「ロイヤルミルクティー」事件
「ネコの恋愛シミュレーションミニゲーム機」事件
「アザレ」事件
「超時空要塞マクロス」不正競争事件
「Make People Happy.」事件
訴訟記録閲覧等制限申立事件
「紅いもタルト」事件
高周波電源装置の製造技術、顧客情報の営業秘密
「Mobiledoor」営業表示事件
「R4 Revolution for DS(マジコン)」事件
「磁気信号記録用金属粉末」事件
「ローズ形のチョコレート菓子」事件
「ルービック・キューブ」事件
「BERETTA」モデルガン事件
「伝票会計用伝票」事件
電路支持材「パイラック」事件
「ステンレス製真空マグボトル」事件
「ミーリングチャック」事件
差止請求権の不存在確認を求める訴えの裁判管轄
「ロイヤルミルクティー」事件
事件番号 |
平成7年(ワ)第3920号 |
事件名 |
損害賠償等請求事件 |
裁判年月日 |
平成9年01月30日 |
裁判所名 |
大阪地方裁判所 |
判決データ:
UF-H07-wa-3920.pdf UF-H07-wa-3920-1.pdf
第二 事案の概要
本件は、コーヒー、紅茶類の商品開発、製造及び販売を業とする株式会社である原告が、原告が平成四年九月二一日から販売している別紙第一目録記載の「ミルク紅茶 MILK TEA 四二〇g缶」(以下「原告商品」という)の商品表示たる缶容器(以下「原告容器」という)は、遅くとも平成五年末には原告の商品表示として一般消費者の間に広く認識されるに至っていたところ、被告が平成六年一一月に販売を開始した別紙第二目録記載の「ROYAL MILK TEA ロイヤルミルクティー四二〇g缶」(以下「被告商品」という)の商品表示たる缶容器(以下「被告容器」という)は原告容器と類似し、原告商品との混同を生じさせているから、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当すると主張して、同法三条一項に基づき被告容器を使用した被告商品の販売の差止めを求め、同法四条、五条に基づき被告が平成六年一一月から平成七年八月三一日までの間に被告商品を販売したことによって原告の被った損害の賠償を求めるとともに、損害賠償請求については、更に、被告容器は、原告容器を模倣したものであり、原告商品の形態を模倣したものとして同法二条一項三号の不正競争行為にも該当すると選択的に主張するものである。
(判旨)
3 原告容器の商品表示としての周知性(一)前記1(二)認定の事実によれば、原告商品は、平成四年九月二一日の販売開始以来、その売上額(小売価格)は、平成四年(九月二一日〜一二月)で二〇一二万一三六〇円、平成五年で一億五一〇五万七二〇〇円、平成六年で二億九一七〇万六八〇〇円、平成七年(一月〜三月)で一億六一五二万三六〇〇円(卸売価格では、それぞれ約一四〇八万円、約一億〇五七四万円、約二億〇四一九万円、約一億一三〇七万円)であるというように順調に売上げを伸ばし、一般消費者向け粉末ミルクティー市場における原告商品の市場占有率は、平成五年で約三九%、平成六年で約五七%であり(原告の推測によるものであるが、これに反する証拠はない)、原告は、粉末ミルクティー市場においていわゆるトップメーカーの地位を確立したばかりでなく、粉末ミルクティー市場全体の拡大にも貢献しているということができるのであって、このことは前記1(三)認定の各業界紙の記事からも窺うことができる。したがって、原告商品は、粉末ミルクティー愛好家等一般消費者に好評をもって受け容れられ、相当程度一般消費者に浸透したということができる。
(中略)
(四)このように、従来の粉末ミルクティーはもちろん、粉末レモンティー等その他の粉末ティーの缶容器にも原告容器の形態上の特徴を総合的に備えたものはなく、したがって、原告容器のように全体として落ち着いた中にも豪華な印象を与えるようなものはなかったというべきであり、その意味で原告容器の形態は斬新であったということができ、前記の原告商品の販売数量、粉末ミルクティー市場における市場占有率等と相まって、原告容器の特徴ある形態は、一般消費者に強く印象付けられ、遅くとも被告商品の販売が開始された平成六年一一月頃までには原告の商品表示として一般消費者の間に広く認識されるに至ったものと認めるのが相当である。
(五)被告は、@容器のサイズについて、被告は従前から他の商品にも食缶規格二号缶を使用してきている、A容器の基本色を濃い茶系統の色としたことについては、粉末ティーの容器には紅茶をイメージする紅系または茶系の色が従来から使用されており、原告だけが紅茶の持つ色及びそれに類似する色を独占的に使用できる根拠はない、Bポリキャップを缶に付する方法は、被告は約二〇年の長きにわたり行っていることである、C缶正面の下部にミルクティーを満たしたティーカップを配置した図柄は、被告も約二〇年の長きにわたり使用してきたものであり、他社の粉末ティーの缶容器にも同様の図柄が描かれており、ティーカップの撮影角度及びカップ下部の切れ具合もほぼ同一である、と主張する。
確かに、@の容器のサイズについては、食缶規格二号缶は従来から存する規格サイズの缶容器であって、前記の和光堂株式会社の「ロイヤルミルクティー」にも採用されているものであり、また、Cの缶正面の下部にミルクティーを満たしたティーカップを配置した図柄は、前記の雪印食品株式会社の「雪印ミルクティー」にも採用されているところであり、その撮影角度も原告容器の図柄とほぼ同じであるし、右図柄は、レモンティー等その他の粉末ティーの缶容器(乙二、四)を初め、各種粉末飲料の箱容器にもしばしば採用されるものであるから、いずれもそれ自体が一般消費者の注意を惹くとは考えられない。
しかし、缶容器の基本色を濃い茶系統の色としたことは、従来、粉末ミルクティーにおいてはもちろん、粉末レモンティーあるいは粉末アップルティーにおいても用いられたことがなく、昭和六〇年前後の一時期、粉末レモンティーの缶容器又は瓶容器に濃い赤系統の色が(共同食品工業 hi―hi instant TEA」、「POKKA Lemon Tea」〔缶入り〕、同〔瓶入り〕)、また、粉末ストレートティーと思われる粉末ティーの瓶容器に黒色が(「サントリー TESS」、「AGF 紅茶物語」〔瓶入り〕)使用されたことがあるだけであったから、この点は、斬新であったというべきであり、缶容器正面の上部にやや横長で下側の長辺が容器正面の真ん中よりやや下方に位置する長方形の幅広金モールによる角形飾り枠を設けたことも、従来の粉末ティーの缶容器にはなかった特徴というべきであり(本件全証拠によるも、金色の帯状の角形枠が用いられていたことは認められるものの、幅広金モールの角形飾り枠が用いられていたことは認められない)、原告容器は、全体として落ち着いた中にも豪華な印象を一般消費者に強く与える特徴的なものとなっているのであるから、原告容器の形態の一部にありふれた部分が含まれているとしても、それがために原告の商品表示として周知性を取得している旨の前記認定を何ら左右するものではない。
(中略)
2 形態の類似性及び混同の有無
(一)右1認定の被告容器の形態を前記一2(一)認定の原告容器の形態と比較すると、被告容器の周面の地色は原告容器の周面の地色よりも赤みがかってはいるものの(被告は「モロッコレッド」と主張する)、全体的には濃い茶系統の色であり、一般消費者に非常に類似しているという印象を与えるということができ、被告容器の正面の上部にやや横長で下側の長辺が容器正面の真ん中よりやや下方に位置する長方形の幅広金モールによる角形飾り枠が設けられている点で原告容器と同じであり、被告容器においてはその四角を九〇度の扇形に内側に窪ませている点で原告容器と異なるものの、幅広金モールによる角形飾り枠が従来の粉末ティーの缶容器にはなかったことに照らせば、右の差異は微細なものであり一般消費者の注意を惹くものとはいえない。また、右角形飾り枠の内側の地色は、原告容器ではミルクティーの色をイメージさせるようなうす茶色であるのに対し、被告容器ではクリーム色であるが、いずれも缶周面の地色との対比ではかなりうすい色である点で共通している上、被告容器のクリーム色もミルクティーに入れるミルクの色を彷彿させるものであるから、右の相違は一般消費者の注意を惹くことはないというべきである。
更に、缶容器正面の下部にミルクティーを満たしたティーカップを配置した図柄自体は前記のとおりありふれたものであるが、これを斜め上方から見る角度や正面下部における左右の位置及び上部の商品名が表示されている枠との位置関係についてはいろいろなデザインを採用することが可能であるにもかかわらず、被告容器に描かれたティーカップは、正面下部の中央に位置し、その上方は角形飾り枠の下側の長辺中央部の上に重なってこれを隠しており、下方はティーカップの底部及び皿が一部切れているという点まで原告容器と一致しており、その外、被告容器が原告容器と同じ食缶二号缶を使用している点、及び缶上端に半透明の白色ポリキャップを嵌着し、ポリキャップ内側にポリキャップの内周とほぼ合致する大きさの丸い紙片が入れられていて金文字で商品名等が表示されている点も原告容器と一致している(これらの点はありふれた形態であるとしても、必然的に採用しなければならないものではない)のであって、以上の事情に照らせば、前記角形飾り枠内に表示された文字が、原告容器では「ミルク紅茶」「Modern Times」「SWEET SCENTED & VERY TASTY」などであるのに対し、被告容器では「meito」「ROYAL」「MILK TEA」「ロイヤルミルクティー」などであることを考慮しても、被告容器は、一般消費者に対し全体として原告容器と酷似した印象を与えるといわなければならない。被告は、右のような表示された文字の相違を理由に、消費者の文盲率が低く商品知識の高い日本の市場においては被告商品と原告商品との混同は生じないと主張するが、採用することができない。現に、
検甲第四号証(広島市内のスーパーマーケットで原告商品と被告商品とが同一の売場に一緒に並べて陳列されているところを撮影した写真)によれば、商品名等をよほど注意深く観察しない限り原告商品と被告商品との区別をつけるのは困難であるといわなければならない。時と所を異にする離隔的観察によればなおさらのことである。
(二)以上のように、
被告容器は原告容器と類似しており、被告容器を使用した被告商品を販売することは、周知性を取得した原告容器を使用した原告商品との混同を生じさせるものとして不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当するというべきである。
そして、原告は右行為により営業上の利益を侵害されていると認められるから、原告は、同法三条一項に基づき被告容器を使用した被告商品の販売の差止めを請求することができるとともに、同法四条に基づき被告商品の販売によって原告の被った損害の賠償を請求することができるということになる(なお、損害賠償請求については、原告は同法二条一項三号の不正競争行為にも該当すると選択的に主張するが、これを理由とする損害賠償請求が認容されるとしても、その認容額が同条同項一号所定の不正競争行為を理由とする損害賠償請求の認容額を超えるものとは認められないから、右主張については判断しない)。
原告商品 被告商品
「ネコの恋愛シミュレーションミニゲーム機」事件
事件番号 |
平成12年(ネ)第4198号 |
事件名 |
損害賠償請求控訴事件 |
裁判年月日 |
平成12年12月05日 |
裁判所名 |
東京高等裁判所 |
判決データ:
UF-H12-ne-4198.pdf
第三 当裁判所の判断
一 不正競争防止法四条に基づく損害賠償請求について
1 当裁判所も、原判決が「第三 当裁判所の判断」として説示するとおり、被控訴人らは、本件第一商品を商品化して市場に置くに際し、費用及び労力を投下してその制作に関与した者であり、被控訴人らにとって本件第一商品は、同法二条一項三号に規定する「他人の商品」に該当せず、控訴人の被控訴人らに対する同法四条に基づく損害賠償請求は理由がないものと判断する。
事件番号 |
平成10年(ワ)第13353号 |
事件名 |
損害賠償請求事件 |
裁判年月日 |
平成12年07月12日 |
裁判所名 |
東京地方裁判所 |
原審判決データ:
UF-H10-wa-13353.pdf UF-H10-wa-13353-1.pdf
第三 当裁判所の判断
一 争点1(他人の商品)について
1 不正競争防止法二条一項三号は、「他人の商品」の形態を模倣した商品を譲渡、貸し渡し、輸入する行為等につき不正競争行為とする旨規定する。右規定が設けられた趣旨は、費用、労力を投下して、商品を開発して市場に置いた者が、費用、労力を回収するに必要な期間の間(最初に販売された日から三年)、投下した費用の回収を容易にし、商品化への誘因を高めるために、費用、労力を投下することなく商品の形態を模倣する行為を規制することとしたものである。したがって、同号の保護を受けるべき者に当たるか否かは、当該商品を商品化して、市場に置くに際し、費用や労力を投下した者といえるか否かを吟味することによって決すべきことになる。仮に、甲、乙それぞれが、当該商品を商品化して市場に置くために、費用や労力を分担した場合には、第三者の模倣行為に対しては、両者とも保護を受けることができる立場にあることはいうまでもない。しかし、甲、乙間においては、当該商品が相互に「他人の商品」に当たらないため、当該商品を販売等する行為を不正競争行為ということはできない。
「アザレ」事件
<対内的・対外的にともにグループの中核的な企業として認識され、それぞれの立場でグループ全体の発展に貢献してきたものは、グループ分裂後にその商品等表示を使用することについて、互いにこれを不正競争行為ということはできないと解すべきである。
→一審被告らの敗訴部分を取り消す。>
事件番号 |
平成16年(ネ)第2000号 |
事件名 |
不正競争行為差止等請求控訴事件 |
裁判年月日 |
平成17年03月16日 |
裁判所名 |
東京高等裁判所 |
判決データ:
UF-H16-ne-2000.pdf
第2 事案の概要
1 本件は、一審原告が、原判決別紙表示目録1ないし3の各表示(以下「本件各表示」という。)は自己の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものであり、一審被告らが本件各表示を付した化粧品、石けん類及び香料類(以下、これらを総称して「アザレ化粧品」という。)を製造、販売等する行為や「アザレ」を含む商号を使用する行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当すると主張して、同法3条及び4条に基づき、一審被告らに対し、アザレ化粧品の製造、販売等の差止め及び製品の廃棄、並びに「アザレ」を含む商号の抹消登記手続を求めるとともに、損害賠償を求めている事案である。
