著作権 判決集(13)


「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」事件最判
「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」事件(差し戻し審判決)
「ときめきメモリアル」事件最判
スケジュール管理ソフト「PIMソフト」事件
「超時空要塞マクロス」著作権事件
著作権仮処分命令申立事件(「イサム・ノグチ」事件)
チョコエッグフィギュア事件
音楽著作権侵害事件(クラブ・キャッツアイ事件)最判
プロサッカー選手のプライバシー侵害事件
「ピンク・レディー」事件
「仏壇彫刻」事件
一般住宅の『建築の著作物』性
「スポーツゲームのアイデア」の著作物性
「版画の写真」の著作物性
「ホームページ上の掲示板に書き込まれた文書」の著作物性
「Asahi vs AsaX」事件




「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」事件

事件番号  平成13年(受)第216号
事件名  著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日  平成15年04月11日
裁判所名  最高裁判所第二小法廷 
判決データ:  CP-H13-Ju-216.pdf

    主 文
   原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
   前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
    理 由
上告代理人奥野雅彦、同丸山敦朗の上告受理申立て理由第2の2ないし4について
1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 (1) 上告人は、アニメーション等の企画、撮影等を業とする株式会社である。被上告人は、中華人民共和国国籍のデザイナーである。
 (2) 被上告人は、平成4年ころから、アニメーションの製作スタジオを経営する香港の会社に在職しており、日本のアニメーション製作技術を習得することを希望していた。上告人の代表者は、同社に出資していたことが契機となって被上告人を知り、被上告人の希望の実現に協力することにした。
 被上告人は、平成5年7月15日に来日して同年10月1日に出国した後、同月31日に来日して同6年1月29日に出国し、さらに、同年5月15日に来日し、それ以降我が国に滞在した。この1回目及び2回目の来日はいわゆる観光ビザによるもの、3回目の来日はいわゆる就労ビザによるものであった(以下、それぞれの来日を「1回目の来日」などという。)。
 (3) 被上告人は、1回目の来日の直後から、上告人の従業員宅に賄い付きで居住し(その費用は上告人が負担した。)、上告人のオフィスにおいて作業をした。被上告人は、上告人から、1回目及び2回目の来日期間並びに各来日の後に帰国した期間を含む平成5年8月分から同6年2月分までとして、毎月、基本給名目で12万円(これに加え、同5年8月分は特別手当名目で5万円)の支給を受けた。ただし、雇用保険料、所得税等の控除はされていなかった。上告人は、上記各支払の都度、その内訳を明記した給料支払明細書を被上告人に交付していた。なお、この当時、被上告人につきタイムカードや欠勤届、外出届等による勤務管理はされていなかった。
 (4) 被上告人は、1回目の来日をした平成5年7月ころから3回目の来日後である同6年11月ころまでの間、上告人が企画したアニメーション作品等のキャラクターとして用いるために、原判決別紙物件目録記載の図画を作成した。このうち、同目録中の番号一ないし六、八、九及び一九ないし二三の各図画(以下「本件図画」と総称する。)は3回目の来日前に作成されたものである。
 上告人は、本件図画を使用して、70ミリ・シージー・ステイション・シミュレーション・ライド・フィルム「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」(以下「本件アニメーション作品」という。)を製作し、これを日本国内のテーマパークにおいて上映した。被上告人の氏名は、本件アニメーション作品に本件図画の著作者として表示されていない。
 (5) 被上告人は、上告人に対し、平成8年6月6日付けで退職届を提出した。
2 本件は、被上告人が、本件図画についての著作権及び著作者人格権に基づいて、上告人に対し、本件アニメーション作品の頒布等の差止め及び損害賠償を求めた訴訟である。上告人は、本件図画は被上告人が上告人との間の雇用契約に基づいて職務上作成したものであるから、著作権法15条1項の規定により、その著作者は上告人であると主張した。
3 原審は、次のとおり判断して、被上告人の請求を一部認容した。
 1回目と2回目の来日には、被上告人がいわゆる就労ビザを取得していなかったこと、上告人が被上告人に対し就業規則を示して勤務条件を説明したと認められないこと、雇用契約書の存在等の雇用契約の成立を示す明確な客観的証拠がないこと、雇用保険料、所得税等が控除されていなかったこと、タイムカード等による勤務管理がされていなかったことに照らすと、3回目の来日前に、上告人と被上告人との間に雇用契約が成立したと認めることはできない。したがって、本件図画は被上告人が上告人の業務に従事する者として作成したものではなく、上告人がその著作者であるとすることはできないから、上告人による本件アニメーション作品の製作等は、被上告人の著作権及び著作者人格権の侵害に当たる。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 著作権法15条1項は、法人等において、その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて、同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには、著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして、法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である。
 (2) これを本件についてみると、上述のとおり、被上告人は、1回目の来日の直後から、上告人の従業員宅に居住し、上告人のオフィスで作業を行い、上告人から毎月基本給名目で一定額の金銭の支払を受け、給料支払明細書も受領していたのであり、しかも、被上告人は、上告人の企画したアニメーション作品等に使用するものとして本件図画を作成したのである。これらの事実は、被上告人が上告人の指揮監督下で労務を提供し、その対価として金銭の支払を受けていたことをうかがわせるものとみるべきである。ところが、原審は、被上告人の在留資格の種別、雇用契約書の存否、雇用保険料、所得税等の控除の有無等といった形式的な事由を主たる根拠として、上記の具体的事情を考慮することなく、また、被上告人が上告人のオフィスでした作業について、上告人がその作業内容、方法等について指揮監督をしていたかどうかを確定することなく、直ちに3回目の来日前における雇用関係の存在を否定したのである。そうすると、原判決には、著作権法15条1項にいう「法人等の業務に従事する者」の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、論旨は理由がある。
5 以上によれば、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、前記の点につき更に審理を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長 裁判官 梶谷玄  裁判官 福田博  裁判官 北川弘治  裁判官 亀山継夫  裁判官 滝井繁男)

著作権法
第十五条(職務上作成する著作物の著作者)
1 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。


「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」事件(差し戻し審判決)

事件番号  平成15年(ネ)第2088号
事件名  著作権使用差止請求控訴事件
裁判年月日  平成16年01月30日
裁判所名  東京高等裁判所 
判決データ:  CP-H15-ne-2088.pdf

第2 事案の概要
 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、別紙物件目録記載の図画(以下、併せて「本件全図画」と総称し、個別に「本件図画一」ないし「本件図画二三」という。)についての著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権に基づいて、本件全図画を使用したアニメーション作品「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」(以下「本件アニメーション作品」という。)の頒布及び頒布のための広告・展示の差止め並びに損害賠償を請求している事案である。

(判旨)
(2) 差戻し前控訴審判決は、1回目と2回目の来日には、控訴人がいわゆる就労ビザを取得していなかったこと、被控訴人が控訴人に対し就業規則を示して勤務条件を説明したと認められないこと、雇用契約書の存在等の雇用契約の成立を示す明確な客観的証拠がないこと、雇用保険料、所得税等が控除されていなかったこと、タイムカード等による勤務管理がされていなかったことに照らすと、3回目の来日前に、被控訴人と控訴人との間に雇用契約が成立したと認めることはできず、本件全図画のうち、本件係争図画は、控訴人が被控訴人の業務に従事する者として作成したものではなく、被控訴人がその著作者であるとすることはできないから、被控訴人による本件アニメーション作品の制作等は、控訴人の著作権及び著作者人格権の侵害に当たるとして、控訴人の請求のうち、本件係争図画についての著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権に基づいて、本件係争図画を使用した本件アニメーション作品の頒布及び頒布のための広告・展示の差止め並びに本件係争図画の使用料相当損害金150万円及び著作者人格権侵害によって被った無形の損害金100万円、合計250万円の損害賠償請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却した。同判決に対し、被控訴人のみが上告及び上告受理の申立てをした。
(3) 上告審は、上告を棄却したが、上告受理申立てを受理し、以下の理由により、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、上記部分につき本件を控訴審に差し戻した。

(中略)

 以上検討したところによれば、控訴人の上記主張はいずれも採用することができず、他に、上記推認を覆すに足りる証拠はないから、控訴人は、被控訴人の指揮監督下で労務を提供し、その対価として金銭の支払を受けていたものと認めるのが相当であり、控訴人と被控訴人との関係は、1回目の来日後から雇用関係であったというべきである。したがって、本件係争図画を含む本件全図画は、被控訴人の業務に従事していた控訴人が、その職務上作成したものということができる。
(4) そして、上記認定の事実によれば、本件係争図画の作成は被控訴人の発意に基づくものであり、かつ、本件係争図画は被控訴人が自己の著作の名義の下に公表することが予定されていたものと認めるのが相当である。そうすると、本件係争図画は、控訴人が被控訴人との間の雇用契約に基づいて職務上作成したものであるから、著作権法15条1項の規定により、その著作者は被控訴人というべきである。

 2 結論
   以上によれば、控訴人が著作者であることを前提とする本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
   よって、原告の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。


原判決
事件番号  平成9年(ワ)第5200号
事件名  著作権使用差止請求事件
裁判年月日  平成11年07月12日
裁判所名  東京地方裁判所 
判決データ:  CP-H09-wa-5200.pdf  CP-H09-wa-5200-1.pdf

2 右認定した事実を基礎に検討すると、以下のとおり、原告と被告との間に、平成五年七月一五日ころ、雇用契約が締結されたと解することができる。すなわち、@被告の代表者である【B】は、原告と契約を締結するに当たって、あらかじめ勤務時間、給与等の諸条件を説明し、原告もこれを了解しているが、その合意の内容は、雇用契約と解するのが合理的であること、A被告から原告に対しては、原告がデザインを作成した出来高と関係なく、給与等の名目で毎月定額が支払われており、給与支払明細書が同時に交付され、また、その後、雇用保険料及び所得税の源泉徴収がされているが、このような措置に対して、原告は一切異議を述べたことはないことに照らすと、原告が支給を受けた金員の性質について、請負等の業務に対する対価と解する余地は全くないこと、B被告から原告に対し支給された金額の多寡については、原告に対して賄い付きの下宿を提供していたこと、被告が原告の日本式のアニメーションに関する技術習得の希望に沿って協力していた事情に照らすと、給与として必ずしも低額とはいえないこと、C作業の状況をみると、就業に必要な作業場所、道具についてはすべて被告が用意していること、被告は、原告に対し、デザイン作成について、個別的具体的な指示をし、その指示に従って、原告が作業をしていること等の事情を総合的に考慮すると、原告と被告との間に締結された契約は、雇用契約であると解するのが相当である。
 以上によれば、本件図画は原、被告間の雇用関係に基づいて作成されたというべきであるから、本件図画は法人等の業務に従事する者が職務上作成したものというべきである。
 そして、前記認定の事実に照らし、本件図画の作成は法人である被告の発意に基づくものであり、かつ、本件図画は被告の法人名義の下に公表することが予定されているものであるといえる(なお、被告の就業規則中には、著作物の作成者に著作権を留保する旨の別段の定めはなく、かえってその著作権を被告に帰属させる趣旨の定めがあることは前記認定のとおりである。)。
 そうすると、本件図画は、被告に著作権が帰属することになるから、原告に著作権が帰属することを前提とする本件請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。





「ときめきメモリアル」事件

事件番号  平成11年(受)第955号
事件名  損害賠償等請求事件
裁判年月日  平成13年02月13日
法廷名  最高裁判所第三小法廷
判決データ:  CP-H11-Ju-955.pdf

         主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
         
         理    由
1 事案の概要
 本件は、コンピュータ用ゲームソフト「ときめきメモリアル」(以下「本件ゲームソフト」という。)について著作者人格権を有する被上告人が、商品名「X-TERMINATOR PS版 第2号 ときメモスペシャル」というメモリーカード(以下「本件メモリーカード」という。)を輸入、販売する上告人の行為は、被上告人の有する同一性保持権を侵害するものであると主張して、慰謝料を請求する事案である。
 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、本件ゲームソフトについて著作者人格権を有する。本件ゲームソフトは、ゲームを行う主人公(プレイヤー)が架空の高等学校の生徒となって、設定された登場人物の中からあこがれの女生徒を選択し、卒業式の当日、この女生徒から愛の告白を受けることを目指して、3年間の勉学や出来事、行事等を通してあこがれの女生徒から愛の告白を受けるのにふさわしい能力を備えるための努力を積み重ねるという内容の恋愛シミュレーションゲームである。
 本件ゲームソフトにおいては、プレイヤーの能力値として9種類の表パラメータ(体調、文系、理系、芸術、運動、雑学、容姿、根性及びストレス)及び3種類の隠しパラメータ(女生徒のプレイヤーに対する評価を示すときめき度、友好度及び傷心度。以下、表パラメータと併せて「パラメータ」という。)の初期値が設定されている。そして、プレイヤーが選択できるコマンドが予め設定されるとともに、コマンドの選択により上昇するパラメータと下降するパラメータとが連動するように設定されており、プレイヤーが到達したパラメータの数値いかんにより女生徒から愛の告白を受けることができるか否かが決定される。本件ゲームソフトにおいては、初期設定の主人公の能力値からスタートし、あこがれの女生徒から愛の告白を受けることを目標として主人公自身の能力を向上させていくことが中核となるストーリーであり、その過程で主人公の能力値の達成度等に応じて他の女生徒との出会いがあるという設定となっており、そのストーリーは、一定の条件下に一定の範囲内で展開されるものである。
(2) 上告人は、本件メモリーカードを輸入し、522個販売した。本件メモリーカードには、データの記憶単位(ブロック1ないし13)に本件ゲームソフトで使用されるパラメータがデータとして収められ、プレイヤーは、本件ゲームソフトのプログラムを実行するに当たり、本件メモリーカードの任意のブロック内のデータをゲーム機のハードウエアに読み込んで、そのデータを使用することができる。
(3) 本件ゲームソフトにおいては、主人公の能力値が低い段階からスタートし、コマンドの選択により上昇するパラメータと下降するパラメータとが連動する形で設定されているため、最も効率よく表パラメータの数値を上昇させることができたとしても、卒業間近の時点で特定少数の表パラメータを高数値にするのが限度であり、プレイヤーの主体的な操作のみで9種類の表パラメータのほとんどを高数値にすることはできない。また、表パラメータの数値が一定値に達する時期までは女生徒が登場しない前提でストーリーの展開が図られている。
 これに対し、本件メモリーカードのブロック1ないし11のデータを使用すると、入学直後の時点でストレス以外の表パラメータのほとんどが極めて高い数値となり、これがあこがれの女生徒に合った達成度でプレイできるような数値である結果、入学当初から本来は登場し得ない女生徒が登場する。
 また、本件メモリーカードのブロック12又は13のデータを使用すると、ゲームスタート時点が卒業間近の時点に飛び、その時点でストレス以外のすべての表パラメータの数値が本来ならばあり得ない高数値に置き換えられ、かつ、あこがれの女生徒から愛の告白を受けるのに必要な隠しパラメータの数値を充たすようにデータが収められており、必ずあこがれの女生徒から愛の告白を受けることができるようになっている。
 2 上告代理人山本紀夫、同山本智子の上告受理申立て理由四について
 本件ゲームソフトの影像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるものであるところ、前記事実関係の下においては、本件メモリーカードの使用は、本件ゲームソフトを改変し、被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。けだし、本件ゲームソフトにおけるパラメータは、それによって主人公の人物像を表現するものであり、その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ、本件メモリーカードの使用によって、本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに、その結果、本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され、ストーリーの改変をもたらすことになるからである。
 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 3 同五について
 本件メモリーカードは、前記のとおり、その使用によって、本件ゲームソフトについて同一性保持権を侵害するものであるところ、前記認定事実によれば、上告人は、専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入、販売し、多数の者が現実に本件メモリーカードを購入したものである。そうである以上、上告人は、現実に本件メモリーカードを使用する者がいることを予期してこれを流通に置いたものということができ、他方、前記事実によれば、本件メモリーカードを購入した者が現実にこれを使用したものと推認することができる。そうすると、本件メモリーカードの使用により本件ゲームソフトの同一性保持権が侵害されたものということができ、上告人の前記行為がなければ、本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害が生じることはなかったのである。したがって、専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入、販売し、他人の使用を意図して流通に置いた上告人は、他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、被上告人に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。
 所論の点に関する原審の判断は、結論において正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣)





スケジュール管理ソフト「PIMソフト」事件

事件番号  平成14年(ワ)第10893号
事件名  著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日  平成15年01月28日
裁判所名  東京地方裁判所 
判決データ:  CP-H14-wa-10893.pdf   CP-H14-wa-10893-1.pdf

