「重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」事件
「フライ食品用の具材」事件
「ウエーハ用検査装置」事件
「液晶テレビ用の表示装置」事件
「再帰反射製品,その製造方法,及びそれを含む衣服製品」事件
「中空ゴルフクラブヘッド」補償金等請求事件
「攪拌ディスク及びメディア攪拌型ミル」事件
特許権の通常実施権設定登録等請求事件
…最判
揺動圧入式掘削装置事件
…最判
分割出願をすることができる発明の範囲
…最判
炭車トロ等の脱線防止装置事件
…最判
液体燃料燃焼装置事件
…最判
損害額の認定事例
「半導体ウェーハの外周面取部の研磨加工方法」事件
「重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」事件
<特許庁による無効審判請求の請求不成立審決を維持した判決。>
事件番号 |
平成20年(行ケ)第10144号 |
事件名 |
審決取消請求事件 |
裁判年月日 |
平成20年12月15日 |
裁判所名 |
知的財産高等裁判所 |
判決データ:
PAT-H20-Gke-10144.pdf
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2007−800033号事件について平成20年3月13日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 被告は、発明の名称を「重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」とする
特許第2769592号の特許権者であるが、原告において上記特許の請求項9及び10について無効審判請求をしたところ、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、これに不服の原告がその取消しを求めた事案である。
2 争点は、@平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項(いわゆる実施可能要件)、及び同条5項1号(いわゆるサポート要件)違反の有無、A上記請求項9、10に係る発明が、特開平2−311419号公報(発明の名称「血液透析用製剤およびその製造方法」、出願人テルモ株式会社、公開日平成2年12月27日、甲2。以下「甲2文献」という。)に記載された発明との関係で新規性及び進歩性を有するか(特許法29条1項3号、29条2項)、である。
<判決注、平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項、同条5項は、次のとおりである(以下特許法「旧36条4項」、「旧36条5項」という。)。>
「4項:前項第3号の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。
5項:第3項第4号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
2、3 〈省略〉」
(中略)
ア 本件各特許発明は、重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムの各電解質化合物とブドウ糖とから成る人工腎臓潅流用剤(A剤)に関するものである。このA剤は重炭酸ナトリウムから成る人工腎臓潅流用剤(B剤)と混合して使用されるものであるが、単一成分であるB剤と異なり多数の成分から成る混合物であるため均一な組成とすることが困難であり、そのため従来から水溶液として輸送されてきたが、輸送コストや保管スペース等の点から好ましくなく、A剤の粉剤化が図られてきた。ところが、従来の乾式造粒法では、各電解質化合物の硬度等が異なるため造粒されずに粉末として残存する成分があり、各電解質化合物の原料としての添加割合と造粒物の成分組成が一致しにくく、造粒後に各電解質化合物の組成を補正する必要があった。
イ そこで、本件各特許発明では、塩化ナトリウム粒子の表面に、他の電解質化合物及びブドウ糖が付着して均一な組成のコーティング層を形成し、該コーティング層の作用によって複数の塩化ナトリウム粒子が結合して造粒物を形成するという構成とした。
このような構成を採用することにより、各造粒物を形成する成分の割合はほぼ一定の特定のものとなり、特定量のA剤を特定量の水に溶解して得られる溶液における各電解質化合物及びブドウ糖の濃度の割合は常に特定の所望の値となる。
ウ 本件各特許発明に係る造粒物は、次のような方法により製造することができる。
(ア) すなわち、A剤の原料となる各電解質化合物とブドウ糖を特定量の水の存在下で混合し、かつ、各電解質化合物のうち少なくとも酢酸ナトリウムを溶融させる。酢酸ナトリウムを溶融させるためには、酢酸ナトリウム100重量部に対して10重量部以上好ましくは20〜70重量部の水量となるように調整し、得られる混合物を50℃以上好ましくは60〜80℃に加熱する。
(イ) 酢酸ナトリウムが溶融状態となると、混合物に粘りが生じ、造粒物が形成される。具体的には、溶融した酢酸ナトリウムが、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の微量の電解質化合物及びブドウ糖と均一に分散し、これらを取り込んだ酢酸ナトリウムが塩化ナトリウムの結晶粒子の表面に付着してコーティング層を形成し、さらに、該コーティング層が結合剤となって複数の塩化ナトリウム結晶粒子の間で結合が繰り返されて造粒物が形成される。
(ウ) 原料となる各電解質化合物、ブドウ糖及び水の混合手順については特に限定はなく、公知の一般的な混合方法(二重缶式撹拌混合機の使用を含む)を採用することができるが、成分の均一分散性及び造粒性の向上の点から、酢酸ナトリウム以外の各電解質化合物を混合した後、適量の水が存在する状態下で酢酸ナトリウムを混合し、さらにその段階においてブドウ糖を混合することが、好ましい手順の例として挙げられる。
(エ) さらに、具体的な製造方法の例として、本件実施例3に、@各原料の分量(特に酢酸ナトリウム70.07kgに対して17リットルの水を添加すること)、A加熱温度を73℃とすること、B各原料の添加順序及びタイミング(特に酢酸ナトリウムを添加した後、内容物に特異な粘りが生じ内容物の粒子同士が付着し始めた段階でブドウ糖を添加すること)等が示されている。
(4) 以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件各特許発明の目的、構成及び効果が記載されると共に、かかる構成を有する造粒物を形成する方法が当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に実施できる程度に記載されているということができる。
(5) 以上に対し原告は、本件実施例3記載の方法によっても本件各特許発明の造粒物は得られないと主張する。
ア しかし、そもそも本件実施例3の記載を参照するまでもなく、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記のとおり、原料となる各電解質化合物とブドウ糖を混合し、各電解質化合物のうち酢酸ナトリウムを溶融させることが記載されているから、当業者であれば、溶融した酢酸ナトリウムに他の電解質化合物及びブドウ糖を均一に分散させ、これを主成分である塩化ナトリウム粒子の表面に付着させてコーティング層を形成し、このコーティング層を結合剤として複数の塩化ナトリウム粒子を結合させることは、工夫により適宜なしうることである。
さらに、発明の詳細な説明においては、酢酸ナトリウムを溶融させるための水の量・加熱温度等の条件や、原料となる各電解質化合物及びブドウ糖を混合する好ましい方法・手順が上記のとおり示されており、それに加えて本件実施例3に具体的な製造例が示されているのであるから、当業者がこれら記載の方法を参照して本件各特許発明の造粒物を得ることは容易になしうるものである。
イ 原告は、本件実施例3において添加される水の量が17リットルであり、全体の約1.7重量%にすぎないことを主張するが、ブドウ糖が酢酸ナトリウム等と共にコーティング層を形成するためには、混合されるブドウ糖が完全に溶解するまでの必要はなく、溶融した酢酸ナトリウムと一体となって取り込まれ、均一に分散すれば足りるのであるから、水の量が上記の程度であることをもってブドウ糖がコーティング層を形成することを否定することはできない。
ウ また原告は、本件実施例3において酢酸ナトリウムを添加した混合物に特異な粘りが生じ粒子同士が付着し始めた後にブドウ糖が添加されていることを根拠として、コーティング層はブドウ糖が添加される前に既に形成されている、あるいはブドウ糖がコーティング層に含まれるとしても複数の塩化ナトリウム粒子が結合した造粒物の表面をコーティングしているものにすぎないと主張する。
しかし、本件実施例3の記載は、「酢酸ナトリウム添加の15分後に内容物はやや白色を増し、更に加熱混合を続けると内容物に特異な粘りが生じ内容物の粒子同士が付着し始めた。次に、ブドウ糖213.55kgを添加して混合し、更に加熱混合をつづけると、内容物の粘りは更に増し、その後、内容物が乾燥して、さらさらした顆粒状乃至細粒状の粉体が得られた。…」(甲9、段落【0040】)というものであるから、ブドウ糖が添加されるのは塩化ナトリウム粒子同士の付着が始まった当初の段階であり、ブドウ糖が添加された後、さらに塩化ナトリウム粒子同士の付着が続くものと理解することができる。
したがって、ブドウ糖が添加される段階においてはコーティング層の形成は未だ完了していないから、添加されたブドウ糖は溶融して粘りを生じた酢酸ナトリウムと一体となって取り込まれ、コーティング層の一部となると考えられる。また、このようにしてブドウ糖を含むようになったコーティング層が結合剤となって塩化ナトリウム粒子同士を付着させているのであるから、ブドウ糖が添加される以前に付着した塩化ナトリウム粒子が一部に存在するとしても、製造された造粒物を全体としてみれば、ブドウ糖を含むコーティング層を介して複数の塩化ナトリウム粒子が結合しているということができる。
(中略)
(ウ) また、顕微鏡観察(実験2〔着色したブドウ糖を添加〕で得られた造粒物のサンプルを光学顕微鏡〔×50倍〕により観察した)の結果は下記【写真2】のとおりであり、実験2で得られた造粒物の表面は一様に赤く染まっていることが観察された。
【写真2】
(中略)
(オ)
上記(イ)〜(エ)の成分分析、顕微鏡観察、粒子表面分析の結果を総合すると、ブドウ糖は実験で得られた造粒物中に均質に含まれ、その分布は酢酸ナトリウムの分布とほぼ一致していることが認められ、これらの結果はブドウ糖が酢酸ナトリウム等と共にコーティング層を形成していることをうかがわせるものである。