原判決は、本件各表示は一審原告の周知商品等表示であり、一審被告アザレプロダクツ株式会社(以下「一審被告アザレプロダクツ」という。)はOEM契約による製造業者であって、一審被告Y(以下「一審被告Y」という。)を除くその余の一審被告らの行為は不正競争行為に該当するが、一審被告Yによる不正競争行為は認められないなどとして、一審被告Yに対する請求の全部、一審被告アザレプロダクツに対する損害賠償請求の一部、一審被告共和化粧品工業株式会社(以下「一審被告共和化粧品」という。)に対する廃棄請求及び損害賠償請求の一部をそれぞれ棄却し、その余の請求を認容した。
(中略)
(5) 以上のとおり、一審原告と一審被告アザレプロダクツ(その設立前は一審被告共和化粧品)は、いずれもアザレグループにおいて、組織的にはアザレ化粧品の発売部門と製造部門をそれぞれが分担し合う形でその役割を果たし、対内的・対外的にともにグループの中核的な企業として認識され、それぞれの立場でグループ全体の発展に貢献してきたものであって、このような一つのグループ内において、ともに組織的かつ対外的に中核的な地位を占めてきた一審原告と一審被告アザレプロダクツが袂を分かち、傘下の各本舗等を含めてグループ組織が分裂することとなった場合には、そのアザレグループの商品等表示として周知となっていた本件各表示については、それらグループの中核的企業であった一審原告及び一審被告アザレプロダクツのいずれもが、グループ分裂後も、その商品等表示の帰属主体となり得るものと解するのが相当であるから(もっとも、そのような場合の取扱いについて予め企業間に特段の合意が存在する場合は、その合意の内容に従うことは当然であるが、本件においては、そのような特段の合意の存在は認められない。)、一審原告と一審被告アザレプロダクツとの間においては、その商品等表示、すなわち本件各表示は、互いに不正競争防止法2条1項1号所定の「他人の」商品等表示には当たらないというべきであり、グループ分裂後にその商品等表示を使用することについて、互いにこれを不正競争行為ということはできないと解すべきである。
なぜなら、
不正競争防止法2条1項1号の規定は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似する表示を使用して需要者を混同させることにより、当該表示に化体した他人の信用にただのりして顧客を獲得する行為を、不正競争行為として禁止し、もって公正な競業秩序の維持、形成を図ろうとするものであるところ、本件のように、販売部門と製造部門を分担し合い、ともにグループの中核的企業として本件各表示の周知性の獲得に貢献してきた一審原告と一審被告アザレプロダクツは、いずれもが当該表示により形成された信用の主体として認識される者であり、グループの分裂によっても、それぞれに帰属していた本件各表示による信用が失われることになるわけではなく、互いに他人の信用にただのりするものとはいえないからである。
そうすると、一審被告アザレプロダクツが本件各表示の付された被告製品を製造販売する行為は、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するものではなく、また、一審被告アザレプロダクツの傘下に属して、アザレの商号を使用し、同一審被告の製造する本件各表示の付された被告製品を販売する一審被告アザレ東京、同アザレアルファ、同アザレウイング、同アザレ武蔵野の行為も、同号所定の不正競争行為に該当しないというべきである。また、前記認定した事実からすれば、一審被告共和化粧品及び同Yは、いずれも自らの業務として本件各表示の付された被告製品の製造販売を行っているものではないから、同一審被告らについて不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為が成立するとは認められないし、一審被告アザレプロダクツの被告製品の製造販売行為は不正競争行為に該当するものではないから、これが不正競争行為に当たることを前提に、一審被告共和化粧品及び同Yについて共同不法行為の成立をいう一審原告の主張も理由がない。
「超時空要塞マクロス」不正競争事件
事件番号 |
平成17年(ネ)第10013号 |
事件名 |
不当利得返還請求控訴事件 |
裁判年月日 |
平成17年10月27日 |
裁判所名 |
知的財産高等裁判所 |
判決データ:
UF-H17-ne-10013.pdf
第2 事案の概要
本件は、昭和57年10月から昭和58年6月にかけて毎日放送を中心に放映されたテレビ映画「超時空要塞マクロス」(以下「本件テレビアニメ」という。)につき著作権を有し、かつ、昭和59年に全国の劇場で公開された劇場用映画「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」(以下「本件劇場版アニメ」という。)の共同製作者の一人である控訴人が、その後被控訴人株式会社ビックウエスト(以下「被控訴人ビックウエスト」という。)や被控訴人バンダイビジュアル株式会社(以下「被控訴人バンダイビジュアル」という。)を中心にして映画の題名(タイトル)に「マクロス」を含む映画が製作販売されたことから、これらの被控訴人らの行為が不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争行為に該当すると主張し、主位的に民法703条の不当利得返還請求として、予備的に不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求として、連帯して6億8500万円と遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は、マクロスの表示は控訴人の商品等表示に該当せず、また、被控訴人らの行為は商品等表示の使用に該当しないとして、被控訴人らにつき不正競争行為の成立を否定し、控訴人の請求をいずれも棄却したので、控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。ただし、控訴人は、原判決に対する不服申立ての範囲を5000万円及び遅延損害金の支払を求める部分に限定した。
(判旨)
(1) 本件表示の商品等表示の該当性についての判断の誤りの有無
ア 控訴人は、原判決が「映画の題名は、あくまでも著作物たる映画を特定するものであって、商品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体を識別する表示として認識されるものではない」(23頁22行〜24行)と判示(原判決判示事項@)し、本件表示が不正競争防止法2条1項1号、2号所定の商品等表示に該当しないと判断したのは、誤りである旨主張する。
しかしながら、原判決第5の1(本件の事実関係)によれば、「マクロス」という本件表示は、本件テレビアニメ、本件劇場版アニメ等により、映画を特定する題名の一部として社会一般に広く知られるようになったことは認められるものの、それ以上に、本件証拠によっても本件表示が事業者たる控訴人の商品又は営業を表示するものとして周知ないし著名になったとまで認めることができず、本件表示は控訴人の商品等表示に該当しないというべきであるから、被控訴人らが「超時空要塞マクロスU」、「マクロスプラス」等の題名の映画を製作・販売する行為が不正競争防止法2条1項1号・2号に該当するとする控訴人の主張は失当である。
(中略)
4 結論
以上によれば、その余について判断するまでもなく、被控訴人らの行為が不正競争防止法2条1項1号、2号に該当することを理由とする控訴人の本訴請求は理由がないことに帰する。
よって、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
「Make People Happy.」事件
事件番号 |
平成20年(ワ)第13918号 |
事件名 |
不正競争行為差止請求事件 |
裁判年月日 |
平成20年11月06日 |
裁判所名 |
東京地方裁判所 |
判決データ:
UF-H20-wa-13918.pdf
第2 事案の概要
本件は、原告が、これまで長年にわたって使用してきた別紙原告文言目録記載1ないし10の「We make people happy.」との文言が周知の営業表示であり、被告が広告宣伝やホームページで使用している別紙被告文言目録記載1ないし5の「Make People Happy.」などとの文言が上記原告の表示と極めて類似しており、営業の誤認混同を生じさせるおそれがある、と主張して、不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項1号、3条1項に基づき、被告に対し、被告の上記文言の使用の差止めを求める事案である。
1 前提となる事実
(1)当事者
原告は、「(1)アイスクリーム製品およびこれに付随する製品の製造、輸出入および販売ならびに前記製品の製造、輸出入および販売に関するライセンスの許諾(2)ヨーグルト製品の製造、輸出入および販売ならびに前記製品の製造、輸出入および販売に関するライセンスの許諾(3)菓子類、パン類、清涼飲料の製造、輸出入および販売ならびに前記製品の製造、輸出入および販売に関するライセンスの許諾(4)前各号の製品の販売に関するフランチャイズ事業の運営、加盟店の募集および経営指導ならびに管理(5)喫茶および飲食店の経営(6)前各号に付帯関連する一切の業務」を目的とする株式会社であり、昭和48年12月に設立され、全都道府県でアイスクリームの販売をしている。(弁論の全趣旨)
被告は、「1.アイスクリーム等乳製品、清涼飲料水、コーヒー、パン、菓子類等製品の製造、輸入、販売及び店舗経営2.衣料用繊維製品、紙製容器、文具、玩具、人形、ぬいぐるみ、バッグ、袋物、日用品雑貨、装身具、キーホルダー、ポストカード等の商品の輸入及び販売3.フランチャイズチェーンシステムによるアイスクリームショップの経営ならびに製品の供給及び経営指導4.前各号に附帯関連する一切の業務」を目的として平成17年5月に設立された株式会社であり、関東、東海及び九州地方でアイスクリームの販売をしている。(争いのない事実、弁論の全趣旨)
(2)原告の使用文言
原告は、ホームページ、配布物、広告宣伝等において、別紙原告文言目録記載1ないし10の文言(これらを総称して、以下、「We make people happy(.)」の文言を「原告文言」という。)を使用している。(甲1の1、甲2の1〜甲9の11、甲12の1〜甲24の10、弁論の全趣旨)
(3)被告の行為
被告は、@被告ホームページのトップページのスライド画面の最終表示画面、「会社概要」のページの冒頭部分及びこれに添付しているPDFファイル、「採用情報」のページ、「私たちの理念」のページ、「クルー採用」のページ、「マネージャー採用」のページ、「本社採用」のページ、「新卒採用」のページ、「素顔のCold Stone」の「Our Voice」のページ、「ホットニュース」の平成20年4月3日、同年3月26日及び平成19年10月1日のページ、A「ぐるなび」の「コールド・ストーン・クリーマリー横浜ランドマークタワー店」のウェブページ、B「レッツエンジョイ東京」の上記横浜ランドマークタワー店のウェブページ、C「AOL Career」の「話題の職場探検ルポ」のウェブページ、D「月刊食堂」平成19年5月号のインタビュー記事において、別紙被告文言目録1ないし5記載の文言(これらを総称して、以下、「Make People Happy(.)」の文言を「被告文言」という。)を使用している。(争いのない事実、甲10の1〜甲11の2・4・7、弁論の全趣旨)
(判旨)
(2)検討
原告は、原告文言が原告の業務に係る営業表示として、法2条1項1号の「商品等表示」に該当すると主張する。
原告文言は、原告における設立以来の「モットー」、すなわち、会社の営業活動に関して基本となる指針や目標を定めた標語であり、「We」、「make」、「people」及び「happy」の平易な4つの英単語からなる英文であって、中学生程度の英語の理解力があれば、「私たちは人々を幸せにする」との意味を了解することのできるものである。
英文であるとはいえ、このような平易かつありふれた短文の標語そのものは、本来的には、自他識別力を有するものではないことは明らかである。原告文言のような標語が法2条1項1号の「商品等表示」としての営業表示に該当するためには、長期間にわたる使用や広告、宣伝等によって当該文言が特定人の営業を表示するものとして、需要者の間に広く認識され、自他識別機能ないし出所表示機能を獲得するに至っていることが必要であるというべきである。
そこで、原告文言について、需要者と想定できる一般消費者を念頭において、原告の業務に係る営業表示として広く認識されていると認めることができるかを検討するに、原告文言の使用状況は、前記(1)エ及びオのとおりである。前記オに係る使用事実に関しては、フランチャイジーや一般事業者、取引者向けのものであって、基本的に原告文言が一般消費者の目に触れるものではないといえるから、これを判断の資料として重視することはできない。前記エについてみると、原告の店舗展開として、昭和49年出店の目黒店の1号店以来、基本的に、セールスビルダーボードを通じて、原告文言が原告の店舗に掲げられてきたということができる。また、これと比較して、新しい表示対象であるものの、メニューリスト、統一ポスター、ステッカーにも原告文言が表示されている。そうすると、一般消費者としては、原告の店舗に実際に来店し、店頭において、原告文言に接する機会が多いものと認められる。
しかしながら、上記のセールスビルダーボードや統一ポスター等の存在を証する証拠(甲2の2〜甲3の2、甲12の1〜4、甲15の1〜8、甲18の1〜3、甲21の1〜3、甲22の2〜4)によれば、原告の店舗においては、これらのセールスビルダーボードや統一ポスター等に記載された原告文言よりも、はるかに目立つ外観上の表示をもって、前記(1)イの登録商標が使用されており、これと比較して原告文言はさほど目立たず、一般消費者に強い印象を与えるものではないことが認められる。
