荷が分離対象物質の有する電荷との関係で、透過性にいかなる影響を及ぼすかについては、必ずしも十分に解明されておらず、法則性をもってその影響を予測することは困難な状況にあったものであるが、この点は、事前にNF膜の分離効果を確実性をもって予測し難いというにとどまるものであるから、低分子量の物質を膜分離する目的でNF膜を採用してみる程度の企図にとって、障害となるものとまでいうことはできない。
 したがって、フォトレジスト廃液中のテトラアルキルアンモニウムイオンをろ過膜を使用して分離しようとする当業者が、従来の膜に替えてNF膜を採用しようとすることは、当時の周知の膜分離に関する技術状況からすると、格別困難なこととはいえないから、審決の相違点イの判断は誤りといわざるを得ない。
6 被告は、本件発明1の相違点イに係る構成は当業者が容易に想到し得るものではないと主張する。
 被告の多岐にわたる主張の要点は、審決と同様、本件特許出願前、当業者がテトラアルキルアンモニウムイオンのNF膜の透過可能性を予測することは困難であったという点にあり、このような予測可能性がなければNF膜を採用しようと動機付けられることもないとするものである。
 そこで検討するに、確かに、本件特許出願前にNF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過することを指摘した技術文献がないことは被告の主張するとおりである。しかし、このことから直ちにNF膜を採用しようと動機付けられないといえないことは、前項に説示したところに照らして明らかである。NF膜が有する電荷の影響が分離対象物質の挙動に複雑な影響を及ぼすものであり、テトラアルキルアンモニウムイオンのNF膜の透過可能性について予測することが困難であったとしても、このような事情は、NF膜のテトラアルキルアンモニウムイオンの透過可能性を否定したものではないのであるから、NF膜の持つ低分子量の化合物の分離に極めて有効であるという従来の膜にない一般的特徴を根拠に、優れた透過性能を期待してこれを分離膜として採用してみようとする動機付けの障害となるものではないというべきである。
 以上の次第であるから、NF膜をテトラアルキルアンモニウムイオンが透過することの予測が困難であったことを理由とする被告の主張は、採用することができない。





「自然石ブロック」特許権侵害差止等請求事件

<非侵害。特許請求の範囲から意識的に除外していることが明らかであり、均等でもない。>

事件番号:   平成17年(ネ)第10103号
事件名:    特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日: 平成17年12月28日
裁判所名:   知的財産高等裁判所
判決データ: PAT-H17-ne-10103.pdf

 本件発明の構成要件Aは、「ブロックの敷設面に設けた引留具」に「ネットの経糸又は緯糸」を「通し掛けにして多数のブロックをネットに結合」するものであるところ、上記(3)カのとおり、本件明細書の【発明の効果】欄に、「ネットの経糸又は緯糸にブロックに設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合する構成としたので、施工面に対する馴染性が極めて良好であり、施工面の凹凸を吸収して密着施工が行なえ、又広域の施工面に対するブロック覆工作業が極めて容易且つ迅速に行なえる。」と記載されていることからすると、広域の施工面に対するブロック覆工作業が極めて容易かつ迅速に行われるとの効果は、引留具にネットの経糸又は緯糸を通し掛けするのみで多数のブロックをネットに結合することができる構成としていることに基づくものと認められる。これに対し、自然石をブロックとして用いる場合には、自然石の敷設面に引留具を設けるために、自然石を加工しなければならないところ、コンクリートブロックとは形状、硬度が異なり、また、自然石ごとにも、形状、硬度、その他加工上の特性が異なるので、引留具の取付方法において、本件明細書の発明の詳細な説明に開示されているブロック覆工作業とは異質な技術を必要とすることになり(乙1、13〜15、19)、そのため、ブロックに関する特許や実用新案の出願に当たっては、当該特許発明ないし考案が自然石を対象とするものであるか否かが明示されることが多く、自然石とコンクリートブロックの両方を対象とする場合にもその旨が明記されることが多い(甲31−1〜6、32−1〜3、35−1、乙20〜22)。これらの事情に照らすと、本件発明の「ブロック」に人工素材から成る成形品のみならず「自然石」を含めるのであれば、その旨を本件明細書に明記した上で、自然石から成るブロックに対する「引留具」の取付方法についても、人工素材から成るブロックの場合とは区別して、本件明細書に記載すべきものである。ところが、本件明細書の発明の詳細な説明及び本件図面に、「自然石」を「ブロック」として使用する場合に生じる特有の技術的事項、例えば、どのような手法、手順で「自然石ブロック」の敷設面に引留具を設けるのか等について何らの記載や示唆もない。