(カ) これに対し原告は、上記実験結果からはブドウ糖が造粒物の表面に存在することが認められるだけであってコーティング層に含まれているかどうかは明らかでない等と主張するが、上記のとおり本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、溶融して粘りを生じた酢酸ナトリウムにブドウ糖が混合されることによって、ブドウ糖は酢酸ナトリウム等の混合物と一体となって取り込まれ、コーティング層を形成することが理解されるのであり、甲8実験はこれを実験によって裏付けるものにほかならない。そして、甲8実験により得られた上記結果は、発明の詳細な説明の記載と矛盾するものではなく、これを裏付けるのに十分なものといえる。
カ そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された方法では本件各特許発明の造粒物を得られないという原告の主張は採用することができない。
(6) したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には原告主張の記載不備があるということはできず、また、特許請求の範囲に記載の本件各特許発明が発明の詳細な説明に記載されていることは上記のとおり明らかであるから、本件各特許発明は旧36条4項、旧36条5項1号のいずれにも違反せず、原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(新規性、進歩性)について
(1) 原告は、本件特許発明9は甲2文献(特開平2−311419号公報)との関係で新規性、進歩性を有しないと主張する。
(2) しかし、原告の上記主張は、ブドウ糖がコーティング層の内部に含まれず、コーティング層の表面に付着したにすぎない場合も本件特許発明9の造粒物に当たるという解釈を前提としたものである。
この点、本件請求項9は「…ブドウ糖を含むコーティング層…」と記載しており、また発明の詳細な説明の記載は前記2(2)のとおりであって、その記載を参酌してもブドウ糖がコーティング層の表面に付着したにすぎない場合を含むものと解すべき余地はないから、原告の上記主張は本件請求項9に関する独自の解釈を前提としたものであり、その前提において採用することができない。
(3) また、
甲2文献に記載の造粒方法は、「塩化ナトリウム以外の透析用固体電解質の各成分の水溶液を流動層内の塩化ナトリウムおよびブドウ糖の混合粉末に噴霧しながら造粒」する(3頁右上欄18行〜左下欄1行)というものであって、塩化ナトリウム粒子及びブドウ糖粒子を核として、これらの粒子に塩化ナトリウム以外の電解質化合物によるコーティング層を形成する点で、ブドウ糖をコーティング層に含ませる本件特許発明9とは発想が異なるものである。
(4) したがって、本件特許発明9は甲2文献に記載された発明と同一であるということはできず、またこの発明に基づいて当業者が容易に想到しうるものであるともいえないから、原告主張の取消事由2は理由がない。
4 結語
以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
「フライ食品用の具材」事件
<特許庁による無効審判請求の請求不成立審決を維持した判決。>
事件番号 |
平成20年(行ケ)第10194号 |
事件名 |
審決取消請求事件 |
裁判年月日 |
平成20年12月11日 |
裁判所名 |
知的財産高等裁判所 |
判決データ:
PAT-H20-Gke-10194.pdf
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2007−800064号事件について平成20年4月14日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、原告が、被告を特許権者とする後記特許に係る発明の特許につき無効審判請求をしたが、審判請求は成り立たないとの審決がされたため、同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
被告は、発明の名称を「フライ食品用の具材」とする
特許第3544023号(出願日:平成7年2月24日、登録日:平成16年4月16日、請求項の数6。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲1)。
原告は、平成19年3月28日付けで、本件特許の請求項1〜6に記載の発明についての特許を無効とすることについて審判の請求をし(甲66)、無効2007−800064号事件として係属した。
被告は、同年6月18日付け(甲68)及び同年10月4日付け(甲71)で、それぞれ特許請求の範囲の訂正請求をした。
特許庁は、本件無効審判請求について審理した上、平成20年4月14日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同月24日、その謄本を原告に送達した。
2 訂正後の特許請求の範囲
上記平成19年10月4日付けの訂正(以下「本件訂正」という。)後の請求項1〜6(以下「本件請求項1」などという。)に記載の発明(以下「本件発明1」などといい、本件発明1〜6を総称して「本件発明」という。)の内容は、次のとおりである(甲71。下線部は、訂正部分である。)。
なお、上記平成19年6月18日付けの訂正請求は、特許法134条の2第4項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
【請求項1】
冷凍フライ食品用の具材に対し、架橋澱粉または乳酸Naを添加してな
り、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴とする
冷凍フライ食品用の具材。
【請求項2】架橋澱粉、乳酸Naの添加量が、具材100重量部に対してそれぞれ0.5〜10重量部、0.1〜5重量部である請求項1に記載の
冷凍フライ食品用の具材。
【請求項3】
冷凍フライ食品用の具材に対し、「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラギーナン」を添加してな
り、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴とする
冷凍フライ食品用の具材。
【請求項4】乳酸Na、架橋澱粉およびカラギーナンの添加量が、具材100重量部に対してそれぞれ0.1〜5重量部、0.5〜10重量部および0.05〜5重量部である請求項3に記載の
冷凍フライ食品用の具材。
【請求項5】請求項1から4のいずれかに記載の
冷凍フライ食品用の具材を用いてなる
冷凍フライ食品。
【請求項6】
冷凍フライ食品が春巻またはコロッケである請求項5に記載の
冷凍フライ食品。
(中略)
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1の甲4発明に対する新規性の不存在)について
(1)ア本件特許明細書(甲71)には、次の記載がある。
「【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明は、特にプレフライ後、冷凍保存して使用された場合でも、オーブントースターや電子レンジ等のより簡便な調理法によって、フライ直後のようなパリパリ、サクサク、カリカリ等と表現されるようなクリスピーな食感の美味しく食することのできるフライ食品、およびそのような食感を付与できるフライ食品用の具材を提供することを目的とするものである。」
「【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、具材に対し、架橋澱粉または乳酸Na、あるいは『乳酸Na』と『架橋澱粉および/またはカラギーナン』を添加すると、これをプレフライして冷凍保存した後、電子レンジで再加熱するだけで、フライ直後のようなクリスピーな食感のフライ食品が得られることを発見し、しかも、α化澱粉を用いる従来法に比べて、その効果が著しいことを確認し、本発明を完成するに至った。」
(中略)
【実施例】によれば、架橋澱粉及び/又は乳酸ナトリウムを添加した具材部分を春巻の皮で巻きプレフライ後冷凍保存した春巻を再加熱後、また、架橋澱粉及び乳酸ナトリウムを添加した具材部分にパン粉付けをし未フライで冷凍保存したクリームコロッケをフライ後、それぞれ官能検査を行ったところ、食感の良さ、パリパリ感あるいはサクサク感、食味の良さに優れるという結果が得られたことが記載されている。
イ 以上の記載によれば、本件発明1における「冷凍フライ食品」とは、「中身である具材部分と衣である表皮部分とが存在し、具材部分に架橋澱粉又は乳酸ナトリウムが添加され、その状態で冷凍され、冷凍の前後又はそのいずれかにおいて油で揚げて調理される食品」と認めることができる。
(2) ア 一方、甲4には、次の記載がある。
「【請求項1】エビを(1)塩類の水溶液に浸漬させた後に、(2)アミノ酸並びに有機酸及び/又は有機酸塩からなる水溶液に浸漬させることを特徴とするエビの処理方法。」
「【請求項5】有機酸塩が酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウムである請求項1記載の処理方法。」
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、エビの処理方法及び該エビを用いた冷凍食品に関する。」
(中略)
【実施例】では、(1)生エビを炭酸水素ナトリウム2.8%と塩化ナトリウム5.0%の水溶液に浸漬させた後、(2)乳酸0.6%とグリシン0.6%の水溶液に浸漬させた後、エビを凍結保存し、このエビを解凍しててんぷらに調理すると、無処理のものに比べ、食感、常温における保存性に優れることが記載されている。
「【0019】【効果】本発明の方法により処理したエビを用いて調製したてんぷら、フライ等は味、食感とも優れ、かつ常温で長期保存可能という優れた特徴を有する。」
イ 以上によれば、甲4には、2段階浸漬処理を施したエビを、そのまま調理すること、冷凍処理して流通過程にのせること及び凍結保存後解凍しててんぷらに調理することが記載されている。
しかし、甲4には、エビに衣を付けたまま冷凍することについては何ら記載されておらず、甲4記載のエビが、上記(1)イのとおりの、本件発明1にいう「冷凍フライ食品用の具材」であるということはできない。