また、セールスビルダーボードや統一ポスター等に記載された原告文言に接した一般消費者は、その一文を読み取った上で、これを原告からの顧客に対するメッセージであるとともに、原告の社員ら現場における店舗の従業員に向けられた社内的な意味合いが強い社是のようなものとして受け取るものと認められ、原告文言を原告の業務に係る営業の表示として受け取るとは通常考え難い(なお、証拠(甲26の1〜4)によれば、一般消費者からの原告に対する電子メールの中に、原告の店舗におけるアイスクリームの販売が原告文言のとおりであるとして原告を応援する文面がある一方で、その従業員の接客態度が原告文言に悖るものとして苦情を寄せた文面のあることが認められる。)。
さらに、これら以外に関しても、テレビ放映、ホームページ、宣伝ちらし、雑誌、新聞に原告文言が表示されたことが認められるものの、必ずしも、長期間にわたって一般消費者の目に触れる機会が多かったものとは認められない上、証拠(甲6、8、13、14、16、23)によれば、原告文言は、テレビ放映においては映像の中のわずかなシーンに登場するにすぎず、ホームページや宣伝ちらしにおいては、前記(1)イの登録商標が表示され、商品写真や説明文が大部分を占める中で、小さく表示されているにすぎないことが認められ、一般消費者に強い印象を与えるものとはいえない。また、証拠(甲17、19)によれば、雑誌、新聞においては、原告の社是、モットーを紹介する文脈の中で使用されているにすぎないことが認められ、これに接した一般消費者は、これらの記事の原告文言を社是、モットーのようなものとして受け取るものであって、原告の業務に係る営業の表示として受け取るとは通常考え難い(なお、上記テレビ放映、ホームページや宣伝ちらし中の原告文言も同様の受け取り方をされるものということができる。また、仮に、前記オに係る使用事実を加味するとしても、フランチャイジーや一般事業者、取引者向けのメッセージとして、より一層、原告の社是やモットーとして受け止めることになるものと考えられる。)。
これらの原告文言の使用態様や原告文言の持つ本来的な意味合いに照らすと、上記の原告表示の使用事実をもって、原告文言が原告の業務に係る営業表示であるとして一般消費者の間に広く認識されていると認めることはできず、他に、原告文言が原告の業務に係る営業表示に当たることを根拠付ける事実を認めるに足りる証拠はない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、原告文言について、法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するものとは認められない。
被告文言1 原告文言2
訴訟記録閲覧等制限申立事件
事件番号 |
平成20年(行タ)第10008号
基本事件:平成20年(行ケ)第10314号 |
事件名 |
訴訟記録閲覧等制限申立事件 |
裁判年月日 |
平成20年12月16日 |
裁判所名 |
知的財産高等裁判所 |
判決データ:
UF-H20-Gta-10008.pdf
(2) 守秘義務の有無について
ア 本件記録部分7は、その記載(甲13)及び本件記録部分1の記載に照らし、本件合意に係る契約書(以下「本件契約書」という。)であることが、一応認められるが、本件契約書の存在や内容を契約当事者が秘密として保持すべき旨の規定は見当たらない。
また、疎乙5には、本件契約書に守秘義務条項が存在しないことに加え、@本件合意の当事者間のその余の契約にも、本件契約書の存在や内容につき守秘義務を課したものはないこと、A基本事件原告の日本子会社であるメルク株式会社は、そのウェブサイトに、遅くとも平成14年8月15日から、疎乙1のとおり、本件合意の内容を掲示しているが、米メルクからも、申立人からも、何ら異議を申し立てられたことがないこと、B特許庁に係属中の無効2007−890132号事件(以下「別件審判」という。なお、同事件は基本事件と当事者を共通にする。)において、基本事件原告は、本件契約書を書証として提出したが、申立人は、本件契約書について、申立人の営業秘密が記載された旨の申立てをしておらず、既に1年近く誰でも閲覧謄写できる状態にあることが、それぞれ記載されており、これによれば、上記@ないしBの各事実が、一応認められ、これに反する疎明はない。
イ 本件記録部分8は、その記載(甲15)及び本件記録部分1の記載に照らし、本件合意に係る書簡(以下「本件書簡」という。)であることが、一応認められるが、本件書簡の存在や内容をその差出人又は受取人が秘密として保持すべき旨の記載は見当たらない。
ウ ところで、前記(1)によれば、本件合意の具体的内容のうち、米メルクと独メルクが、@米国及びカナダでは、米メルクが「メルク(Merck)」という名称を使用することができ、独メルクは「EMD」などの名称を使用するものとすること、A米国及びカナダ以外の地域では、独メルクが「メルク(Merck)」という名称を使用することができ、米メルクは「Merck Sharp & Dohme」などの名称を使用するものとすることについて、合意しているという骨格部分において、既に公然と知られたものであるといえる。そして、本件合意の上記骨格部分は、要するに、第一次世界大戦以降、独メルクと米メルクとが互いに独立した企業となったことから、「メルク(Merck)」という名称等の使用について、地域ごとに異なるルールを定めたことを意味するから、需要者、取引者が両者を混同することを防ぐには、本件合意は、その性質上、これを秘密にすることが契約当事者の利益になるものではなく、むしろこれを公にする必要があると考えるのが合理的である。
エ この点、本件陳述書には、@本件合意が公になれば、米メルク及びその関連会社(以下「米メルクグループ」という。)のグローバルな営業戦略に支障をきたしかねない旨の記載(以下「本件陳述事項@」という。)、A申立人を含む米メルクグループは、本件合意を「機密情報」として取り扱っている旨の記載(以下「本件陳述事項A」という。)、B「機密情報」は、社内のごく限られた特定の役員及び従業員しかアクセスできないように、アクセス制限がかかったファイルサーバーやフォルダー、施錠された保管庫に保管されており、また、「機密情報」に係る書類、特定の者しかアクセスできない書類としてわかるようになっている旨の記載(以下「本件陳述事項B」という。)、C本件合意は、同合意に係る契約当事者である米メルクにおいて、「機密情報」として厳重に管理されており、本件合意にアクセスできる者は、経営陣並びに法務部門の弁護士に限られている旨の記載(以下「本件陳述事項C」という。)、D本件合意の具体的内容は一般に知られていない旨の記載(以下「本件陳述事項D」という。)がある。
しかし、本件陳述事項Dは、少なくとも前記(1)において検討した本件合意の骨格部分に関する限り、事実に反するものといわざるを得ない。
また、本件陳述事項@は、前記ウで検討したところに照らし不合理というべきであるし、申立人が、前記アのとおり、別件審判において、本件契約書に申立人の営業秘密が記載された旨の申立てをしておらず、既に1年近く誰でも閲覧謄写できる状態に放置してきたこととも、矛盾するといわざるを得ない。
このように、本件合意に関する本件陳述事項@及びDは、事実に反し、又は、不合理というべきであること、本件陳述事項AないしCは、一般的ないし抽象的であって、これを裏付ける具体的資料も添付されていないことからすれば、「機密情報」一般に関する本件陳述事項Bはさておき、少なくとも本件合意に関する本件陳述事項A及びCは、措信できない。
また、仮に本件陳述事項A及びCのとおりの事実があったとしても、前記アないしウで検討したところによれば、@本件合意に係る契約当事者である独メルクは、本件合意について守秘義務を負っているとはいえないこと、A前記のとおり、別件審判の記録中の本件契約書の写しは、既に1年近く誰でも閲覧謄写できる状態にあること、B本件合意内容には、その性質上、これを秘密にする有用性があると解せられないこと等の事情を考慮すれば、本件陳述事項A及びCのみから、本件合意の内容(本件契約書や本件書簡の存在及びその内容を含む。)について、申立人の保有する営業秘密であると認めることは、困難といわざるを得ない。
2 結論
以上検討したところによれば、本件合意が申立人の保有に係る営業秘密であることについて、疎明があったとはいえない。
したがって、本件記録部分に、申立人の保有する営業秘密である本件合意の内容が記載されていることを理由とする本件申立ては、理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。
「紅いもタルト」事件
事件番号 |
平成19年(ワ)第1032号 |
事件名 |
不正競争行為差止等請求事件 |
裁判年月日 |
平成20年08月06日 |
裁判所名・部 |
那覇地方裁判所 |
判決データ:
UF-H19-wa-1032.pdf
・・・タルト菓子について、タルト生地の上にのせる素材の名称を冠したものにすぎず、このように普通名詞を単に組み合わせたにすぎない「紅いもタルト」との表示自体が、自他識別力を有するものとは認められない。
なお、仮に、原告商標につき、外観(字体)を加味して商品等表示性を判断するとしても、原告商標1はゴシック体を基本とし、「紅」の字を構成する点(いとへんの第6画部分)を丸形にするなどして図案化されたものであり、原告商標2は楷書体又は行書体を基本として図案化されたものであるところ、共にそれ自体で特に際だった特徴を有するものとは認められないから、このような外観を加味したとしても、なお、原告商標がそれ自体で自他識別力を有するものということはできない。
(中略)
現時点においては、原告商標を使用した原告商品も相当数販売されており、原告商品の知名度も高いものといえるが、被告商標を使用した被告商品も相当数販売されており、また、ほかにも同様の商品について「紅芋タルト」ないし「紅いもタルト」との名称を付して販売している複数の業者が存在するのであるから、原告商標が現時点において、特別顕著性を具備しているものと認めることはできない。
(中略)
2 原告商品形態の商品等表示性について
(1) 商品の形態は、商品の機能を発揮したり、商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり、本来的にはその商品の出所を表示する機能を有するものではないが、@ 特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、A それが長期間にわたり継続的にかつ独占的に使用されたり又は短期間であっても強力に宣伝されるなどして使用されたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品表示としての形態が需要者の間で周知になり、不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示」として保護されることがあり得るというべきである。ただし、商品の形態が、当該商品の機能ないし効果と必然的に結びついている場合には、その形態は、上記規定にいう「他人の商品等表示」ということはできず、これについて同規定による保護は及ばないというべきである。
(2) これを本件についてみるに、原告商品の商品形態は、別紙「原告商品目録」記載の構成(原告商品形態)によるものである(前提事実(2)ア(ア))ところ、証拠(乙2、11、14ないし16、38、42)によれば、原告商品又は被告商品以外のタルト菓子商品の中にも、舟形のタルト生地を下部に備え、その上部にいもやバナナなどを原材料に含むペーストを搾り盛って焼いた形状の菓子が多く存在し、また、一般に販売されている菓子製造器具等を用いてこのような形態のタルト菓子の作成が可能であることが認められるから、原告商品形態は、焼き菓子(タルト菓子)のありふれた形態であるというべきである。
したがって、原告商品形態は、同種の商品と識別し得る独自の特徴を有するもの(前記(1)@)であるとはいえず、商品等表示には該当しない。
3 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
高周波電源装置の製造技術、顧客情報の営業秘密
事件番号 |
平成16年(ネ)第2672号 |
事件名 |
不正競争行為差止等請求控訴事件 |
裁判年月日 |
平成17年02月17日 |
裁判所名 |
大阪高等裁判所 |
判決データ:
UF-H16-ne-2672.pdf
2 前記のとおり、被告BBは、取締役退任後の秘密保持義務を定めた役員規定15条ニの拘束は受けないものの、社員就業規則第25条、役員規定第15条ハ及び信義則により、原告の取締役を退任した後も原告に対する守秘義務を負っている。しかし、本件高周波電源装置情報及び本件顧客情報は、いずれも、アクセスした者がこれらが営業秘密であることを認識できるような手段は講じられておらず、また、これらにアクセスできる者の限定が十分ではなかったから、不正競争防止法2条4項の「営業秘密」であるとはいえない。したがって、本件高周波電源装置情報及び本件顧客情報が上記「営業秘密」であることを前提とする、原告の同法2条1項7号、8号に関する主張は、いずれも、その前提を欠くから理由がない。
また、被告らが原告主張の競争者営業誹謗行為を行ったこと、被告らが取締役の忠実義務又は競業避止義務に違反したことを認めるに足りる証拠はない。そして、被告らに民法上の不法行為を構成する違法行為があったともいえない。
3 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、当審及び当審の引用する原審の認定判断を覆すに足りるものはない。
4 以上の次第で、原告の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
「Mobiledoor」営業表示事件
事件番号 |
平成20年(ワ)第22987号 |
事件名 |
不正競争行為差止等請求事件 |
裁判年月日 |
平成21年01月29日 |
裁判所名 |
東京地方裁判所 |
判決データ:
UF-H20-wa-22987.pdf
第2 事案の概要
本件は、原告が、被告がその管理するホームページにおいて原告の周知の営業表示である「Mobiledoor」を営業表示として使用する行為が、不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当すると主張して、被告に対し、不正競争防止法3条1項、2項に基づき、その使用の差止め及び削除を求めるとともに、同法4条に基づき、損害賠償を求めた事案である。
(中略)