第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 当事者
 原告は、コンピュータソフトウェアの企画、製作、販売等を業とする会社である(弁論の全趣旨)。
 被告有限会社ビットギャング(以下「被告ビットギャング」という。)は、インターネットを利用した通信販売業務、広告・宣伝・印刷及びその企画・製作並びに販売等を業とする会社である。被告株式会社メディアプロジェクトニジュウイチ(以下「被告メディアプロジェクト21」という。)は、一般労働者派遣事業、芸能・スポーツに関する興行の企画及び実施等を業とする会社であり、タレントであるAの所属プロダクションである。
(2) 原告製品の販売(甲1ないし3、弁論の全趣旨)
 原告は、平成12年12月から、「Pim−face ver2.0」の
名称を有するスケジュール管理ソフト(以下「原告製品」という。)を販売してい
た。
  (3) 原告製品の特徴(甲1ないし9、弁論の全趣旨)
 原告製品は、「PIM(Pesonal Information Management)」と呼ばれるスケジュール管理ソフト(以下「PIMソフト」という。)の一種であり、マッキントッシュ又はウィンドウズのOS上で動作可能である。
 原告製品は、「フェイス」というプログラムの背景画像を変更することができる。原告製品は、原告が運営するサイト「www.PIM−point.com」からユーザーがダウンロードできるが、ユーザーはさらに気に入ったフェイス(40種類以上)をダウンロードし、原告製品を好みの背景に変えることができる。また、原告製品にはネット接続機能があり、ユーザーが原告製品の上部中央にあるシンクロ・ボタンを押すと、ユーザーが使用している原告製品上に「メッセージ」として広告が配信されたり、ユーザーが入力したスケジュールがサーバにアップロードされたりする。ユーザーがスケジュールを携帯電話で確認することも可能となっている。
(4) 被告ビットギャングの行為
 被告ビットギャングは、別紙物件目録1ないし3記載のソフトウェア及び同ソフトウェアを収納した記録媒体(以下「被告製品」という。)を制作し、販売している。同被告が制作販売している「pimca」には、同被告が平成13年9月以降に東洋紡に対しプロモーション用のサンプル版として販売した「pimca ver1.0」(以下「被告製品1」という。)と、同被告が平成14年7月27日以降に出荷しているAの写真を背景画面に掲載した「pimca ver2.0」(以下「被告製品2」という。)があり、別紙物件目録3記載の製品は、被告製品2をCDーROMに収納したものである。
 被告製品については、ユーザーが入力したスケジュールがサーバにアップロードされたり、ユーザーがスケジュールを携帯電話で確認することはできない。
2 本件は、被告らによる被告製品の制作販売行為が、@不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たる、A原告の原告製品に対する著作権(複製権、翻案権)を侵害する、B民法709条の不法行為に当たる、と主張して、被告製品の販売又は頒布等の差止め及び損害賠償を請求する事案である。
3 本件の争点
(1) 被告メディアプロジェクト21に当事者適格があるかどうか
(2) 被告製品は原告製品の形態を模倣したものであるかどうか
(3) 著作権(複製権、翻案権)侵害の成否
(4) 不法行為に基づく損害賠償請求権の有無
(5) 損害の発生及び数額

(判旨)
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(被告メディアプロジェクト21の当事者適格について)
  原告は、被告メディアプロジェクト21が、被告ビットギャングとともに、別紙物件目録3記載の製品を販売したものとして、被告メディアプロジェクト21に対して差止め及び損害賠償の請求をしているところ、このような給付の訴えにおいては、その訴えを提起する者が給付義務者であると主張している者に被告適格が認められるのであって、被告メディアプロジェクト21が別紙物件目録3記載の製品を販売したかどうかは本案請求の当否にかかわる事項であると解すべきであるから、本件訴訟が訴訟要件を欠くことはない。
 2 争点(3)(著作権侵害の成否)について
(1) 著作物の複製又は翻案が認められるためには、原告製品の表現上の創作性を有する部分が被告製品と実質的に同一であるか又は被告製品から原告製品の表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができなければならないと解される。
 弁論の全趣旨によると、原告製品は、PIMソフトといわれるものの一種であり、その基本的な機能は、個人のスケジュール管理、アドレス帳及び日記の3つに集約されるものと認められる。しかし、個人のスケジュール管理、アドレス帳、日記といったものについては、それぞれその機能に由来する必然的な制約が存在するものであるし、また、コンピュータの利用が行われるようになる前から、紙製の手帳、アドレス帳、日記帳といったものが存在していたのであるから、このような紙製の手帳等に用いられている書式や構成は、原告製品よりはるか前から既に知られていたものである。さらに、証拠(乙1)と弁論の全趣旨によると、他に多くのPIMソフトが存在するものと認められるから、これらのPIMソフトにおいて知られているありふれた書式や構成というものが存在すると考えられる。そうすると、原告製品の表示画面については、各表示画面における書式の項目の選択やその並べ方、各表示画面の選択・配列などの点において、作成者の知的活動が介在し、作成者の個性が創作的に表現される余地があるが、作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は、上記の理由により限定されているものというべきであるから、被告製品が原告製品の複製又は翻案であるかどうかを判断するに当たっては、以上のような点を十分考慮する必要があるものというべきである。
(2) 原告製品と被告製品の対比
 ア 原告製品と被告製品1との対比(原告製品と被告製品1の各表示画面の内容は別紙1のとおりである。)
 証拠(甲7、10、14ないし18、甲19の1ないし3、検甲1、検乙3)と弁論の全趣旨に基づき、原告製品と被告製品1について、個々の表示画面及び画面の選択・配列を対比して、両者の間の共通点を抽出し、これらの共通点が創作性を有するものであって、被告製品1が原告製品の表現上の創作性を有する部分と実質的に同一であるか又は被告製品から原告製品の表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかどうか、すなわち、複製又は翻案であるかどうかを、以下、検討する。
 (ア) 週表示画面
 原告製品及び被告製品1においては、@画面の左側半分全体に、週の7日間を順番に縦に表示していること、A1週間の表示においては、日付と曜日の右横に各日の大まかなスケジュールが表示される窓が配されていること、B1週間の表示における日付と曜日は、略正方形状のボックス内に表示されており、日付が大きく上に、曜日が英語の略語表記で下に小さく配され、このボックスには影が付され、ボックスが浮いて見えるようになっていること、C1週間の表示における大まかなスケジュールの表示部分が横長の長方形の形状とされていること、D1週間の表示の左側上下には、週を移行するための上向き、下向きのボタンがそれぞれ設けられていること、E画面の右側下部には、特定日のスケジュール又はダイアリーを表示する窓部分があり、その上にスケジュールとダイアリーの切替えを行うボタンが設けられていて、切り替えるようになっていること、Fスケジュール/ダイアリー表示窓の右上にはインプットボタンがあり、スケジュール画面でこのボタンを押すと、スケジュール入力画面が別画面として表示され、そこで入力すると、1週間の表示の部分と特定日のスケジュールの部分の双方に表示されること、G画面の右上には、スケジュール/ダイアリー表示窓で表示の対象となっている日が、1週間の表示部分と同様なボックス内に表示されており、スケジュール/ダイアリー表示窓で表示の対象となっている日は、1週間の表示の日付をクリックすることによって変わること、H週移行ボタン、1週間表示の各日付ボタン、スケジュール又はダイアリーの切替えボタン、インプットボタンを押したときに効果音を発することの各点で共通する。
 しかし、証拠(乙8の1、2)と弁論の全趣旨によると、1ページの左側半分全体に、週の7日間を順番に縦に表示し、その部分においては、日付と曜日の右横に各日のスケジュールを記載する横長の長方形の形状の枠が設けられており、1ページの右側に、更に詳細な予定等を記載する部分が設けられている手帳は、従来からよく知られていたものと認められる。そうすると、上記共通点のうち、@、A、Bのうち1週間の表示における日付と曜日は、日付が大きく上に、曜日が英語の略語表記で下に小さく配されていること、C、Eのうち画面の右側下部に特定日のスケジュール又はダイアリーを表示する窓部分があることは、従来からよく知られているありふれた書式であるということができるから、これらの共通点があるとしても、複製又は翻案が基礎づけられるものではない。上記Bのとおり、1週間の表示における日付と曜日が、略正方形状のボックス内に表示されており、ボックスには影が付され、ボックスが浮いて見えるようになっている点は共通するが、ボックスの形状が原告製品の場合正方形であるのに対し、被告製品1の場合は左下が円弧状となっており、異なっている。上記Dについては、このボタンは、ソフトウェアの機能上必要なものであって、これが設けられていること自体は、複製又は翻案を基礎づけるものではないし、その位置は、共通しているが、ボタンの形状は明らかに異なっている上、原告製品の場合、上向き下向きのボタンの間に、表示している部分の西暦が数字で月が数字及び英語で表記されているのに対し、被告製品1の場合はこのような表記がない代わりに中央に「今日」に移行する正方形のボタンが配されている点で異なっている。上記Eのうち、スケジュールとダイアリーを1つの窓で切り替えるようにしていること自体は、アイディアであるし、ボタンの位置は、共通している部分があるが、ボタンの形状は明らかに異なっている。上記Fのうち、スケジュール画面でインプットボタンを押すと、スケジュール入力画面が別画面として表示され、そこで入力すると、1週間の表示の部分と特定日のスケジュールの部分の双方に表示されることは、共通しているが、入力すると、1週間の表示の部分と特定日のスケジュールの部分の双方に表示されることは、機能上当然のことであると考えられるし、入力画面の項目やレイアウトは異なっている(甲14)上、インプットボタンの位置は、共通している部分があるが、ボタンの形状は明らかに異なっている。上記Gについては、この表示が設けられていることやスケジュール/ダイアリー表示窓で表示の対象となっている日が1週間の表示の日付をクリックすることによって変わること自体は、アイディアである上、その位置には、共通している部分があるが、ボックスの形状が原告製品の場合正方形であるのに対し、被告製品1の場合は右上が円弧状となっており、異なっている。上記Hについては、ボタンを押した際に効果音が出るようにすること自体はアイディアであるが、その音も原告製品では水の泡の音に近いのに対し、被告製品1では水の泡の音とは異なっている。
 以上に加えて、原告製品と被告製品1の週表示画面を対比すると、@原告製品の場合、「WEEK」、「MONTH」、「ADDRESS」、「PROFILE」ボタンが上部にあって、太陽の形状をしたマークで区切られているのに対し、被告製品1の「Weekly」、「Monthly」、「Address」、「Tool」ボタンは、左下部にあり、独立していること、A原告製品が特定の日に移行するための「GO!」ボタンを備えているのに対し、被告製品1は上記のとおり画面左端中央に「今日」に移行するためのボタンを備えていること、B原告製品はネット接続のための太陽の形状をした「SYNC」ボタンを、上部中央に備えているのに対し、被告製品1はネット接続のための社名を表示したリンクボタンを右下に備えていること、C被告製品1では、「pimca bar」が上部に配され、時間表示と共に直近の予定が書き込まれている場合には、それを表す文字が流れるようになっており、その左には、クリックすると、被告ビットギャングのサイトにリンクするボタンがあるが、原告製品はこれらを備えていないこと、D原告製品の場合、右下に4つのシールボタンが表示されているのに対し、被告製品1はこれを備えていないこと、E年月の表示位置が、原告製品の場合、上記のとおり左側であるのに対し、被告製品1は、月が中央上部に、西暦が左上に表示されていること、F原告製品の場合、「SCHEDULE」、「DIARY」ボタンと並んで「MESSAGE」ボタンがあるのに対し、被告製品1の場合はこれに対応するボタンがないこと、G被告製品1は、左側の1週間の表示部分に背景画像が透けて見えているのに対して、原告製品では、そのようなことはないこと、H被告製品1では、右側のスケジュール/ダイアリー表示窓の上に枠で囲まれた部分があり、そこにユーザーが画像を貼り付けるなどすることができるが、原告製品には、このような窓はないこと、以上の点で異なっている上、画像の絵(背景画面に表示されている女優等)も明らかに異なっている。
 以上によると、被告製品1の週表示画面は、原告製品の週表示画面を複製又は翻案したものということはできない。

(中略)

 (オ) 原告製品全体と被告製品2全体との対比
  原告製品全体と被告製品2全体との対比については、被告製品1について述べたところが当てはまるから、被告製品2は、その全体においても原告製品を複製又は翻案したものということはできない。
 (3) よって、著作権侵害を理由とする請求は、理由がない。
3 争点(2)について
 (1) 不正競争防止法2条1項3号にいう不正競争行為に当たるためには、被告製品と原告製品の形態が同一又は実質的に同一であることを要する。そして、形態が同一又は実質的に同一であるかどうかを判断するに当たっては、当該商品と同種の商品が通常有する形態を除外した上、製品全体を比較して判断すべきであるということができる。
 (2) 前記2で検討したところによると、次のようにいうことができる。
 ア 原告製品と被告製品1の対比
  (ア) 週表示画面
   原告製品の週表示画面と被告製品1の週表示画面とでは、@画面の左側半分全体に、週の7日間を順番に縦に表示していること、A1週間の表示においては、日付と曜日の右横に各日の大まかなスケジュールが表示される窓が配されていること、B1週間の表示における日付と曜日は、日付が大きく上に、曜日が英語の略語表記で下に小さく配されていること、C1週間の表示における大まかなスケジュールの表示部分が横長の長方形の形状とされていること、D画面の右側下部には、特定日のスケジュール又はダイアリーを表示する窓部分があることが共通するが、これらは、いずれも、手帳の形式として、従来からよく知られていたものであるから、原被告製品と同種の商品が通常有する形態であると認められる。そして、その他の点については、前記2で認定したとおり、原告製品と被告製品1の週表示画面には、違いがある。したがって、原告製品の週表示画面と被告製品1の週表示画面の形態が同一又は実質的に同一であるということはできない。

(中略)

 イ 原告製品と被告製品2の対比
  (ア) 週表示画面
   上記ア(ア)で認定した原告製品と被告製品1の共通点は、原告製品と被告製品2では存しないから、被告製品2の週表示画面の形態は、被告製品1以上に、原告製品の週表示画面の形態とは同一又は実質的に同一であるということはできない。
  (イ) その他の画面
   上記ア(イ)ないし(エ)で認定したところがそのまま当てはまる。
  (ウ) 原告製品全体と被告製品2全体との対比
   上記(ア)(イ)のとおり、個々の画面の形態が同一又は実質的に同一であるということができない以上、原告製品全体と被告製品2全体の形態が同一又は実質的に同一であるということはできない。
 (3) よって、不正競争防止法に基づく請求は、理由がない。
4 争点(4)について
   原告は、仮に被告製品の制作・販売が原告の原告製品に対する著作権の侵害ないし不正競争行為に該当しないとしても、被告の行為は民法上の一般不法行為(同法709条)に該当すると主張する。
   しかしながら、市場における競争は本来自由であるべきことに照らすと、著作権侵害行為や不正競争行為に該当しない行為については、当該行為が、ことさら相手方に損害を与えることを目的として行われたなどというような特段の事情が存在しない限り、民法上の一般不法行為を構成することもないというべきである。したがって、このような特段の事情の認められない本件において、原告の一般不法行為の主張は、理由がない。
5 以上により、原告の請求はいずれも理由がない。







「超時空要塞マクロス」著作権事件

事件番号  平成14年(ネ)第1911号
事件名  著作権確認等請求控訴事件
裁判年月日  平成14年10月02日
裁判所名  東京高等裁判所
判決データ:  CP-H14-ne-1911.pdf

第2 事案の概要
 本件は、昭和57年10月3日から昭和58年6月26日までの間に訴外株式会社毎日放送をキー局として放映された原判決添付別紙アニメーション目録記載の連続テレビジョン放送用アニメーション「超時空要塞マクロス」全36話(以下「本件テレビアニメ」という。)に使用された設定画及びアニメカットである原判決添付別紙目録1ないし41記載の各図柄(以下「本件各図柄」という。)について、被控訴人株式会社スタジオぬえの従業員であるA及びBことC、並びにAの友人であり、被控訴人スタジオぬえと協力関係にある訴外株式会社アートランドに所属するDことEの3者(以下「Aら3名」という。)が、被控訴人株式会社スタジオぬえの発意に基づき、その業務に従事する過程で創作したものであり、被控訴人株式会社スタジオぬえは本件各図柄に係る著作権を取得し、また、被控訴人株式会社ビックウエストは被控訴人株式会社スタジオぬえからその著作権の持分権を譲り受け、著作権を共有していると主張して、被控訴人らが控訴人に対して、被控訴人らが本件各図柄について著作権を有することの確認、及び本件各図柄を使用した映画の制作の差止めを求めた事案である。
 原判決は、被控訴人ら主張の上記の請求原因事実を認め、また、本件テレビアニメの制作の経緯からすれば、被控訴人株式会社スタジオぬえは控訴人に対して本件各図柄の著作権を明示又は黙示に譲渡する旨の意思表示をした旨の控訴人主張の抗弁を排斥して、被控訴人らが本件各図柄につき著作権を有することの確認を求める本訴請求を認容し、映画の制作の差止めを求める本訴請求については、控訴人が将来映画の制作をするおそれがあるとは認められないとして、これを棄却した。これに対し、控訴人が本件控訴を提起した。