(3) 原告は、@本件発明1にいう「冷凍フライ食品用の具材」との要件に対して甲4に「冷凍処理して流通過程にのせても良い」との記載がある、A本件発明1が「該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在する」ことにつき、「冷凍を経て衣付きのフライにするのでありさえすれば、この『具材』に当たるはずである」、B甲4は、「『本発明は、エビの処理方法及び該エビを用いた冷凍食品に関する。』と記載する『冷凍食品に関する発明』であるところ、衣を付けた状態での冷凍を否定していない。本件請求項1の文言をもって『衣付きでの冷凍』を意味するというなら、むしろ甲4も同様に理解するべきである。」、などと、本件発明1が甲4発明に対して新規性を有しないと主張する。
しかしながら、上記(1)のとおり、甲1発明の「冷凍フライ食品」は、「中身である具材部分と衣である表皮部分とが存在し、・・・その状態で冷凍され」るものであるのに対し、上記(2)のとおり、甲4には、エビに衣を付けたまま冷凍することについては何ら記載されていないものであって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。
(4) したがって、甲4に対して本件発明1が新規性を有さないものと認めることはできず、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本件発明1の甲4発明に対する進歩性の不存在)について
(1) 前記1(2)アのとおりの甲4の記載によれば、甲4発明は、味、食感及び常温における保存性に優れるエビを提供するために、グリシン等のアミノ酸からなる微生物増殖抑制成分と、乳酸ナトリウム等の有機酸及び/又は有機酸塩を併用するものであると認められ、この常温における保存性に優れるとされるエビにつき、「冷凍フライ食品」とするために、このエビに衣を付けた上、更に冷凍保存しようとするための動機付けを、甲4が当業者に与えるものとはいえない。
そして、前記1(1)によれば、本件発明1は、具材部分と表皮部分とを有する冷凍フライ食品の具材に架橋澱粉又は乳酸ナトリウムを添加することにより、プレフライして冷凍保存した後に電子レンジで再加熱した場合、又は冷凍保存した後にフライした場合、クリスピーな食感のフライ食品が得られるという効果を奏し得るものであり、このような効果は、エビ自体の味、食感や常温における保存性を目的とする甲4発明からは予測できない格別なものというべきである。
(2) ア 原告は、「甲4には、『食感』の向上ということが明示されており、これを主目的とした場合に、そのフライを冷凍にすることも当たり前である。冷凍にする予定のフライの具材に混ぜるということでも同じである。」と主張する。
しかしながら、甲4における「『食感』の向上」とは、前記1(2)アのとおりの甲4の記載、特に甲4の「【0002】・・・製造業者は保存性を向上させる為に厳しい加熱条件で処理し、次にグリシン等の市販の日持ち向上剤を添加する等の工夫を施している。しかし、このような処理を施すと、保存性は確保できるが、エビは硬くなり食感、味が悪くなるという欠点が生じる。」、「【0008】この浸漬処理によりエビに保水効果をもたせることができる。・・・」、「【0013】このような2段階浸漬処理を施したエビはそのまま調理に付しても良く、また、冷凍処理して流通過程にのせても良い。本発明方法で得られるエビをてんぷら、フライ類に使用すると加熱しても食感が良く、しかも保存性に富む天ぷら、フライ類を作ることが可能である。・・・」との記載によれば、エビの保水性を保ち、エビ自体が硬くなり、食感や味が悪くなることを防ぐというものであって、本件発明1のようなフライ食品のフライ後のクリスピーな食感を保持するということとは異なるものである。そして、食品を冷凍した上で解凍すれば、食感が劣化することはあっても向上することが一般的であるとは認め難いから、食感の向上を目的とする当業者にとって、甲4記載の常温のフライ食品を冷凍することが当たり前であるとはいえない。
原告の上記主張は採用できない。
イ また、原告は、「乳酸ナトリウム添加が保存性の目的だったとしても、甲4には冷凍することを禁止する記載もなく、さらに保存性を高めるために冷凍しようと考えることも自然である。」と主張する。
しかしながら、常温保存可能とされる食品をさらに冷凍保存することが一般的であるとは認め難いから、グリシンや乳酸ナトリウム等の作用により、甲4「【0019】【効果】本発明の方法により処理したエビを用いて調製したてんぷら、フライ等は味、食感とも優れ、かつ常温で長期保存可能という優れた特徴を有する。」というように、常温における保存性に優れるとされる甲4に記載のエビてんぷら等のフライ食品を、更に保存性を高めるために冷凍することが、甲4に接した当業者にとって自然な行為であるとは認められない。
ウ さらに、原告は、「冷凍食品につき、冷凍の間は保存に問題がなくても、製造過程や解凍後の品質保持のために、日持ち向上剤を使うことは一般的である(保存料は普通は使わないが)。甲4自体、『冷凍食品』を対象としながら、その保存性を問題とし、グリシンなどを『日持ち向上剤』として使う内容となっている。」と主張する。
しかしながら、甲4では、グリシンが「日持ち向上剤」であれ「保存料」であれ、エビの常温での保存性を高めるものであるから、甲4における常温における保存性に優れるとされるエビをフライした食品を、更に冷凍保存しようとするための動機付けを甲4が当業者に与えるものとはいえず、原告の主張は採用できない。
エ 原告は「、本件特許明細書に記載される『サクサク感を向上させるという効果』と『保存性向上』とは、いずれも吸水性に基づく働きとして共通である。」、「乳酸ナトリウムの物性として、吸湿性は昔からよく知られたものであるが、本件特許明細書の内容である、サクサク感の向上は、この吸湿性から極めて自然に予期される、言わば当たり前の効果である。」「、乳酸ナトリウムも当然に保水剤として働くものであり、硬くなるのを防ぐ。」と主張する。
しかしながら、甲4には、乳酸ナトリウムの吸水、保水及び吸湿性に関する記載を見いだせず、また、乳酸ナトリウムの吸水、保水及び吸湿性という性質から、本件発明1の上記効果が経験的又は理論的に導き出せるといえる根拠を甲4や審判時の関係書証から見いだすこともできず、これが周知であるともいい難く、原告の上記主張も採用することができない。
オ さらに、原告は、本件発明1の効果は大したものではなく、特許を認められるべきものではない、と主張する。
しかしながら、本件発明1の効果は、本件特許明細書の実施例において裏付けられており、一方、甲4には、このような効果を予測させる記載はないのであるから、甲4から本件発明の進歩性が否定されるものではない。
(3) したがって、甲4発明に対して本件発明1は進歩性がないと認めることができず、取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本件発明1の甲14に対する進歩性の不存在)について
(1)
甲14(橋雅弘監修「冷凍食品の知識」〔株式会社幸書房〕昭和57年4月10日発行の207頁「表9.16『調理冷凍食品特定9品目における食品添加物の品目別リスト』」)には、えびフライ、コロッケ、しゅうまい、ぎょうざ、春巻、ハンバーグステーキ・ミートボール及びフイシュハンバーグ・フィッシュボールの9品目のリストが記載され、えびフライとコロッケにのみ、品質改良剤として乳酸ナトリウムを添加することが記載されている。
しかしながら、乳酸ナトリウムをえびフライやコロッケのどの部分に添加するのか、また、乳酸ナトリウムを添加することにより、えびフライとコロッケのいかなる品質をどのように改良するのか、については記載されていない。
以上によれば、このような甲14の記載から、甲14が乳酸ナトリウムをえびフライやコロッケの具材部分に添加するための動機付けを当業者に与えるものとはいえない。
そして、前記2(1)のとおり、本件発明1は、具材部分と表皮部分とを有する冷凍フライ食品の具材に架橋澱粉又は乳酸ナトリウムを添加することにより、プレフライして冷凍保存した後に電子レンジで再加熱した場合、又は冷凍保存した後にフライした場合、クリスピーな食感のフライ食品が得られるという効果を奏し得るものであり、このような効果は、えびフライとコロッケのいかなる品質をどのように改良するのか明らかでない甲14に記載された内容からは予測できない格別なものであると認められる。
(2) 原告は、「乳酸ナトリウムの古くからの用途としては、ケーキなどに混ぜて保湿性により口当たりを滑らかにする、というものがある」とし、甲83を引用して「肉に添加して水分活性制御によって保存性を良くすること」、甲9を引用して「乳酸ナトリウムは、『冷凍障害防止、離水防止』を目的として『冷凍食品』に一般的に使われてきたものであること」、甲85及び86を引用して「乳酸ナトリウムは、保湿性を主な効果としており、同時に離水防止などが説明されていること」などを指摘し、これらを前提とすると、甲14の「品質改良剤」としての乳酸ナトリウムのえびフライやコロッケへの使用をみると、「品質改良」の対象としてまず考えられるのは保湿性による滑らかさであり、乳酸ナトリウムは、フライの場合なら具材にこそ適用されるべきものであることが理解できる、と主張する(なお、甲83、85及び86は、いずれも審判で提出されていない書証である。)。
しかしながら、上記各号証のうち、甲83、85及び86においては、乳酸ナトリウムを添加する対象の食品としてケーキなどの菓子類が挙げられているものの、冷凍フライ食品に該当するものは記載されておらず、ケーキなどの食品における保湿性の効果等の知見に基づいて、甲14記載の乳酸ナトリウムをえびフライやコロッケの具材部分に添加するべきことを当業者が理解できるものとはいえない。また、甲9においては、乳酸ナトリウムを冷凍食品に添加することが記載されているが、その「添加量%」につき「小麦粉の0.3〜2.0」と記載されていることからみて、その添加部位は、小麦粉を主成分とする部位であると認められる。そうすると、甲9に接した当業者は、フライの冷凍食品ならば、小麦粉を主成分とする部位である衣の部分が乳酸ナトリウムの添加部位であると理解するものと認められる。
さらに、上記各号証に記載された、保湿性によって口当たりを滑らかにするというケーキ等における効果や上記冷凍食品における「冷凍障害防止、離水防止」という効果から、本件発明1のサクサク感を向上させるという効果が当業者に容易に予測し得たものとは認められない。
(3) したがって、甲14に対して本件発明1は進歩性がないと認めることができず、取消事由3は理由がない。
4 「本件請求項2〜5の無効」との主張について
本件発明2〜4は、本件発明1を技術的に具体化又は限定したものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲4に記載されたものとはいえず、また、甲4又は甲14に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