2 原告は、原告の営業表示である「Mobiledoor」は、遅くとも平成19年10月ころには、需要者の間に広く認識されていたといえるから、周知の「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)に当たる旨(請求原因 イ )主張する。
しかし、原告の主張は、以下のとおり理由がない。
原告は、ソフトバンクの携帯電話で「消費者金融」というキーワードで検索すると、原告ホームページは、検索結果の3番目に出てくることを、原告の「Mobiledoor」の営業表示が周知であることの根拠の一つ(請求原因 イ )として挙げる。
ところで、原告の「Mobiledoor」の営業表示は、消費者金融に関する情報、消費者金融会社各社の融資条件等の情報を提供するサービスの事業の営業を表示するものであるから、原告の「Mobiledoor」の営業表示の周知性を判断するに際しては、「需要者」(不正競争防止法2条1項1号)とは、消費者金融を利用する可能性のある者、すなわち一般消費者をいうものと解するのが相当である。
そして、一般消費者を需要者とした場合、原告が主張するように、ソフトバンクの携帯電話で「消費者金融」というキーワードで検索すると、原告ホームページは、検索結果の3番目に出てくるとしても、そのことは携帯電話を利用して消費者金融に関する情報を検索しようとする一部の消費者において「Mobiledoor」の営業表示が認識されていることをうかがわせるにとどまり、そのことから、一般消費者の間で「Mobiledoor」の営業表示が広く認識されているとまで認めることはできない。
また、原告は、主にインターネットに関心がある者の間で多数の部数が売れた本件書籍において原告の紹介記事が掲載されていることを、原告の「Mobiledoor」の営業表示が周知であることの根拠の一つ(請求原因イ )として挙げる。
確かに、平成19年8月9日発行の本件書籍(甲5)の本文中(148頁ないし151頁)には、原告代表者が平成17年初頭に個人事業として「Mobiledoor」を立ち上げ、平成18年3月にその事業を引き継ぐ形で原告を設立し、原告が「Mobiledoor」の表示でインターネットのウェブサイト(ホームページ)を運営していることなどが紹介されたインタビュー形式の記事が掲載されていることが認められる。
しかし、
原告が主張するように、本件書籍が初版1万部で、かつ、増刷もされ、現在でも、書籍通販の「アマゾン」のジャンル別売上順位で、「ビジネスとIT」分野で41位となっているとしても、本件書籍の上記記事の内容が一般消費者の間で広く知れ渡っているとまで認めることはできない。
以上のとおり、原告が、原告の「Mobiledoor」の営業表示が周知であることの根拠として挙げる事実からは、原告の「Mobiledoor」の営業表示が、需要者の間で広く認識されているものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
「R4 Revolution for DS(マジコン)」事件
事件番号 |
平成20年(ワ)第20886号等 |
事件名 |
不正競争行為差止請求事件 |
裁判年月日 |
平成21年02月27日 |
裁判所名 |
東京地方裁判所 |
判決データ:
UF-H20-wa-20886.pdf
第2 事案の概要
本件は、携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」等を製造、販売する原告任天堂並びに同ゲーム機用のゲームソフトを格納したゲーム・カード(DSカード)を製造、販売する原告らが、被告らに対し、被告装置(R4 Revolution for DS)の輸入、販売等が不正競争防止法2条1項10号に違反すると主張して、同法3条1項及び2項に基づき、同装置の輸入、販売等の差止め及び在庫品の廃棄を求めた事案である。
(判旨)
b また、改正解説(乙17)には、不正競争防止法2条1項10号の「機能のみ」の意義について、次の記載がある。
「『のみ』がないと、技術的制限手段の使用目的に沿った効果を発揮することを妨げる機能以外の機能も同時に持ち合わせている装置やプログラムを対象とすることになり、別の目的で製造され提供されている装置やプログラムが偶然『妨げる機能』を有している場合にも不正競争に該当することとなる。これを不正競争とすると影像や音の視聴、記録をするための装置やプログラムを提供する者が常に全ての技術的制限手段を『妨げる』機能を有するか否かを確認し、場合によっては提供を取りやめたり、提供する装置等の他の機能を歪める程度まで設計を変更することが必要となり、これらの提供者の事業活動を過度に抑制することとなるため、明確に『妨げる』機能のみを有することが認められている装置やプログラムを不正競争の対象とすることとしている。
なお、記録や視聴等の制限をするために付されている信号を検知しない装置やこれを内蔵する機器(いわゆる無反応機器)については、結果的に技術的制限手段の効果を妨げる機能を有することとなってしまう。しかしながら、これを規制すると記録や視聴等を制限するあらゆる信号に対応する措置を施すよう強制することとなるため、コンテンツ提供事業者の十分な自助努力を促す観点からも不正競争の対象としないことが適当である。無反応機器の場合は、技術的制限手段の効果を妨げる機能以外の機能を必ず有するため『機能のみ』とすることにより対象から外れることとなる。」(240〜241頁)
イ解釈
(ア) 前記1(1)〜(3)及び上記(1)アの立法趣旨及び立法経緯に照らすと、不正競争防止法2条1項10号の「のみ」は、必要最小限の規制という観点から、規制の対象となる機器等を、管理技術の無効化を専らその機能とするものとして提供されたものに限定し、別の目的で製造され提供されている装置等が偶然「妨げる機能」を有している場合を除外していると解釈することができ、これを具体的機器等で説明すると、MODチップは「のみ」要件を満たし、パソコンのような汎用機器等及び無反応機器は「のみ」要件を満たさないと解釈することができる。
(イ) 被告らは、不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」は、検知→制限方式に限られ、平成11年改正法は、MODチップの販売等の規制を見合わせたものである旨主張するが、この主張に理由がないことは、前記1(6)で説示した点及び上記(ア)の立法経緯等から明らかであり、被告らの上記主張は採用することができない。
(2) 「のみ」要件該当性について
ア前提事実(4)によれば、被告装置は、以上のように解された不正競争防止法2条1項10号の「のみ」要件を満たしている。
イそして、この点は、被告装置の使用実態を併せ考慮しても同様である。すなわち、証拠(甲1〜21、29、30、32、34〜36、乙4〜13、丙1、12〜16、23〜34、42)及び弁論の全趣旨によれば、数多くのインターネット上のサイトに極めて多数の本件吸い出しプログラムがアップロードされており、だれでも容易にダウンロードすることができること、被告装置の大部分が、そして大部分の場合に、本件吸い出しプログラムを使用するために用いられていることが認められ、被告装置が専ら自主制作ソフト等の実行を機能とするが、偶然「妨げる機能」を有しているにすぎないと認めることは到底できないものである。
3 争点3(営業上の利益の侵害)について
(1) 営業上の利益の侵害
前記2(2)イのとおり、数多くのインターネット上のサイトで極めて多数の本件吸い出しプログラムがアップロードされており、だれでも容易にダウンロードすることができ、被告装置の大部分が、そして大部分の場合に、本件吸い出しプログラムを使用するために用いられているものであるから、被告装置により、原告らは、DSカードの製造販売業者として、本来販売できたはずのDSカードが販売できなくなり、現実に営業上の利益を侵害されているものと認められる。原告任天堂は、DS本体の製造販売業者としても、原告仕組みの技術的制限手段が妨げられてその対策を講じることを余儀なくされ、現実に営業上の利益を侵害されているものと認められる。
(2) 差止めの必要性
被告らは、現在、被告装置の輸入、販売を中止しているが(前提事実(2)ウ)、本訴において、被告装置の輸入、販売等が不正競争防止法2条1項10号に違反することを争っており、本訴の提起により、一時的にその輸入、販売を停止しているにすぎないことは、当事者間に争いがないから、原告らは、営業上の利益を侵害する者であることが明らかな被告らに対し、被告装置の輸入、販売等の停止を求めることができる。
(3) 廃棄の必要性
そして、被告装置の輸入、販売等の侵害行為の停止に必要な措置として、侵害組成物件である被告らが所持する被告装置の廃棄が認められるべきである。
「磁気信号記録用金属粉末」事件
<競業者の取引先等の第三者に対する警告の違法性について>
事件番号 |
平成12年(ワ)第11657号 |
事件名 |
損害賠償請求事件 |
裁判年月日 |
平成13年09月20日 |
裁判所名 |
東京地方裁判所 |
判決データ:
UF-H12-wa-11657.pdf
第1 原告の請求
1 被告は、原告に対し、金650万円及びこれに対する平成12年7月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、全国において発行される日本経済新聞に、縦2段、横9センチメートル以上の大きさで、別紙「謝罪広告」記載の広告を掲載せよ。
第2 事案の概要
原告は、磁気信号記録用金属粉末の製造・販売等を事業目的とする株式会社であり、被告は、ドイツに本拠を置く世界有数の化学企業である。本件は、被告が、平成6年3月17日付け書簡をもって、原告の顧客である訴外ソニー株式会社に、原告の製造・販売する磁気信号記録用金属粉末(以下「原告製品」という。)は被告の有する日本国第1733787号特許(以下「被告特許」という。)を侵害すると考える旨告知したことは、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する行為(不正競争防止法2条1項13号)に当たると主張して、原告が、被告に対し、同法4条に基づき損害賠償を求めるとともに、同法7条に基づき謝罪広告の掲載を求めている事案である。
1 前提となる事実関係(末尾に証拠を掲げた事実のほかは、当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、業として磁気信号記録用金属粉末を製造・販売する株式会社であり、他方、被告は、ドイツの本社を置く世界有数の化学会社であり、世界各国において磁気信号記録用粉末に関する特許出願をしている。したがって、原告及び被告は、不正競争防止法2条1項13号にいう「競争関係」にある。
なお、訴外ソニー株式会社(以下「ソニー」という。)は、原告が製造する磁気信号記録用金属粉末を購入した上、同粉末を用いてビデオテープを製造し、これを販売している。
(2) 平成5年5月26日ころ、原告は、被告から、原告製品が被告特許及びこれに対応する米国特許、欧州特許等の外国特許を侵害していると考えるので、この点についての回答を求める旨の同日付け英文書簡(甲2)を受け取った。
近藤惠嗣弁護士(本件訴訟における原告代理人でもある。)は、当時、原告の代理人として、同年7月8日付け英文書簡(甲3)において、原告としては、前記特許侵害の根拠が見出せない旨及び被告が原告製品を分析しているのであれば分析結果等の情報を提供して欲しい旨の返答をした(本件に関する事実関係においては、近藤弁護士は、すべて原告の代理人として行動しているが、以下、代理人たる旨の記載を省略して、単に「近藤弁護士」という。)。
(3) 同年8月から12月初旬にかけて、被告と近藤弁護士の間で4回にわたり英文書簡のやり取りがあった(甲4〜11)。
そのなかで、被告は、同年8月2日付け書簡(甲4)において、「両会社間の適切な解決方法を見つけるため、我々は、まず同和社にのみ接触し、テープ製造業者には接触しないこととしました。」と述べた上、前記特許侵害の根拠として、ソニー及び米国スリーエム社によって製造され、米国及び欧州において購入された磁気テープに用いられている原告製品を撮影したとの電子顕微鏡写真を送付するなどした(甲6、8、10)。
これに対し、近藤弁護士は、当該写真が原告製品を対象に撮影したものであるか疑問であるし、当該写真においても非侵害の根拠となる空孔が示されている旨を返答するなどし(甲7、9、11)、両者の見解は平行線をたどった。
(4) 被告は、同年12月21日付け英文書簡(甲12)において、原告には話し合いにより解決する意思がないと認めるので、米国における原告の顧客に直接接触せざるを得ない旨を通知した。
これに対し、近藤弁護士は、相互の情報の交換によって特許権非侵害の事実が明らかになると考えるので、話し合いの場を持ちたい旨を提案し(甲13)、さらに、原告製品の電子顕微鏡写真は開示するが、企業秘密の保護のため、被告が求める原告製品のサンプルの開示には応じられない旨を回答した(甲15)。
(5) 被告は、平成6年3月に、ソニー記録メディア事業本部資材部長甲宛てに同月17日付けで被告会社特許部長乙外1名の名義の英文書簡(甲1の1、2)を送付した。同書簡の内容(日本語訳)は、別紙「ソニー宛て書簡」記載のとおりであるが、その概要は、次のようなものである(以下、これを「本件書簡」という。)。
「標記の当社の日本の特許とその外国対応特許を御確認下さい。問題となっている特許権の特許番号及び存続期間満了日のリストと、日本第1733787号特許、欧州第15485号特許及び米国第4290799号特許の写しを添付しますので、御覧下さい。当社は、上記の特許の権利範囲に属する顔料を含有するテープが貴社により製造・販売されていることを承知しております。そのようなテープの例として、米国で入手可能なソニー・メタルMPビデオ8P6があります。当社は、当該テープの販売が、問題となっている当社の特許権を侵害するとの見解を有しております。当該テープに含まれる顔料を貴社が同和鉱業株式会社から購入したことを示す確定的な証拠を、当社が保有していることに、御留意下さい。また、当社は既に同和鉱業と連絡をとり、友好的な解決のために数多くの試みを行ったことも併せてお知らせします。‥‥‥このような場合の当社の通常の方針は、まず初めに顔料の製造者と連絡をとることです。本件では、そのような方法により解決することが不可能なようですので、当社としては、テープ製造者である貴社と連絡をとるより他に方法がありません。至急、貴社の見解をうかがいたく、お待ちしています。」