(判旨)
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被控訴人らが本件各図柄の著作権を有することの確認を求める本訴請求は理由があるものと判断するが、その理由は、次のとおり控訴人の当審における抗弁の主張に対する判断を付加するほか、原判決が「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」として説示するとおりである(但し、原判決8頁22行目の「乙1ないし3、6、12ないし14。」を「乙1ないし3、6、12ないし14、検乙1ないし3。」と、同11頁12行目の「主人公」を「主人公のキャラクター」と、同12頁21行目の「主として」を「Aら3名の指揮監督の下に主として」と、同13頁2行目の「Aら」を「Aら3名」と、同16頁6行目の「同図柄の原図柄」を「同原図柄」と、同9行目の「Aら」を「Aら3名」と改め、同17頁4行目の「従事していたこと、」の次に「本件テレビアニメの制作過程においてアニメカットの作画作業に要したアニメフレンド等に対する制作費の支払いは形式的には控訴人によってなされているが、実質的には被控訴人ビックウエストが負担していること、」を加える。)。なお、控訴人は、本件の控訴理由補充書において、原判決の事実認定の誤りを主張し、当審において、その主張に沿う乙第21、第22号証、第24、第25号証の各陳述書を提出しているが、原判決掲記の本件各証拠及び当審提出の甲第20号証並びに弁論の全趣旨によれば、原判決認定の事実を優に認めることができ、これに反する上記の各陳述書の供述記載部分は、採用することができない。
2 控訴人の当審における抗弁の主張(追加)に対する判断
  (1) 控訴人は、当審において、本件各図柄の制作にAら3名が参加したとしても、アニメーション映画制作会社の業界においては、アニメーション映画に使用される図柄の著作権の買い上げについて、個別の契約を締結することなく、控訴人のようなアニメーション映画制作会社に対してアニメーターが制作した図柄の著作権を当然に譲渡する旨の黙示の合意又は事実たる慣習ないし商慣習が存在している旨主張し、これに沿う証拠として、乙第24号証、第26、第27号証の各陳述書を提出している。
 しかしながら、当審提出の甲第21ないし第23号証及び弁論の全趣旨によれば、本件当時においても、アニメーション映画制作会社とアニメーション映画に使用される図柄の制作者側との間で、その図柄の著作権の帰属について、個別に契約が締結され、現に契約書が作成される例があったことが認められるのであり、アニメーション映画制作会社の業界において、アニメーション映画に使用される図柄の制作の経緯等の個別事情に関わりなく、一般的にアニメーション映画に使用される図柄の著作物を創作した者がその著作権をアニメーション映画制作会社に対して当然に譲渡する旨の黙示の合意又は事実たる慣習ないし商慣習が存在することについては疑問が多いといわざるを得ない。そして、乙第24号証、第26、第27号証中の控訴人の上記主張に沿う供述記載部分は、具体性に乏しい内容であること、及び甲第21号証の陳述書中の控訴人の上記主張を否定する内容の供述記載部分に照らせば、乙第24号証、第26、第27号証中の上記の供述記載部分は、直ちに採用することができず、他に、控訴人の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない(なお、本件におけるAら3名の本件各図柄の制作の経緯等の個別事情において、被控訴人らが控訴人に対して、本件各図柄の著作権を譲渡する旨の黙示的な合意が存在したことを認定することができないことは、原判決が判決書16、17頁に「2 抗弁について」として説示するとおりである。)。
  (2) 控訴人は、控訴人主張のように、アニメーション映画に使用される図柄の著作権の黙示の譲渡の合意又は事実たる慣習ないし商慣習が存在しなければ、アニメーション映画の制作が事実上不可能になる旨主張している。
 しかしながら、アニメーション映画制作会社がアニメーション映画を制作するに当たり、それに利用する図柄の著作権の譲渡を受けなくても、その著作物をアニメーション映画に利用することについて予め著作権者の許諾を得ていれば、アニメーション映画の制作に支障がないことは明らかであり、本件においても、原判決が上記(1)の箇所において説示するとおり、本件各図柄の著作権者である被控訴人株式会社スタジオぬえは、控訴人に対して、本件各図柄を本件テレビアニメに利用することについて許諾を与える意思表示をしたとみることができるのであるから、控訴人の上記主張は、失当である。
  (3) 以上のとおり、控訴人の当審における追加的な抗弁の主張も、採用することができない。
第4 結論
 以上の次第で、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。





著作権仮処分命令申立事件(「イサム・ノグチ」事件)

事件番号  平成15年(ヨ)第22031号
事件名  著作権仮処分命令申立事件
裁判年月日  平成15年06月11日
裁判所名  東京地方裁判所 
判決データ:  CP-H15-yo-22031.pdf  CP-H15-yo-22031-1.pdf

  主  文
1 債権者らの申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者らの負担とする。

第2 事案の概要
 債務者法人は、その経営に係る慶應義塾大学(以下「慶應大学」という。)の東京都港区三田所在の三田キャンパスにおいて、慶應義塾大学大学院法務研究科(以下「法科大学院」という。)を開設するために、新校舎を建設するに当たり、同キャンパス内に存する建築家谷口吉郎(故人)と彫刻家イサム・ノグチ(故人)が共同設計したという第二研究室棟(以下、本決定においては、第二研究室棟の建物全体を指して「本件建物」という。)を解体し、本件建物の一部、イサム・ノグチ製作に係る本件建物に隣接する庭園及び庭園に設置された彫刻2点を、新校舎3階部分に移設する工事を実施しようとしている。債権者ザ・イサム・ノグチ・ファウンデイション・インク(以下「債権者イサム・ノグチ財団」という。)は、イサム・ノグチの死後、同人の著作物に関する一切の権利を承継したとして、債務者の行為はイサム・ノグチの著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであると主張し、また、同財団を除くその余の債権者11名(以下「債権者教員ら」という。)は、いずれも慶應大学の教員であるが、世界的文化財の同一性を享受することを内容とする文化的享受権を有するなどとし、債務者の行為は同権利を侵害するものであるなどと主張して、いずれも債務者に対し、本件建物等の解体、移設工事の差止めを求めている。

(判旨)
第5 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件申立ての適格)について
(1) 債権者イサム・ノグチ財団の本件申立て適格について
ア(ア) そもそも、著作権法59条においては、「著作者人格権は、その性質上著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」と規定され、著作者の死亡とともに著作者人格権は消滅し、著作者人格権は、譲渡や相続の対象とならない性質のものであることが明確に示されており、これを前提とした上で、著作者の死後における人格的利益の保護を可能にするため、同法60条により、著作者の死後において、著作者が生存しているとしたならば、その著作者人格権の侵害となるべき行為が禁止され、かつ、同法116条において、同法60条に違反する行為等の侵害行為に対し、著作者の人格と密接な関係があり、著作者の生前の意思を最も適切に反映し得る者が差止請求権等を行使し得るものとされているのであるから、著作者死亡後における著作者人格権は、同法116条において認められた者が上記請求権等を行使するという限りで保護されるにすぎない。そして、同条1項は、著作者の遺族(死亡した著作者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)が上記請求権を行使し得るものとし、同条3項には、「著作者又は実演家は、遺言により、遺族に代えて第1項の請求をすることができる者を指定することができる。」と規定されていることからすれば、著作者の遺族以外の者は、著作者の遺言による指定を受けることによってのみ、上記の請求権を行使することが可能になる。
 本件においても、債権者イサム・ノグチ財団が、イサム・ノグチの著作者人格権を侵害された場合に差止め等の請求権を行使できるか否かは、イサム・ノグチが、遺言により債権者イサム・ノグチ財団を同条3項の請求権者として指定したかどうかによる。

(中略)

(エ) 以上にかんがみると、本件において提出されたすべての疎明資料を精査しても、本件遺言書において債権者イサム・ノグチ財団に遺贈された(そして併せて著作者人格権の行使についても委ねられたと解する可能性が存在する)残余遺産に何が含まれているのかについては、いまだ疎明がないというべきである。
エ 小括
 したがって、債権者イサム・ノグチ財団については、イサム・ノグチから我が国著作権法116条3項にいう「指定」を受けていたことについて疎明がされているということができないから、結局、被保全権利についての疎明がないことに帰するものであり、同債権者による本件仮処分の申立ては、主位的申立て、予備的申立てのいずれも却下すべきものである。

(中略)

(イ) 以上を前提に、本件工事によって、ノグチ・ルーム、庭園及び彫刻が一体となった建築の著作物、並びに彫刻の著作物が、改変される結果となるかどうかについて、検討する。
a 上記のとおり、ノグチ・ルームについてみると、ノグチ・ルームの東側についての空間的特性が失われること、一般的に鉄筋コンクリートの建築物はいったん解体してしまうと復元が難しいとされており、本件建物の壁面と一体となっているテラコッタタイルの復元は困難であることなどにかんがみれば、本件工事により、ノグチ・ルームにつき、製作者の意図した特徴が一部損なわれる結果を生じるといわざるを得ない。
b 「無」と題する彫刻は、ノグチ・ルームの西側庭園中央部に位置し、ノグチ・ルームの室内から見ると、日の沈む方向に設置されるなど、その形状・位置がノグチ・ルームとの位置関係を含めた庭園全体の構造において意味を持ち、庭園を構成する要素としてとらえることができるから、その設置場所の変更については庭園全体の改変に当たるかどうかという観点からの検討が必要である。この点については、前記のとおり、本件工事においては、「無」と題する彫刻はノグチ・ルームとの位置関係を含めて、彫刻の設置位置、向き等につき現状をそのまま復元することとされているから、同彫刻の移設のみによって庭園全体の改変につながるものではない。「学生」と題する彫刻は、現状において、既にイサム・ノグチが当初設置した場所から移設され、イサム・ノグチが意図した位置に所在しなくなっているものであるから、本件工事により、同彫刻が移設されることが、庭園全体の改変につながる余地はない。
c しかし、庭園全体についてみると、本件庭園は、イサム・ノグチが、庭園部が西側崖上に位置することから、庭園の大地性の表現のために、西側の崖の斜面から伸びている樹木を計算に入れ、庭園の南側がすぐに演説館と隣接しており、稲荷山の起伏、演説館の西部分、その裏側にある巨樹などが庭園にいる者の視野に入ることなどを考慮して、谷口と共に設計したものである。本件工事においては、庭園は、全体として、ノグチ・ルームとの位置関係を含めて現状を復元する形で移築されるものではあるが、前記のような、周囲の土地の形状等をも考慮に入れた上での製作者の意図は、本件工事の施工により失われてしまうことになる。したがって、庭園については、本件工事により、製作者の意図した特徴が損なわれる結果を生じるものである。
d なお、前述のとおり、彫刻については、これを庭園の構成要素として考慮するほか、独立の美術の著作物としても考慮することが可能であるが、独立した美術の著作物としての彫刻においては、製作者の意図は当該彫刻の形状・構造等によって表現されているものであるから、展示される場所のいかんによって、製作者の意図が見る者に十分に伝わらないということはない。したがって、独立の著作物としての前記各彫刻は、本件工事により改変されるものではない。
ウ 小括
 上記によれば、本件工事は、ノグチ・ルーム及び「無」と題する彫刻を含めた庭園の現状をできる限り維持した形でこれを移設しようとするものであるが、本件建物全体についてその形状が改変されるのはもちろんのこと、本件建物を特徴付ける部分であるノグチ・ルームについて製作者の意図する特徴を一部損なう結果を生じ、庭園についても周囲の土地の形状等をも考慮に入れた上での製作者の意図が失われるものであるから、ノグチ・ルームを含めた本件建物全体と「無」と題する彫刻を含めた庭園とが一体となった建築の著作物が、本件工事により改変され、著作物としての同一性を損なわれる結果となるといわざるを得ない。

(中略)

イ 前記の前提事実(第3の3の(1)及び(2))及び上記アの事実に照らし、著作権法20条2項2号の適用の有無について判断する。
 前記のとおり、本件においては、イサム・ノグチと谷口の共同著作に係る著作物としての、ノグチ・ルームを含む本件建物全体、庭園及び彫刻が一体となった建築の著作物と、独立の著作物としてのイサム・ノグチの著作に係る「無」、「学生」と題された各彫刻が問題となるものであるところ、このうち、ノグチ・ルームを含む本件建物全体、庭園及び彫刻が一体となった建築の著作物が、本件工事により改変を受けるものである。
 著作権法20条2項2号は、建築物については、鑑賞の目的というよりも、むしろこれを住居、宿泊場所、営業所、学舎、官公署等として現実に使用することを目的として製作されるものであることから、その所有者の経済的利用権と著作者の権利を調整する観点から、著作物自体の社会的性質に由来する制約として、一定の範囲で著作者の権利を制限し、改変を許容することとしたものである。これに照らせば、同号の予定しているのは、経済的・実用的観点から必要な範囲の増改築であって、個人的な嗜好に基づく恣意的な改変や必要な範囲を超えた改変が、同号の規定により許容されるものではないというべきである。
 これを本件についてみると、上記のとおり、本件工事は、法科大学院開設という公共目的のために、予定学生数等から算出した必要な敷地面積の新校舎を大学敷地内という限られたスペースのなかに建設するためのものであり、しかも、できる限り製作者たるイサム・ノグチ及び谷口の意図を保存するため、法科大学院開設予定時期が間近に迫るなか、保存ワーキンググループの意見を採り入れるなどして最終案を決定したものであって、その内容は、ノグチ・ルームを含む本件建物と庭園をいったん解体した上で移設するものではあるが、可能な限り現状に近い形で復元するものである。これらの点に照らせば、本件工事は、著作権法20条2項2号にいう建築物の増改築等に該当するものであるから、イサム・ノグチの著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものではない(仮に、イサム・ノグチの著作物として、上記のような本件建物全体と庭園とを一体としてとらえた建築の著作物ではなく、債権者らの予備的申立てにいうように、本件建物のうちノグチ・ルーム部分と庭園を問題とした場合であっても、ノグチ・ルームは建築物の一部分として著作権法20条2項2号の適用を受け、庭園もその性質上、同号の規定が類推適用されるものと解するのが相当であるから、上記の結論は変わらない。)。
ウ 著作権法60条但書の適用について
 著作者人格権は一身専属の権利であり、本来、著作者が存しなくなった後においてはその保護の根拠が失われるものであるが(同法59条)、著作権法は、著作者が存しなくなった後においても、一定の限度でその人格的利益の保護を図っている(同法60条)。
 この場合において、著作権法60条但書は、著作物の改変に該当する行為であっても、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が著作者の意を害しないと認められる場合には、許容されることを規定している。そして、著作者の意を害しないという点は、上記の各点に照らして客観的に認められることを要するものであるところ、本件においては、上記のとおり、本件工事は、公共目的のために必要に応じた大きさの建物を建築するためのものであって、しかも、その方法においても、著作物の現状を可能な限り復元するものであるから、著作者の意を害しないものとして、同条但書の適用を受けるものというべきである。
 したがって、仮に本件工事について著作権法20条2項2号が適用されないとしても、同法60条但書の適用により、本件工事は許容されるというべきである。

(3) 上記に判断したところによれば、いずれにしても、債権者イサム・ノグチ財団が被保全権利を有することが疎明されているということはできない。





チョコエッグフィギュア事件

<動物フィギュア…著作物性否定。 妖怪フィギュア…著作物性肯定。 アリスコレクション…著作物性否定。>

事件番号  平成16年(ネ)第3893号
事件名  違約金等本訴請求、不当利得返還反訴請求控訴事件
裁判年月日  平成17年07月28日
裁判所名  大阪高等裁判所 
判決データ:  CP-H16-ne-3893.pdf

(原審判決:  平成15年(ワ)第10346号 違約金等請求本訴事件  平成16年(ワ)第5016号 不当利得返還請求反訴事件)


  主  文  
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、被告の負担とする。

第2 事案の概要
 1(1) 本訴
    原告が、被告に対し、被告が製造販売する菓子類のおまけとなる各種のフィギュア(もともとは輪郭や人の姿の意味であるが、転じて人形や模型を指す。)の模型原型を原告が製造し、これを被告に提供するに当たり、両者の間で複数の著作権使用許諾契約を順次締結し、許諾料(ロイヤルティ)や違約金について定めていたところ、被告が原告に対し商品の製造数量について過少報告をし、また、未払いのロイヤルティがあると主張して、上記各契約に基づくロイヤルティ及び約定違約金(合計1億8011万7389円)の支払を請求した事案である。
  (2) 反訴
    被告が、原告に対し、前記各著作権使用許諾契約の一部について、上記各契約は、フィギュア模型原型が著作物であり、原告が著作権を有していることを前提として締結されたものであるが、実際にはフィギュア模型原型は著作物ではないから、錯誤により無効であり、また、ロイヤルティ支払規定は、ロイヤルティ率が高額に過ぎるから、公序良俗違反により無効であるなどと主張して、被告が原告に対して支払ったロイヤルティの一部(572万5048円)につき、不当利得返還を請求した事案である。
  (3) 原審は、フィギュア模型原型は著作物ではないと認定したが、前記各著作権使用許諾契約が錯誤又は公序良俗違反により無効であるとはいえないとして、原告の請求を、ロイヤルティ及び約定違約金合計1億6017万8278円並びにこれに対する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容したため、被告が本件控訴を提起した。