本件発明5及び6は、本件発明1〜4の冷凍フライ食品用の具材を用いた冷凍フライ食品に係るものであり、本件発明1と同様の理由で、甲4に記載されたものとはいえず、また、甲4又は甲14に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
5 結論
以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって、原告の請求は理由がないから、棄却されるべきである。
「ウエーハ用検査装置」事件
<発明者、共同発明者となるための要件について>
事件番号 |
平成19年(行ケ)第10278号 |
事件名 |
審決取消請求事件 |
裁判年月日 |
平成20年09月30日 |
裁判所名 |
知的財産高等裁判所 |
判決データ:
PAT-H19-Gke-10278.pdf
当裁判所は、本件各発明については、本多エレクトロン及び東芝セラミックスの従業者であるA、B、C、D、E、Fのみが発明者ではなく、被告の従業者であるMも発明者であり、Mは、本件各発明について特許を受ける権利の持分を、本多エレクトロン又は東芝セラミックスのいずれにも譲渡したことはなく、したがって、本件特許について特許を受ける権利は、本多エレクトロン、東芝セラミックス及びMの共有であるにもかかわらず、共有者が共同で特許出願をしたものではなく、本件特許は、特許法38条の規定に違反したものであるから、審決に誤りがあるとの原告の主張は理由がないと判断する。
その理由の詳細は、以下のとおりである。
発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいい(特許法2条1項)、「産業上利用することができる発明をした者は、・・・その発明について特許を受けることができる」と規定されている(同法29条1項柱書き)。そして、発明は、その技術内容が、当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに、完成したと解すべきである(
最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。したがって、
発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者、すなわち、当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すというべきである。もとより、発明者となるためには、一人の者がすべての過程に関与することが必要なわけではなく、共同で関与することでも足りるというべきであるが、複数の者が共同発明者となるためには、課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことを要する。そして、発明の特徴的部分とは、特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち、従来技術には見られない部分、すなわち、当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解すべきである。
(中略)
3 判断
(1) 以上認定した事実によれば、本多エレクトロンは本件ウエーハエッジ検査装置の開発を行なったが、その過程で、被告に対して、平成12年9月末ころに上記装置の共同開発を、同年10月20日にはノッチ部の検査手法の検討を、それぞれ依頼したこと、これに対して、被告の担当者であるMは、本多エレクトロンに検討結果を報告し、同年12月11日に本件発明1が含まれる仕様書(甲11)をいったん作成、提供したが、その後も仕様変更を行なう等して実験を継続し、その結果仕様変更前の構成が相当であるとの認識を持ち、平成13年3月26日に本件各発明が記載された仕様書(甲26)を作成して、これを本多エレクトロンに宛てて提示したものであり、本件発明1は、この時点又はそれ以降に完成したというべきである。
以上の経緯及び後記(2)における認定判断に照らすならば、本件発明1の発明者にMが含まれることは明らかである。そして、本件発明2ないし35は、いずれも本件発明1を含むものであるから、結局、本件各発明の発明者にMが含まれることも明らかである。
「液晶テレビ用の表示装置」事件
事件番号 |
平成18年(ワ)第12773号 |
事件名 |
損害賠償請求事件 |
裁判年月日 |
平成20年05月08日 |
裁判所名 |
大阪地方裁判所 |
判決データ:
PAT-H18-wa-12773.pdf
第2 事案の概要
本件は、被告が製造販売する液晶テレビに使用されている表示装置が、原告が特許権者である特許権の技術的範囲に属し、被告の同テレビの製造販売行為が原告の特許権を侵害するとして、原告が、被告に対し、特許権に基づき、特許権侵害による実施料相当額の損害賠償金の支払を求めた事案である。
第3 前提となる事実(次の事実は、当事者間に争いがないか、末尾記載の証拠等により認められる。)
1 特許権
原告は、次の特許の特許権者である(以下、この特許を「本件特許」、その特許権を「本件特許権」といい、その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)。
発明の名称 表示装置
出願日 平成15年10月2日(特願2003−344634)
原出願日 平成7年6月14日(特願平7−147445の分割)
登録日 平成16年6月25日
特許番号
特許第3569522号
特許請求の範囲 別紙特許公報(甲2)のとおり
2 構成要件の分説
(1) 請求項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、次のとおり分説することができる。(以下、その記号に従って「構成要件A」などという。後記請求項2についても同じ。)
A LCDを備え、
B 前記LCDに異なる画像を順次表示する場合において、
C 前記LCDに1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号を入力する毎に、前記LCDに全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力することを特徴とする
D 表示装置。
(判旨)
前記に認定した本件明細書の記載からすれば、本件発明は、従来の技術によれば、透過型映像表示板に左眼用と右眼用の各映像を表示し、左眼用と右眼用の各光源を時分割的に切り換えることにより、左右両眼にそれぞれ方向像が分離投影され、立体映像として観察されるところ、前記の透過型映像表示板にLCDを使用した場合、CRTの場合とは異なり、表示面上の画素は、次に同一画素に表示信号が来るまで前の表示を続けるので、時分割で切り換えて投影するはずの左右両眼用の方向像の表示が、走査線による書き換えが終了するまでの間、書き換えを始めた片方の眼用の新しい方向像と書き換えにより消される前の他方の眼用の古い方向像とが同時に表示されてしまい、完全に時間的に分離することができないという問題点があったので、片方の眼用の方向像が書き込まれた後、次の画像の書き換えが始まる前に、いったん全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力することにより、最初に書き込まれた片方の眼用の方向像とその次に書き込まれる他方の眼用の方向像を時間的に完全に分離することを実現した発明であると認められる。
以上のとおり、
本件明細書においては、技術分野、発明の課題、実施例のすべてにおいて、立体映像表示装置についての記載しかなく、立体映像の表示機能を備えない装置の記載はないこと、また、本件発明は、左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する表示装置において、表示板にLCDを使用した場合の問題点を解決しようとする発明であることからすれば、本件発明は、左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する立体映像表示装置の発明であって、立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)を含まない発明である。したがって、本件発明の技術的範囲は立体映像表示装置に限定されるから、構成要件Dは、「立体映像表示装置」と解すべきである。
(中略)
エ 本件において、本件出願が分割出願の適法要件を満たすものであるかどうかについて検討する。
前記認定のとおり、本件原出願明細書には、従来の技術には立体映像表示装置の記載しかなく、発明の名称、特許請求の範囲、産業上の利用分野、課題を解決するための手段、実施例、発明の効果のいずれにおいても、左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみが記載されており、立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)に関する記載は一切なく、明細書又は図面に記載された事項の範囲内とすることもできない。
したがって、
仮に、本件発明が左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置についての発明ではなく、二次元の映像のみを表示する装置をも含む表示装置についての発明であると解釈すると、本件明細書には、本件原出願明細書又は図面に記載した事項の範囲内ではないものが含まれることになり、本件出願は分割出願の適法要件を満たさないことになってしまう。
オ そして、本件出願が分割出願の適法要件を欠くとすれば、出願日の遡及は認められず、現実の出願日である平成15年10月2日が本件発明の出願日となる。
証拠(甲3)によれば、同出願日の前である平成8年12月24日には既に本件原出願の発明が公開されていることが認められる。また、前記認定事実によれば、本件発明は、その公開特許公報において、請求項22ないし26及びこれに関する【発明が解決しようとする課題】の【0015】【0032】、【課題を解決するための手段】の【0054】ないし【0058】、【作用】の【0081】ないし【0086】、【実施例】の【0119】ないし【0125】の記載のとおり、既に開示されていることが認められる。
とすれば、本件発明は新規性を欠くものであり、特許法29条1項3号の規定する発明に該当し、同法123条1項2号に基づき、特許無効審判により無効にされるべきものとなってしまう。
他方で、本件発明は、二次元映像のみを表示する装置を含まず、左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみに限定された表示装置の発明であると解すれば、同発明は、本件原出願明細書に記載されたものであるから、本件出願が分割出願の適法要件を欠くことにはならず、上記無効理由があるとはいえない。
