意匠 判決集(17)


「基礎杭」拒絶審決取消請求事件
外国公報に掲載された意匠についての新規性喪失の例外
「カラビナ」意匠権侵害差止等請求控訴事件
「人形」意匠登録無効審決取消事件
「輪ゴム」拒絶審決取消事件
「光学部品シート転写成形ロール」拒絶審決取消事件
「貼り薬」審決取消請求事件




「基礎杭」拒絶審決取消請求事件

事件番号  平成20年(行ケ)第10332号
事件名  審決取消請求
裁判年月日  平成21年01月27日
裁判所名  知的財産高等裁判所
判決データ:  DE-H20-Gke-10332.pdf

第5 当裁判所の判断
1 看者の認定の誤りについて
 原告は、取消事由の主張の前提として、本願意匠及び引用意匠の看者は「建築物を構築する(基礎杭を埋設する)敷地の平面(隣接状況等)及び地盤の性状を把握し、建造物の荷重等の短期荷重、地震力、風力その他の長期荷重を把握し、これらに基づく最適な工法及び1本の構造、1本の杭が負担すべき荷重を把握した上、以上のような認定において、主に機能に基づいて造形された意匠を、形状から機能を想起しつつ、観る者が美感に基づき選定するという判断視点を持った者」であり、看者を「観る者」としか認定していない審決は誤りであると主張する。
 原告の上記主張は、審決の看者についての理解が、審決がした共通点及び差異点の認定・評価に誤った影響を与えている旨を主張するものと理解することができることから、取消事由についての判断に先だって、原告の上記主張について検討しておくこととする。
 意匠法3条1項3号にいう「類似」の判断主体は、意匠に係る物品についての一般の需要者・取引者であると解すべきところ、本願意匠及び引用意匠の意匠に係る物品である「基礎杭」及び「コンクリート杭」の一般の需要者・取引者とは、これらの建築用の杭を購入して使用する建設業者やそのような建設業者との間でこれら物品の売買を仲介する者などであるから、このような需要者・取引者は、建築用の杭の機能やその施工方法及び効果等を理解し、購入しようとする者であるということができる。
 原告が本願意匠と引用意匠の看者として主張するところは、上記の「建築用の杭の機能やその施工方法を理解し、購入しようとする者」と一致するものと理解することができるから、その限度において正当であるということができる。
 他方、審決は、本願意匠と引用意匠の類否についての判断主体を明示的に認定してはいないものの、差異点(1)の検討において、「この種物品分野において、太径部と細径部の長さ方向の比率に差異のあるものが多数見受けられ、施工方法や施工場所により選択的に行われる変更の範囲であって、施工方法やその効果において差異があるとしても、意匠の形態としては観る者の注意を惹くほどの格別のものではなく・・・」と説示していることからすると、類否の判断主体としての「観る者」として、建築用の基礎杭やコンクリート杭の施工方法や施工場所を理解する者であって、基礎杭やコンクリート杭の形態の相違に応じて、施工方法やその効果において差異があることを認識し得る者を想定しているものと認められる。
 そうすると、審決は、実質的に、建築用の基礎杭やコンクリート杭の機能や施工方法及び効果等を理解し、購入しようとする者を本願意匠と引用意匠の類否を判断する主体(看者)としたものということができるから、審決が上記類否の判断主体の認定を誤ったものということはできない。
 したがって、審決が看者を「観る者」としか認定していないとの原告の主張を採用することはできない。

(中略)