(判旨)
   オ 以上のチョコエッグ、チョコエッグクラシック、妖怪シリーズ及びアリス・コレクションは、いずれも菓子のおまけとして、各種のフィギュアがチョコレートの中のカプセルに入れられたり、キャンデーと共に箱詰めされた商品シリーズであるが、例えば、チョコエッグ(バラのもの)では65×43×43(o)のサイズのカプセルの中にフィギュアが収納されているし、妖怪シリーズでは140×98×53(o)の箱にキャンデー4個(妖怪根付の場合は2個)と共に収納されている。このように、本件フィギュアは、被告が販売する菓子のおまけとはいっても、手のひらに載るようなものではあるがそれなりの大きさがあり、被告も、商品の販売に際してフィギュアを需要者のコレクションの対象として強力に訴えており、商品としては、菓子よりもむしろ主たる地位を占めていると評価することもできる(特に、妖怪シリーズについては、パンフレットには大きくフィギュアに関する説明がされ、その下に小さく「キャンデー入り」と記載がされている。乙第30号証)。
  そして、原告は、フィギュアの製造会社として、この種のフィギュアのコレクターの間では高く評価され、根強い人気がある。
  のみならず、原告所属の造形師が制作した各種フィギュア(本件フィギュアを含む。)は、ニューヨーク自然史博物館に収蔵されたり、ヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展日本館において開催された「OTAKU:人格=空間=都市」と題する展示会で展示されるなどし、国内においても、東京都写真美術館、水戸芸術館現代美術ギャラリー等の美術館において展覧会が開催されるなど、現代美術として高い評価を受けている。(甲第56ないし第78号証、第99号証、乙第74号証)
  (2) 以上の認定をもとに検討する。
   ア 著作権法の規定
     著作権法2条1項1号は、著作物を、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義し、同法10条は、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」(1項4号)を著作物の例示として挙げている。一方、同法2条2項は、「この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。」と定めている。
   イ 純粋美術と応用美術の区別
    (ア) 美的創作物は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、制作者が当該作品を専ら鑑賞の対象とする目的で制作し、かつ、一般的平均人が上記目的で制作されたものと受け取るもの(純粋美術)と、思想又は感情を創作的に表現したものであるけれども、制作者が当該作品を上記目的以外の目的で制作し、又は、一般的平均人が上記目的以外の目的で制作されたものと受け取るものに分類することができる。
      いわゆる応用美術とは、後者のうちで、制作者が当該作品を実用に供される物品に応用されることを目的(以下「実用目的」という。)として制作し、又は、一般的平均人が当該作品を実用目的で制作されたものと受け取るものをいう。
    (イ) 前記アのように、著作権法は、著作物の例示中に「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を挙げた上で、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含む旨を規定しているから、「美術の著作物」は、純粋美術に限定されないことは明らかである。しかし、著作権法2条2項により「美術の著作物」に該当することが明らかである一品制作の美術工芸品を除く、その他の応用美術が「美術の著作物」に該当するかどうかは、同法の条文上、必ずしも明らかではない。
    (ウ) ところで、応用美術は、@純粋美術作品が実用品に応用された場合(例えば、絵画を屏風に仕立て、彫刻を実用品の模様に利用するなど)、A純粋美術の技法を実用目的のある物品に適用しながら、実用性よりも美の追求に重点を置いた一品制作の場合、B純粋美術の感覚又は技法を機械生産又は大量生産に応用した場合に分類することができる。このことに、本来、応用美術を含む工業的に大量生産される実用品の意匠は、産業の発達に寄与することを目的とする意匠法の保護対象となるべきものであること(意匠法1条)、これに対し、著作権法は文化の発展に寄与することを目的とするものであり(著作権法1条)、現行著作権法の制定過程においても、意匠法によって保護される応用美術について、著作権法による保護対象にもするとの意見は採用されなかったこと、一品制作の美術工芸品を越えて、応用美術全般に著作権法による保護が及ぶとすると、両法の保護の程度の差異(意匠法による保護は、公的公示手段である設定登録が必要である(方式主義)上、保護期間(存続期間)が設定登録の日から15年であるのに対し、著作権による保護は、設定登録をする必要はなく(無方式主義)、保護期間(存続期間)が著作物の創作の時から著作者の死後50年を経過するまでの間、法人名義の著作物は公表後50年を経過するまでの間等とされている。)から、意匠法の存在意義が失われることにもなりかねないことなどを合わせ考慮すると、応用美術一般に著作権法による保護が及ぶものとまで解することはできないが、応用美術であっても、実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるだけの美術性を有するに至っているため、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価される場合は、「美術の著作物」として、著作権法による保護の対象となる場合があるものと解するのが相当である。
    (エ) 以上の観点から、本件模型原型が「美術の著作物」に該当するか否かについて検討を加える。
   ウ 本件模型原型は純粋美術か否か。
    (ア) まず、本件模型原型は、前記認定のとおり、いずれも、実在する動物や、絵画に描かれた妖怪ないし人物等を立体的に表現したものである。
      本件模型原型は、実在する動物や、絵画に描かれた妖怪ないし人物等を立体的に表現するに当たって、誰が制作しても同じような表現にならざるを得ないような類型的な表現方法を用いたとはいえず、一定の限度で制作者の個性が表れているといえるから、思想又は感情を創作的に表現したものであるということができる(ただし、その創作性の程度には、後記のとおり高低がある。)。
    (イ) ところで、菓子製造販売業者が、菓子の需要者(主に子供たち)に人気のある動物、乗り物等を模した小さな玩具や、漫画のキャラクターを描いたシール、カード等をおまけとして付けることで、菓子の需要者のおまけに対する収集欲を刺激し、菓子の販売促進を図ることは、これまでも広く行われてきた(乙第46号証、公知の事実)。このような菓子等のおまけとなる玩具は、一般に「食玩」と称されている。
      本件フィギュアは、従来の食玩(検甲第14、第15号証、公知の事実)に比べて、極めて精巧なものであるとはいえ、その使用目的は、やはり菓子のおまけとして付けられ、菓子の販売促進を図ることにあることに変わりはないと認められる。そして、本件模型原型は、上記のような本件フィギュアを量産するための金型の原型及び彩色用の見本として用いられるものである。
    (ウ) してみると、本件模型原型は、前記(ア)のとおり思想又は感情を創作的に表現したものではあるけれども、制作者が、当該作品を専ら鑑賞の対象とする目的ではなく、実用目的で制作したものであり、かつ、一般的平均人が、実用目的で制作されたものと受け取るものというべきであるから、純粋美術には該当しないものと解するのが相当である。そして、上記制作目的及び一般的平均人の認識からすれば、本件模型原型は、応用美術に該当するものというのが相当である。
    (エ) なお、証拠(甲第22、第23号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件フィギュアは、その精巧さから、販売後は子供たちのみならず一部の大人たちの間でも人気が出たことが認められ、証拠(甲第54ないし第88号証、第99号証)及び弁論の全趣旨によれば、菓子の購入者の中には、菓子よりもおまけである本件フィギュアを目当てに購入した者が多かったこと、これらの者の多くは、本件フィギュアを鑑賞の対象として扱っていたことが認められる。
      しかし、純粋美術であれば、その巧拙を問わず著作物に該当し、著作権法による保護を受けることになるが、我が国の著作権制度のもとにおいては、著作権の成立には審査及び登録を要せず、著作権の対外的な表示も要求しない一方で、著作権侵害については刑事罰の規定も設けられていることを考慮すると、観る者によって当該作品を専ら鑑賞の対象とする目的で制作されたものと受け取るか否かの判断が異なるような作品についてまでも、純粋美術として著作権法による保護を与えることは、予測可能性を害するものであって、相当ではない。
      そして、上記各証拠をもってしても、本件フィギュアないし本件模型原型について、一般的平均人が専ら鑑賞の対象とする目的で制作されたものと受け取るとまでは認めがたい。
      また、制作者が、制作当時は、当該作品を専ら鑑賞の対象とする目的以外の目的で制作した作品が、制作後の事情により美術的な評価が高まり、当該作品が鑑賞の対象として取り扱われるようになったとしても、そのことにより、応用美術が純粋美術に転化し、著作物性を獲得するに至ると解することは、法的安定性を著しく害するものであって相当ではない。
      したがって、上記の事情は、前記(ウ)の判断を左右するものではない。
   エ 応用美術たる本件模型原型は著作物か否か。
    (ア) そこで、本件模型原型が応用美術であることを前提にして、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるか否かについて検討する。
    (イ) 本件動物フィギュア
      前記認定のとおり、本件動物フィギュアは、市販の動物図鑑、鳥類図鑑等をもとに、動物の形状等を、可能な限り、実際の動物と同様に立体的に表現し、色彩も、実際の動物と同様の色、模様が付されたものであり、極めて精巧なものであって、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、相当程度の美術性を備えていると評価されるものといえる。このことは、前記認定のとおり、原告の制作に係る各種フィギュアが各地の美術館等で展示され、高い評価を受けていることからも裏付けられる。
      しかしながら、上記のとおり、本件動物フィギュアは、実際の動物の形状、色彩等を忠実に再現した模型であり、動物の姿勢、ポーズ等も、市販の図鑑等に収録された絵や写真に一般的に見られるものにすぎず、制作に当たった造形師が独自の解釈、アレンジを加えたというような事情は見当たらない(なお、甲第51号証によれば、本件動物フィギュアの中には、あえて実際の動物と異なる形状等を採用しているものも存在するが、これは、美術性を高めるためにデフォルメしたというよりも、主に、型抜きの都合や、カプセルに収まる寸法を確保するなどの製造工程上の理由によるものと認められる。)。したがって、本件動物フィギュアには、制作者の個性が強く表出されているということはできず、その創作性は、さほど高くないといわざるを得ない。
      してみると、本件動物フィギュアに係る模型原型は、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるとまではいえず、著作物には該当しないと解される。

      なお、本件動物フィギュアのうち、ツチノコについては、モデルとなる動物の生息が確認されていないため、実際の動物の形状、色彩等を忠実に再現したものとはいえず、他の本件動物フィギュアに比べれば制作者の個性が強く表出されているということができるけれども、やはり、これまでに描かれた数多くの想像図をもとに制作されたものであって、それらから想像される一般的なイメージの域を超えるものではなく(甲第51号証、弁論の全趣旨)、いまだ純粋美術と同視し得る程度の美的創作性があるとまではいえない。
    (ウ) 本件妖怪フィギュア
      本件妖怪フィギュアは、本件動物フィギュアと異なり、空想上の妖怪を造形したものである。
      確かに、前記認定のとおり、本件妖怪フィギュアのなかには、石燕の「画図百鬼夜行」を原画とするものもある。
      しかし、平面的な絵画をもとに立体的な模型を制作する場合には、制作者は、絵画に描かれた妖怪の全体像を想像力を駆使して把握し、絵画に描かれていない部分についても、描かれた部分と食い違いや違和感が生じないように構成する必要があるから、その制作過程においては、制作者の想像力ないし感性が介在し、制作者の思想、感情が反映されるということができる。

      そして、前記認定のとおり、本件妖怪フィギュアは、石燕の原画を忠実に立体化したものではなく、随所に制作者独自の解釈、アレンジが加えられていること、妖怪本体のほかに、制作者において独自に設定した背景ないし場面も含めて構成されていること(特に、前記認定の「鎌鼬」、「河童」や、「土蜘蛛(つちぐも)」が源頼光及び渡辺綱に退治され、斬り裂かれた腹から多数の髑髏(どくろ)がはみ出している場面(甲第52号証)などは、ある種の物語性を帯びた造型であると評することさえも可能であって、著しく独創的であると評価することができる。)、色彩についても独特な彩色をしたものがあることを考慮すれば、本件妖怪フィギュアには、石燕の原画を立体化する制作過程において、制作者の個性が強く表出されているということができ、高度の創作性が認められる。
      また、本件妖怪フィギュアのうち、石燕の「画図百鬼夜行」を原画としないものについては、制作者において、空想上の妖怪を独自に造形したものであって、高度の創作性が認められることはいうまでもない。
      そして、前記認定のとおり、本件妖怪フィギュアは、極めて精巧なものであり、一部のフィギュア収集家の収集、鑑賞の対象となるにとどまらず、一般的な美的鑑賞の対象ともなるような、相当程度の美術性を備えているということができる。
      以上によれば、本件妖怪フィギュアに係る模型原型は、石燕の「画図百鬼夜行」を原画とするものと、そうでないもののいずれにおいても、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるものと認められるから、応用美術の著作物に該当するというのが相当である。

    (エ) 本件アリスフィギュア
      前記認定のとおり、本件アリスフィギュアは、テニエルの挿絵を立体化したものである。
      本件アリスフィギュアについても、本件動物フィギュア及び本件妖怪フィギュアと同様に、極めて精巧なものであって、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、相当程度の美術性を備えていると評価されるものといえる。
      しかしながら、本件アリスフィギュアは、平面的に描かれたテニエルの挿絵をもとに立体的な模型を制作する過程において、制作者の思想、感情が反映されるものであるから、創作性がないわけではないが、前記認定のとおり、本件アリスフィギュアは、テニエルの挿絵を忠実に立体化したものであり、立体化に際して制作者独自の解釈、アレンジがされたとはいえない
(この点において、本件妖怪フィギュアとは事情が異なる。)ことや、色彩についても、通常テニエルの挿絵に彩色する場合になされるであろう、ごく一般的な彩色の域を出ていないことを考慮すれば、本件アリスフィギュアには、テニエルの原画を立体化する制作過程において、制作者の個性が強く表出されているとまではいえず、その創作性は、さほど高くないといわざるを得ない(ただし、前記認定のとおり、他にもテニエルの挿絵に彩色したものがあるが、証拠上、これらがどのような色であったかは判然としない。また、一部には背景ないし場面を含めて造型されたものもあるが(例えば「チェシャ猫」の木)、これらの背景も、もともとテニエルの挿絵に描かれていたものである。)。
      してみると、本件アリスフィギュアに係る模型原型は、極めて精巧なものであるけれども、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、いまだ純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるとまではいえず、応用美術の著作物には該当しないと解される。




音楽著作権侵害事件(クラブ・キャッツアイ事件)

事件番号  昭和59年(オ)第1204号
事件名  音楽著作権侵害差止等
裁判年月日  昭和63年03月15日
法廷名  最高裁判所第三小法廷
判決データ:  CP-S59-o-1204.pdf

         主    文
     原判決中カラオケ演奏を伴奏とする歌唱による演奏権侵害を理由とする被上告人の損害賠償請求にかかる部分に関する本件上告を棄却する。
     その余の本件上告を却下する。
     訴訟費用は上告人らの負担とする。
         