この点からみても、本件発明は、その技術的範囲の解釈に当たっては(発明の要旨の認定は別論である。)、左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみに限定された表示装置の発明であるとすべきである。したがって、構成要件Dは、本件発明の技術的範囲の解釈としては「立体映像表示装置」と解釈するのが相当である。
(中略)
(2) 被告製品の構成のうち構成要件Bに対応する点について
ア 被告製品の構成
被告製品は、地上アナログ、地上デジタル、衛星放送等のメディアを通じて、二次元の動画像に関する信号、すなわち経時に変化する一連の一方向の画像に関する信号を受信し、経時に変化する一連の一方向の画像を表示する表示装置であることが認められる。したがって、被告製品の構成のうち構成要件Bに対応する点は、被告の主張するとおり「前記LCDに動画像を表示する場合において、」との構成を備えているものと認められる。
イ 構成要件Bの充足性
構成要件Bが、「左右各眼用の各画像を時分割的に切り換えて順次表示する」という意味であることは前示のとおりである。他方、被告製品の上記「動画像」とは、「経時に変化する一連の一方向の画像」であって「左右各眼用の各画像を時分割的に切り換えたもの」ではないことは前記アのとおりである。したがって、被告製品は、「左右各眼用の各画像を時分割的に切り換えて順次表示する」ために必要な表示装置の構成を備えるものとは認められない。
よって、被告製品は構成要件Bを充足しない。
(3) まとめ
以上のとおり、被告製品は、少なくとも本件発明の構成要件B、Dを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。
「再帰反射製品,その製造方法,及びそれを含む衣服製品」事件
事件番号 |
平成19年(行ケ)第10095号 |
事件名 |
審決取消請求事件 |
裁判年月日 |
平成20年03月12日 |
裁判所名 |
知的財産高等裁判所 |
判決データ:
PAT-H19-Gke-10095.pdf
第2 事案の概要
本件は、原告(旧商号ミネソタマイニングアンドマニュファクチャリングカンパニー)が名称を「再帰反射製品、その製造方法、及びそれを含む衣服製品」(平成17年3月9日付け補正後)とする後記発明につき国際出願をしたところ、日本国特許庁から拒絶査定を受けたので、これを不服として審判請求をしたが、同庁から請求不成立の審決を受けたことから、その取消しを求めた事案である。
争点は、実開昭50−154747号(考案の名称「再帰反射シート」、出願人ソニー株式会社、公開日昭和50年12月22日。以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用発明」という。)との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するか、である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は、優先権主張を1994年(平成6年)5月12日(米国)として、1995年(平成7年)3月28日、名称を「再帰反射製品及びその製造方法」とする発明につき国際出願(PCT/US95/03746、特願平7−529630号。以下「本願」という)をし、その後平成8年11月12日に日本国特許庁に翻訳文(甲4。公表特許公報は特表平10−500230号〔甲6〕)を提出し、平成16年2月5日付けで特許請求の範囲等の変更を内容とする補正(請求項の数13、以下「本件補正」という。甲7)をしたが、平成16年11月1日付けで拒絶査定を受けたので、これを不服として審判請求をした。
特許庁は同請求を不服2005−2087号事件として審理することとし、その中で原告は平成17年3月9日付けで発明の名称を「再帰反射製品、その製造方法、及びそれを含む衣服製品」と変更した(甲8)が、特許庁は、平成18年10月30日、「本件審判の請求は、成り立たない」との審決をし(出訴期間として90日附加)、その謄本は平成18年11月14日原告に送達された。
(2) 発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は、前記のとおり請求項1〜13から成るが、そのうち請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「1.a)第1及び第2主要表面を有する着色バインダー層;及び
b)前記着色バインダー層の第1主要表面に部分的に埋め込まれた部分を有し、且つ、そこから部分的に突き出た部分を有するガラス又はセラミック微小球の層;を含む微小球が露出している再帰反射製品であって、前記バインダー層及び前記微小球の層が、昼間の照明条件下で見た場合に実質的に異なる再帰反射度を示し、且つ、顕著に異なる色を呈する第1及び第2セグメントに分けられており、前記第1セグメントが微小球の層の埋め込まれた部分に配置された反射性金属層を有し、そして前記第2セグメントが微小球の層の埋め込まれた部分の後方に機能的に配置された反射性金属層を有しないことを特徴とする、微小球が露出している再帰反射製品。」
(3) 審決の内容
ア 審決の詳細は、別添審決写しのとおりである。
その要点は、本願発明は、前記引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受けることができない、というものである。
イ なお、審決が認定した引用発明の内容、本願発明と引用発明とを対比した場合の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<引用発明の内容>
「上表面、下表面を有する接着剤層(5);及び前記接着剤層(5)の上表面に部分的に埋入された部分を有し、且つ、そこから部分的に突き出た部分を有するガラスビーズ(6)の単一層;を含むガラスビーズ(6)が露出している再帰反射シート(1)であって、前記接着剤層(5)及び前記ガラスビーズ(6)の層が、ガラスビーズ(6)の下にA1層からなる光反射層(3)が存在する部分と、光反射層(3)の存在しない光透過部分(4)に分けられている、ガラスビーズ(6)が露出している再帰反射シート(1)」
<一致点>
a)第1及び第2主要表面を有するバインダー層;及び
b)前記バインダー層の第1主要表面に部分的に埋め込まれた部分を有し、且つ、そこから部分的に突き出た部分を有するガラスまたはセラミック微小球の層;を含む微小球が露出している再帰反射製品であって、前記バインダー層及び前記微小球の層が、第1及び第2セグメントに分けられており、前記第1セグメントが微小球の層の埋め込まれた部分に配置された反射性金属層を有し、そして前記第2セグメントが微小球の層の埋め込まれた部分の後方に反射性金属層を有しないことを特徴とする、微小球が露出している再帰反射製品である点
<相違点1>
本願発明は、バインダー層が着色バインダーであるのに対し、引用発明では、そのような限定がない点。
<相違点2>
本願発明は、バインダー層及び微小球の層が、昼間の照明条件下で見た場合に実質的に異なる再帰反射度を示し、且つ、顕著に異なる色を呈するのに対し、引用発明では、そのような限定がない点。
<相違点3>
本願発明は、「反射性金属層を有しない」構成に、「機能的に配置された」との限定がされているのに対し、引用発明では、そのような限定がない点。
(判旨)
(1) 原告は、引用発明の構成における接着剤層(5)を着色することは容易想到であるとした審決の判断は誤りである旨主張するので、この点について検討する。
前記3(1)ウに述べたとおり、引用発明は再帰反射シート、中でも交通標識や電飾サイン装置等の表示又は装飾装置に用いる再帰反射シートに関するものであるが、引用発明の構成は、従来技術においては光反射層が全面に設けられているため前方側から光を照射したときにのみ効果があり、光反射層の後方側から光を照射した場合には前方からこの光を観察し得ないという課題を踏まえ、これを解決するための技術的特徴を備えるものであって、具体的には、光反射層の前方からの再帰反射光及び後方からの透過光をいずれも観察できるように、光反射層(例えばアルミニウム層)に所定パターン(例えば市松模様)の光透過部分を形成する点に技術的特徴を有するものである。 したがって、このような引用発明の意義ないし技術的特徴に鑑みれば、引用発明における光透過部分は光を透過し得るものであることを必須の構成とするものである。なお、引用発明は、光透過部分の光透過率は光透過部分の幅及び光反射層の幅を適当に選択することでコントロールすることができるものとされ(前記3(1)イ(ウ)d)、また引用発明の再帰反射シートの前後に透明着色フィルムを配列することで(前記3(1)イ(ウ)e)光透過率が低減するような構成を付加する場合が予定されているが、上記のような引用発明の意義に照らせば、上記光透過部分の幅の調整や付加的構成を前提としても光透過部分の光透過率がなくなることは想定されていないというべきである。
これに対し本願発明は、前記2(3)に述べたとおり、典型的には高速道路の建設及び補修作業者並びに消防士により着用される衣服において使用される再帰反射製品であり、従前、蛍光の地色部分と再帰反射機能を有する部分とを個別に作製して縞形態に貼り合わせることによって着用者の存在を目立たせていた従来技術に対し、再帰反射縞(第1セグメント)と着色セグメント(第2セグメント)とを2種の異なるセグメントを含む単一の構築物として形成することによって、第1セグメントの再帰反射領域が離層ないし基材から分離しないとか、より少ない層で済むため衣服の総重量を減らしその柔軟性を高めるとか、第2セグメントは、第1セグメントと同程度に再帰反射性ではないものの、上記従来製品の非再帰反射性の蛍光色部分よりも高い再帰反射性を有するなどといった効用を図ったものである。
このような本願発明の意義ないし技術的特徴に鑑みれば、相違点1に係る本願発明における着色バインダー層の構成は、蛍光色を典型とする目立つ色で着色されることを予定しており、しかも第2セグメント部分において従来技術のものよりも高い再帰反射性を有することが期待されていることからすれば、少なくとも着色バインダー層が透明ないし光透過性のものであることは予定されていないと認められる。
そうすると、引用発明の光透過部分を本願発明の着色バインダー層のように蛍光色を典型とする目立つ色で着色し、光透過性でないものにすることは、引用発明の必須の構成である光透過部分の光透過性を喪失させることにほかならないから、相違点1の構成を引用発明から容易想到ということはできない。
(中略)