(4) 上記(2)、(3)によると、基礎杭やコンクリート杭の需要者・取引者は、段差部の形状に様々なものがあり得ることを知っているだけでなく、それが施工条件等に応じたものとして定まる機能的な側面から決定される事項であることを認識しているというべきであるから、原告主張に係る段差部の形状の差異は、需要者・取引者にとって、基礎杭等が必要な機能を果たすために必要となる形状の差異にほかならないから、このような差異が意匠的な観点から需要者・取引者の注意を惹くものということはできない。
 したがって、これらの点を差異点として認定したとしても、意匠全体の類似性の判断に影響を与えないものというべきであり、審決の結論に影響を及ぼすものではないから、取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(類否についての判断の誤り)について
(1) 差異点(1)についての判断の誤り
 ア 原告は、審決が、差異点(1)(太径部と細径部の長さ方向の比について、本願意匠は、太径部が細径部よりも長く、その比率を約6対1としているのに対し、引用意匠は、太径部が細径部よりも短く、その比率を約1対2としている点)について、その差異が両意匠の類似性についての判断に与える影響は微弱であると判断したことは誤りであると主張する。
 イ しかしながら、本件意匠登録出願時において、「太径部+段差部+細径部」を基本的な構成態様とする基礎杭において、太径部と細径部の長さ方向の比について、太径部を相対的に短く、細径部を相対的に長くしたもの(乙第4〜第6号証)だけでなく、太径部を相対的に長く、細径部を相対的に短くしたもの(乙第7、第8号証)も知られていたことからすると、本願意匠と引用意匠における太径部と細径部の長さ方向の比が異なる点が、本願意匠において新規の形態であるということはできない。
 さらに、上記4(2)に説示したところに照らすと、水平方向の耐力を担う太径部と鉛直方向の支持力を担う細径部の長さをどのように設定するのがよいかは、主として施工場所の地盤の状況に応じて決定されるものであると認められ、杭長全体のどの部分に段差部を設けるかについても、このような技術的な検討に基づいて決定されるべきものであるところ、上記3のとおり、基礎杭の杭長は少なくとも4〜13メートルの範囲ものがあり得るのであるから、需要者・取引者は、個別具体的な施工場所の施工条件に応じた杭長や段差部の設定、又は、一般的な施工条件に適合しやすい杭長や段差部の設定に関心を払うものと認められるが、その主たる関心は意匠のもたらす美感よりも、形態のもたらす機能的側面に向けられたものである。
 以上によると、審決が差異点(1)について両意匠の類似性についての判断に与える影響は微弱であると判断したことが誤りであるということはできない。





外国公報に掲載された意匠についての新規性喪失の例外

事件番号  平成12年(行ケ)第331号
裁判年月日  平成12年11月28日
裁判所名  東京高等裁判所 
判決データ:  DE-H12-Gke-331.pdf

第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
  原告は、意匠に係る物品を「おろし器」とし、その形態を別紙審決書の理由の写しの別紙第一表示のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)について、平成5年11月5日に意匠登録出願(平成5年意匠登録願第33726号)をしたが、平成8年1月31日に拒絶査定を受けたので、同年5月24日、これに対する不服審判を請求した。
  特許庁は、これを平成8年審判第8252号事件として審理した結果、平成12年4月20日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年5月15日、原告にその謄本を送達した。なお、出訴期間として90日が付加された。
 2 審決の理由の要点
  審決の理由は、別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに、本願意匠は、その出願前に頒布された外国の意匠公報に記載された意匠(原告創作の意匠である。)と類似するので、意匠法3条1項3号に該当するとし、また、(仮に、本願意匠が同意匠公報に記載された意匠と同一の意匠であるとしても、)意匠登録出願前に内外国の特許公報、実用新案公報、意匠公報(以下「内外国特許公報等」という。)に掲載された意匠については、意匠法4条2項の適用はなく、新規性喪失事由の例外事由にはならないので、結局、本願意匠は意匠登録を受けることができない、というものである。

(中略)