(中略)

 争点2(被控訴人製品の構成は、本件発明の構成要件Aと均等か)について
(1) 控訴人は、本件発明の本質的特徴は、請求項1に記載する「ネット」に「ブロック」を引き通し結合(点結合)する構成により、不陸を有する施工面への馴染み敷設が容易であり(良順性)、施工面を密閉せず、活性な植物育成を図る(非密閉性)ことができる施工面敷設ブロックを提供する点に存し、「ブロック」が、「コンクリートブロック」ないし「人工素材から成る成形品としてのブロック」であるか、「自然石」であるかの材質の相違は、本件発明の本質的部分には当たらないとして、被控訴人製品の「自然石」の構成は、本件発明の構成要件Aの「ブロック」と均等なものである旨主張する。
 しかしながら、本件発明の構成要件Aの「ブロック」は、コンクリートブロックなどの人工素材から成る成形品としてのブロックであり、自然石はこれに含まれないと解すべきであること、被控訴人製品は、いずれも自然石を使用するものであるから、本件発明の構成要件Aを充足しないこと、本件発明は、上記のとおり人工素材から成る成形品である「ブロック」を「引留具」にネットの経糸又は緯糸を通し掛けにするのみで、多数のブロックがネットに結合する敷設ブロックが容易に製造され、ブロック覆工作業が極めて容易かつ迅速に行われることを、その発明の本質的特徴とするものであることは、前記認定のとおりである。そして、上記1(6)エのとおり、覆工ブロックとして、「コンクリートブロック」や「自然石」を用いることは、本件出願当時、当業者において自明であったことに加え、上記1(4)のとおり、「ブロック」に自然石が含まれるかについては、本件明細書の発明の詳細な説明にも本件図面にも、これを示唆する記載がないのみならず、「自然石」を「ブロック」として使用する場合に生じる特有の技術的事項についての記載や示唆もなく、本件明細書及び本件図面には、「コンクリートブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形品に係る技術のみが開示されているのであるから、少なくともこの点は本件発明の本質的部分というべきである。
 また、上記のとおり、「自然石」を「ブロック」として使用する場合に生じる特有の技術的事項についての記載や示唆がない以上、「コンクリートブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形品の構成を、「自然石」を「ブロック」として使用する構成に代えることが容易でないことは、明らかである。
 さらに、本件明細書の上記記載によれば、控訴人は、覆工ブロックのうち、「コンクリートブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形品を採用しているのであるから、「自然石」を特許請求の範囲から意識的に除外していることは、明らかである。





レンジフードフィルタ事件(顧客に対する警告の違法性)

<本件特許は、無効とされるべきものであり、被告製品の製造販売が本件特許権の侵害である旨の虚偽の事実を告知、流布する行為は、不正競争防止法第2条第1項第14号の不正競争行為に該当する。
 原審原告に対し、謝罪広告及び損害賠償を求める原審被告らの請求は理由がない。>

事件番号:   平成17年(ネ)第10119号
事件名:    特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日: 平成19年05月15日
裁判所名:   知的財産高等裁判所 
判決データ:  PAT-H17-ne-10119.pdf