引用発明の再帰反射シートは、光反射層(3)においては強い再帰反射を得ることができるのに対し、光透過部分(4)では実質的に再帰反射を観察することができないか、これがあるとしてもごくわずかというものであり、かつ、両者の色は、光反射層(3)は光反射層の色(銀色)ないし光線の色であり、光透過部分は透明というものであるが、これら光反射層ないし光透過部分の形状は極めて微細で、しかも一様な分布を有するものであるから、これを観察する者が通常の照明下において光反射層と光透過部分の再帰反射度ないし色を異なるものとして認識することは不可能といわざるを得ない。
そして、このような引用発明に被告が挙げる引用例2(甲2)、周知例(甲3)を適用することを考慮したとしても、引用例2(甲2)及び周知例(甲3)の記載は、上記6(2)のとおり、引用発明における接着剤層に相当する部分を着色することを内容とするものにすぎず、上記のような光反射層と光透過部分の形状を変更するものではない。また被告は、上記のような区別をするための周知技術の例として特開昭62−2206号公報(乙2)をも挙げるが、同公報の記載は「第1図で例示される光反射器(1)は、支持体(4)に接着剤層(7)を介して保持された固着バインダ樹脂層(5)に、直径500μ以下で、屈折率2.0以上の多数の高屈折率ガラス小球(2)が直径の40〜80%埋没した部分と、透明樹脂層(3)が積層された部分とが、例えば文字図柄等を構成して形成され、かつ前記ガラス小球(2)の後部埋没半球面と透明樹脂層(3)の後背面とに直接反射層(6)が設けられた構造を有している。」(2頁右上欄下7行〜左下欄2行)、「…透明樹脂層が積層された領域は、明るいメタリック調の乱反射が生じ、着色することにより、近距離からの観察で上記ガラス小球露出領域とで、鮮やかなコントラストを示す。」(同右下欄1行〜4行)として、引用発明における接着剤層を着色することを内容とするものであって、これにより引用発明における光反射層と光透過部分の再帰反射度ないし色を区別して認識することを可能とするものでないことは、引用例2や周知例と同様である。
そうすると、これらにより引用発明における光反射層と光透過部分の再帰反射度ないし色を区別して認識することが可能となるものではないから、相違点2の構成が引用発明から容易想到ということはできない。
本件特許第4173534号
第1セグメント32は、埋め込まれた部分に反射性金属層38を有する微小球36を含む。
第2セグメント34及び34’は、そこに配置された反射性金属層を有しない。
「中空ゴルフクラブヘッド」補償金等請求事件
<「均等侵害」否定。>
事件番号 |
平成19年(ワ)第28614号 |
事件名 |
補償金等請求事件 |
裁判年月日 |
平成20年12月09日 |
裁判所名 |
東京地方裁判所 |
判決データ:
PAT-H19-wa-28614.pdf
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、金2億円及びこれに対する平成19年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、被告の製造、販売する7つのモデルのゴルフクラブが原告の有するゴルフクラブヘッドに関する特許権を侵害していると主張して、出願公開後の警告から設定登録までの間の特許法65条1項に基づく補償金とその後の民法709条に基づく損害賠償金との合計額の一部請求として2億円及び訴状送達日の翌日である平成19年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(中略)
(2)原告の特許権
原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許を「本件特許」、その特許発明を「本件発明」、その願書に添付した図面及び明細書を「本件明細書」という。)を有している。(争いのない事実、甲1、2)
特許第3725481号
出願番号 特願2002−4675
出願日 平成14年1月11日
審査請求日 平成15年3月11日
公開番号 特開2003−205055
公開日 平成15年7月22日
登録日 平成17年9月30日
発明の名称 中空ゴルフクラブヘッド
特許請求の範囲
【請求項1】
「金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって、前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。」
(中略)
(ア)原告は、まず、本件発明の接合強化原理について、金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを接着剤により接着することに加え、縫合材の張力をその接着の補強に利用することにあり、この力が繊維強化プラスチック製外殻部材を金属製外殻部材から剥離することを阻止する力として作用し、その結果、異種素材からなる2つの外殻部材の接合強度を高めることになるとし、これは、本件明細書に特に記載はないものの、当業者であれば、本件発明の構成から当然に理解することができること、この縫合材に作用する張力を引き寄せる力(剥離を阻止する力)として、接合の補強に利用することを可能とするための必須の要件は、@縫合材がプラスチック製外殻部材と一体的に接着されると同時に、A縫合材が金属製外殻部材の貫通穴を通って接着面とその反対面側に通されることであって、縫合材が貫通穴を通じて反対面側に通されている限り、その縫合材が接着面の反対側でいかなる方法で係止されているかその係止方法は一切問わないことなどを主張する。
しかしながら、上記の原告の主張は、本件明細書の記載によって裏付けられているとは言い難いものである。
すなわち、本件発明の課題は、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成するに際し、単に重ね合わせて接着しただけでは接合強度が不十分であることを前提として、これらの異種素材間の接合強度を高めることにある。そして、そのために、請求項1に記載の構成を採用し、接着に加え、縫合材を用いることにより、両者の外殻部材を結合して接合強度を高めたものである。すると、このような結合方法の原理が機能するために、本件発明として、原告の指摘する「張力」自体ないし「張力を引き寄せる力(剥離を阻止する力)」を生ずる構成が不可欠の存在であるはずである。つまり、原告は、このような力の利用のための必須の要件のうち、2番目について、縫合材が貫通穴を通じて反対面側に通されている限り、その縫合材が接着面の反対側でいかなる方法で係止されているかその係止方法は一切問わないとするものの、この係止方法が本件発明で最も重要な構成要素というべきである。そして、本件明細書の記載によれば、前記アないしウのとおり、縫合材が貫通穴を通じて接着面の反対側に通されて、その面のみで係止されることなく、さらに別の貫通穴を通じて接着面側に戻り、そうして同種素材の接着効果により、より強く接合され、さらに、これを繰り返して結合する構成(「縫合材」について、金属製の外殻部材に設けた複数の貫通穴に、金属製の外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)との間を曲折しながら連続して通した部材との理解)が示されているものと解することができる。
このように、本件明細書には、本件発明として異種素材間の接合強度を高めるための解決手段が記載されているのであって、原告の主張のように、張力さえ機能すれば、係止方法を問わないなどということが本件明細書の記載によって裏付けられることはない。
(イ)原告は、また、「縫合」の意味も、文字通りに縫い合わせるの意味ではなく、部材同士を「接合する(つなげる)」程度の意味に理解することが合理的であり、そもそも、本件発明と被告製品のいずれも、金属製外殻部材のみに貫通穴を穿つものであり、繊維強化プラスチック製外殻部材(FRP製外殻部材)について、一切貫通穴が作られていないから、「縫われていない」などと主張する。
しかしながら、このような意味に「縫合材」を理解するのであれば、本件発明の特許請求の範囲の記載においては、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材の異種素材間の接合強度を高めるという課題を解決するための手段が何ら実質的に特定されていないというほかないから、本件発明のとらえ方として相当でないことが明らかである。本件発明の構成要素である「縫合材」を辞書的な意味において「物と物との間を左右に曲折しながら通る」と理解してこそ、整合的に本件発明の本質を理解することができることは、前記ウのとおりである。
(3)まとめ
以上のとおりであって、被告製品は、本件発明の構成要件(d) を充足せず、文言侵害は成立しない。
2 争点(2)〔均等侵害の成否〕について
(1)被告製品の構成は、前記1(2)ウのとおり、本件発明の「縫合材」を備えていない点において、本件発明と異なることになる。
本件発明は、前記1(2)のとおり、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めるという課題を解決するための手段として、請求項1に記載の構成を採用し、「金属製の外殻部材の接合部に繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通し、該縫合材により繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材とを結合したことにより、これら異種素材からなる外殻部材の接合強度を高めること」(本件明細書【0006】)を可能にしたものである。すなわち、金属製の外殻部材の接合部と繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部とを接着するだけでは十分な接合強度が得られないため、接着に加え、前記1(2)のとおりの構成態様における縫合材を用いることにより、両者の外殻部材を結合して接合強度を高めたものである。
そうすると、本件発明においては、縫合材により、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを結合したことが課題を解決するための特徴的な構成であって、このような縫合材は、本件発明の本質的部分というべきである。
したがって、本件発明の構成中の被告製品と異なる部分である「縫合材」は、本件発明の本質的部分であるから、本件発明の「縫合材」を備えていない被告製品を本件発明と均等なものと解することはできない。
(2)以上のとおりであるから、原告の主張する均等侵害については、その余につき検討するまでもなく、失当である。
3 結論