         理    由
 上告代理人安部千春の上告理由について
 原審の適法に確定したところによれば、上告人らは、上告人らの共同経営にかかる原判示のスナック等において、カラオケ装置と、被上告人が著作権者から著作権ないしその支分権たる演奏権等の信託的譲渡を受けて管理する音楽著作物たる楽曲が録音されたカラオケテープとを備え置き、ホステス等従業員においてカラオケ装置を操作し、客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ、また、しばしばホステス等にも客とともにあるいは単独で歌唱させ、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益をあげることを意図していたというのであり、かかる事実関係のもとにおいては、ホステス等が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は上告人らであり、かつ、その演奏は営利を目的として公にされたものであるというべきである。けだし、客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的とするものであること(著作権法二二条参照)は明らかであり、客のみが歌唱する場合でも、客は、上告人らと無関係に歌唱しているわけではなく、上告人らの従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであって、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものであるからである。
 したがって、上告人らが、被上告人の許諾を得ないで、ホステス等従業員や客にカラオケ伴奏により被上告人の管理にかかる音楽著作物たる楽曲を歌唱させることは、当該音楽著作物についての著作権の一支分権たる演奏権を侵害するものというべきであり、当該演奏の主体として演奏権侵害の不法行為責任を免れない。カラオケテープの製作に当たり、著作権者に対して使用料が支払われているとしても、それは、音楽著作物の複製(録音)の許諾のための使用料であり、それゆえ、カラオケテープの再生自体は、適法に録音された音楽著作物の演奏の再生として自由になしうるからといって(著作権法(昭和六一年法律第六四号による改正前のもの)附則一四条、著作権法施行令附則三条参照)、右カラオケテープの再生とは別の音楽著作物の利用形態であるカラオケ伴奏による客等の歌唱についてまで、本来歌唱に対して付随的役割を有するにすぎないカラオケ伴奏とともにするという理由のみによって、著作権者の許諾なく自由になしうるものと解することはできない。
 右と同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に立つて原判決を論難するものであって、採用することができない。
 なお、上告人らは、原判決中カラオケ演奏を伴奏とする歌唱による演奏権侵害を理由とする被上告人の損害賠償請求を除くその余の請求にかかる部分については、上告理由を記載した書面を提出しない。
 よって、民訴法四〇一条、三九九条、三九九条ノ三、九五条、八九条、九三条に従い、上告理由に対する判断につき裁判官伊藤正己の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官伊藤正己の意見は、次のとおりである。
 私は、原審の確定した事実関係のもとにおけるカラオケ演奏に関して、上告人らは演奏権侵害の不法行為責任を負うものであるとして、右不法行為に基づく被上告人の損害賠償請求を認容した原判決は是認することができるとした多数意見の結論には賛成するが、その結論に至る理由づけには同調することができない。
 その理由は、以下のとおりである。
 多数意見は、上告人らがその共同経営にかかるスナック等において、カラオケ装置とカラオケテープとを備え置き、ホステス等従業員においてカラオケ装置を操作し、客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ、また、しばしばホステス等にも客とともにあるいは単独で歌唱させ、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益をあげることを意図していたという原判示の事実関係のもとにおいて、ホステス等が歌唱する場合だけでなく、客のみが歌唱する場合についても、その演奏(歌唱)という形態による音楽著作物の利用主体は営業主たる上告人らであると捉え、その演奏は営利を目的として公にされたものであるから、右演奏につき被上告人の許諾を得ていない上告人らは、当該演奏の主体として演奏権侵害の不法行為責任を免れない、とするものである。
 私見においても、カラオケ伴奏によりホステス等従業員が歌唱する場合に、営業主たる上告人らをもって、その演奏(歌唱)という形態による音楽著作物の利用主体と捉えることには異論はなく、また、ホステス等が客とともに歌唱する場合も、ホステス等と客の歌唱を一体的に捉えて利用主体は営業主たる上告人らであると解することができるであろう。しかしながら、客のみが歌唱する場合についてまで、営業主たる上告人らをもって音楽著作物の利用主体と捉えることは、いささか不自然であり、無理な解釈ではないかと考える。多数意見は、客のみが歌唱する場合でも、前記のような店の従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れるなど営利を目的としているとして、客による歌唱も著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるというのであるが、店の従業員による歌唱の勧誘等、多数意見の挙げる右の各事実を考慮しても、客は、上告人らとの間の雇用や請負等の契約に基づき、あるいは上告人らに対する何らかの義務として歌唱しているわけではなく、歌唱するかしないかは全く客の自由に任されているのであり、その自由意思によって音楽著作物の利用が行われているのであるから、営業主たる上告人らが主体的に音楽著作物の利用にかかわっているということはできず、したがって、客による歌唱は、音楽著作物の利用について、ホステス等従業員による歌唱とは区別して考えるべきであり、これを上告人らによる歌唱と同視するのは、擬制的にすぎて相当でないといわざるをえない。
 私は、カラオケ演奏については、右のようにカラオケ伴奏による歌唱の面で捉えるのではなく、カラオケ装置に着目し、カラオケ装置によるカラオケテープの再生自体を演奏権の侵害と捉えるのが相当であると考える。著作権法(昭和四五年法律第四八号をいう。但し、昭和六一年法律第六四号による改正前のもの。以下同じ。)附則一四条は、適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、放送又は有線放送に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間、「音ヲ機械的ニ複製スルノ用ニ供スル機器ニ著作物ノ適法ニ写調セラレタルモノヲ興業又ハ放送ノ用ニ供スルコト」は「偽作ト看做サス」とする旧著作権法(明治三二年法律第三九号をいう。以下同じ。)三〇条一項第八号の規定は、なおその効力を有する旨規定し、これを受けて著作権法施行令(昭和四五年政令第三三五号をいう。以下同じ。)附則三条一号は、右にいう「政令で定める事業」として、「喫茶店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」を挙げているところ、多数意見は、カラオケ装置の設置は「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」には該当しないとするものと解されるが、カラオケ装置は、カラオケテープを再生することにより客がこれを伴奏として公衆に直接聞かせるべく歌唱するための特別の設備であるから、かかる予定のもとにスナック等にカラオケ装置を設置することは、右にいう「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」そのものに当たるということはできないとしても、これに準ずるものとして、営利目的のカラオケ装置によるカラオケテープの再生については著作権法附則一四条による旧著作権法三〇条一項第八号の規定は働かないものと解するのが相当である。著作権法制定当時は今日のようなカラオケ装置の普及は予想されていなかったため、著作権法施行令附則三条は、カラオケ装置を念頭に置いた規定の仕方をしていないが、音楽の提供が直接収益に結びつかない事業に限って旧著作権法の規定を当分の間適用することとした著作権法附則一四条ないし著作権法施行令附則三条の立法趣旨に照らすと、右のように解することは、むしろ立法趣旨にそった解釈と考えられるからである。





プロサッカー選手のプライバシー侵害事件

事件番号  平成10年(ワ)第5887号
事件名  損害賠償請求事件
裁判年月日  平成12年02月29日
裁判所名  東京地方裁判所 
判決データ:  CP-H10-wa-5887.pdf   CP-H10-wa-5887-1.pdf

第二 事案の概要
 本件は、原告が被告らに対し、被告らが発行した別紙一「書籍目録」記載の書籍(以下「本件書籍」という。)が、原告のパブリシティ権、プライバシー権並びに著作者人格権(公表権)及び著作権(複製権)を侵害すると主張して、本件書籍の発行の差止め及び損害賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実(証拠(甲一、三、一八)により明らかに認められる事実を含む。)
1 原告は、平成七年に社団法人日本プロサッカーリーグ(いわゆる「Jリーグ」)を構成するサッカーチームであるベルマーレ平塚とプロ選手契約をしたプロサッカー選手であり、現在はイタリア共和国のプロサッカーリーグであるセリエAの構成チームの所属プレーヤーとして競技をしている。原告は、平成八年のアトランタ・オリンピック大会、同九年のワールドカップ・フランス大会の予選及び同一〇年の同大会の本大会に日本代表選手として出場し、また、同九年には世界選抜チームの選手に選出され、競技を行った。これに加え、原告は、テレビ、新聞、雑誌等の各種メディアで特集が組まれるなどして報道の対象となるほか、テレビコマーシャルに出演するなどしており、現在の日本サッカー界のみならず、スポーツ界におけるスター選手の一人であって、その氏名及び肖像は日本国内において広く知られている。
2 被告株式会社ラインブックス(以下「被告会社」という。)は、書籍、雑誌の出版、販売等を業とする会社であり、被告B(以下「被告B」という。)はその代表者である。
3 被告会社は本件書籍の発行所として、被告Bは本件書籍の著者兼発行者として、平成一〇年三月ころから、本件書籍の発行・販売をしている。
4 本件書籍は、原告の、出生からワールドカップ・フランス大会の本大会出場直前までの半生を、サッカーとのかかわりを中心に、数々の私生活上のエピソードを交えながら描いたものである。カバー表紙中央には原告の肖像写真が掲載され、本文中には、原告の幼少から学生時代、現在に至るまでの肖像を撮影した写真二三点(プロ選手契約締結以前のもの一四点、締結以後のもの九点)が、計二一頁にわたり掲載されている。また、原告が中学校在学当時に創作した「目標」と題する詩(以下「本件詩」という。)が、本件書籍の六五頁に掲載されている。
5 原告は、本件書籍の執筆、出版、販売及び宣伝広告に関し、被告らから取材はもとより事前の通知すら受けておらず、本件書籍に原告の氏名、肖像等を使用することについて、被告らに対して許諾を与えていない。

(判旨)
第三 争点に対する判断
一 争点1(パブリシティ権の侵害)について
1 原告は、被告らが本件書籍を発行・販売した行為が、原告がその氏名、肖像等の持つ経済的な利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利であるパブリシティ権を侵害する旨主張しているところ、いわゆるパブリシティの権利に関しては、次のとおりに解することができる。
 固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した著名人の氏名、肖像等を商品に付した場合には、当該商品の販売促進に有益な効果がもたらすことがあることは、一般によく知られているところである。そして、著名人の氏名、肖像等が持つ顧客吸引力について、これを当該著名人の獲得した名声、社会的評価、知名度等から生ずる独立した経済的利益ないし価値として把握し、当該著名人は、かかる顧客吸引力の持つ経済的価値を排他的に支配する財産的権利(いわゆる「パブリシティ権」)を有するものと解して、右財産権に基づき、当該著名人の氏名、肖像等を使用する第三者に対して、使用の差止め及び損害賠償を請求できるという見解が存在する。
 しかしながら、著名人は、自らが大衆の強い関心の対象となる結果として、必然的にその人格、日常生活、日々の行動等を含めた全人格的事項がマスメディアや大衆等による紹介、批判、論評等の対象となることを免れないし、また、現代社会においては、著名人が著名性を獲得するに当たり、マスメディア等による紹介等が大きくあずかって力となっていることを否定することができない。そして、マスメディア等による著名人の紹介等は、本来言論、出版、報道の自由として保障されるものであることを考慮すれば、仮に、著名人の顧客吸引力の持つ経済的価値を、いわゆるパブリシティ権として法的保護の対象とする見解を採用し得るとしても、著名人がパブリシティ権の名の下に自己に対するマスメディア等の批判を拒絶することが許されない場合があるというべきである。
 したがって、仮に、法的保護の対象としてもパブリシティ権の存在を認め得るとしても、他人の氏名、肖像等の使用がパブリシティ権の侵害として不法行為を構成するか否かは、具体的な事案において、他人の氏名、肖像等を使用する目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、右使用が他人の氏名、肖像等の持つ顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるかどうかにより判断すべきものというべきである。

(中略)

3 右に認定した事実によると、本件書籍は、その題号の主要部分として原告の氏名が用いられて表紙及び背表紙にこれが大書され、表紙中央部には原告の全身像のカラー写真が大きく表示されており、しかも、その冒頭部分及び本文中の随所に原告の写真が掲載されていて、原告の氏名及び肖像写真を利用して購入者の視覚に訴える体裁になっているということができる。
 しかし、本件書籍のうち、写真、サイン、本件詩等が掲載された部分を除く残りの約二〇〇頁は、関係者に対するインタビューその他の取材活動に基づいて、原告の生い立ちや言動について記述された文章で構成されており、これが本件書籍の中心的部分であるといえる。また、本文中に掲載された原告の写真は、その前後の文章で採り上げられた時期の原告に対応するものであって、本文の記述を補う目的で用いられたものということができる。
 他方、表紙、背表紙及び帯紙並びにグラビア頁に利用された原告の氏名及び肖像写真については、文章部分とは独立して利用されており、原告の氏名等が有する顧客吸引力に着目して利用されていると解することができる。しかし、右のような態様により原告の氏名、肖像が利用されているのは、本件書籍全体としてみれば、その一部分にすぎないものであって、原告の肖像写真を利用したブロマイドやカレンダーなど、そのほとんどの部分が氏名、肖像等で占められて他にこれといった特徴も有していない商品のように、当該氏名、肖像等の顧客吸引力に専ら依存している場合と同列に論ずることはできない。また、著名人について紹介、批評等をする目的で書籍を執筆、発行することは、表現・出版の自由に属するものとして、本人の許諾なしに自由にこれを行い得るものというべきところ、そのような場合には、当該書籍がその人物に関するものであることを識別させるため、書籍の題号や装丁にその氏名、肖像等を用いることは当然あり得ることであるから、右のような氏名、肖像の利用については、原則として、本人はこれを甘受すべきものである。
 以上によれば、本件書籍における原告の氏名、肖像等の使用は、その使用の目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察すると、原告の氏名、肖像等の持つ顧客吸引力に着目して専らこれを利用しようとするものであるとは認められないから、仮に法的保護の対象としてのパブリシティ権を認める見解を採ったとしても、被告らによる本件書籍の出版行為が原告のパブリシティ権を侵害するということはできない。

4 したがって、パブリシティ権侵害を根拠とする原告の請求は、理由がない。
二 争点2(プライバシー権の侵害)について
他人に知られたくない私生活上の事実、情報をみだりに公表されない利益ないし権利(いわゆる「プライバシー権」)は、個人の生活に不可欠な人格的利益として法的保護の対象となるものというべきである。そして、プライバシー権の侵害があるというためには、公表された内容が、(1)私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であって、(2)一般人の感性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり、(3)これが一般に未だ知られておらず、かつ、(4)その公表によって被害者が不快、不安の念をおぼえるものであることを、要するものと解するのが相当である。

(中略)

3 右認定の事実によれば、本件書籍の記述及び掲載された写真等のうち、原告がプロサッカー選手になった以降の原告に関するもの、並びに、プロサッカー選手になる以前の事項であっても、ジュニアユース等の日本代表選手として活躍した様子や、中学校及び高等学校のサッカー部での活動状況に関するものは、その少なくとも一部はこれまでに新聞、雑誌等で報道された事項であると解されるし、また、プロサッカー選手であるという原告の立場を勘案すれば、これらの事項は一般人の感性を基準として公開を欲しない事柄であるとまではいえないから、本件書籍中の右の記述は、プライバシー権を侵害するものでないということができる。
 これに対し、原告の出生時の状況、身体的特徴、家族構成、性格、学業成績、教諭の評価等、サッカー競技に直接関係しない記述は、原告に関する私生活上の事実であり、一般人の感性を基準として公開を欲しない事柄であって、かつ、これが一般の人々に未だ知られていないものであるということができる。そして、これが公表されたことによって原告は重大な不快感をおぼえていると認められる。さらに、幼少時代に出席した結婚披露宴でのものなど、サッカーという競技に直接関係しない写真や、本件詩についても、右と同様に解することができる。
 したがって、本件書籍にこれらを掲載した行為は、原告のプライバシー権を侵害するものというべきである。


(中略)

5 以上によれば、被告らによる本件書籍の発行・販売行為は原告のプライバシー権を侵害するものであり、原告はこれによって重大な被害を被っていると認められるから、原告は被告らに対し、侵害行為の差止め及び後述の損害賠償を求めることができるものと判断するのが相当である。
 なお、原告のプライバシー権を侵害すると認められる記述及び写真等は、本件書籍の一部にとどまるものではあるが、侵害に当たる部分とそれ以外の部分とを判然と区別することができず、侵害に当たる部分が本件書籍中で重要な部分を占めており、これを除いた場合には本件書籍が書籍としての体をなさなくなるものと認められることに照らすと、本件書籍全体の発行、販売及び頒布行為の差止めを認めるべきものである。

(中略)

四 争点4(複製権の侵害)について
1 本件詩の全文を本件書籍にそのまま掲載した被告らの行為が、本件詩の複製に当たることは明らかである。
2 被告らは、本件詩を本件書籍へ掲載した行為は、公表された著作物を引用して利用したものであって、著作権法三二条一項により著作権侵害の責任を負わないと主張している。
 本件詩が「公表された著作物」に当たることは、前記三のとおりであるので、本件における被告らの行為が右条項の「引用」に該当するかどうかについて検討する。
 「引用」とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の全部又は一部を採録することをいい、これが右条項所定の「その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」との要件に該当するといえるためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される著作物とを明瞭に区分して認識することができ、かつ、右両著作物間に、前者が主、後者が従の関係があることを要するものと解すべきである。
 これを本件についてみるに、証拠(甲一、乙一)によれば、本件詩は一五行から成るものであるが、本件書籍にはその全文が掲載されていること、本件詩は、前記学年文集に原告の自筆による原稿が写真製版された形で掲載されていたところ、本件書籍の六五頁の中央部に、これがそのまま複写された形で掲載されていること、右の頁は、本件詩の下部に「中学の文集でAが書いた詩。強い信念を感じさせる。」とのコメントが付されている以外は余白となっていること、本件書籍の本文中には本件詩に言及した記述は一切ないことが認められる。
 右認定の事実によれば、本件書籍の読者は本件詩を独立した著作物として鑑賞することができるのであり、被告らが本件書籍中に本件詩を利用したのは、被告らが創作活動をする上で本件詩を引用して利用しなければならなかったからではなく、本件詩を紹介すること自体に目的があったものと解さざるを得ない。
 右のとおり、本件書籍のうちの本件詩が掲載された部分においては、その表現形式上、本文の記述が主、本件詩が従という関係があるとはいえない(むしろ、本件詩が主であるということができる。)から、被告らが本件詩を本件書籍に掲載した行為が、著作権法上許された引用に該当するということはできない。
3 したがって、原告は被告らに対し、複製権侵害に基づいて、被告らが本件詩を複製することの差止め(なお、複製権侵害に当たるのは本件詩を掲載した頁のみであるからこれを理由として差止めを求め得るのも右の限度に限られるが、前述のとおり、プライバシー権侵害を理由として、本件書籍全体の差止めが認められる。)及び後述の損害賠償を求めることができる。


上記プロサッカー選手のプライバシー侵害事件についての控訴審判決(控訴棄却)

事件番号  平成12年(ネ)第1617号
裁判年月日  平成12年12月25日
裁判所名  東京高等裁判所 
判決データ:  CP-H12-ne-1617.pdf





「ピンク・レディー」事件

<いわゆるパブリシティ権の侵害に該当しない>

事件番号  平成20年(ネ)第10063号
事件名  損害賠償請求控訴事件
裁判年月日  平成21年08月27日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  CP-H20-ne-10063.pdf