3 争点5(原審原告が、原審被告らによる被告製品の製造販売が本件特許権の侵害である旨の虚偽の事実を告知、流布するという、不正競争防止法2条1項14号に該当する不正競争行為をしたか。また、これについて、原審原告に故意又は過失があるか。)について
(1) 上記第2の1の(1)の事実によれば、原審原告にとって、原審被告らは「競争関係にある他人」に当たるものと認められる。
また、同(7)の事実に、乙第26、第28、第49、第50号証、第53号証の1、2及び弁論の全趣旨を総合すれば、原審原告は、本件特許権の登録後である平成16年10月以降、原審被告らの被告製品販売先である日本生活協同組合連合会、コープ九州事業連合、コープきんき事業連合及び千趣会に対し、直接書面により、又は他者を介して、被告製品が本件特許権を侵害するものである旨の告知をしたことが認められるところ、上記1のとおり、本件発明に係る特許は、無効審判において無効とされるべきものであって、被告製品が本件特許権を侵害するということはできない。
 そうすると、原審原告による上記行為は、不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当するものと認められる。
 したがって、同法3条1項に基づき、その差止めを求める原審被告らの請求は理由がある。
(2) しかしながら、原審原告による上記行為が、不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当するものと認められるのは、本件発明に係る特許が、無効審判において無効とされるべきものであるという点にある。そして、特許権者において、特定の者の製造する物品が当該特許権の侵害品である旨を第三者に対し警告する場合には、その製造者に対し警告する場合と比べ、より一層の慎重さが要求されるとしても、上記1の本件特許に係る無効事由の内容に照らし、また、上記2のとおり、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属すると認められることにかんがみると、本件においては、特許権者である原審原告が具体的な無効事由につき出願時又はそれ以降にその存在を疑って調査検討をすることを期待することができるような事情は認め難いから、原審原告による上記行為につき、故意過失があったとまでは直ちに認めることはできない。
 なお、上記第2の2の(7)の事実に上掲証拠を総合すれば、原審原告は、上記行為において、日本生活協同組合連合会、コープきんき事業連合などに対し送付した書面に、本件特許に係る特許証と、本件特許出願に係る公開公報(特開平11−300130号)を添付したことが認められ、この事実によれば、送付を受けた日本生活協同組合連合会等は、原審原告が、上記公開公報記載の発明について特許権を取得したかのように誤認するおそれがあるものと推認されるが、そうであるからといって、本件発明に係る特許が、無効審判において無効とされるべきものであるという事由により、被告製品が本件特許権の侵害品に当たらないという点に関する原審原告の故意過失を基礎付けるということはできない。
( 3) したがって、原審原告に対し、謝罪広告及び損害賠償を求める原審被告らの請求は理由がない。 





著作権侵害差止等請求控訴事件

<同一性保持権(著作者人格権)の侵害認定。謝罪広告不要。慰謝料認定。>

事件番号:   平成12年(ネ)第750号
事件名:    著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日: 平成13年06月21日
裁判所名:   東京高等裁判所
判決データ: CP-H12-ne-750.pdf    CP-H12-ne-750-1.pdf

 前述したとおり、本件写真は、作者である控訴人の思想又は感情が表れているものであるから、著作物性が認められるものであり、被控訴人写真は、本件写真に表現されたものの範囲内で、これをいわば粗雑に再製又は改変したにすぎないものというべきである。このような再製又は改変が、著作権法上、違法なものであることは明らかというべきである。

(中略)

 したがって、被控訴人Bの行為は、著作者である被控訴人の承諾又は著作権法の定める適用除外規定に該当する事由がない限り、本件写真について控訴人が有する同一性保持権を侵害するものとなる(著作権法20条)。ところが、被控訴人Bにつき、控訴人の承諾を得ているとも、著作権法の定める適用除外規定に該当する事由があるとも認められないから、被控訴人Bの行為は、本件写真について控訴人が有する同一性保持権を侵害するものである。

(中略)

7 謝罪広告について
 弁論の全趣旨によれば、被控訴人写真は、被控訴人カタログに掲載されたのみであり、控訴人が、社団法人日本広告写真家協会の著作権委員会に所属する写真家らと協議を重ねたうえ、本訴を請求したものであることが認められ、この事情の下では、判決によって控訴人の名誉が回復されることになり、その他更に名誉を回復するための格別の処分を命ずる必要性はないものというべきである。

(中略)