したがって、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。
上記事件の控訴審中間判決
<均等侵害認定>
事件番号 |
平成21年(ネ)第10006号 |
事件名 |
補償金等請求控訴事件 |
裁判年月日 |
平成21年06月29日 |
裁判所名 |
知的財産高等裁判所 |
判決データ:
PAT-H21-ne-10006.pdf
4 結論
以上によれば、被告製品は本件発明の構成要件(d)を文言上充足しないが、本件発明の構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するものであり、本件発明は進歩性を欠くものとはいえず、本件特許は無効とは認められない。
そして、本件において、原告の補償金請求及び損害賠償請求について、これらの請求の可否及び内容等を最終的に確定するためには、争点(4)(補償金請求の可否、補償金及び損害賠償等の金額)について更に審理をする必要がある。
よって、主文のとおり中間判決する。
「攪拌ディスク及びメディア攪拌型ミル」事件
<「均等侵害」否定>
事件番号 |
平成19年(ワ)第12940号 |
事件名 |
特許権侵害差止等請求事件 |
裁判年月日 |
平成20年11月27日 |
裁判所名 |
大阪地方裁判所 |
判決データ:
PAT-H19-wa-12940.pdf
1 事案の概要
本件は、発明の名称を「攪拌ディスク及びメディア攪拌型ミル」とする発明の特許権者である原告が、被告の製造販売するメディア攪拌用ミルは上記特許発明の技術的範囲に属し、同製品を製造する被告の行為は原告の有する上記特許権を侵害するとして、特許法100条1項に基づく製造・販売の差止め並びに民法709条の不法行為に基づく損害賠償として1億0200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年10月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(中略)
3 争点1−4(均等侵害の成否)について
前記2(2)のとおり、カム部は「切り欠き溝」に当たらず、構成要件Dを充足しないところ、原告は、仮に上記各カム部が「切り欠き溝」に当たらないとしても、本件特許発明の本質的部分は、ディスクの外径に比して「切り欠き溝」や貫通孔の個数を一定数値にすることにあり、「切り欠き溝」の形状は本質的部分ではないなどとして被告製品(2)及び同(3)の各ディスクは本件特許発明と均等なものであるとして本件特許権を侵害する旨主張する。
確かに「切り欠き溝」の形状、 自体は、本件明細書においても従来例として図9の図(A)ないし図(C)に掲げられている公知技術であるとともに、「切り欠き溝」の個数をディスク外径に応じて規定する公知文献は証拠上見当たらないから、少なくとも「切り欠き溝」の個数をディスク外径に応じて規定した点は本件特許発明の本質的部分であるといえる。
しかし、他方で、本件明細書の段落【0014】には、切り欠き溝の個数を規定した趣旨について、「切り欠き溝Xの数nは、多いほど粉砕能力等が上がると考えられるが、多すぎるとディスク強度が低下し、また、摩耗により寿命が短くなるので、上述のとおり、ディスク外径D1〔o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)程度がよい」と記載されており、前記2(2)イ(ウ)aにおいて判示したとおり、本件特許発明は「切り欠き溝」の個数を多くすることによる弊害を避けつつ攪拌の効果を維持するために「切り欠き溝」の個数を規定したものであり、その弊害はまさに「切り欠き溝」が前記2(2)イ(ウ)において認定した形状、すなわち、切り欠きによって形成された凹部の底から開口部に向かって延びる二つの側面がいずれもディスク回転方向において下流側へ延びているという形状であるが故に生じるものである。したがって、本件特許発明は、「切り欠き溝」の上記形状を前提として、その個数を規定したことに本質的な部分があるというべきであり、「切り欠き溝」の形状をカム部のように変更することは、「切り欠き溝」の個数を本件特許発明のように規定したことの主要な根拠となる部分を変更することとなるから、「切り欠き溝」の形状が本件特許発明の本質的部分に当たらないということはできない。
よって、原告の主張は、本件特許発明の本質的部分の置換を前提とするものであるから、均等侵害のその余の要件について検討するまでもなく失当である。
特許権の通常実施権設定登録等請求事件
<特許権者から許諾による通常実施権の設定を受けても、その設定登録をする旨の約定が存しない限り、実施権者は、特許権者に対し、通常実施権の設定登録手続を請求することはできないものと解される。>
事件番号 |
昭和47年(オ)第395号 |
事件名 |
特許権の通常実施権設定登録等請求 |
裁判年月日 |
昭和48年04月20日 |
法廷名 |
最高裁判所第二小法廷 |
判決データ:
PAT-S47-o-395.pdf
、特許権者から許諾による通常実施権の設定を受けても、その設定登録をする旨の約定が存しない限り、実施権者は、特許権者に対し、右権利の設定登録手続を請求することはできないものと解するのが相当である。その理由は、つぎのとおりである。
すなわち、特許権の許諾による通常実施権は、専用実施権と異なり実施契約の締結のみによって成立するものであり、その成立に当って設定登録を必要とするものではなく、ただ、設定登録を経た通常実施権は、「その特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる」(特許法九九条一項参照)ものとして、一種の排他的性格を有することとなるにすぎない。そして、通常実施権は、実施契約で定められた範囲内で成立するものであって、許諾者は、通常実施権を設定するに当りこれに内容的、場所的、時間的制約を付することができることはもとより、同時に同内容の通常実施権を複数人に与えることもでき、また、実施契約に特段の定めが存しないかぎり、実施権を設定した後も自ら当該特許発明を実施することができるのである。これを実施権者側からみれば、許諾による通常実施権の設定を受けた者は、実施契約によって定められた範囲内で当該特許発明を実施することができるが、その実施権を専有する訳ではなく、単に特許権者に対し右の実施を容認すべきことを請求する権利を有するにすぎないということができる。許諾による通常実施権がこのような権利である以上、当然には前記のような排他的性格を有するということはできず、また右性格を具有しないとその目的を達しえないものではないから、実施契約に際し通常実施権に右性格を与え、所定の登録をするか否かは、関係当事者間において自由に定めうるところと解するのが相当であり、したがって、実施権者は当然には特許権者に対し通常実施権につき設定登録手続をとるべきことを求めることはできないというべく、これを求めることができるのはその旨の特約がある場合に限られるというべきである。
揺動圧入式掘削装置事件
<特許出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された場合には、これに伴って契約によって実施が制限される義務の対象となる装置も減縮されたものになると解される。>
事件番号 |
平成4年(オ)第364号 |
事件名 |
損害賠償請求事件 |
裁判年月日 |
平成5年10月19日 |
裁判所名 |
最高裁判所第三小法廷 |
判決データ:
PAT-H04-o-364.pdf
原審の前記認定によれば、上告人はその製造した本願発明の実施に当たる装置を被上告人以外には納入販売しないとの義務を負っていたが、本願発明は、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された本件発明として設定登録されたというのである。そして、本願発明は掘削装置の構成に関するものであり、右装置が製造されて工事等に使用されたならば、これを現認した者は容易に発明の内容を知ることができるところ、右発明について特許出願をして独占権が与えられない限り、被上告人は他者の右発明の実施を阻止することができないことは明らかである。そうであるならば、特許出願準備中の本願発明を実施した装置を上告人に製造させる旨の本件契約は、本願発明につき特許出願がされて将来特許権として独占権が与えられることを前提として、このような発明としての本願発明の実施に当たる装置を対象として締結されたものと解すべきである。けだし、本件契約が、本願発明につき特許出願がされ将来特許権として独占権が与えられるか否かにかかわりなく締結されたとするならば、本件契約に基づいて北辰式掘削装置が製造販売され、本願発明を他者が知るところとなり、他者がその実施をすることが可能となるに至る技術的事項につき、契約当事者である上告人のみが実施を禁ぜられることになり、不合理であるといわざるを得ないからである。したがって、特段の事情の認められない本件においては、本願発明につき、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された場合には、これに伴って本件契約によって被上告人以外に納入販売しないという義務の対象となる装置もその範囲のものになると解するのが相当である。
これを要するに、本願発明がその出願の過程で変動しても本件契約の対象となる装置が変動することはないとした原審の説示には、契約に関する法令の解釈適用を誤る違法があるといわなくてはならない。
分割出願をすることができる発明の範囲
事件番号 |
昭和53年(行ツ)第101号 |
事件名 |
審決取消請求事件 |
裁判年月日 |
昭和55年12月18日 |
法廷名 |
最高裁判所第一小法廷 |
判決データ:
PAT-S53-Gtsu-101.pdf
特許制度の趣旨が、産業政策上の見地から、自己の工業上の発明を特許出願の方法で公開することにより社会における工業技術の豊富化に寄与した発明者に対し、公開の代償として、第三者との間の利害の適正な調和をはかりつつ発明を一定期間独占的、排他的に実施する権利を付与してこれを保護しようとするにあり、また、前記分割出願の制度を設けた趣旨が、特許法のとる一発明一出願主義のもとにおいて、一出願により二以上の発明につき特許出願をした出願人に対し、右出願を分割するという方法により各発明につきそれぞれその出願の時に遡って出願がされたものと看做して特許を受けさせる途を開いた点にあることにかんがみ、かつ、他に異別の解釈を施すことを余儀なくさせるような特段の規定もみあたらないことを考慮するときは、もとの出願から分割して新たな出願とすることができる発明は、もとの出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載されたものに限られず、その要旨とする技術的事項のすべてがその発明の属する技術分野における通常の技術的知識を有する者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に記載されているならば、右明細書の発明の詳細なる説明ないし右願書に添付した図面に記載されているものであっても差し支えない、と解するのが相当である。