第5 当裁判所の判断
 1 当事者間に争いのない事実及び証拠(甲第3、第4号証)によれば、原告は、工業的意匠の国際寄託に関するヘーグ協定に基づき、引用意匠を、1993年4月7日に、寄託番号DM/025792号として国際事務局に寄託したこと、同事務局は、寄託にかかる引用意匠を、同年6月30日に発行した本件外国公報に掲載したこと、原告は、同年11月5日に国内で本願意匠の意匠登録出願をしたこと、本願意匠は、引用意匠と同一の意匠であることが認められる。
   被告は、本願意匠と引用意匠が同一ではなく、類似するにとどまる旨主張する。しかしながら、本願意匠の意匠登録願(甲第3号証)に添付された本願意匠の図面と、本件外国公報(甲第4号証)に掲載された引用意匠の写真版1.1ないし1.4及び製図法によって作成された図1.5ないし1.7とを対比するならば、本願意匠と引用意匠とが同一の意匠であることは明らかであり、被告の主張は失当である。したがって、審決が本願意匠が引用意匠に類似するとして意匠法3条1項3号に該当するとした判断は誤りである。しかし、審決は、予備的に、両意匠が同一であると仮定したうえで、意匠法4条2項の適用の有無を検討しているものと認められ、同条項の適用がなければ、結局、本願意匠は、意匠登録を受けられないことになるから、上記判断の誤りは、直ちに審決の結論に影響を及ぼすものではない。
 2 そこで、本願意匠が、引用意匠の本件外国公報への掲載により、意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項・・・二号に該当するに至った意匠」に当たるとして、新規性を喪失しないと認められるか否かについて検討する。
   確かに、内外国特許公報等への掲載は発明者等の出願行為等に基づくものであるから、このような場合も意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合に当たるとの解釈も、文言上は考え得るところである。
   しかしながら、意匠法4条2項は、新規性の判断を、出願時を基準に、厳格に運用すると、出願人に酷な場合が生じる場合があるため、これを救済するために設けられた例外規定であるから、その適用範囲は立法趣旨に従って限定的に解釈されるべきである。証拠(乙第1号証)及び弁論の全趣旨によれば、同条項が「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合を新規性喪失の例外事由としたのは、意匠を考案した者は、常に意匠登録の出願をするわけではなく、実際には、ひとまず、販売、展示、見本の頒布等により売行きを打診してみて、一般の需要の有無を確かめた後に、需要があるものについて意匠登録を出願するのが通常であるのに、このような販売、展示、見本の頒布等の行為によって新規性を喪失すると取り扱うことは、意匠の実情に合わず、意匠の考案者に酷であるので、このような場合に、新規性を失わないものとするためであると認められる。
   これに対し、内外国において意匠の登録出願をした結果、意匠公報等に掲載されたということは、その出願の時点で既に出願の準備が完了していたということであるから、このような場合に新規性を失うものと取り扱っても、意匠の考案者に酷とはいえず、意匠法4条2項により、これを救済する実質的な必要性は認められない。さらに、外国における出願の場合には、パリ条約4条A(1)、B、C(1)、(2)が適用され、出願の日から6か月間は、当該意匠の公表に基づく不利益扱いが禁止されているのであるから、この期間を徒過した者に、さらに意匠法4条2項を適用して、その後も一定期間、新規性を喪失しないとして、同様の保護を与えることは、パリ条約の趣旨に反し、権利者に過分の利益を与えることになり、ひいては、上記期間が徒過したと信じて行動した第三者に不測の損害をもたらすことがありうるので、許されないというべきである。原告は、意匠法4条2項の適用を受けた意匠登録出願にはパリ条約4条Bに規定する効果がないので、過重な保護を与えることにはならない旨主張する。しかし、原告の解釈は、上記のとおり、当該意匠の公表に基づく不利益扱いの禁止に関する限り、実質的にパリ条約4条Bの定める期間を延長するのと同様の効果を生じさせるものであるから、その限度で保護が過重になることは、明らかである。
   このようにみてくると、内外国特許公報等への掲載は、意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合には当たらないと解するのが相当であり、原告の主張は失当である。

   なお、新規性喪失事由の例外を定めた特許法30条についても、同様の理由から、国内外の特許公報への掲載は、同条の「刊行物に発表」することに含まれないと解釈されている(最高裁第二小法廷平成元年11月10日判決・民集43巻10号1116頁参照)。意匠法の解釈についても、特許法と同様に解釈すべきことは前記説示したところから明らかであり、規定の文言の違いをとらえて、意匠法においては異なった解釈をするべきであるとの原告の主張は採用することができない。
 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき理由は見当たらない。
 よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担、上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。





「カラビナ」意匠権侵害差止等請求控訴事件

事件番号  平成17年(ネ)第10079号
事件名  意匠権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日  平成17年10月31日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  DE-H17-ne-10079.pdf   DE-H17-ne-10079-1.pdf