 証拠(甲第5号証、第12号証、第35号証)によれば、控訴人は、出版用食品広告専門の写真家であり、独特の手法により、写真映像によって食材のおいしさ、みずみずしさなどを表すことに情熱を注ぎ、我が国のみならず米国でも高い評価を受けている写真家であることが認められる。そして、本件写真も、控訴人の上記手法を反映した写真の一つであり、西瓜を主題(モチーフ)として、盛夏の青空の下でのみずみずしい西瓜を演出した作品であったのである。本件写真を、平凡な写真に再製又は改変されてしまったのであるから、控訴人は、自己の意に反するこのような再製又は改変によって、名誉感情を毀損され、精神的な損害を被ったものと認められる。そして、改変の状況及び本件に現れた諸事情を考慮すると、控訴人の被った精神的な損害に対する慰謝料としては、金100万円が相当であり、これらを、被控訴人らに連帯負担させるのが相当であると認められる。


     
            本件写真                           被控訴人写真





「ラブベリー」商標権侵害差止等請求事件

<商標権の侵害を認定>

事件番号:   平成17年(ワ)第18156号
事件名:    商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日: 平成18年12月22日
裁判所名:   東京地方裁判所 
判決データ: TM-H17-wa-18156.pdf  TM-H17-wa-18156-1.pdf

 被告標章5(2)及びその使用態様と本件登録商標とは、いずれも外観、観念の相違、特に観念の相違が大きく、取引の実情等に照らしても出所の誤認混同を生じるおそれは認められないから、称呼が同一であることを併せ考慮しても、類似しないものと認められる。

(中略)

 被告標章6及びその使用態様と本件登録商標とは、いずれも称呼、観念が同一であり、外観において類似している。しかも、「オシャレ魔女の“ラブ”と“ベリー”」のキャラクターが周知であるとしても、被告標章6に接した通常の需要者が被告標章6の使用態様から、「オシャレ魔女の“ラブ”と“ベリー”」のキャラクターに関係することを看取できるとは認められないし、被告ゲーム機の夏休みキャンペーンでの販売方法も、今後とも永続する販売方法であると認めることはできない。したがって、被告標章6及びその使用態様は、本件登録商標に類似すると認めるべきである。

(中略)

 以上のとおり、被告標章2、4(1)、5(1)及び6は、その使用態様を含め、本件登録商標に類似するが、その余の被告標章は、その使用態様を含め、本件登録商標と類似しない。





質権設定−損害賠償請求事件

特許庁の担当職員の過失により被った損害について、国家賠償を求めることができる。>

事件番号:   平成17年(受)第541号
事件名:    損害賠償請求事件
裁判年月日: 平成18年01月24日
法廷名:    最高裁判所第三小法廷
判決データ: PAT-H17-Ju-541.pdf

 申請による登録は、受付の順序に従ってしなければならないものとされており(同令37条1項)、特許庁の担当職員がこの定めに反して受付の順序に従わず、後に受付のされた丙に対する特許権移転登録手続を先にしたために、先に受付のされた乙に対する質権設定登録をすることができなくなった場合には、乙は、特許庁の担当職員の過失により、本来有効に取得することのできた質権を取得することができなかったものであるから、これによって被った損害について、国家賠償を求めることができる。

(中略)

 上告人には特許庁の担当職員の過失により本件質権を取得することができなかったことにより損害が発生したというべきであるから、その損害額が認定されなければならず、仮に損害額の立証が極めて困難であったとしても、民訴法248条により、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて、相当な損害額が認定されなければならない


<上記事件の差戻事件判決。本件特許権を含むFS床版事業の評価額としては3億3000万円と認定した上、これに対し、技術の寄与度を25%、複数権利の中の本件特許権の寄与を4分の1とみた損害額について算定した。>
事件番号  平成18年(ネ)第10008号
事件名  損害賠償請求控訴・同附帯控訴事件
裁判年月日  平成21年01月14日
裁判所名  知的財産高等裁判所
判決データ:  PAT-H18-ne-10008.pdf

裁判所の判断
 鑑定の結果によれば、事業からの利益の4分の1(25%)を技術の寄与度と想定して技術の価値を測定する方法であるいわゆる25%ルールに基づいて、本件特許権を含む特許網について、3億3000万円の25%である8250万円という評価額が得られることが認められる。