炭車トロ等の脱線防止装置事件
<特許請求の範囲の解釈における公知技術の参酌>
事件番号 |
昭和36年(オ)第464号 |
事件名 |
特許庁審決取消請求 |
裁判年月日 |
昭和37年12月07日 |
法廷名 |
最高裁判所第二小法廷 |
判決データ:
PAT-S36-o-464.pdf
特許無効審判と違って、権利範囲確認審判においては、特許権が有効に成立していることを前提としているのであるから、その審決に関する訴訟においても、特許の内容が公知であるかどうかを論ずることはできない。しかし、
いかなる発明に対して特許権が与えられたかを勘案するに際しては、その当時の技術水準を考えざるを得ないのである。けだし、特許権が新規な工業的発明に対して与えられるものである以上、その当時において公知であった部分は新規な発明とはいえないからである。本件の場合も、原判決の認定するところによれば本件特許の出願当時、炭車等の脱線防止装置として、車軸を車体の遊動孔に差し入れ、車体と車軸を固定せしめず、よって脱線を防止することは公知であったというのである。しからば、本件特許は、原判決のいうように、その特殊な構造に対して与えられたものと解するよりほかはなく、再訂正(イ)号図面が原判示のような点において本件特許と異る以上、原判決が、右再訂正(イ)号図面は本件特許権の範囲に属しないとしたのは相当であって、原判決に所論のような違法はない。
液体燃料燃焼装置事件
事件番号 |
昭和37年(オ)第871号 |
事件名 |
審決取消請求 |
裁判年月日 |
昭和39年08月04日 |
法廷名 |
最高裁判所第三小法廷 |
判決データ:
UM-S37-o-871.pdf
旧実用新案法施行規則二条は、出願者に対し説明書の記載事項の一つとして、「登録請求ノ範囲」を記載せしめることとしているが、これは、出願者自らが当該考案の及ぶ範囲として主張するところを明らかならしめんとする趣旨に出たものである。従って、
実用新案権の効力の及ぶ範囲が問題となった場合、右「登録請求ノ範囲」の記載をもって判断の有力な資料となすべきことはいうまでない。しかし、出願者は、その登録請求範囲の項中往々考案の要旨ではなく、単にこれと関連するに過ぎないような事項を記載することがあり、また逆に考案の要旨と目すべき事項の記載を遺脱することもあるのは経験則の教えるところであるから、実用新案の権利範囲を確定するにあたっては、「登録請求ノ範囲」の記載の文字のみに拘泥することなく、すべからく、考案の性質、目的または説明書および添付図面全般の記載をも勘案して、実質的に考案の要旨を認定すべきである。また、出願当時すでに公知、公用にかかる考案を含む実用新案について、その権利範囲を確定するにあたつては、右公知、公用の部分を除外して新規な考案の趣意を明らかにすべきである(
昭和三七年一二月七日第二小法廷判決、民集一六巻一二号二三二一頁参照)。
いま本件についてこれをみるのに、被上告人の権利に属する登録実用新案(以下本件実用新案という。)たる「液体燃料燃焼装置」の説明書中「登録請求ノ範囲」の項には、廻転しない燃料排出口(6)および廻転しない案内皿(5)の記載がなく、また「実用新案ノ性質、作用及効果ノ要領」の項の説明に徴しても、燃料排出口(6)および案内皿(5)が廻転しないことをもって考案の要旨とする旨の記載が見当らないとしても、右「実用新案ノ性質、作用及効果ノ要領」の項の中に「燃料は排出口(6)から案内皿(5)を伝って受皿(4)上に滴下し」との記載があり、その図面にも廻転しない燃料排出口(6)および廻転しない案内皿(5)が表示されていることは、原判決の認定するところであり、また、本件実用新案は、強制送風により受皿(4)を高速廻転させ、その遠心力と風力とによって液体燃料を霧化させることを目的とするものであるところ、廻転皿および噴油孔を廻転し、廻転皿に小孔を設けて下方から空気を導入する燃焼器の構造は、本件実用新案の出願前すでに特許第一〇六〇五七号により公知となっていたことは、記録に照らして明らかである。従って、本件実用新案において、右燃料排出口(6)と案内皿(5)の存在は、燃料霧化にとって欠くべからざる構造上の要件であって、本件考案の要旨の一部をなすものであり、その新規性は、前記公知の部分を除外して特殊の考案と目すべき廻転しない燃料排出口(6)および廻転しない案内皿(5)にあるものと認めるのが相当である。
されば、叙上と異なる趣旨に出た原審の所論判断は、本件実用新案の要旨を誤認した違法があるものというべく、論旨は理由あるに帰し、原判決は、これを破棄することとする。
損害額の認定事例
事件番号 |
平成20年(ワ)第8049号 |
事件名 |
損害賠償請求事件 |
裁判年月日 |
平成20年11月27日 |
裁判所名 |
東京地方裁判所 |
判決データ:
PAT-H20-wa-8049.pdf
2 検討
原告は、被告が本件EXPジョイント工事で受けた利益は300万円を下らないから、被告の不法行為によって原告の被った損害の額も300万円を下らないものと推定される(特許法102条2項)と主張する。
しかしながら、本件EXPジョイント工事による被告の利益が300万円を下らないことを証する証拠はなく、前記1(2)のとおり、本件金物工事全体の利益額でも7万3377円にとどまるものと認められる。
また、原告は、床、天井、壁等のEXPジョイントの工事が「金物工事」として一括して発注される関係にあり、床に特許製品であるEXPジョイントを使用しなければ目的を達することができず、金物工事を一括して受注することができなかったから、本件特許権の侵害が問題となっている本件EXPジョイント(床EXPジョイント)工事の単価ではなく、本件金物工事全体の価格を基礎に算定すべきであると主張する。
しかしながら、床に特許製品であるEXPジョイントを使用しなければ目的を達することができないというためには、床のEXPジョイント工事を実施するには必ず特許製品を用いなければならず、他に方法がないといえなければならない。本件において、このような事実を認めるに足る主張立証はないから、本件特許権に係る製品を使用しなければ、本件金物工事を一括して受注することができなかったということはできず、本件金物工事全体の価格を算定の基礎とする根拠はないというべきである。
なお、このことは、特許法102条2項の推定としてではなく、相当因果関係の問題としてとらえても、同様であり、損害額の算定の基礎を本件金物工事全体の価格にまで広げるべき相当性はないものというほかない。
そうすると、原告の損害については、被告の主張するとおり、本件EXPジョイント工事部分の代金額を基礎として、特許法102条3項に基づき算定するのが相当である。そして、弁論の全趣旨によれば、本件特許権につき第三者に対して実施許諾がされる場合、その実施料率を3パーセントとみるのが相当であると認められる。
したがって、原告の損害は、本件EXPジョイント工事部分の代金217万8800円に3パーセントを乗じた6万5364円であるものと認めるのが相当である。
「半導体ウェーハの外周面取部の研磨加工方法」事件
事件番号 |
平成19年(ネ)第10085号 |
事件名 |
損害賠償請求控訴事件 |
裁判年月日 |
平成20年09月08日 |
裁判所名 |
知的財産高等裁判所 |
判決データ:
PAT-H19-ne-10085.pdf
第2 事案の概要
【以下、略称は原判決の例による。】
1 本件は、名称を「円盤状半導体ウェーハ面取部のミラー面取加工方法」とする発明(本件発明)について特許権(平成8年7月15日出願、平成15年1月17日登録、
特許第3389014号。以下「本件特許権」という。)を共有する控訴人(一審原告)らが、半導体ウェーハ外周面取部研磨装置を含む装置である(製品名)「FINE SURFACE」・(型式名)「E−200」「E−300」「E−200TYPE−U」「E−300TYPE−U」(被告製品)を製造・販売する被控訴人(一審被告)に対し、上記製品を製造販売する行為は、上記特許権を侵害する等として、平成15年1月17日から平成16年12月31日までの実施料相当額の損害賠償金各2500万円(合計5000万円)と遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 原審における争点は、(1)被告装置の構成及び同装置において使用されている半導体ウェーハの外周面取部の研磨加工方法(被告方法)は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)、(2)被告方法は本件発明と均等か(争点2)等であったが、原審は、平成19年9月28日、上記争点1及び2をいずれも否定して、控訴人らの請求を棄却した。そこで、これに不服の控訴人らが本件控訴を提起した。
(中略)
3 均等侵害の主張について
控訴人らは、本件発明における課題解決の特徴的原理は構成要件Aを除いたBないしDにあり、仮に被告方法が本件発明の構成要件Aを充足しない場合であっても、被告方法は本件発明と均等なものとして本件特許を侵害すると主張し、当審において、甲18(特開平6−120483号公報、発明の名称「半導体装置の製造方法」、出願人日本インター株式会社、公開日平成6年4月28日)、甲19(特開昭57−96766号公報、発明の名称「半導体ウエハエツジ研磨装置」、出願人三菱電機株式会社、公開日昭和57年6月16日)を、凹形上研磨面に円盤状半導体ウェーハの面取部の全周を押し当てた状態で面取加工する技術は周知であったことに関する追加の書証として提出する。
しかし、「研磨面に対し、円盤状半導体ウェーハの外周の面取部をほぼ全周において押し当てた状態」との方法を含む構成要件Aは、本件発明の本質的部分であることは明らかであって、その理由は原判決63頁11行〜66頁17行の記載のとおりであるほか、控訴人らの主張は上記「早期審査に関する事情説明書」(乙21)において、「従来技術の大部分がウェハ外周の一点にのみ加圧をかけ研磨する方法に対し、本発明は外周全体を同時に研磨することに有用性を見出したものである。…本発明はウェハ外周部全体に加圧できるために外周部の欠損を防止することができ、研磨加工時間の短縮が可能となる。…上述の技術は、先行技術文献には見出せないものであるから、進歩性を有する。」等としていたこととも矛盾するものであって、採用することができない。
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