・・・登録意匠における物品の範囲は、「意匠に係る物品」の欄に記載された物品の区分によって確定されるべきものであり、「意匠に係る物品の説明」の欄の記載は、「意匠に係る物品」の欄に記載された物品の理解を助けるためのものであるから、物品に関する願書の記載は、願書の「意匠に係る物品」に記載された物品の区分によって確定されるのが原則であり、「意匠に係る物品の説明」の記載によって物品の区分が左右されるものではない。
 本件についてみると、本件登録意匠の願書の「意匠に係る物品」欄には「カラビナ」との記載があり、「意匠に係る物品の説明」欄には「本願意匠に係る物品は、登山用具や一般金具として使用される他、キーホルダーやチェーンの部品等の、装飾用としても使用されるものである。」との記載があることは、上記(1)のとおりである。
 「カラビナ」は、別表一の物品の区分の中に含まれていないから、備考2の「この表の下欄に掲げる物品の区分のいずれかにも属さない物品」に該当するところ、上記(1)のとおり、「カラビナ」は、登山用具の一つとして一般名称化しているから、願書の「意匠に係る物品」欄に「カラビナ」と記載している本件出願においては、第26類の「運動競技用品」の「その他の運動競技用品」中の「ピッケル」、「ハーケン」といった物品の区分と同程度の区分による物品の区分として明確に把握することができるというべきである。
 ところで、上記のとおり、「意匠に係る物品の説明」欄には「本願意匠に係る物品は、登山用具や一般金具として使用される他、キーホルダーやチェーンの部品等の、装飾用としても使用されるものである。」との記載があるが、意匠の物品名は、もっぱら「意匠に係る物品」によって定められるのであって、「意匠に係る物品の説明」は、その物品の使用の目的、使用の状態、等物品の理解を助けることができるような説明を記載するものであるから、上記記載は、例えば、登山用具のカラビナがキーホルダーやチェーンの部品等の、装飾用として使用されることがあるとの意味のない説明をしているにすぎないものと理解するほかない。

 (中略)

 意匠法2条は、「この法律で『意匠』とは、物品(物品の部分を含む。第八条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」と規定しており、意匠は「物品」の外観に関するものであるから、物品を離れての意匠はあり得ないところであって、「物品」とその「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」とは不可分一体の関係にあるものと解すべきである。一方、同法23条本文は、「意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。」と規定するところ、「物品」については明示されていないが、「物品」とその「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」とが不可分一体であることは上記のとおりであり、また、同法3条1項3号の意匠についての「類似」の概念は、一般需要者に対して登録意匠と類似の美観を生じさせるものと解され(最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照)、物品についての「類似」も、同法3条1項3号の意匠についての「類似」と同じ概念であるということができる。したがって、同法23条本文は、意匠権の効力が、「登録意匠及びこれに類似する意匠」についてその「登録意匠に係る物品と同一又は類似の物品」に及ぶことを定めたものというべきであり、意匠権の効力が及ぶ「登録意匠に係る物品と類似の物品」とは、登録意匠又はこれに類似する意匠を物品に実施した場合に、当該物品の一般需要者において意匠権者が販売等をする物品と混同するおそれのある物品を指すものと解するのが相当である。
 本件において、本件登録意匠に係る物品は、上記1(1)のとおり、岩登り用具ないし登山用具として使用される「カラビナ」であるのに対して、被控訴人商品は、上記第2の2(4)のとおり、アルミニウム、メタル製のハート型の形状をしたアクセサリーである。
 そうすると、被控訴人商品と本件登録意匠に係る物品とは、物品の使用の目的、使用の状態等が大きく相違していることが明らかであり、たとえ、被控訴人商品の形態と本件登録意匠の構成態様とが似ているとしても、被控訴人商品の一般需要者が具体的な取引の場で被控訴人商品と本件登録意匠に係る「カラビナ」とを混同するおそれがあるとは認め難いから、被控訴人商品は、物品の類否の観点からも、本件登録意匠の権利範囲に属するとはいえず、本件意匠権の効力は及ばないものというべきである。





「人形」意匠登録無効審決取消事件

事件番号  平成20年(行ケ)第10402号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成21年03月25日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  DE-H20-Gke-10402.pdf

    主 文
1 特許庁が無効2007−880017号事件について平成20年10月1日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
  事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、意匠に係る物品の名称を「人形」とする意匠登録第1310310号(平成18年12月24日出願、平成19年8月17日設定登録。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
 被告は、平成19年12月7日、特許庁に対し、本件登録意匠を無効にすることを求めて審判(無効2007−880017号事件。以下「本件審判」という。)を請求した。
 特許庁は、平成20年10月1日、「登録第1310310号の登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本を同年10月14日に原告に送達した。
2 本件審決の理由
 本件審決の理由は、別紙審決書写しのとおりである。要するに、本件登録意匠(別紙1「本件登録意匠」のとおり)は、平成19年11月の原告のホームページ(掲載頁のアドレスは、http://www.suzuki-ningyo.com/。以下「原告ホームページ」という。)に掲載された意匠(以下「引用意匠」という。別紙2「引用意匠画像」のとおり)に類似し、意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当し、同条の規定に違反して登録されたものであるから、その余について判断するまでもなく、意匠法48条1項の規定により、無効にすべきものである、というものである。