(2) 鑑定書の記載の概要
ア 本件特許権は、その技術的保護範囲が狭いうえ、その代替技術が出現したためライフサイクルが短く、過去事業において実質的に活用された形跡がない。この点を配慮すると、本件特許権の評価については、いったん、理想特許権すなわち特許網の評価を行って、その後に本件特許権の価値評価を行うのが相当である。
イ 本件においては、本件特許権を含むFS床版事業の評価額を基礎に、特許技術の商業化が成功した場合、事業からの収益の4分の1(25%)を技術の寄与度と想定して、技術の価値を測定する方法である「25%ルール」を採用することとし、その妥当性を別の観点から確認するために、実施料の観点から検証する。
ウ まず、上記「25%ルール」により、本件特許権を含むFS床版事業の価値評価額と推定される3億3000万円に25%を乗じると、本件特許権を含む特許網の評価額は、8250万円となる。
エ これを、実施料率の観点から検証する。まず、鑑定基準日頃の類似上場会社14社の売上総利益率の平均は、平均で13.1%であり、建設業における実施料率は、概ね3%から4%の幅と推定することができる。そこで、これらを前提に、売上高に対する実施料率を売上総利益に対する実施料率に換算して、実施料率から求められる本件特許権を含む特許網の評価額を計算すると、7557万円〜1億0065万円という評価幅が得られる。上記ウの8250万円は、実施料率の実態調査結果をもとに実施した上記の評価結果の幅に入るものである。





審決取消請求(鍵材)事件

<意匠登録出願の特許庁による拒絶審決を維持。本願意匠は、図面が不明りょう又は不明確であるため、意匠を特定して認定することができず、いまだ具体的なものとは認められないから、意匠法3条1項柱書きに規定する「工業上利用することができる意匠」に該当しない。>

事件番号:         平成18年(行ケ)第10451号
事件名:          審決取消請求事件
口頭弁論終結日:   平成18年12月25日
裁判所名:         知的財産高等裁判所
判決データ:      DE-H18-Gke-10451.pdf

 原告が出願段階の意見書提出時及び審判請求時において提出したと主張する現物は,意匠法6条2項のひな形,見本として提出されたものとは認められないから,その現物に基づき本願の意匠が特定されるということはできない。
 原告は,現物たる見本は少なくともディンプル部の形状を把握する一助にはなるというべきであると主張するが,同見本が願書に添付する図面に代えて提出されたものではない以上,同見本に基づき本願意匠を認定することはできず,原告の主張は採用することができない。





「紙葉類識別装置」拒絶審決取消事件

<特許出願の特許庁による拒絶審決を取消。進歩性あり。>

事件番号:   平成17年(行ケ)第10490号
事件名:    審決取消請求事件
裁判年月日: 平成18年06月29日
裁判所名:   知的財産高等裁判所
判決データ: PAT-H17-Gke-10490.pdf

 審決は、相違点3について、「発光素子で紙葉類の一部に照射させ、透過光を受光素子で受光してなる、紙葉類識別装置の光学検出部は、本願出願前周知な技術事項であり、引用例に記載の発明も紙葉類を扱うものであり、発光素子、受光素子により紙葉類の透過光を検出するものであるから、引用例に記載の発明を上記周知事項に適用して紙葉類識別装置の光学検出部とすることは、当業者が必要に応じ容易になし得ることと認められる。」(審決謄本4頁最終段落)とする。
 しかし、上記(5)のとおり、紙葉類の積層状態検知装置及び紙葉類識別装置は、近接した技術分野であるとしても、その差異を無視し得るようなものではなく、構成において、紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えるのが容易であるというためには、それなりの動機付けを必要とするものであって、引用発明及び本件周知装置ともに「紙葉類を扱うもの」、「発光素子、受光素子により紙葉類の透過光を検出するもの」であるということで、直ちに、紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えることが当業者において容易であるとすることはできない。
(8) 被告は、本件周知装置と引用発明は、光学検出部の構成自体に差異がなく、引用発明において、測定光を複数回にわたって紙葉類に透過させた構成を、本件周知装置に適用する上において阻害要因がない旨主張する。
 被告の上記主張は、主引用例を引用発明から本件周知装置に差し替え、主引用例とした本件周知装置に阻害要因がないとしているものと思われるが、審決の理由において、「発光素子で紙葉類の一部に照射させ、透過光を受光素子で受光してなる、紙葉類識別装置の光学検出部は、本願出願前周知な技術事項」(審決謄本4頁最終段落)と説示しているとおり、本件周知装置は、審判段階においては、飽くまでも「本願出願前周知な技術事項」であって、本願発明と対比されるべき引用例とされていたのではなく、まして、本願発明との対比判断に係る検討を経ていたわけでもないところ、このような事情の下で、訴訟段階に至って、主引用例の差替えの主張を許すことは、最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁の判示する審決取消訴訟の審理範囲を逸脱するものというべきであって許されないものというべきである。のみならず、既に判示したとおり、本願発明と引用発明とは、そもそも発明の課題及び目的が相違し、相違点1及び3に係る本願発明の構成が、引用発明及び本件周知装置に開示も示唆もされておらず、これらを組み合わせて同構成を得ることの動機付けも見いだし難い。
 いずれにせよ、被告の上記主張は、失当である。