(6) 被告は、その後、更に、同年4月11日付け及び同月26日付けでソニー記録メディア事業本部資材部長甲宛てに、本件書簡に関連する内容の英文書簡を送付した。これらの書簡に対し、ソニーは、平成6年4月に、被告会社特許部長乙外1名宛てに、同月27日付けでソニー契約・ライセンス部アシスタントゼネラルマネジャー、丙名義の英文書簡(乙2)を送付し、材料供給業者と当該事案について協議中であるから、時間の猶予がほしい旨を述べた。ソニーは、同年5月に、被告会社の前掲乙外1名宛てに、同月11日付けで前掲丙名義の英文書簡(乙3)を送付したが、その内容は、近藤弁護士から本件事案の背景及び原告の立場等の説明を受けたが、これによりソニーは、被告特許は有効でなく、原告製品が被告特許を侵害してはいないと信じていること、及び、原告の立場には十分な理由があると思われ、ソニーとしては、被告と原告との間で本件事案が迅速かつ友好的に解決されることを期待していることを、述べるものであった。
これに対して、被告会社の前掲乙外1名は、ソニーの前掲丙宛てに、同年6月3日付け英文書簡(乙5)を送付したが、同書簡には、「貴殿の回答を読むと、当方としては、ソニーがすべての責任を同和に移そうとしているような印象を受けます。しかしながら、貴殿は、特許侵害についてはソニー自身も責任を負うことに留意しなければなりません。」「当方は、今回、バイエル社と友好的な関係にある国際的企業として知られるソニーと折衝することに決めました。当方としては、ソニーがバイエル社と率直かつ誠実な交渉を行う用意があると信じています。もしソニーにおいて、自己の使用している顔料が特許侵害をしていないと信ずるのであれば、本件事案を近藤弁護士に任せきりにするのではなく、そのように信ずる理由をバイエル社に直接説明すべきです。」という記述がある。
被告からの上記書簡(乙5)に対して、ソニーの前掲丙は、被告会社の前掲乙外1名宛てに、同月15日付け英文書簡(乙6)を送付したが、同書簡の内容は、本件事案につき被告が近藤弁護士と引き続き交渉することを提案し、交渉の進展のためにソニーとしてできることがあれば連絡してほしい旨を述べるものであった。
ソニーからのこの書簡(乙6)に対して、被告会社の前掲乙外1名は、ソニーの前掲丙宛てに、同月17日付け英文書簡(乙7)をファクシミリにより送信した。同書簡には、「当方からの1994年6月3日付け書簡において強調したように、ソニーは、本件特許侵害事案につきソニー自身も責任を負うことを認識し、ソニー自身の利益のために、友好的な和解により現在の状態を終わらせるすべての努力をしなければなりません。ご承知のように、バイエル社は、貴社により販売された多量の特許侵害品をよく知っており、更に遅延することなく本件を早急に解決したいと考えています。したがって、当方は、遅くとも1994年7月1日までに適切な和解案を送付して下さるようにお願いいたします。」という記述がある。
被告からの上記書簡(乙7)に対して、ソニーの前掲丙は、被告会社の前掲乙外1名宛てに、同月23日付け英文書簡(乙8)を送付したが、同書簡には、「ソニーは、最も妥当な方法で、この係争中の問題の最終的な解決を促進するためにバイエル社及び/又は同和と協力する用意があります。しかしながら、実際のところ、ソニーは、同和の材料を使用する当社の製品が本件特許の有効なクレームによってカバーされるかどうかを決定する立場にはありません。ソニーは、残念ながら、同和の材料を貴社の特許クレームと対比して分析する技術的背景を有しておらず、それゆえ貴社の特許の主張の技術的価値を判断するには貴社の同和との議論に頼るほかありません。貴社に説明したように、同和は既に貴社との真剣な技術的な議論を始めたいとの希望を表明しています。それゆえ、最初に本件の技術的な見地を議論するよう同和及び貴社に求めることがソニーにとって公正な要求であると信じていましたし、今も信じています。当社は、同和とバイエル社との間の議論に加わらないこと又はこの段階で貴社との議論を開始しないことによる当社自身の危険を十分に認識しています。しかしながら、繰り返しますが、当社は、問題(特許侵害)の存在を知って、本件において更に行動をとらなければなりません。上記のことを踏まえると、当社は、7月1日までに和解の提案をするという貴社の要求を、非常に残念ながら、断らなければなりません。」との記載がある。
ソニーからの上記書簡(乙8)に対して、被告会社の前掲乙外1名は、ソニーの前掲丙宛てに、同月29日付け英文書簡(乙9)をファクシミリにより送信した。同書簡には、「貴社は、貴社が同和の材料を利用しているソニー製品がバイエル社の特許の有効なクレームによりカバーされるかどうかを決定する立場にないと主張しています。しかしながら、貴社も後に分かることになるでしょうが、特許侵害している顔料を使用している当該テープ製品をソニーが製造し、販売する活動もまた明らかにバイエル社の特許の侵害を構成します。したがって、もしソニーが妥当な解決に達するように協力することを真に希望するのであれば、当社は、貴社に対し、ソニーが使用していた及び/又は使用している同和の顔料を開示し、なぜその顔料の使用がバイエル社の特許を侵害していないと考えるのかを説明されるように要請します。」「バイエル社は、ソニーに対し、同和に依存しないで、自己の責任において行動されるように望みます。当社は、バイエル社との率直な交渉のためのこの問題におけるソニーの積極的な態度が、ソニーとバイエル社の双方にとって有益であることは明らかであると信じています。」との記載がある。
被告からのこの書簡(乙9)に対して、ソニーの前掲丙は、被告会社の前掲乙外1名宛てに、同年7月1日付け英文書簡(乙10)を送付し、ソニーが使用している顔料を同和からバイエル社に示す用意があるので、同和と議論してほしい旨を伝えた。
(7) その後、被告は、平成7年(1995年)1月9日、ソニーの系列会社である米国法人ソニー・エレクトロニクス・インク社(SONY Electronics Inc. )を相手に、被告の有する米国第4290799号特許に基づく侵害訴訟を米国デラウェア州地区裁判所に提起した。
被告は、さらに、平成9年(1997年)7月8日、ソニー及び原告を相手として、同様の特許侵害訴訟を同裁判所に提起し、これらの事件は併合されて、現在もなお同裁判所において審理されている(CA95-8/97-401-JJF)。
(8) 一方、原告は、平成7年2月16日、被告を相手に、被告特許に基づく差止請求権等の不存在確認を求める訴えを東京地方裁判所に提起した(当庁平成8年(ワ)第2803号事件)。平成12年1月25日、同裁判所は、ソニー・メタルMPビデオ8P6等に使用されている磁気信号記録用金属粉末の製造・販売につき、被告特許に基づく差止請求権、損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことを確認する旨の判決(甲20)を言い渡した。同判決に対しては、被告が控訴したが、その後、同年11月21日、被告の控訴取下により、前記一審判決が確定した。
また、原告は、被告特許につき無効審判を請求したが、特許庁が「審判請求は成り立たない」旨の審決をしたことから(平成8年審判第2011号事件)、東京高等裁判所にこの審決の取消訴訟を提起していたところ(東京高裁平成9年(行ケ)第320号事件)、同裁判所は、平成12年7月4日、特許庁の前記審決を取り消す旨の判決(甲21)を言い渡し、同判決は、上告及び上告受理期間の経過により、同年8月17日に確定した。
2 争点及び当事者の主張
本件における争点は、被告がソニーに対して本件書簡を送付した行為が、不正競争防止法2条1項13号所定の虚偽事実の告知行為又は流布行為に該当するかどうか、という点である。
原告は、被告が、原告の顧客であるソニーに対し、結果的に被告特許を侵害するとは認められなかった原告製品が同特許を侵害する旨虚偽の告知をして、原告に多大な経済的・社会的打撃を与えたのであるから、このような行為が前記不正競争行為に当たるのは明らかである旨主張する。
これに対し、被告は、本件書簡は、特許権者の正当な権利行使の一環であるとし、そもそも、ソニーは、米国での訴訟の経過が示すとおり、純粋な第三者ではなく、侵害訴訟の当事者になり得る立場にあるのだから、このようなソニーに対して特許権侵害を警告する行為は、その後の司法判断の結果たまたま特許権侵害が認められなかったとしても、それが違法になるものではなく、実質的に考えても、もとはといえば原告の対応に問題があったのだから、原告との交渉に進展が見られなかった以上、被告が原告製品を用いてビデオテープを製造・販売するソニーに直接接触したのはやむを得ない行為であると、主張する。
第3 当裁判所の判断
1 不正競争防止法2条1項13号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為を不正競争行為の一類型として規定する。これは、営業者にとって重要な資産である営業上の信用を虚偽の事実を挙げて害することにより競業者を不利な立場に置くことを通じて、自ら競争上有利な地位に立とうとする行為は、不公正な競争行為の典型というべきであることから、これを不正競争行為と定めて禁止したものである(平成5年法律第47号による改正前の不正競争防止法(昭和9年法律第14号)においても、1条1項6号に同様の規定が置かれていた。)。
上記立法趣旨にかんがみれば、競業者に特許権等の知的財産権を侵害する行為があるとして、競業者の取引先等の第三者に対して警告を発し、あるいは競業者による侵害の旨を広告宣伝する行為は、その後に、特許庁又は裁判所の判断により当該特許権等が無効であるか、あるいは競業者の行為が当該特許権等を侵害しないことが確定した場合には、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為に該当するというべきである。
しかしながら、他方、特許権等の知的財産権を行使する行為は、正当行為として許されるものであるところ、特許法は、物の発明について、その物を生産する行為のみならず、その物を使用し、あるいは譲渡する行為等をも、発明の実施としているから(特許法2条3項1号)、特許権者は、その競業者が当該特許権を侵害する製品を製造し、これを譲渡している場合において、その譲受人が業として当該製品を使用し、あるいは再譲渡しているときには、特許権者は、競業者たる譲渡人のみならず、譲受人に対しても、その行為が特許権を侵害するとしてその責任を問うことが可能である。そこで、競業者が特許権侵害を疑わせる製品(以下「侵害被疑製品」という。)を製造販売している場合において、特許権者が競業者の取引先に対して、競業者が製造し販売する当該製品が自己の特許権を侵害する旨を告知する行為が、虚偽の事実の告知として不正競争行為に該当することがあるかどうかが、問題となる。
このような場合において、特許権者が競業者の取引先に対して行う前記告知は、競業者の取引先に対して特許権に基づく権利を真に行使することを前提として、権利行使の一環として警告行為を行ったのであれば、当該告知は知的財産権の行使として正当な行為というべきであるが、外形的に権利行使の形式をとっていても、その実質がむしろ競業者の取引先に対する信用を毀損し、当該取引先との取引ないし市場での競争において優位に立つことを目的としてされたものであるときには、当該告知の内容が結果的に虚偽であれば、不正競争行為として特許権者は責任を負うべきものと解するのが相当である。そして、当該告知が、真に権利行使の一環としてされたものか、それとも競業者の営業上の信用を毀損し市場での競争において優位に立つことを目的としてされたものかは、当該告知文書等の形式・文面のみによって決すべきものではなく、当該告知に先立つ経緯、告知文書等の配布時期・期間、配布先の数・範囲、告知文書等の配布先である取引先の業種・事業内容、事業規模、競業者との関係・取引態様、当該侵害被疑製品への関与の態様、特許侵害争訟への対応能力、告知文書等の配布への当該取引先の対応、その後の特許権者及び当該取引先の行動等、諸般の事情を総合して判断するのが相当である。
2 これを本件についてみると、本件においては、@ 被告は、当初、原告との交渉を行ったが、交渉が進展しないことから、ソニーに本件書簡を送付したものであること、A 本件書簡等のソニー宛ての書簡において、被告は、本件特許及び対応外国特許の内容を示した上で、ソニー自身の行為が特許権侵害に該当するので、自身の行為についての対応として自らの判断により交渉に応じてほしい旨を繰り返し述べていること、B ソニーは原告製品を用いてビデオテープを自ら製造販売しているのであって、単に侵害被疑製品の流通に関わるか又はこれを使用するだけの者とは異なること、C ソニーは、世界有数の大企業であり、高度の技術陣を擁し、特許権侵害訴訟に対処する能力・経験を十分に有すること、D ソニーは、被告宛ての書簡(乙8)において、特許侵害の有無について被告と直接議論しないことによる自身の危険を十分に承知していると述べていること、E 現に、被告は、ソニー・エレクトロニクス・インク社及びソニーを相手として、米国において訴訟を提起していること、といった事情が存在するものであって、これらの事情に照らせば、被告がソニーに対して本件書簡を始めとする一連の書簡を送付したのは、真にソニーに対して本件特許等の権利を行使することを前提として、訴訟提起に先立って直接の交渉を持つために行ったものと認めるのが相当である。
そうであれば、被告がソニーに本件書簡等を送付した行為は、権利行使の一環として正当行為と評価すべきものであって、単に市場において優位な立場に立つことを目的として第三者に対して虚偽の陳述を行った行為と同視することはできず、結局のところ、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為に該当するということはできない。
なお、被告がソニーに送付した本件書簡を始めとする書簡においては、本件特許のみならず、米国第4290799号特許等の対応外国特許をも挙げて、原告製品がこれらの権利を侵害する旨が記載されていたものであるところ、本件特許については、前記のとおり、原告と被告との間で、原告製品について本件特許に基づく差止請求権等が存在しないことを確認する判決が確定しているが、前記米国特許等については、特許の有効性や原告製品が技術的範囲に属するかどうかの司法判断は示されておらず、現に米国特許についてこの点が米国裁判所において審理されているところである。被告によるソニーに対する特許侵害の指摘は、米国において販売されていたビデオテープについてされていたのであるから、ソニー宛ての書簡においては、前記米国特許の侵害が重要な比重を占めていたものというべきところ(現にその後被告は米国特許に基づいてソニー及び関連会社に対する特許権侵害訴訟を提起している。)、当該米国特許の侵害の点についての本件書簡の記載は、現時点においては、いまだこれを虚偽の事実ということはできない。したがって、この点からも、本件書簡の送付をもって、直ちに不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為に該当するということはできない。