第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(パブリシティ権侵害の有無)について
(1) いわゆるパブリシティ権に係る検討
 氏名は、人が個人として尊重される基礎で、その個人の人格の象徴であり、人格権の一内容を構成するものであって、個人は、氏名を他人に冒用されない権利・利益を有し(最高裁昭和58年(オ)第1311号昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁参照)、これは、個人の通称、雅号、芸名についても同様であり、また、個人の私生活上の自由の1つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するもの(最高裁昭和40年(あ)第1187号昭和44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)であって、肖像も、個人の属性で、人格権の一内容を構成するものである(以下、これらの氏名等や肖像を併せて「氏名・肖像」という。)ということができ、氏名・肖像の無断の使用は当該個人の人格的価値を侵害することになる。したがって、芸能人やスポーツ選手等の著名人も、人格権に基づき、正当な理由なく、その氏名・肖像を第三者に使用されない権利を有するということができるが、著名人については、その氏名・肖像を、商品の広告に使用し、商品に付し、更に肖像自体を商品化するなどした場合には、著名人が社会的に著名な存在であって、また、あこがれの対象となっていることなどによる顧客吸引力を有することから、当該商品の売上げに結び付くなど、経済的利益・価値を生み出すことになるところ、このような経済的利益・価値もまた、人格権に由来する権利として、当該著名人が排他的に支配する権利(以下、この意味での権利を「パブリシティ権」という。)であるということができる。
 もっとも、著名人は、自らが社会的に著名な存在となった結果として、必然的に一般人に比してより社会の正当な関心事の対象となりやすいものであって、正当な報道、評論、社会事象の紹介等のためにその氏名・肖像が利用される必要もあり、言論、出版、報道等の表現の自由の保障という憲法上の要請からして、また、そうといわないまでも、自らの氏名・肖像を第三者が喧伝などすることでその著名の程度が増幅してその社会的な存在が確立されていくという社会的に著名な存在に至る過程からして、著名人がその氏名・肖像を排他的に支配する権利も制限され、あるいは、第三者による利用を許容しなければならない場合があることはやむを得ないということができ、結局のところ、著名人の氏名・肖像の使用が違法性を有するか否かは、著名人が自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利と、表現の自由の保障ないしその社会的に著名な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担との利益較量の問題として相関関係的にとらえる必要があるのであって、その氏名・肖像を使用する目的、方法、態様、肖像写真についてはその入手方法、著名人の属性、その著名性の程度、当該著名人の自らの氏名・肖像に対する使用・管理の態様等を総合的に観察して判断されるべきものということができる。そして、一般に、著名人の肖像写真をグラビア写真やカレンダーに無断で使用する場合には、肖像自体を商品化するものであり、その使用は違法性を帯びるものといわなければならない。一方、著名人の肖像写真が当該著名人の承諾の下に頒布されたものであった場合には、その頒布を受けた肖像写真を利用するに際して、著名人の承諾を改めて得なかったとして、その意味では無断の使用に当たるといえるときであっても、なおパブリシティ権の侵害の有無といった見地からは、その侵害が否定される場合もあるというべきである。
 この点につき、控訴人らは、パブリシティ権侵害の判断基準として、「当該著名な芸能人の名声、社会的評価、知名度等、そしてその肖像等が出版物の販売促進のために用いられたか否か、その肖像等の利用が無断の商業的利用に該当するかどうか」によるべきであると主張する。しかしながら、出版事業も営利事業の一環として行われるのが一般的であるところ、正当な報道、評論、社会的事象の紹介のために必然的に著名人の氏名・肖像を利用せざるを得ない場合においても、著名人が社会的に著名な存在であって、また、あこがれの対象となっていることなどによって、著名人の氏名・肖像の利用によって出版物の販売促進の効果が発生することが予想されるようなときには、その氏名・肖像が出版物の販売促進のために用いられたということができ、また、営利事業の一環として行われる出版での著名人の氏名・肖像の利用は商業的理由ということができる。そして、控訴人ら主張に係る上記基準における「出版物の販売促進のために用い」ることや「商業的利用」につき、このような場合をも含むものであるとすると、そのような基準に依拠するのでは、出版における正当な報道、評論、社会的事象の紹介のための著名人の氏名・肖像の利用も許されない結果となるおそれも生じることからしても、控訴人らの主張は一面的に過ぎ、採用し得ないというべきである。
 他方、被控訴人は、パブリシティ権侵害の判断基準として、「その使用行為の目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、その使用行為が当該芸能人等の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるといえるか否かにより判断すべきである」と主張する。しかしながら、このうち、その使用行為が「専ら」当該芸能人等の顧客吸引力の利用を目的とするか否かによるべきとする点は、出版等につき、顧客吸引力の利用以外の目的がわずかでもあれば、そのほとんどの目的が著名人の氏名・肖像による顧客吸引力を利用しようとするものであったとしても、「専ら」に当たらないとしてパブリシティ権侵害とされることがないという意味のものであるとすると、被控訴人の主張もまた、一面的に過ぎ、採用し得ないというべきである。

(中略)

・・・上記のとおり、本件記事におけるこれらの写真の掲載は、読者にピンク・レディーの楽曲の振り付けで踊ってダイエットをすることを紹介し、これを勧めることに関連して、読者にピンク・レディーが活躍したことの記憶を喚起してもらおうとする趣旨によるものと解することができ、本件記事が実質的に控訴人らの肖像そのものを鑑賞するグラビア記事であるということはできない。
 なお、上記のとおり、ピンク・レディーが昭和50年代に子供から大人に至るまで幅広く支持を受け、その振り付けをまねることが社会的現象にさえなったことに照らし、本件雑誌の購入者中には、当時や現在においてピンク・レディーのファンであるなどで、本件記事にピンク・レディーの氏名・肖像が登場したことによって購買意欲を高められ、本件雑誌を購入した者が仮にいたとしても、上記のとおり、本件記事の主題は、ピンク・レディーの楽曲の振り付けで踊ることによってダイエットをすることを紹介して勧める記事ということができ、本件記事における本件写真の使用をもって違法性があるということはできない。
 また、控訴人らの肖像写真が雑誌に使用されて控訴人らにその使用の対価が支払われたとしても、少なくとも、本件記事における本件写真の使用につき違法とすることができないとの本件の結論に影響するものではない。

原審判決
事件番号  平成19年(ワ)第20986号
事件名  損害賠償請求事件
裁判年月日  平成20年07月04日
裁判所名  東京地方裁判所  
判決データ:  CP-H19-wa-20986.pdf





「仏壇彫刻」事件

事件番号  昭和49年(ワ)第291号
事件名  著作権侵害事件
裁判年月日  昭和54年07月09日
裁判所名  神戸地方裁判所   姫路支部
判決データ:  CP-S49-wa-291.pdf  CP-S49-wa-291-1.pdf

一 原告本人尋問の結果(第一回)によりいずれも原告製作の彫刻を使った仏壇の全体および部分の写真と認められる甲第一号証の一ないし一五、同第二号証の一ないし一六、同本人尋問の結果(第一回)により原告製作の彫刻の原型の写真と認められる甲第四号証の一ないし一一、同本人尋問の結果(第一回)、検証の結果によれば、原告が本件彫刻を製作したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
 ところで、本件においては、著作権法二条一項の規定する著作物性の要件たる、本件彫刻の創作性および美術性が争われているので、まず、これらの点について順次判断する。
二 本件彫刻の創作性について考える。
 原告本人尋問の結果(第一、二回)および検証の結果を総合すると、原告は昭和二八年中学卒業と同時に彫刻師の従弟となり数年間仏壇を含む各種彫刻の製作につき修業をしたのち、昭和三二年頃に独立し、爾来仏壇彫刻の製作・研究を行ってきたこと、従来仏壇彫刻は手彫り(木彫)で製作されていたが、原告は、将来大量生産の可能なプラスチック製仏壇彫刻が普及すると予想し、昭和三〇年代の後半から木彫りとかわらない状態に仕上げることのできるプラスチック製仏壇彫刻の製作の研究に取り掛け、昭和四四年頃、本件彫刻(原型・木彫)を完成し、以来、そのプラスチック製品を次の方法により製作し市販するようになったこと、本件彫刻は、右原型からシリコンゴムで型枠をとり、その中にポリエステル樹脂(プラスチックの一種)を注入して製作されうるため、その大量生産が可能であること、原告は、右原型の考案に際しては、多年に亘り、多くの古文書および古典仏壇彫刻を網羅し参考としつつ、仏壇彫刻師としての美的感覚と技法を駆使し、既製仏壇を模写することなく特異の美的表象を創案すべく、殊に型枠使用による大量生産にも適合するように配慮しながら、右彫刻の紋様を立体的、写実的に精巧かつ端麗な表現を表象するよう、独自の執刀方法で描くことに苦心したすえ、独自の創意による本件彫刻(原型)を完成したこと、以上の事実が認められ、後記措信しない証拠(人証)を措いて、他に右認定に反する証拠はない。
 右認定事実に前出甲第一号証の一ないし一五、同第二号証の一ないし一六、同第四号証の一ないし一一および検証の結果により認められる本件彫刻の形状・構成をあわせ考えると、本件彫刻は原告が長年の研究の成果として独自の着想により仏教美術の一部に属する仏壇装飾につき感情を創作的に表現したものと認めることができる。
 もっとも、被告は、仏壇彫刻の紋様は古来より特定のものに限局され、永年にわたりこれを模写してきたものにすぎず、製作者により殊更創作的に表現されうるものではない、と主張している。
 なるほど、証人Aの証言によれば、仏壇彫刻の文様は、既に室町桃山時代から特定の紋様に限局され、本件彫刻の紋様も当時既に存在していたことが認められ(これに反する証拠はない)、また、原告が本件彫刻の完成につき古文書および古典仏壇彫刻を研究しこれを参考にしたことは前判示のとおりである。
 しかしながら、著作物の創作性は当該著作物が著作者の独自の創意工夫により著作されたか否かにあり、その表現形式等において先人の影響が存したからといって直ちにこれを否定されるべきではなく、具体的著作物がその模写ではなくそこに知的創造活動が認められるときは、その著作物に創作性を肯定すべきものと解するのが相当である(したがって、著作権における創作性は相対的なものであり、工業所有権における創作性の如く新規性すなわち絶対的な独創性を要しないといわねばならない)。
 本件彫刻は、原告がその独自の創意工夫により完成したものであり、その表現形式も独特の着想に基づくこと、前段所述のとおりであって(これに反する、右彫刻に何らの特異性も認められないという証人B、同Aの証言は、これを裏付けるに足る適確な補強証拠がないのでにわかに措置できない)、また、被告が本件彫刻の完成前からあった仏壇彫刻と主張する乙第一ないし第三号証も、本件彫刻と対照するに、これと類似するものではないと検証することができ、他に本件彫刻が先人の模写に留まるものとする確証は存在しないところである。したがって、被告の前記主張は採用することができない。
 以上のとおりであるから、本件彫刻は原告の独創に基づくものといわねばならない。
三 次に、本件彫刻の美術性について考える。
 本件彫刻が、仏壇内部の装飾につき美的表現を目的とした美術に関する著作であることは、前判示のとおりである。
 一般に、美術は、(1)個別に製作された絵画・版画・彫刻の如く、思想または感情が表現されていて、それ自体の鑑賞を目的とし、実用性を有しない純粋美術と、
(2)実用品に美術あるいは美術上の感覚・技法を応用した応用美術に分かれ、後者すなわち応用美術はさらに、(イ)純粋美術として製作されたものをそのまま実用品に利用する場合、(ロ)既成の純粋美術の技法を一品製作に応用する場合(美術工芸品)、および、(ハ)右純粋美術に見られる感覚あるいは技法を画一的に大量生産される実用品の製作に応用する場合等に細分されていることは周知のところである。
 本件彫刻は、前判示のとおり、原型たる木彫そのものを一品として鑑賞するものではなく、原型に合わせて型枠をシリコンゴムで作り、これにプラスチックを注入して同型のものを大量に製作し、これを仏壇の装飾に利用することを目的としているものであるから、前記応用美術のうち(ハ)の部類に属するものと解される。
 ところで、著作権法は、その二条一項一号で美術の範囲に属するものを著作物の対象とすると規定するとともに、同条二項では、「美術の著作物」には美術工業品を含む、と規定しているので、応用美術のうち美術工芸品に属しないものは美術の著作物として著作権法の保護の対象となりうるかは問題である。
 応用美術をどこまで著作権法の保護対象となすべきかは意匠法等工業所有権制度との関係で困難な問題が存すること周知のところであるが、著作権を意匠権を対比してみると、等しく視覚を通じた美感を対象とする作品であっても、著作権の対象とされると、何らの登録手続や登録料の納付を要せずして当然に著作権が成立し、かつ、著作者の死後五〇年間右権利の存続が認められるのに対し、意匠権にあっては、設定登録によって初めて発生し、登録料の支払を要し、その存続期間も設定登録の日から一五年間に限られており、両者の保護の程度は著しく相異していること(なお、意匠権以外の工業所有権にあっては、その実施義務が課されている)、および、産業上利用を目的とする創作は総じて意匠法等工業所有権制度の保護対象としていること等を勘案すると、応用美術であっても、本来産業上の利用を目的として創作され、かつ、その内容および構成上図案またはデザイン等と同様に物品と一体化して評価され、そのものだけ独立して美的鑑賞の対象となしがたいものは、当然意匠法等により保護をはかるべく、著作権を付与さるべきではないが、これに対し、実用品に利用されていても、そこに表現された美的表象を美術的に鑑賞することに主目的があるものについては、純粋美術と同様に評価して、これに著作権を付与するのが相当であると解すべく、換言すれば、視覚を通じた美感の表象のうち、高度の美的表現を目的とするもののみ著作権法の保護の対象とされ、その余のものは意匠法(場合によっては実用新案法等)の保護の対象とされると解することが制度相互の調整および公平の原則にてらして相当であるというべく、したがって、著作権法二条二項は、右の観点に立脚し、高度の美的表現を目的とする美術工芸品にも著作権が付与されるという当然のことを注意的に規定しているものと解される。
 そうだとすると、図案・デザイン等は原則として意匠法等の保護の対象とのみなることは勿論のこと、工業上画一的に生産される量産品の模型あるいは実用品の模様として利用されることを企図して製作された応用美術作品も原則的に専ら意匠法等の保護の対象になるわけであるが、右作品が同時に形状・内容および構成などにてらし純粋美術に該当すると認めうる高度の美的表現を具有しているときは美術の著作物として著作権法の保護の対象となりうるわけである。
 本件についてみると、本件彫刻は仏壇の装飾に関するものであるが、表現された紋様・形状は、仏教美術上の彫刻の一端を窺わせ、単なる仏壇の付加物ないしは慣行的な添物というものではなく、それ自体美的鑑賞の対象とするに値するのみならず、前判示の如く、彫刻に立体観・写実観をもたせるべく独自の技法を案出駆使し、精巧かつ端整に作品を完成し、誰がみても、仏教美術的色彩を背景とした、それ自体で美的鑑賞の対象たりうる彫刻であると観察することができるものであり、その対象・構成・着想等から、専ら美的表現を目的とする純粋美術と同じ高度の美的表象であると評価しうるから、本件彫刻は著作権法の保護の対象たる美術の著作物であるといわなければならない。したがって、これに反する被告の主張は採用することができない。
四 以上のとおりであるから、本件彫刻は著作権法の保護の対象たる著作物に該当するといわなければならない。
五 そこで、被告が本件彫刻を複製したか否かについて判断する。
 被告製作の仏壇の全体および部分の写真であることに争いのない甲第三号証の一ないし一九、成立に争いのない甲第五・第六号証、証人C、同D(一部)、同B(一部)の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)および検証の結果を総合すると、被告は昭和四七年三月二二日原告から本件彫刻たる花鳥紋様のものおよび獅子牡丹紋様のもの各一組(いずれも前机部分の彫刻を含む。)を金一三万円で買受けたこと、被告は右彫刻を、そのままで、あるいは、製作の都合上別紙目録1記載の彫刻については天女紋様の手の部分の形を変え、同11記載の彫刻については岩の紋様の配置を変え、獅子の紋様の一部を削除し、同7、9、16、18記載の各彫刻については全体の大きさを変えるなど、その一部紋様の配置や大きさを変え、または、一部を削除するなどの修正を加えたうえ、シリコンゴムで型枠をとり、右型枠にプラスチックを注入して仏壇彫刻を製作し、右彫刻を被告製作の仏壇の装飾に使用し、展示し、販売したことが認められ、証人Bおよび同Dの証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比してにわかに措信できず、他に右認定に反する証拠はない。
 右認定事実に検証の結果を総合すると、被告が製作した前記彫刻は本件彫刻の表現上の特徴をすべて備えており、本件彫刻を複製し利用したものというべきであり、したがって、被告の右行為は原告の本件彫刻についての著作権(複製権)を侵害するものというべきである。
 もっとも、被告は、被告製作にかかる右彫刻は本件彫刻と全く同一でなく、その大きさ・配置等が異なるから、その複製とはいえない、と主張するが、著作物複製の有無は、創作にかかる具体的表現が製作物中に利用されたか否かにあり、末節において多少の修正等が施されていても、当該作品が原作の再現と感知させるものはなお複製とみるのが相当であって、本件においても、前記認定のとおり、その作品の出来映えなどからすれば、被告の施した修正は微細なものにすぎず、本件彫刻と彼此対比すると、被告製作にかかる右彫刻が本件彫刻の再現であることは容易に首肯することができ、被告の本件彫刻取得の経緯、その利用の方法・目的などをも勘案するとき、被告製作の右彫刻は本件彫刻の複製であり、改作あるいは新作等には当らないものというべく、したがって、被告の前記主張は採用することができない。
 なお、被告が本件彫刻につき、かつてその二次的著作物の製作を試みあるいは、将来その製作を試みるおそれについては、なんら立証がないから、被告に対し右二次的著作物の完成品、半製品およびその製造に使用する型枠の廃棄を求める原告の請求は理由のないものである。
六 原告本人尋問の結果および検証の結果によれば、原告は、前記のとおり被告に本件彫刻を売却する際、被告会社代表者に対し、右彫刻が永年研鑚の成果であるので、盗用しないように注意したこと、および、右彫刻の裏面には「意匠登録申請済、実用新案申請済、不許複写複製」と記載された紙片が貼付されていたことが認められ(これに反する証拠はない)、右事実および被告が仏壇製造業者であること(この事実は当事者間に争いがない。)に照らすと被告は、前記複製行為が本件著作権を侵害することにつき、少なくとも過失があったものということができる。
七 進んで、原告の損害について判断する。
 1 財産物損害について
 成立に争いのない乙第四号証、証人Dおよび同Bの各証言、検証の結果によれば、被告は昭和四九年三月頃から本件彫刻の複製物を製造使用するようになり、同年八月二〇日までに、トヨセに描かれた象鼻の彫刻以外は本件彫刻の複製物を使用した姫路型仏壇を二五台、スミ段に別紙目録番号11記載の彫刻の複製物を使用した仏壇を少なくとも八四台、それぞれ製作して販売したことが認められ、証人Bの証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比してにわかに措信できず、他に右認定に反する証拠はない。
 成立に争いのない乙第五号証の一ないし二七、同第六号証の一ないし二八および証人Bの証言によれば、昭和四九年頃の被告が製造する姫路型仏壇一台の製造原価は金六〇万円であり、これを金八五万円を下らない金額で小売店へ卸しており、右仏壇一台につき少なくとも金二五万円の純利益を得ていたことが認められる。
 ところで、弁論の全趣旨によれば、原告は仏壇彫刻のみを製造販売し、仏壇そのものの製造販売はしていなかったことが認められ、また、証人Cの証言によれば、仏壇価格のうち仏壇彫刻価格の占める割合は二割を下らないことが認められ(これら認定に反する証拠はない)、すると、ほかに特段の事情の認められない本件においては、原告が製造する姫路型仏壇一台の販売利益のうち、昭和四九年頃、仏壇彫刻部分の占める割合は前記利益金二五万円の二割すなわち金五万円を下らないものと認めるのが相当である。
 そして、前記姫路型仏壇の仏壇彫刻について、本件彫刻を複製使用していない部分はトヨセに描かれた象鼻の部分のみであることは前判示のとおりであり、かつ、検証の結果によると、右象鼻の部分は右仏壇彫刻全体のうち、極めて微細かつ付加的なものと認められるから、本件彫刻を複製使用したことによって被告の得た利益は、前記利益金五万円全額に等しいものと評価するのが相当である。
 そうすると、被告が右姫路型仏壇を製造販売して得た本件彫刻の複製部分についての純利益は、前記認定の一台あたり利益金五万円に販売台数二五台を乗じた金一二五万円となり、これは著作権法一一四条一項により原告の被った損害と推定され、右推定を覆すに足りる証拠はない(なお付言すると、原告は、被告の右複製物と同量の本件彫刻を被告が原告から買受けていれば原告が得たであろう利益をもって、著作権法一一四条一項による原告の損害になると主張しているが、しかし、同項は著作権侵害行為によって侵害者の得た利益をもって著作権者の被った損害と推定する規定であると解されるから、原告主張の右損害額算定方法は採用しえない)。
 次に、被告がスミ段の一部に本件彫刻の一部を複製使用した仏壇八四台を製造販売したことによる原告の損害を検討するに本件全証拠によるも被告が右著作権侵害行為によつて得た利益の額を認定することができず、他に原告の損害を認めるに足りる証拠はない。
 2 弁護士費用について
 原告が原告訴訟代理人に本件訴訟を委任し、相当の着手金および報酬を支払うことを約したことは弁論の全趣旨により認められ、本件事案の内容、訴訟の経緯、認容された請求部分その他本件にあらわれた事情を勘案すると、被告の支払うべき弁護士費用は金五〇万円と解するのが相当である。
八 以上のとおりであって、原告の請求は、被告に対し本件彫刻の複製と右複製物の販売、頒布、展示の差止、右複製物の完成品および半製品ならびにその製造に使用する型枠の廃棄、および、財産的損害金一二五万円とこれに対する不法行為の後日である昭和四九年一〇月一日から、弁護士費用金五〇万円とこれに対する本判決言渡の日の翌日である昭和五四年七月一〇日から、それぞれ支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用し、なお主文第一、二項については仮執行の宣言は相当ではないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。