(中略)

(2) しかし、本件審決が、引用意匠の基礎的構成態様及び具体的構成態様として挙げた部分(上記下線を引いた部分)に係る認定内容は、いずれも、「引用意匠」(甲12、4頁の画像)により確定することはできない。
 すなわち、引用意匠について、@基本的構成態様において引用意匠が帯状レース地を配していること、Aレース地を、基部側を濃密な密度の編み地とし、先端側に円形模様を1個ずつ、周方向に連続して設けたものとしていること、B円形模様を、円形外輪の中央に、直径を円形外輪の約1/2とした円形部を形成し、円形外輪と中央円形部を多数の放射状細線で繋いだ、車輪様の花図形状としていること、C先端側輪郭を、円形模様の円形外輪が、略半円状に突出して連なった形状としていること、D円形模様の配置を、左右の襟が重なり合う略V字状の尖り部に1個が表れるよう配し、そこから正面視略左右対称に、連続して円形模様が表れるよう配していること、E基部側編み地部であること、F円形模様先端部までの幅(襟からの突出方向の長さ)について、引用意匠は同約1/3とし、同略半円状突出部が人形の顔に当たり、先端部が折れ曲がっていること、以上の各事実は、いずれも、引用意匠の襟元部の画像(甲12、4頁の画像)が不鮮明であるため、その形状、素材又は態様を確定することができない。この点は、同じホームページに掲載された画像又はその写真(甲29、乙3、乙6・別紙「引用意匠画像」)によっても、確定することはできない。
 この点について、被告は、原告ホームページに引用意匠と同じ時期に掲載された雛人形の画像(乙4)を併せて見ることにより、本件意匠が審決の認定したとおりの内容及び態様であることを推認できる旨主張する。しかし、乙4の画像も不鮮明であって、同画像から審決の認定した引用意匠の内容を確定することは到底できない。
 また、被告は、引用意匠を見る需要者は、過去の登録例(乙5)や市販のレース地(甲8レース地(J))によって、不鮮明な意匠の部分を補って判断をするから、本件審決が審決の認定したとおりの内容及び態様を確認できると主張する。しかし、多数存在する既存のレース地から乙5や甲8のレース模様を選択し、その形状を確定することは到底できない。
 被告の上記主張はいずれも失当である。
 以上によれば、本件審決が、引用意匠の基礎的構成態様及び具体的構成態様として挙げた部分(上記下線を引いた部分)の認定内容は、いずれも、「引用意匠」(甲12、4頁の画像)から確定することができず、何らの根拠に基づくことなく認定したものであって、誤りというべきである。
2 結論
 以上によれば、原告主張の取消事由1(引用意匠誤認による共通点及び差異点の認定の誤り)には理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由があるから、本件審決を取り消すこととし、主文のとおり判決する。

別紙1 「本件登録意匠」  (部分拡大図)




(別紙2) 「引用意匠画像」







「輪ゴム」拒絶審決取消事件

事件番号  平成21年(行ケ)第10036号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成21年07月21日
裁判所名  知的財産高等裁判所
判決データ:  DE-H21-Gke-10036.pdf

5 取消事由5(本願意匠は意匠登録を受けることができないとの認定の誤り)について
 前記2のとおり、本願意匠では、開口部が周側面において大きな部分を占めているとの印象を与えるが、引用意匠では、開口部は周側面の一部であるとの印象しか与えないという需要者に注目される大きな違いがある上、前記4のとおり、使用形態においても差異があるから、本願意匠と引用意匠とが意匠法3条1項3号により類似するということはできない。
 なお、前記3のとおり、開口の間隔を差異点としなかった審決の判断に誤りがあるということはできないが、そうであるとしても、上記のとおり、本願意匠と引用意匠は類似するということはできない。
 したがって、取消事由5は理由がある。








「光学部品シート転写成形ロール」拒絶審決取消事件

事件番号  平成21年(行ケ)第10051号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成21年08月31日
裁判所名  知的財産高等裁判所
判決データ:  DE-H21-Gke-10051.pdf