「ローズ形のチョコレート菓子」事件
<不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当>
事件番号 |
平成3年(ワ)第8991号 |
裁判年月日 |
平成7年02月27日 |
裁判所名 |
東京地方裁判所 |
判決データ:
UF-H03-wa-8991.pdf UF-H03-wa-8991-1.pdf
原告商品及びそれを組み合わせた花束状の製品が被告と代表者を共通にする三井フローラルアートにおいてデザインしたものであっても、原告商品及び右製品の製造販売元が原告と評価でき、原告商品の形態が前記三認定のように原告の商品表示として周知のものになった以上、被告が原告商品と形態の類似する商品を自らの商品として製造、販売することは不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当するものである。
物件目録一
原告製品は、
@ チョコレート材料からなるピンク色、赤色、黄色、紫色、乳白色、オレンジ色又はチョコレート色から選ばれた同一色による大きさの異なる五〜八枚の花片を用い、中心の巻き込み部より次第に放射状になるよう互いの基部を付着すると共に、基部とは反対側の花片の先端部を前記巻き込み部より外方になるにしたがって反りを大きくすることで各花片を開いて形成した花冠と、
A 造花材料としての針金に布製材料を付着した葉と、
B 造花材料である合成樹脂の管又は針金を芯材としてこれにフローラテープ被覆した茎とからなり、
右@を主要部とし、これに右AとBをフローラテープで副次的に結合し、これら全体を自然のバラの花のように立体的・写実的に成形・保持したものである。
添付写真1は右原告商品の実施例である。
物件目録二
被告製品は、
@ チョコレート材料からなるピンク色、赤色又はチョコレート色から選ばれた同一色による大きさの異なる五〜八枚の花片を用い、中心の巻き込み部より次第に放射状になるよう互いの基部を付着すると共に、基部とは反対側の花片の先端部を前記巻き込み部より外方になるにしたがって反りを大きくすることで各花片を開いて形成さいた花冠と、
A 造花材料としての針金に布製材料を付着した葉と、
B 造花材料である針金を花芯とした茎からなり、
右@を主要部とし、これに右AとBをフローラテープで副次的に結合し、これら全体を自然のバラの花のように立体的。写実的に成形・保持したものである。
添付写真2は右被告商品の実施例である。
「ルービック・キューブ」事件
<不正競争防止法第2条第1項第1号の「商品等表示」に該当せず。商標権侵害。>
事件番号 |
平成12年(ネ)第6042号 |
事件名 |
商標権侵害差止等請求控訴事件 |
裁判年月日 |
平成13年12月19日 |
裁判所名 |
東京高等裁判所 |
判決データ:
UF-H12-ne-6042.pdf
(2) 原告商品の形態の商品等表示性について
ア 原告商品の形態
上記(1)アの事実によれば、原告商品は、全体形状が正六面体であり、その各面が9個のブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈しているという形態(以下「本件商品形態」という。)を基本的構成態様とし、具体的構成態様として、当該六面体の各面には、黒色に縁取られた赤、青、黄、白、緑及び橙の配色がされている形態、正六面体の大きさが一辺約5.6pであるという形態を備えるものと認められる。なお、一審原告は、このほかに、シールの貼られた形態についても主張するが、彩色の手段としてシールを貼るか、直接材料面に塗装等を施すかといった点は、外観上の差異として認識することができないというべきであるから、彩色がされているという要素とは別に、シールが貼られているという点を商品等表示の要素として考慮することはできないというべきである。
そこで、原告商品の上記形態が、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するかについて、以下判断する。
イ 原告商品の形態の出所表示機能について
商品等表示とは「人の業務に係る・・・商品又は営業を表示するもの」(不正競争防止法2条1項1号括弧書き)であるから、ある表示が商品等表示に該当するためには、少なくとも、出所表示機能を有するものであることが必要であるところ、上記(1)の認定事実によれば、原告商品の形態については、同様の形態の商品がない中で発売された新規なものであった上、一時的に類似品が出回ったことがあるものの、市場には定着せず、他の同種商品もなかったのであるから、その形態は、特異ないし独特なものであって、一審原告により独占的に使用されるとともに、強力に宣伝広告された結果、遅くとも昭和56年3月ころまでには、上記アの認定に係る原告商品の形態は、需要者の間に、一審原告の販売に係ることを表示するものとして広く認識されるに至ったと認めるのが相当である。
ウ 商品の機能及び効用に由来する形態について
一審被告らは、原告商品の形態中の本件商品形態は、回転式立体組合せ玩具の必須の技術的機能に由来するものであるから商品等表示性を有しない旨主張するので、この点について検討する。
不正競争防止法2条1項1号は、周知な商品等表示の持つ出所表示機能を保護するため、実質的に競合する複数の商品の自由な競争関係の存在を前提に、商品の出所について混同を生じさせる出所表示の使用等を禁ずるものと解される。
そうすると、同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない商品形態にまで商品等表示としての保護を与えた場合、同号が商品等表示の例として掲げる「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装」のように、商品そのものとは別の媒体に出所識別機能を委ねる場合とは異なり、同号が目的とする出所表示機能の保護を超えて、共通の機能及び効用を奏する同種の商品の市場への参入を阻害することとなってしまうが、このような事態は、実質的に競合する複数の商品の自由な競争の下における出所の混同の防止を図る同号の趣旨に反するものといわざるを得ない。したがって、同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない形態は、同号にいう「商品等表示」に該当しないと解すべきである。そして、このことは、同項3号において、「他人の商品と同種の商品が通常有する形態」のみならず、「同種の商品がない場合にあっては、当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品が通常有する形態」についても、これを同号の保護の対象から除外している趣旨とも整合するものである。
なお、一審原告は、工業所有権法と不正競争防止法とは、その目的、保護の対象及び保護の要件とが相違するとして、工業所有権法との調整の観点から上記と同旨の判断をした原判決を批判するが、工業所有権法との調整の要否いかんは上記の判断を左右するものではない。
エ 本件商品形態を採用することの不可避性について
そこで、本件商品形態が、同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない形態といえるかどうかについて判断する。
原告商品が、立体的に組み合わされたブロック体を任意の方向に回転させ、各面を構成するブロックの色をそろえて遊ぶパズル玩具であることは前示のとおりである。そうすると、これと同種のパズル玩具に共通する機能及び効用に由来して、任意の方向にブロック体を回転させたときに、配色は変わっても全体形状は変化しない構造体とする必要があると解される上、パズル玩具として適切な難易度を維持し得る程度の組合せとすることも、現実の商品化の上では必須のことと解されるから、このような制約要素だけから考えても、不可避的に、本件商品形態以外の選択肢は、極めて限られたものとならざるを得ない。のみならず、上記のような制約の中で、本件商品形態を避けて他の商品形態を採用したとしても、ブロック体の形状、数、その組合せ等によって、具体的な解法、難易度、取り扱い易さ等はおのずと異なることとなり、パズル玩具としての楽しみ方も異なってしまうことは明らかというべきである。
例えば、全体形状を正六面体として、4行、4列、4段以上のブロック体の組合せにした場合には、一般の需要者にとっては難解にすぎるものとなってしまい(甲15〜17の商品名「ルービックリベンジ」及び「プロフェッサーキューブ」において、それぞれ「超難題」及び「最高難度」とされている記載を参照)、三角錐形状のブロック体を組み合わせて全体形状を正四面体のものにした場合には、回転させることの可能なブロック体の単位が多様となり、常に9個のブロック体単位で回転させる原告商品とは明らかに異なる要素が加わることになるし(甲75の同「PYRAMIX」参照)、全体形状を球形のものにした場合には、面全体が連続したものとなるため、画然と区切られた各面の色合わせという興趣が損なわれることとなり、商品価値を維持するためには、単なる色合わせという以外の要素を付加せざるを得なくなってしまうことが推察される(甲73の同「ルービックワールド」は地球儀を模したものであり、甲74の同「ボールパズル」は彩色のされた円環状の構成が付加されていることを参照)。このほか、現に商品化されている回転式立体組合せ玩具としては、@全体形状が正六面体のものを斜めに分割して回転可能としたもの(甲75、商品名「スキューブ」)、A各面が立体的な星形に見える複雑な立体形状のもの(甲15、同「アレキサンダースター」)、B全体形状が五角柱形状のものを輪切り状に回転可能として、各面に現れる加減乗除式が正解となるようにするもの(甲18、同「頭の体操算数塾」)、Cキティ人形を縦横に分割して回転可能としたもの(甲77、同「キティのルービックキューブ」)、D展開すると一直線状になる三角錐の連続したブロック体を組み合わせたもの(甲16、同「マジックスネーク」)、E8個の立方体形状のブロック体を組み合わせて多様な立体形状を構成することができるようにしたもの(甲17、同「ポケットパズル」)等の多様な形態のものが存在する。しかしながら、上記D、Eについては、ブロック体を回転等させることにより、多様な形状に変化させて遊ぶものと認められるものであって、全体形状が変化することなく、各面の配色をそろえて遊ぶ原告商品とは全く別のジャンルのパズルといわざるを得ないし、その他の商品についても、パズル玩具としての主要な特徴が、分割及び回転の手法の意外性にあると考えられるもの(上記@)、全体形状の持つ意匠性にあると考えられるもの(上記A、C)、知育玩具としての性格にあると考えられるもの(上記B)等であると解されるものである。
以上の認定判断を総合すれば、
本件商品形態は、同種の商品に共通する機能及び効用に由来する数少ない選択肢である上、本件商品形態を避けて他の商品形態を採用した場合、一般需要者にとって代替可能な商品として市場において原告商品とは競合し得ない商品となってしまい、そのようなものはもはや同種の商品ということはできない。そうすると、本件商品形態は、原告商品と同種の商品に共通してその機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ないものと解するのが相当であり、したがって、商品等表示に該当しないものというべきである。
もっとも、原告商品は、この形態に付け加えられた具体的構成態様に係る形態、すなわち、正六面体の各面に、黒色で縁取られた赤、青、黄、白、緑及び橙の配色がされている形態、正六面体の大きさが一辺約5.6pであるという形態を備えるものであることは前示のとおりである。そして、商品の形態は、その全体が不可分な有機的結合として成り立つものであり、原告商品の形態についても、前示のとおり、本件商品形態に加えて上記のような具体的構成態様に係る形態をも備えるものとして、出所表示機能を取得したものであることからすれば、全体としての原告商品の形態が「商品等表示」に該当するといわざるを得ないが、被告商品の形態との類否の判断に当たっては、それ単独では商品等表示性が認められない本件商品形態を除外した具体的構成態様を要部として検討する必要があるというべきである。
事件番号 |
平成9年(ワ)第12191号 |
事件名 |
商標権侵害差止等請求事件 |
裁判年月日 |
平成12年10月31日 |
裁判所名 |
東京地方裁判所 |
判決データ:
UF-H09-wa-12191.pdf TM-H09-wa-12191-1.pdf
「BERETTA」モデルガン事件
事件番号 |
平成12年(ネ)第3780号 |
事件名 |
損害賠償等請求控訴事件 |
裁判年月日 |
平成15年10月29日 |
裁判所名 |
東京高等裁判所 |
判決データ:
UF-H12-ne-3780.pdf UF-H12-ne-3780-1.pdf