一般住宅の『建築の著作物』性

事件番号  平成15年(ネ)第3575号
事件名  著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日  平成16年09月29日
裁判所名  大阪高等裁判所 
判決データ:  CP-H15-ne-3575.pdf

第2 事案の概要
 1 事案の要旨
  (1) 第1事件は、原告が、@原判決記載の原告建物は建築の著作物(著作権法10条1項5号)に該当し、原告は原告建物の著作権者であるところ、原判決記載の被告建物は原告建物を複製又は翻案したものであるとして、被告に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、被告建物の建築等の差止め及び被告建物の玄関側写真の掲載されたパンフレットの廃棄を請求するとともに、民法709条(著作権侵害による不法行為)に基づき損害賠償を請求し、また、A被告建物は原告建物の商品形態を模倣したものである(不正競争防止法2条1項3号)として、被告に対し、不正競争防止法4条(不正競争行為による不法行為)に基づき損害賠償を請求している事案(@とAは損害賠償請求について選択的関係)である。
 第2事件は、原告が、原判決記載の原告写真は写真の著作物(著作権法10条1項8号)に該当し、原告は原告写真の著作権者であるところ、原判決記載の被告写真は原告写真を複製又は翻案したものであるとして、被告に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、被告写真の印刷、複写及び同写真を掲載した印刷物(チラシその他の印刷物)の配布の差止め及び被告写真のデータ等(被告写真、そのデータ、被告写真を使用したチラシその他の印刷物)の廃棄を求めるとともに、民法709条(著作権侵害による不法行為)に基づき損害賠償を請求している事案である。
  (2) 原審は、原告の第2事件の請求のうち、差止請求の全部及び損害賠償請求の一部を認容し、第1事件の請求全部及び第2事件のその余の損害賠償請求をいずれも棄却した。
  (3) これに対し、原告は、第1事件について本件控訴を提起し、当審において、被告が原告の知的活動の成果にただ乗りして、原告建物の玄関側外観を模倣した被告建物をモデルハウスとして自己の営業活動に利用し、原告と競合する販売地域において顧客を誘引しているのは、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業上の利益を害するものであるとして、民法709条(違法な模倣行為による不法行為)に基づく損害賠償請求を予備的に追加した。

(中略)

「イ(ア) 著作権法は、同法にいう著作物を『思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。』と定義し(同法2条1項1号)、著作物の例示中に『建築の著作物』を挙げている(同法10条1項5号)。
 ところで、建築は、絵画、版画、彫刻などと同様に造形活動の一種であるが、絵画、版画、彫刻などが専ら美的鑑賞を目的に制作される物品であるのに対し、建築により地上に構築される建築構造物(建築物)は、物品ではない上、美的鑑賞の目的というよりも、むしろ、住居、宿泊所、営業所、学舎、官公署等として現実に使用することを目的として製作されるものである。そこで、同法は、『建築の著作物』を『絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物』(同法10条1項4号)とは別に、独立の著作物類型として保護することにしたものと解される。ちなみに、同法20条2項2号は、建築物の所有者の経済的利用権と著作者の権利を調整する観点から、一定の範囲で著作者の権利(同一性保持権)を制限し、建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変を許容している。
(イ) 一方、著作権法は、著作物の例示中に『絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物』を挙げた(同法10条1項4号)上で、『美術の著作物』には『美術工芸品』を含む旨を規定している(同法2条2項)から、『美術の著作物』は純粋美術(絵画や彫刻のように、専ら鑑賞目的で創作される美的創作物)に限定されないことは明らかであるものの、一品制作的な美術工芸品を除く、その他の応用美術(実用目的の物品に応用される美的創作物)が『美術の著作物』に該当するかどうかは、同法の条文上必ずしも明らかではない。
 ところで、応用美術は、@純粋美術作品が実用品に応用された場合(例えば、絵画を屏風に仕立て、彫刻を実用品の模様に利用するなど)、A純粋美術の技法を実用目的のある物品に適用しながら、実用性よりも美の追求に重点を置いた一品制作的な場合、B純粋美術の感覚又は技法を機械生産又は大量生産に応用した場合に分類することができる。このことに、本来、応用美術を含む工業的に大量生産される実用品の意匠は、産業の発展に寄与することを目的とする意匠法の保護対象となるべきものであること(同法1条)、これに対し、著作権法は文化の発展に寄与することを目的とするものであり(同法1条)、現行著作権法の制定過程においても、意匠法によって保護される応用美術について、著作権法の保護対象にもするとの意見は採用されなかったこと、一品制作的な美術工芸品を越えて、応用美術全般に著作権法による保護が及ぶとすると、両法の保護の程度の差異(意匠法による保護は、公的公示手段である設定登録が必要である上、保護期間(存続期間)が設定登録の日から15年であるのに対し、著作権による保護は、設定登録をする必要はなく、保護期間(存続期間)が著作物の創作の時から著作者の死後50年を経過するまで、法人名義の著作物は公表後50年を経過するまで等とされている。)から、意匠法の存在意義が失われることにもなりかねないこと等を合わせ考慮すると、原則として、応用美術については、著作権法の保護が及ばないものと解するのが相当である。
 もっとも、応用美術であっても、それが造形者の知的・文化的精神活動の所産であって、通常の創作活動を上回り、実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、造形芸術と評価し得るだけの美術性を有するに至っているため、客観的、外形的に見て、社会通念上、純粋美術と同視し得る美的創作性(審美的創作性)を具備していると認められる場合は、『美術の著作物』として著作権法による保護の対象となる場合があるものと解される。
(ウ) 建築物は、地上に構築される建築構造物であり、例えば、建物は、建築されると土地の定着物たる不動産として取り扱われるから、意匠法上の物品とは解されず、その形態(デザイン)は意匠法による保護の対象とはならない。しかも、建築物は、一般的には工業的に大量生産されるものではないが、前記(ア)のとおり種々の実用に供されるという意味で、一品制作的な美術工芸品に類似した側面を有する。また、前記アで認定したとおり、原告建物は、高級注文住宅ではあるが、建築会社がシリーズとして企画し、一般人向けに多数の同種の設計による一般住宅として建築することを予定している建築物のモデルハウスであり、近時は、原告建物のように量産することが予定されている建築物も存在するから、建築は、物品における応用美術に類似した側面も有する。そうだとすれば、建築物については、前記(イ)で検討したところがおおむね妥当する。したがって、著作権法により『建築の著作物』として保護される建築物は、同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして、知的・文化的精神活動の所産であって、美的な表現における創作性、すなわち造形芸術としての美術性を有するものであることを要し、通常のありふれた建築物は、同法で保護される『建築の著作物』には当たらないというべきある。
 一般住宅の場合でも、その全体構成や屋根、柱、壁、窓、玄関等及びこれらの配置関係等において、実用性や機能性(住み心地、使い勝手や経済性等)のみならず、美的要素(外観や見栄えの良さ)も加味された上で、設計、建築されるのが通常であるが、一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性が認められる場合に、『建築の著作物』性を肯定して著作権法による保護を与えることは、同法2条1項1号の規定に照らして、広きに失し、社会一般における住宅建築の実情にもそぐわないと考えられる。すなわち、同法が建築物を『建築の著作物』として保護する趣旨は、建築物の美的形象を模倣建築による盗用から保護するところにあり、一般住宅のうち通常ありふれたものまでも著作物として保護すると、一般住宅が実用性や機能性を有するものであるが故に、後続する住宅建築、特に近時のように、規格化され、工場内で製造された素材等を現場で組み立てて、量産される建売分譲住宅等の建築が複製権侵害となるおそれがある。
 そうすると、一般住宅が同法10条1項5号の『建築の著作物』であるということができるのは、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えた場合と解するのが相当である。
 原告は、原告建物のような一般住宅は建築されると不動産(建物)として意匠登録をすることができず、意匠法による保護の途が閉ざされている旨主張しているが、不動産について意匠登録を認めるか否かは、専ら立法政策の問題であるから、そのことを理由に、上記の程度に至らないものを、著作権法で保護される『建築の著作物』と認めることはできない。
(エ) 前記アの認定事実によれば、原告建物は、和風建築において人気のある、その意味では日本人に和風建築の美を感じさせるということができる、切妻屋根、陰影を作る深い軒、袖壁、全体的な水平ラインといった要素や、インナーバルコニー、テラス、自然石の小端積み風の壁といった洋風建築の要素を、試行錯誤を経て配置、構成されていると認められるから、実用性や機能性のみならず、美的な面でそれなりの創作性を有する建築物となっていることは否定できない。また、原告建物は、建築会社である原告内において、専門的な知識、経験を有する複数の者が関与して、試行錯誤を経て外観のデザインが決定されたものであり、その意味で、知的活動の成果であることも疑いないところである。
 しかしながら、現代において、和風の一般住宅を建築する場合、上記のような種々の要素が、設計・建築途上での試行錯誤を経て、配置、構成されるであろうことは、容易に想像される。本件のように、高級注文住宅とはいえ、建築会社がシリーズとして企画し、モデルハウスによって顧客を吸引し、一般人向けに多数の同種の設計による一般住宅を建築する場合は、一般の注文建築よりも、工業的に大量生産される実用品との類似性が一層高くなり、当該モデルハウスの建築物の建築において通常なされる程度の美的創作が施されたとしても、『建築の著作物』に該当することにはならないものといわざるを得ない。これに対し、まれに、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を具備していると認められる場合は、『建築の著作物』性が肯定されることになる。
(オ) 前記アの認定事実、前記(ア)ないし(エ)の説示及び後記ウの認定判断によれば、原告建物は、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回っておらず、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を具備しているとはいえないから、著作権法上の『建築の著作物』に該当するということはできない。」

(中略)

2 争点(2)(被告建物は、原告建物という商品の形態を模倣したもの(不正競争防止法2条1項3号)といえるか。)について
 当裁判所も、原告建物と被告建物は、その外観において相違があり、形態が同一ないし実質的に同一であるとはいえないから、被告建物が原告建物を模倣した商品であると認めることはできないと判断する。


原審判決
事件番号  平成14年(ワ)第1989号 (第1事件)
事件番号  平成14年(ワ)第6312号 (第2事件)
裁判年月日  平成15年10月30日
裁判所名  大阪地方裁判所  
判決データ:  CP-H14-wa-1989.pdf  CP-H14-wa-1989-1.pdf





「スポーツゲームのアイデア」の著作物性

事件番号  平成14年(ネ)第605号
事件名  著作権侵害確認請求等控訴事件
裁判年月日  平成14年04月16日
裁判所名  東京高等裁判所
判決データ:  CP-H14-ne-605.pdf

  (1) 控訴人は、原告アイデアは独創的なものであるから、著作物として著作権で保護されるべきであると主張するが、著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)と定義することによって同法による保護の対象を限定しているから、「表現したもの」という域に至らないアイデアそれ自体は著作権で保護されるものではない。これは、アメリカ法においても同様である。この点に関し、表現を離れた単なるアイデアは著作物とはいえず、著作権法上の保護の対象とはならないとした原判決の判断に誤りはない。
  (2) そして、原判決は、原告アイデアを記載した原告手紙及び原告小説に基づいて、原告手紙及び原告小説に表現された創作物と本件映画とを対比検討したうえ、両者は、共にボールを用いたスポーツが表現されている部分があり、そのスポーツについては、ゲームの内容又はアイデアにおいて一部共通する点が認められるものの、それ以外の主題、ストーリー展開、登場人物の性格付け、作品の性格のすべてにおい相違し、ボールを用いたスポーツの表現についても多くの点において異なっているから、著作権(翻案権)侵害は認められないと判断したものである。控訴人の著作権侵害の主張は、ゲームのアイデアにおける共通性ないし類似性を主張しているもので、表現における類似性を主張するものではないと認められるのであり、原告手紙及び原告小説について、著作権侵害の成立を否定した原判決の判断理由及び結論は、著作権法の規定及び本件全証拠に照らし、正当としてこれを是認することができる。
  (3) また、複製権及び上映権の侵害に関する控訴人の主張についても、原判決の説示と同一の理由により、これを認めることはできない。





「版画の写真」の著作物性

事件番号  昭和63年(ワ)第1372号
事件名  損害賠償請求事件
裁判年月日  平成10年11月30日
裁判所名  東京地方裁判所 
判決データ:  CP-S63-wa-1372.pdf