2 本願意匠と引用意匠との類否についての判断
 以上認定した事実を前提として、本願意匠と引用意匠との類否について判断する。
(1) 本願意匠における凹部の配列は、@ロール本体部の軸方向に見ると、凹部が、一定の間隔を置いて、直線状に配列され、Aロール本体部の円周方向に見ると、1条の螺旋が16周回転して、起点から終点に達するように、同一の間隔で配列され、B正面図左右に、螺旋の起点と終点が存在し、C隣接する凹部同士は、互いに接することなく、ロール本体の軸方向及び円周方向で、凹部の直径とほぼ等しい距離で離隔し、Dロール本体部の垂直方向から、やや傾いて配置され、Eロール本体の端部における各「平坦余地部」は、ロール本体の全長のおおむね8分の1であるとの特徴がある。
 本願意匠における凹部の配置上の各特徴、すなわち、凹部が螺旋状に、傾けて配列されていることに照らすならば、本願意匠は、対称でない、均衡を欠く、定型的でない、安定性を欠く、ねじれている等の印象を与え、また、凹部同士が、接触することなく、凹部の直径とほぼ等しい距離を置いて、左右及び上下(軸方向及び円周方向)に離隔していることや平坦余地部が比較的広く確保されていることに照らすならば、本願意匠は、全体として、緩慢で、ゆったりとした印象をも与え、これらの各特徴によって特有の美感を生じさせている。
(2) これに対して、引用意匠における凹部の配列は、@ロール本体部の軸方向に見ると、凹部同士が、軸方向及び軸と垂直方向に隣接する凹部と接触して、直線状に配列され、Aロール本体部の円周方向に見ると、隣接する凹部とは、半径分だけずれて、千鳥状(ジグザグ状)に配置され、B1条の螺旋が回転するような配置はされず、ロール本体の両端に起点、終点のいずれもなく、Cロール本体の端部における各「平坦余地部」は狭く、ロール本体の全長のおおむね30分の1が確保されているのみである。
 引用意匠における凹部の配置上の各特徴、すなわち、凹部が軸方向及び軸垂直方向に隣接するすべての凹部と接触していることや平坦余地部が狭いことに照らすならば、引用意匠は、密集した余裕のない印象を与え、また、ロール本体の軸方向の直線が強調されていることに照らすならば、全体として、機械的であるとの印象を与える。特に、各列の軸方向の最端部が、正確に描かれず、ジグザグ状を示していない部分も存在するので、意匠としてのまとまりを感じさせない。さらに、引用意匠は、全体として、変哲がなく、単調な印象を与え、美感という観点からは、格別の特徴点はない。したがって、引用意匠における類似の範囲は、決して広いものと解することはできず、むしろ、狭いものと解するのが相当である。
(3) 以上のとおり、本願意匠と引用意匠とは、略円柱状のロール本体部からなること、ロール本体部の外周面に、同径の小円形状の凹部を平坦余地部を残して多数形成していること、凹部は、ロール本体部の軸方向に沿って規則的に、全周にわたり配置されていることなどの基本的な構成態様において共通する部分があるものの、凹部の具体的な配列において、上記のような相違があり、その相違により、看る者に対して、美感上の相違を生じさせている。
 したがって、本願意匠は、引用意匠と類似しない。換言すれば、引用意匠の類似の範囲は狭いものであって、本願意匠は、その類似範囲に含まれるものとはいえない。







「貼り薬」審決取消請求事件

事件番号  平成21年(行ケ)第10209号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成22年01月27日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  DE-H21-Gke-10209.pdf

本件登録意匠は、上記のような2色の色分けを採用することにより、上記背割線の形状を際立たせるとともに、機能的にも中央分離帯部と左右の剥離シート部の両部分を明瞭に見分けることを可能とするものであるのに対し、引用意匠の剥離シートは透明であるため、透明シートの切断線の視認性は相対的に低いものとなっているから、本件登録意匠における上記差異点は、全体として背割線を含む形状における共通性を凌駕する影響を美感に与えるものである。
 そうすると、本件登録意匠と引用意匠は、上記共通点を考慮に入れたとしても、全体としては両意匠に係る物品「貼り薬」の需要者である使用者に与える印象が大きく異なるというべきであるから、本件登録意匠と引用意匠が類似するということはできない。

(中略)

左右の剥離シートの中央分離帯部に接する上下全長に帯状部を設けることや、その配色をどのように施すかについては創意工夫を要するものというべきであるから、本件登録意匠は、公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作することができたものとは認められない。






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