以上によれば、控訴人らの主張のように、玩具の商品分野においては、実物を模した玩具を製造、販売するに当たり、実物の形態やそれに付された表示の使用について、実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立しているということは、少なくとも、玩具銃に係る玩具銃メーカーと実銃メーカーとの関係に関する限り、困難というべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(5) また、控訴人らは、実銃と玩具銃の需要者層は、重複、共通するとも主張するが、我が国にはけん銃の一般市場がほとんど存在しないことは上記のとおりである上、実銃の所持には法律による厳しい規制があるのに対し、玩具銃の購入は自由であり、両者の使用目的も全く異なるのであって、その取引者、需要者が異なることは明らかである。すなわち、被控訴人各商品は、一般に流通することがなく、所持することもできない実銃の外観を再現したエアーソフトガンであり、その基となった実銃とは別個の市場において、飽くまで本物と区別された商品として取引されているものであり、玩具銃メーカーは、実銃メーカーの許諾を得た玩具銃については、その広告や当該商品のパッケージに、その旨を明示していること、被控訴人各商品のパッケージ等には、当該商品がエアーソフトガンであること、エアーソフトガンとしての機能・性能、使用方法の説明、使用上の注意のほか、製造者である被控訴人らを示す「MARUZEN」ないし「マルゼン」、「KSC」、「MARUI」ないし「東京マルイ」の表示も併せて記載され、B事件被控訴人商品五及びC事件被控訴人商品三については、商品本体にもその旨表示されていること、控訴人ベレッタはこれまで玩具銃を製造、販売したことがなく、現在も製造、販売していないこと、控訴人ベレッタが我が国において販売した控訴人模型銃は、観賞用に実銃から発砲機能及び稼働機構を除去して商品化した高価なものであり、玩具銃とは性質を異にし、その輸入数もごく少数にとどまること、控訴人ベレッタが実銃のほかに控訴人各表示を付して販売している商品は、いずれも実銃の関連商品としてのいわゆるシューティング・アクセサリーのたぐいであって、主に実銃所持者を販売対象とするものであり、一般的な衣服、雑貨として販売されているわけではなく、その販売数量も多くはないこと、控訴人ベレッタが我が国において宣伝広告を行った実績がないことは、上記認定のとおりである。さらに、実銃メーカーが玩具銃を製造、販売し、玩具銃メーカーが実銃を製造、販売していることをうかがわせる証拠はなく、かつて国外の玩具銃業者が控訴人ベレッタからライセンスを受けて玩具銃を製造、販売したことがあったとしても、その玩具銃が我が国において販売されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、そのようなライセンス生産の事実が我が国において一般の需要者に知られていることをうかがわせる証拠もない。そうすると、
我が国においては、市場において合法的に流通することがなく、所持することも一般に禁じられているけん銃の外観を忠実に再現したエアーソフトガンは、実銃とは別個の市場において、飽くまで実銃とは区別された商品として取引されているものであって、その取引者、需要者は、控訴人実銃の形状及びそれに付された表示と同一の形状・表示を有する多数の玩具銃メーカーの業務に係るエアーソフトガンの中から、その商品本体やパッケージ等に付された当該エアーソフトガンの製造者を示す表示等によって各商品を識別し、そのエアーソフトガンとしての性能や品質について吟味、評価した上で、これを選択し、購入しているものと認められる。
(6) 被控訴人らは、控訴人表示一が控訴人ベレッタの実銃であることを示す商品等表示として周知となった時期があったとしても、我が国においては、十数社に及ぶ多数の玩具銃メーカーが古くから控訴人各表示と共に自社の名称を併せて付した玩具銃を製造、販売してきたことにより希釈化され、同表示は、玩具銃の需要者の間で、特定の商品の出所を表示するものではなくなったと主張するところ、上記認定の事実関係の下では、同表示の周知性がその主張のような理由で希釈化されたものということはできない。しかしながら、被控訴人各商品及びそのパッケージ等に控訴人ベレッタの業務に係る実銃を示すものとして周知の商品等表示である控訴人表示一と同一のA〜C事件被控訴人表示一が付されていても、その玩具銃が、控訴人ベレッタの業務に係るものと誤信されるおそれがないばかりでなく、同控訴人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な業務上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主体の業務に係るものと誤信させるおそれがあるとも認め難いから、被控訴人らの上記行為は、不正競争防止法2条1項1号所定の広義の混同惹起行為に当たらないものというべきである。
「伝票会計用伝票」事件
<
本件伝票の形態が不正競争防止法第一条第一項第一号にいういわゆる商品表示としての表現能力・吸引力を具備していたものとも、また、そうした表示として周知性を有していたものとも認めることはできない。>
事件番号 |
昭和52年(ネ)第3193号 |
事件名 |
損害賠償等請求控訴事件 |
裁判年月日 |
昭和58年11月15日 |
裁判所名 |
東京高等裁判所 |
判決データ:
UF-S52-ne-3193.pdf UF-S52-ne-3193-1.pdf
一 控訴人の本訴請求は、控訴人の製造販売する本件伝票の具体的形態が不正競争防止法第一条第一項第一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に当ることを前提とするものである。
そこで、まずその点について判断する。
1 不正競争防止法第一条第一項第一号は、「他人ノ氏名、商号、商標、商品ノ容器包装其ノ他他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」と規定し、商品主体を直接認識させる意図で表示される氏名、商品等のほか、本来第一義的には商品の出所を識別させるためのものではない「商品ノ容器包装」をも例示しているところからすると、商品の形態自体をもつて「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」と認められる場合のあることは否定することができない。もっとも右にいう商品の形態は、本来、当該商品がめざす特定の使用目的ないし機能を果す上で、その客体的、外部的表現としての内容が、おのずから制約された態様の範囲内にとどまらざるをえないから、本来的に商品主体の識別を直接目的とする氏名、商号、商標等の表示と同様に出所表示機能、自他識別機能を備えるものとして評価されるためには、当該商品の使用目的ないし機能の評価自体の面と、切り離し難く関連するとしても、一応その観点を離れて、なおかつ需要者の感覚、購買心理、選択意欲、消費行動に、より端的に訴える、表示としての素朴な統一的把握を可能とする表現能力・吸引力を具備すべきことは、その商品表示としての性質上当然といわねばならない。
この点に関し、被控訴人は、商品の形態がその技術的機能に由来する必然的な結果であるときは不正競争防止法による保護を求めることは許されないと主張し、その根拠として、当該商品にその形態を選択せしめた技術そのものを一種の永久権として特定人に独占させる結果となり、特許権及び実用新案権に存続期間の制限を設けた法意を没却するという。
しかしながら、不正競争防止法上、その商品表示としての保護と、特許法、実用新案法をはじめとして、意匠法、商標法を含む所謂工業所有権四法に基づく保護との競合を排除する規定ないし根拠も見出せない。また特許権及び実用新案権の保護法益は、より抽象的な技術的思想の創作そのものであって、たまたまその技術的思想に基づく特定の具体的実施形態が商品の表示として出所表示の機能を備えて不正競争防止法上の保護の対象となりうるとしても、本来その保護の対象とする実質的内容・保護法益、またその適用のための実体的要件を異にするものであるから、特許法・実用新案法の法理と矛盾するものではない。このことは、その実施形態が当該特許権・実用新案権の実施態様として唯一無二のものであり、また、その不正競争防止法上の保護が、当該特許権・実用新案権の存続期間はいうまでもなく、これを超えて与えられるものであっても変らない。
けだし、この場合における不正競争防止法上の実質的な保護の対象は、動態的な営業活動における企業の信頼性ないし商品の需要吸引力であり、その保護を受けるためには、出所表示の機能の具備とこれに伴う周知性の獲得を裏付ける営業活動の具体的事実の存在が必要であるとともに、その保護の持続のためには、これらの要件を現実のものとして常時維持すべく、企業の信用性・商品の信頼性の確立と、表示機能としての特別顕著性の確保のために、極めて流動的な需要者の商品選択の動向を背景とする競争の激烈な流通過程における、広告・宣伝・品質管理・販売活動にいたるまでの絶えざる企業努力を継続していることが前提となるから、技術的思想に関する永久権の設定とはいえないものであって、特許権・実用新案権に存続期間を設けた法意に何らもとるところはない。
2 そこで控訴人が不正競争防止法第一条第一項第一号にいう商品表示に当るものとして主張する本件伝票の形態について検討する。
(中略)
・・・・納品票簿(五枚組)、仕入票簿(三枚組)の三八種にわたる各種別毎に枚数の組合せを異にし、また例えば納品票簿(在庫管理票付・六枚組)についてみると、各業の第一行欄上部に、その行の記入・使用も妨げない程度の小文字で金額、月、日、品名、入庫、出庫、単価、金額と各区画に印刷して下部数行の空白欄と組合せている点では共通しているが、第一葉ないし第六葉の左側下部には、納品書、物品受領書、請求明細書、得意先元帳票簿、統計管理票簿A、統計管理票簿Bと各葉毎に異なる所要文字が印刷されているなど、所要印刷文字の種類が各種目別に異なるところがあるし、これと空白行との組合せ、各葉の組合せが伝票の使用目的に従った各種別毎の性質に従って極めて多岐にわたっている。そして控訴人の主張の範囲内において認定できる、完成された商品としてのこれら本件伝票の形態は、大規模な会計規模を持つ法人組織から個人営業の一般小商人にまで及ぶこの種商品の需要者にとって、使用目的ないし機能の評価を一応離れて、商品表示として端的に商品選択、消費行動に訴える素朴な統一的把握を可能とするようなものでなく、表示そのものとして需要吸引力を左右するものとは到底認められない。却って、
前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件伝票の販売方法も、一般店頭販売によらず、従業員ないし解説書により会計内容に従った使用方法に関する実習を含めた技術的説明を行って需要者に訴えた上で行っていること、また、需要者側においても、その事業内容の必要に応じた会計業務処理の繁簡、帳簿処理・検索の便・不便などの多角的な観点から、伝票の組合せ、記入方法、ファイルの方法などを事務的、技術的に検討し、これらの点を第一の主な前提として商品選択の対象としていることがたやすく認められる。以上によれば、控訴人が主張する本件伝票の形態が不正競争防止法第一条第一項第一号にいういわゆる商品表示としての表現能力・吸引力を具備していたものとも、また、そうした表示として周知性を有していたものとも認めることはできない。
弁論の全趣旨によって成立の認められる甲第四二号証の一ないし八は、記載の様式からしていずれも控訴人方で起案作成した定型印刷済文言の証明書を用い、本件伝票の購入者が控訴人の依頼に応じて作成したものと推認され、前記認定に反する実質的内容の趣旨を示す記載があるものとも認められず、前記判断を左右するものではなく、他に本件伝票の形態が控訴人の商品表示としての表現能力・吸引力あるいは周知性を備えていたことを示す証拠はない。
3 そうすると、控訴人の本訴請求は、その余の判断をまつまでもなく理由がないこととなる。
二 以上のとおり、控訴人の不正競争防止法第一条第一項第一号及び第一条の二第一項の各規定に基づく本訴請求は、失当として棄却すべきものであり、これと同旨の結論にでた原判決は結局相当であって本件控訴は理由がないから、これを棄却しなければならない。
事件番号 |
昭和50年(ワ)第3035号 |
事件名 |
損害賠償等請求事件 |
裁判年月日 |
昭和52年12月23日 |
裁判所名 |
東京地方裁判所 |
原審判決データ:
UF-S50-wa-3035.pdf UF-S50-wa-3035-1.pdf
電路支持材「パイラック」事件
事件番号 |
平成12年(ネ)第276号 |
事件名 |
不正競争行為差止等請求控訴事件 |
裁判年月日 |
平成14年05月31日 |
裁判所名 |
東京高等裁判所 |
判決データ:
UF-H12-ne-276.pdf UF-H12-ne-276-1.pdf
ウ 商品形態が出所表示機能を取得するためには、同種商品が一般に有するものとは異なる形態であることが必要であるが、この形態が他の同種商品と比較して特異な形状であるとまではいえなくとも、当該商品の製造販売、広告宣伝等の程度によっては、出所表示機能を取得することができる。また、上記の同種商品一般と異なる形態は、必ずしも、基本的形態において具備する必要はなく、具体的形態におけるものも、当該商品の製造販売、広告宣伝等の程度に加え、その具体的形態が看者の注意をひく程度によって、出所表示機能を取得することができるというべきである。
本件において、第1グループ控訴人製品の形態は、基本的形態において他の同種製品と異なるところはないが、具体的形態においては、他の同種製品と異なっており、上記のとおり、パイラック製品が、昭和38年ころから市場において圧倒的シェア、販売数及び売上高を有し、大量の広告宣伝を継続してきたこと等を総合すると、第1グループ控訴人製品の形態は、遅くとも、被控訴人において被控訴人製品の製造販売を開始したと主張する平成6年までには、その具体的形態が控訴人の商品表示として周知になったということができる。
(中略)
被控訴人は、製品の発売後、同一又は類似の形態のものが複数の業者により複数の同種商品に使用され、そのような状態が長期間経過した場合には、希釈化により、当該商品の形態を特定の出所の表示として認識することができなくなり、周知の商品表示ということができなくなると主張する。確かに、一般的に、被控訴人主張のような希釈化が生ずることはあり得るが、そのためには、単に同一の商品形態が同種商品に採用されただけでは足りず、同一形態の同種商品が、希釈化を生ずるに足りる程度の数量及び期間、販売されることが必要である。本件においては、第1グループ控訴人製品の基本的形態及び具体的形態の双方を具備する上記製品は、市場におけるシェアがわずかであり、控訴人製品が市場において有する長期的かつ圧倒的なシェアを脅すに至ることはないのであるから、希釈化によって第1グループ控訴人製品の具体的形態の商品表示としての周知性が失われたということはできない。
オ 技術的機能に由来する形態
(ア) 被控訴人は、商品の形態的特徴が技術的機能に由来する場合には、不正競争防止法2条1項1号所定の商品表示該当性が否定されるべきであるとした上、第1グループ控訴人製品の形態的特徴は、いずれも、電路支持材としての技術的機能に由来するものであると主張する。
(中略)