1 本件写真(一)及び(二)の著作物性について
(一) 証拠(甲三の五五、五七、二三五、三二九、三三一、三六四、三九三、四〇一、甲二四、二五、証人E、原告A)と弁論の全趣旨によると、本件写真(一)及び(二)は、原作品がどのようなものかを紹介するために版画をできるだけ忠実に再現することを目的として撮影された版画全体の写真であること、これらの対象となった版画は、おおむね平面的な作品であるが、番号五五、五七、二三五、三二九、三三一、三六四、三九三、四〇一については凹凸の部分があること、版画をできるだけ忠実に再現した写真を撮影するためには、光線の照射方法の選択と調節、フィルムやカメラの選択、露光の決定等において、技術的な配慮をすることが必要であること、以上の事実が認められる。
(二) ところで、本件写真(一)及び(二)のように原作品がどのようなものかを紹介するための写真において、撮影対象が平面的な作品である場合には、正面から撮影する以外に撮影位置を選択する余地がない上、右認定のような技術的な配慮も、原画をできるだけ忠実に再現するためにされるものであって、独自に何かを付け加えるというものではないから、そのような写真は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法二条一項一号)ということはできない。
 なお、原告らは、平面的な作品を撮影する場合であっても、原画の芸術的特性を理解して、それを表現することが不可欠である旨主張し、本件写真(一)及び(二)の個々の作品について、原画の芸術的特性やそれを表現するために工夫した点について主張しており、また、証人E及び原告Aは、平面的な作品を撮影する場合であっても原画の芸術的特性を理解して、それを表現することが必要である旨供述し、甲二四、二五にも同趣旨の記載があるが、そのようなことがあったとしても、それは、原画をできるだけ忠実に再現するためのものであると認められる(原告A本人尋問第一回調書一三六項)から、これらの主張や証拠も右認定を覆すに足りるものではない。
(三) また、右認定のとおり、本件写真(一)及び(二)の撮影対象には、完全に平面ではなく、凸凹があるものがあるが、証拠(甲三の五五、五七、二三五、三二九、三三一、三六四、三九三、四〇一)と弁論の全趣旨によると、それらの凸凹はわずかなものであり、それがあることによって撮影位置を選択することができるとも認められないから、これらの完全に平面ではない作品を撮影した写真についても著作物性を認めることはできない。





「ホームページ上の掲示板に書き込まれた文書」の著作物性

事件番号  平成13年(ワ)第22066号
事件名  著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日  平成14年04月15日
裁判所名  東京地方裁判所  
判決データ:  CP-H13-wa-22066.pdf

第2 事案の概要
 本件は、ホームページ上の掲示板に文章を書き込んだ原告らが、同文章の一部を複製(転載)して書籍を作成し、これを出版等した被告らに対し、被告らの同行為は、上記文章について原告らの有する著作権を侵害するとして、上記書籍の出版等の差止め及び損害賠償金の支払等を求めた事案である。

(中略)

2 (争点(2))原告各記述部分には著作物性があるか。
(1) 著作権法による保護の対象となる著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものである」ことが必要である。
    「思想又は感情を表現した」とは、単なる事実をそのまま記述したような場合はこれに当たらないが、事実を素材にした場合であっても、筆者の事実に対する何らかの評価、意見等が表現されていれば足りる。また、「創作的に表現したもの」というためには、筆者の何らかの個性が発揮されていれば足りるのであって、厳密な意味で、独創性が発揮されたものであることまでは必要ない。他方、言語からなる作品において、ごく短いものであったり、表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が現れていないものとして、創作的な表現であると解することはできない。

 そこで、上記の観点から、原告各記述部分について、著作物性の有無を検討する。
(2) 前記争いのない事実等、証拠(丙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。
ア 被告森拓之事務所は、一般のホテル利用者がホテル選びをする際に、自分の判断でホテル選びをすることができることを目的として、有益な情報を提供する事業を行っている。同被告は、その事業の一つとして、「ホテルジャンキーズ」という名称のホームページを設置・管理し、その中に「サロン・ドゥ・ホテル・ジャンキーズ」という名称で本件掲示板を運営している。本件掲示板の閲覧及び投稿は自由であり、他人の投稿に対して返信の投稿をすることも可能である。投稿者は、ほとんどが、いわゆるハンドルネームを使用し、実名を用いる例は稀である。ある投稿者がホテルや観光に関する質問を書き込むと、他の複数の投稿者から回答が書き込まれたりして、有用な情報の交換がされる。
イ 原告各記述は、このような趣旨で運営されている本件掲示板に書き込まれた投稿文章である。原告らは、旅行の愛好者として、実際に旅行をして、国内及び海外のホテルを利用した経験に基づいて、自由な意見、感想、知識を書き込んでいる。その内容はさまざまであるが、主として、@自己が計画する旅行先や予定を示して、ホテル、レストラン及び見学先等に関して、役に立つ情報の提供を求めるものや、Aこのような質問に対して、自己が直接体験したりあるいは間接的に見聞きした有用情報を回答するものが多い。ホテルに関する情報としては、ホテルの客室の状況、サービスの内容とその質及び立地条件並びにそれに対する評価、感想等が、また、レストランに関する情報としては、料理やサービスの内容及び質並びにそれに対する評価、感想等が、その他の情報としては、交通手段に関する情報などが、飾らない口語体で記述されている。
ウ 原告らが本件掲示板に書き込んだ文章は、別紙「原告記述及び転載文一覧表」の「原告記述」欄記載のとおりである。
(3) 上記認定した事実を基礎に著作物性を判断する。
ア 原告各記述部分は、その表現及び内容に照らして、後記イの原告各記述部分を除いたその余の部分については、筆者の個性が発揮されたものとして、「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえるから、著作物性が認められる。
 なお、被告森拓之事務所及び被告Lは、原告各記述は、それらに対応する質問又は回答と組み合わさって初めて価値が生ずるものであり、単独では価値がないから、原告各記述には著作物性が認められない旨主張する。しかし、言語の作品について、情報としての価値があるか否かは、思想及び感情の創作的表現であるか否かの判断に影響を与えるものということはできないから、同被告らの上記主張は失当である。
 また、被告森拓之事務所及び同Lは、本件掲示板への書き込みは匿名ですることも可能であるが、匿名で書き込みをした者は、自らが書き込んだ文章に対して責任を負うことはないのであるから、上記文章についての著作権を認める合理性はない旨主張する。匿名による著作物の公表であっても、著作物性を肯定する妨げにならないことは、著作権法上明らかであるから、同被告の上記主張は失当である。
 もとより、インターネットにおける掲示板上に書き込んだ投稿文章であっても、著作物性の成否に関する前記の判断基準に何ら消長を来すものではない。





「Asahi vs AsaX」事件

事件番号  平成06(ネ)第1470号
裁判年月日  平成08年01月25日
裁判所名  東京高等裁判所
判決データ:  CP-H06-ne-1470.pdf  CP-H06-ne-1470-1.pdf

一 不正競争防止法に基づく請求について
1 成立に争いのない甲第一号証、第四号証の一及びニの各一・ニ、第四号証の三・四、第一一号証、第一ニ号証の一ないし三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一・ニ、第六号証、第一○号証によれば、控訴人は、ビールその他の酒類、清涼飲料その他の飲料、肥料等の製造、販売の業を営むものであるが、昭和六一年一月頃、従来使用していた営業表示に代えて、控訴人標章を使用することとし、以後、その営業表示に控訴人標章を使用していることが認められる。そして、控訴人標章が控訴人の営業表示として、現在全国的に需要者、取引者間に広く認識されるに至っていることは当裁判所に顕著である。
2 被控訴人が、米を販売していること、平成三年七月二〇日、その商号を「物産コックス株式会社」から現商号である「アサックス株式会社」に変更したこと、右商号変更の後、米の販売の営業について、その営業用施設(被控訴人本店所在建物二階部分窓ガラス)あるいはチラシ、封筒、名刺又は包装袋など取引先へ交付又は配付するものに被控訴人標章を使用していることは当事者間に争いがない。
3 そこで、被控訴人標章が控訴人標章に類似しているか否かについて検討する。
(一) 控訴人標章は、別紙(一)の(1)、(2)のとおりの構成からなるもので、欧文字の「Asahi」をデザインしたものである。
 被控訴人標章は、別紙(二)の(1)ないし(3)のとおりの構成からなるもので、「AsaX」の文字をデザインしたものである。
(二)(1) 控訴人標章と被控訴人標章の外観を対比すると、最初の三文字「Asa」の部分は、各文字の形態、配置がきわめて類似しているものと認められる。
 もっとも、被控訴人標章においては各文字の周囲に細い輪郭線が表されているのに対し、控訴人標章(1)にはこのような輪郭線が存しない点で相違するが、文字の周囲に細い輪郭線を表すことはありふれたデザインであって、その印象は格別のものではないから、右相違によって右各文字の類似性を否定することはできない。
 しかし、控訴人標章は五文字から、被控訴人標章は四文字からそれぞれ構成されているものであり、控訴人標章の四字目、五字目の「hi」の部分と被控訴人標章の四字目の「X」の部分は、文字が、二文字か一文字か、その前にある「sa」と同じ大きさか、それよりも大きく表されているかという違いがある上、控訴人標章の「hi」の部分は、太い三本の縦方向の平行線とその上下の辺を右上がりの傾斜とした点が目立つのに対し、被控訴人標章の「X」の部分は、左上から右下への太い斜線と、右上から左下への細い斜線の交差が目立ち、その印象は大きく異なるものであって、控訴人標章と被控訴人標章とは、最初の三文字の類似性を考慮しても、その全体の外観において類似するものとは認められない。
(2) 控訴人標章からは「あさひ」の称呼を生じ、これに対し、被控訴人標章からは「あさっくす」の称呼を生じる。
 右のとおり、両者の称呼は前半の「あさ」の部分においては共通であるけれども、「あさひ」は三音節、「あさっくす」は五音節(促音を一音節と数えて)からなる短い称呼の中で、後半の「ひ」の部分と「っくす」の部分において異なり、しかも、被控訴人標章の後半の「っくす」の部分は促音を含み強い印象を与えるから、全体としては両者の称呼は異なる印象を与えるものと認められ、したがって、控訴人標章から生ずる称呼と被控訴人標章から生ずる称呼は類似するものとは認められない。
(3) 控訴人標章からは「朝日」、「旭」等の観念を生じるのに対して、被控訴人標章は造語と認められ、特段の観念を生じない。したがって、両者の観念が類似するものとは認められない。
(4) 以上のとおり、控訴人標章と被控訴人標章とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似するものではないから、控訴人標章と被控訴人標章とは類似しているとはいえない。
(三) 控訴人は、請求原因1(三)(1)@、A掲記の理由により、控訴人標章及び被控訴人標章ともに「Asa」、「A」の部分が要部である旨主張する。
 しかし、控訴人標章における「h」は文字の高さにおいて一字目の「A」と同一であり、「h」の左側の縦線は太い線によって表されているが(もっとも、他の文字の縦線と比べて特に太いというものではない。)、これらのことが、前半部「Asa」と後半部「hi」とを区切る視覚的効果を有しているとは認め難いこと、控訴人標章(1)の「a」と「h」との間のスペースは、「A」と「s」との間のスペースや「s」と「a」との間のスペースより若干広く、また、控訴人標章(2)の「A」、「s」、「a」の各文字の細い輪郭線は、互いに隣接する部分において重なり合っているのに対し、「a」と「h」の各文字の輪郭線間にはスペースが設けられているけれども、これらのことが、前半部「Asa」の外観を一つの塊として、後半部「hi」の外観と分離して認識させるほどのものとは認められないこと、一般的に標章の語頭部が外観認識上重要な役割を果たす部分であることを認めるべき証拠はなく、控訴人標章についても、その全体が控訴人の営業識別標識として取引者、需要者間に広く認識されているものと推認され、前半部「Asa」が後半部「hi」に比べて特に、取引者、需要者の印象、記憶に強い影響を与えているとは認められないこと、控訴人標章の「A」は他の文字に比較してよりデザイン化されているものと認められるが、そのことによって、控訴人標章が「Asa」と「hi」に分離して認識されるとは認め難いこと、同様に、被控訴人標章においても、その構成からいって、前半部「Asa」が後半部「X」に比べて、特に取引者、需要者の印象、記憶に強い影響を与えるものとは認められないことからして、「Asa」に控訴人標章及び被控訴人標章の要部がある旨の控訴人の主張は採用できない。
 また、控訴人標章は、最初の一字目が大きく、二字目から五字目までが小さく表示されており、また、被控訴人標章は、最初の一字目が大きく、二字目、三字目が小さく表示されており、一字目の「A」は他の文字に比較してよりデサイン化されているものと認められるが、前記のとおり、控訴人標章は、その全体が控訴人の営業識別標識として取引者、需要者間に広く認識されているものと推認されるし、被控訴人標章においては、「X」も大きく表されていることからしても、控訴人標章が「A」と「sahi」に、被控訴人標章が「A」と「saX」にそれぞれ分離して認識されるものとは認められず、「A」に控訴人標章及び被控訴人標章の要部がある旨の控訴人の主張は採用できない。
 なお、甲第二三号証には、不正競争防止法における表示の類似要件は混同要件にいわば従属する要件にすぎないという観点等から、被控訴人標章は控訴人標章に類似するものと認めるべきであるという趣旨の記載があるが、採用できない。
4 よって、その余の点について判断するまでもなく、不正競争防止法に基づく請求は理由がない。
二 控訴人商標権(一)に基づく請求について
1 控訴人が控訴人商標権(一)を有していること、被控訴人が米の販売の営業について、その営業用施設あるいはチラシ、封筒、名刺又は包装袋など取引先へ交付又は配付するものに被控訴人標章を使用していることは当事者間に争いがない。
2(一) 控訴人商標(一)の構成は控訴人標章(1)の構成と同一であるから、控訴人商標(一)と被控訴人標章との類否の判断は前記一3(二)と同一であって、両者は類似するものとは認められない。
(二) 控訴人は、控訴人商標(一)及び被控訴人標章の要部は前半部「Asa」にある旨主張するが、前記一3(三)に説示したとおり採用できない。
3 よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人商標権(一)に基づく請求は理由がない。
三 控訴人商標権(二)に基づく請求について
1 控訴人が控訴人商標権(二)を有していること、被控訴人が米の販売の営業について、その営業用施設あるいはチラシ、封筒、名刺又は包装袋など取引先へ交付又は配付するものに被控訴人標章を使用していることは当事者間に争いがない。2 そこで、控訴人商標(二)と被控訴人標章との類否について検討する。
(一) 控訴人商標(二)は別紙控訴人商標(二)のとおりの構成からなるものである。
(二) 控訴人商標(二)と被控訴人標章とを対比すると、控訴人商標(二)と被控訴人標章の一文字目の部分とは、外観においてきわめて類似するが、被控訴人標章は四文字からなるのに対して、控訴人商標(二)は「A」をデザイン化した一文字からなるものであって、両者の全体の外観が類似しないことは明らかである。
 控訴人商標(二)からは、「えー」、「えい」又は「あ」の称呼を生じ、被控訴人標章からは、「あさっくす」の称呼を生ずるので、両者は称呼において類似するものとは認められない。また、被控訴人標章からは特段の観念を生じないから、観念において両者が類似するということもない。
 右のとおり、控訴人商標(二)と被控訴人標章とは外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似するものではないから、控訴人商標(二)と被控訴人標章とは類似しているとはいえない。
(三) 控訴人は、被控訴人標章の要部が語頭部の「A」に存する旨主張するが、前記一3(三)に説示したとおり採用できない。
3 よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人商標権(二)に基づく請求も理由がない。
四 著作権に基づく請求について
1 著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(二条一項一号)と規定している。
 ところで、言語を表記するのに用いる符号である文字は、他の文字と区別される特徴的な字体をそれぞれ有しているが、書体は、この字体を基礎として一定の様式、特徴等により形成された文字の表現形態である。いわゆるデザイン書体も文字の字体を基礎として、これにデザインを施したものであるところ、文字は万人共有の文化的財産ともいうべきものであり、また、本来的には情報伝達という実用的機能を有するものであるから、文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは、一般的には困難であると考えられる。仮に、デザイン書体に著作物性を認め得る場合があるとしても、それは、当該書体のデザイン的要素が「美術」の著作物と同視し得るような美的創作性を感得できる場合に限られることは当然である。
2 前掲甲第三号証の二、第一〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二一号証によれば、控訴人は、株式会社日本デザインセンターに委託して、別紙(一)の(1)、(2)記載の書体からなるロゴマークを創作させたことが認められる。
 ところで、右ロゴマークは欧文字「Asahi」について、「A」、「a」、「h」、「i」の各文字における垂直の縦線を太い線で表し、その上下の辺を右上がり四四度の傾斜とし、「A」、「s」、「a」、「h」の各文字における傾斜線を細い線で表し、その傾斜を右上がり四四度とし、「A」、「s」の各文字の細い傾斜の先端にあるはねを三角形状となし、その右上がり傾斜辺を四四度とするといったデザインを施した点に特徴があり(別紙(一)の(2)記載の文字は細い輪郭線に囲まれているが、このような手法はありふれたものであって、デザイン的特徴とまではいえない。)、また、「A」の書体は他の文字に比べてデザイン的な工夫が凝らされたものとは認められるが、右程度のデザイン的要素の付加によって美的創作性を感得することはできず、右ロゴマークを著作物と認めることはできない。
3 よって、その余の点について判断するまでもなく、著作権に基づく請求も理由がない。
五 以上によれば、控訴人の不正競争防止法に基づく請求、控訴人商標権(一)及び(二)に基づく請求をいずれも棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がない。そして、当審における新たな請求である著作権に基づく請求は理由がない。


     
        別紙(一)(2)                               別紙(二)(2)




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