審決取消請求事件(一事不再理)

<一事不再理効の規定の趣旨。>

事件番号:   平成7年(行ツ)第105号
事件名:    審決取消請求事件(クロム酸鉛顔料およびその製法)
裁判年月日: 平成12年01月27日
裁判所名:   最高裁判所第一小法廷
判決データ: PAT-H07-Gtsu-105.pdf

 特許法一六七条は、特許を無効とする審判の請求(以下「無効審判請求」という。)について確定審決の登録があったときは、同一の事実及び同一の証拠に基づいて無効審判請求をすることはできないと規定するところ、その趣旨は、ある特許につき無効審判請求が成り立たない旨の審決(以下「請求不成立審決」という。)が確定し、その旨の登録がされたときは、その登録の後に新たに右無効審判請求におけるのと同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求をすることが許されないとするものであり、それを超えて、確定した請求不成立審決の登録により、その時点において既に係属している無効審判請求が不適法となるものと解すべきではない。したがって、甲無効審判請求がされた後にこれと同一の事実及び同一の証拠に基づく乙無効審判請求が成り立たない旨の確定審決の登録がされたとしても、甲無効審判請求が不適法となるものではないと解するのが相当である。





冒認特許権移転登録請求事件

<本件においては、真の権利者であるにもかかわらず、特許権を取得する方法がないという不合理な結果が生じたということはできない。>

事件番号:   平成13年(ワ)第13678号
事件名:    特許権移転登録請求事件
裁判年月日: 平成14年07月17日
裁判所名:   東京地方裁判所 
判決データ: PAT-H13-wa-13678.pdf   PAT-H13-wa-13678-1.pdf

(原告の主張)
ア 特許を受ける権利の共有者として自ら特許出願をしていた権利者の出願人名義を、譲渡証書を偽造するなどして自己に変更し、特許権の持分の設定登録を受けた冒認者に対し、権利者が当該特許権の持分の移転登録手続を請求した事件において、最高裁平成13年6月12日第三小法廷判決(以下「平成13年最高裁判決」という。甲9)は、権利者からの移転登録手続請求を認容した。
 本件事案は、以下のとおり、平成13年最高裁判決が前提とした事実経緯と同じであり、同判決の射程に入るものであるから、同判決の法理に基づき、原告は、本件特許権の移転登録手続請求権を有するというべきである。

(中略)

(裁判所の判断)
 原告は、本件特許発明について冒認出願がされたことを知った後、遅くとも平成11年4月までの間に自ら本件特許発明について特許出願をしていれば、被告のした当初出願又は国内優先権出願を排除することができ、本件特許発明について、自ら特許権を取得することができたものといえる。そうすると、原告には自ら本件特許発明について特許権を取得する機会があったといえる。したがって、本件においては、真の権利者であるにもかかわらず、特許権を取得する方法がないという不合理な結果が生じたということはできないから、例外的に特許権の移転登録請求を認めて真の権利者の救済を図る必要性は、極めて低いというべきである。
ウ 上記イに述べたところを総合すれば、本件は平成13年最高裁判決とは事案を異にするということができるから、原告の上記主張は採用できない





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意匠法
商標法
著作権法
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