(ウ) 第1グループ控訴人製品において、被控訴人の主張する技術的形態を基本的形態と比較すると、技術的形態のほとんどは基本的形態と一致し、具体的形態と技術的形態との相違点は、下板に鋸歯状部が形成されているかどうかという点だけである。そこで、鋸歯状部が技術的機能に由来するものかどうかについて検討するに、電路支持材において、下板の果たす機能は、上板との間に鉄骨等の片を挟み、締め付けねじ先端でねじを締め付けて強固に挟持固定することである。このような機能は、下板の摩擦が十分に確保され、ねじを締め付けることで強固に挟持固定することにより果たされるから、このような摩擦が十分に確保される限り、下板の形状が平板であるか、凹凸を有するか、又は鋸歯状部を有するか、そして、鋸歯状部を有する場合においてこれを何個有するかは、下板の機能に必然的に由来するものということはできない。そうすると、下板に鋸歯状部が形成されていることは、第1グループ控訴人製品の技術的機能に由来する形態ということはできない。
次に、第1グループ控訴人製品の具体的形態は、C字形の下辺の前部から縁部にかけ、歯状の小切り込みがほぼ等間隔に3ないし5個あることに加え、C字形の文字幅が約10ないし14mmであること、C字形の上辺が下辺より4.5ないし10mm程度短いこと、ビードが連続して7ないし12mm程度の顕著な怒り肩を形成していること、背面及び底面部の左右ビードを除いた幅一杯に大きく丸い取付孔が存在することであるが、これら具体的形態は、いずれも、電路支持材の技術的機能を果たすために必然的に採用せざるを得ないものではなく、その機能を果たしつつ他の具体的形態を採用することも可能である。ビードを例にとれば、その形状を上記のような顕著な怒り肩にする必然性はなく、より緩やかな形状のものでもよいし、さらには、カナフジ電工株式会社の製品(甲第50号証掲載)のように、ビードを設けなくとも商品としての市場性を十分取得できるのである。したがって、これら第1グループ控訴人製品の具体的形態は、技術的機能に由来するものということはできない。
(エ)
被控訴人は、技術的機能を実現するための機能的制約に基づく形態をとっているにすぎない場合には、この種の形態を特定の者に独占させることは、製品や技術の独占につながり、不正競争防止法の趣旨に反することになると主張する。しかしながら、第1グループ控訴人製品の基本的形態中、下板に小切り込みが形成されているという構成及び第1グループ控訴人製品の具体的形態は、上記のとおり、技術的機能を実現するという機能的制約の下において選択可能な複数の形態の一つを控訴人の意思で選択したものであるから、被控訴人主張のような技術的機能を実現するための機能的制約に基づく形態をとっているにすぎないということはできない。
また、被控訴人は、ある製品がいくつかの基本的構成要素から成る場合において、各構成要素の組合せには一定の限度があるから、各構成要素の具体的な形態を離れて、その組合せ自体が商品表示として保護を受けることはできないと主張する。しかしながら、第1グループ控訴人製品において、上記具体的形態は、そのそれぞれが技術的機能に由来するものにすぎないということができないばかりか、これらの具体的形態が組み合わさって一つのまとまった商品形態を形成しているから、不正競争防止法2条1項1号により保護される商品表示となり得るというべきである。
(オ) さらに、被控訴人は、第1グループ控訴人製品の形態に係る控訴人の意匠登録が無効となったことから、このような形態による商品表示としての周知性獲得の主張は信義則上許されないと主張する。しかしながら、意匠登録を受けるためには、当該意匠が創作性を有するなど固有の要件が必要とされる一方、不正競争防止法2条1項1号所定の商品表示として同法による保護を受けるためには、上記創作性は必要とされない代り、当該商品等表示が周知性を有することが必要である。このように、意匠法と不正競争防止法とは、その目的、保護の要件及び効果が異なるから、第1グループ控訴人製品の形態に係る意匠登録が無効とされたからといって、控訴人において不正競争防止法に基づく権利を主張することが信義則に反するということはできない。
「ステンレス製真空マグボトル」事件
事件番号 |
平成20年(ワ)第15970号 |
事件名 |
損害賠償請求事件 |
裁判年月日 |
平成21年06月04日 |
裁判所名 |
大阪地方裁判所 |
判決データ:
UF-H20-wa-15970.pdf
(5) 小括
以上のように、被告物件は原告物件より先に中国国内において製造販売されていたものと認められるから、被告物件が原告物件の形態に依拠して作り出されたものでないことは明らかであり、よって、被告物件が原告物件の形態を模倣した商品に該当しないこともまた明らかというべきである。
(6) 原告の主張について
ア 形態の同一性による依拠の推定
原告は、原告物件と被告物件との客観的形態の同一性から依拠が強く推認されると主張するところ、前述したとおり、被告物件と同じ形態の中国商品が、原告物件の販売開始より前に中国国内で製造販売されており、しかも、被告物件が、上記中国商品と同一である以上、かかる推認の働く余地はないというべきである。
被告物件 原告物件
「ミーリングチャック」事件
<不正競争防止法に基づく請求は認めず、民法第709条の不法行為を構成するとして損害賠償請求を認めた。>
事件番号 |
平成15年(ワ)第7126号 |
事件名 |
不正競争行為差止等請求事件 |
裁判年月日 |
平成16年11月09日 |
裁判所名 |
大阪地方裁判所 |
判決データ:
UF-H15-wa-7126.pdf
原告は、形態酷似によって誤認混同のおそれがある旨主張し、その証拠として、「HPIのミーリングチャック」と認識し、HPI社のカタログに記載されていると認識しながら、そのミーリングチャックを原告製ミーリングチャックと誤認した者が存在することを報告する報告書等(甲11、37ないし40)や被告会社が原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックを混交して販売していたことを証する文書(甲53等)を提出する。
しかしながら、製品やカタログには「NIKKEN」の文字がなく、「HPI」の文字があることを認識し、したがって、「HPI製品」と認識しているにもかかわらず、これを原告製品と誤解するというのは不自然であって、そのような誤解をした者が仮に存在したとしても、そのことをもって誤認混同のおそれがあるということはできない。製品を混交して納品されたなどのその他の事情によって、被告製ミーリングチャックを原告製ミーリングチャックであると誤解することは考えられるが、そのような場合には、混交して納品された結果、発注者が原告製品であると思い込んだために誤認混同という結果が生じているのであって、取引に際し、形態酷似の結果、出所が誤認混同されたということはできない。
その他、ミーリングチャックに関し、形態に着目して出所の誤認混同が生じるおそれがあることを認めるに足りる的確な証拠はない。
(4) したがって、原告の不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
2 争点(2)(民法709条に基づく請求について)
(1) 第1の4項の請求は、被告会社の輸出入に関連する行為や被告会社の国外関連会社の行為の結果、原告に、輸出機会喪失、国外への調査費用の拠出及び信用毀損という損害が発生したことを理由とする、不法行為に基づく損害賠償請求でもあるから、渉外的要素を含む法律関係ということができ、準拠法の決定が必要となる。
この点、不法行為に関する準拠法は法例11条1項により規律されているものであって、原因事実の発生地によることとなっている。本件では、国内に所在する被告会社の輸出入行為や海外法人に対する指示行為が主な対象行為となっており、その損害は我が国に住所を置く原告に生じているものというべきであるから、原因事実の発生地は、被告会社の行為地でありかつ原告に損害の発生した地でもある我が国であり、我が国の法が準拠法となるというべきである。
よって、被告会社の行為が民法709条所定の不法行為に該当するかどうかを、以下で検討することとする。
(中略)
(9) 争点(2)キ(被告会社の行為は全体として不法行為を構成するか)について
ア 前記(2)ないし(8)の認定事実を総合すれば、次のようにいうことができる。
被告会社は、既にその品質や性能が高く評価されていた原告製品を輸出する営業活動を長年にわたり行ってきたものであり、NHE社やHPI社と共に、そのような原告製品の取扱業者として、取引先から認識されていた。
しかるに、被告会社が、原告製ミーリングチャックと酷似する被告製ミーリングチャックを米国にてHPI社を通じて販売したことを理由として原告が被告会社との取引を中止したことにより、被告会社は原告製品を取り扱うことが困難となった。そのため、被告会社は、DSP社に被告製品の製造を依頼した。
被告会社は、DSP社に製造を依頼するに当たり、その必然性が認められないにもかかわらず、原告製品に酷似した被告製品の製造を依頼した。また、原告製品のコード番号と被告製品のコード番号(独自のものと、原告製品のコード番号末尾に「HPI」の文字を付記したにすぎないものがある。)を受発注及び納品において混在させて用いた。被告会社カタログやHPIカタログには、原告製品の写真や原告カタログに掲載された写真を利用した。さらに、原告製品を発注した顧客に対し、被告製品を混交させて納品するなどした。
被告会社は、以上の行為を、顧客に対して原告製品と被告製品とが異なることを明確に説明することなく行っており、原告と被告会社の取引終了後も従前の販売方法と異なったものとしたわけではなかった。そのため、顧客の中には、コード番号の変更は認識しながら、原告製品を発注するつもりで被告製品のコード番号を使用した後、使用する段階等で被告製品が納入されていることに気付く者、製品に明確なHPIの表示がないため発注どおりの原告製品と認識し、原告に対して原告製品として外径が異なることを理由に返品する者がいた。
被告製品はその品質及び性能において原告製品に及ばないものであり、したがって、原告製品と誤認したまま使用した顧客の中に、原告製品の性能が低下したと誤解した者が存在したであろうことは容易に推測できるところである。
イ ところで、
不正競争防止法は、公正かつ自由な営業活動を中心とした競業秩序を破壊する不正ないし不公正な行為のうちから一定の類型を「不正競争」として、その防止及び損害賠償の措置等について規定している(同法1条参照)。しかし、競業秩序を破壊する不正ないし不公正な行為は、必ずしも不正競争防止法の規定する各類型の不正競争行為に限られるわけではない。同法の規定する不正競争行為に該当しなくても、業者の行う一連の営業活動行為の態様が、全体として、公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法で行われ、行為者に害意が存在するような場合には、かかる営業活動行為が全体として違法と評価され、民法上の不法行為を構成することもあり得るものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、被告会社の行為は、形態の酷似した製品の製造、コード番号の混同使用、原告製品であるかのごときカタログの作成及び使用、原告製品と被告製品の混交等により、品質及び性能において一定の評価を得ていた原告製品の評価を低下させるものであったということができ、このような行為は、全体としてみたときに、公正な競業秩序を破壊する著しく不公正な行為であると評価できるから、民法上の不法行為を構成するものと認めるのが相当である。
差止請求権の不存在確認を求める訴えの裁判管轄
事件番号 |
平成15年(許)第44号 |
事件名 |
移送申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件 |
裁判年月日 |
平成16年04月08日 |
法廷名 |
最高裁判所第一小法廷 |
判決データ:
UF-H15-Kyo-44.pdf
2 原審は、不法行為の効果として原状回復請求権又は差止請求権が発生することが一般に承認されていると解することは困難であり、本件における不正競争防止法に基づく差止請求権についても、個別的な法律の規定に基づいて物権的請求権に準ずるものとして認められているにとどまるから、本件訴えは、民訴法5条9号所定の「不法行為に関する訴え」には当たらず、名古屋地方裁判所の管轄に属しない旨を判示して、民訴法16条1項により、本件訴えに係る訴訟を大阪地方裁判所に移送する旨の決定をした。
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
民訴法5条9号は、「不法行為に関する訴え」につき、当事者の立証の便宜等を考慮して、「不法行為があった地」を管轄する裁判所に訴えを提起することを認めている。同号の規定の趣旨等にかんがみると、この「不法行為に関する訴え」の意義については、民法所定の不法行為に基づく訴えに限られるものではなく、違法行為により権利利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が提起する侵害の停止又は予防を求める差止請求に関する訴えをも含むものと解するのが相当である。
そして、不正競争防止法は、他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の商品等表示を使用するなどして他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為等の種々の類型の行為を「不正競争」として定義し(同法2条1項)、この「不正競争」によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができることを定めている(同法3条1項)。
民訴法5条9号の規定の上記意義に照らすと、不正競争防止法3条1項の規定に基づく不正競争による侵害の停止等の差止めを求める訴え及び差止請求権の不存在確認を求める訴えは、いずれも民訴法5条9号所定の訴えに該当するものというべきである。
そうすると、本件訴えは、同号所定の訴えに該当するというべきであるから、これと異なる原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は、理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、民訴法17条による移送の可否等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。